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16 論功行賞

論功行賞



敗戦同然の戦いをひっくりかえしたのだ。


無謀ともいう突撃で逆転しておまけに反乱首謀者の首までとってしまった。


その功績は兵士たちの声を通じていきなり軍のトップに通じてしまうことに。


勝男の身分は十人長なので本来ならその上司の手柄で終わる。


事実、表の論功行賞はそれで終ったのだ。




『千人長の活躍で敵を打ち破ったが、千人長は流れ矢にあたり不運に戦死、城か

 らの援軍と残った兵で残敵を掃討して大勝利』


これが中央に送られた報告の大筋だった。


だが敗戦間際で見捨てられる寸前の兵士たちはそれを善しとしなかった。


彼の突撃がなければ自分たちは死んでいたのだ。


客観的に見ても現実的にみてもひっくり返しようがない。


彼の活躍がなければ、自分たちは死んでいた。


これが事実だ。


それなのに、引き上げる時に出された論功行賞に彼の名前はなかった。


あれだけの活躍をした若者に対して公式発表がない程度の褒賞ということだ。


その者達はこの論功行賞を不満に思い中央の万人長に訴えた。




一人二人の訴えでは動かない事務官たち。


さすがに、討伐に向かわせた千人長の部下の数百人が同じことを言ってくるのだ。


その中には百人長といわれる者も入っているのだ。


しかたがなく、万人長に伝えた。




万人長は事態の真相を改めて調査する。


すると勝男の活躍が浮き彫りになってきた。


これだけの活躍をする勇士は中央でも見られない。


戦死した千人長の代わりは、部下の五百人長から穴埋めする。


その空きに彼を抜擢しようという話になった。




だが事態はそれでおさまらなかったのだ。


千人長の代わりに入れようとした男が彼に千人長の座を譲ったからだ。


『自分はあの場で死んでいた身です。彼が上司に立つなら私は全力で補佐して彼へ

 の恩に報いるつもりです』


といいだしたのだ。


その言葉に驚く万人長だった。




実際はこれからの戦乱の世の中になりそうという予感。


地方反乱鎮圧に行ってその現実を見てきた。


優秀な上官の下なら生き延びる可能性が高い。


そう判断した男の知恵だ。


現実に無能な上司の下で死に掛けた男の思いだった。




勝男の期を見る判断力、行動力、そして何よりも武運!


飛び出した人数が幸いした。


数が二十騎程度だったので味方の隙を縫う事ができた。


あれ以上の数だったら、味方の兵の動きで動きを止められていた。


更に門周辺で彼らの動きに合わせて味方の逃げ帰った兵がその勢いから逃げる形で

門から押し出される格好になった。


それが、あたかも大きな兵が一斉に飛び出した形となって敵味方を欺いたのだ。


増援の兵が飛び出してきたように見えたのだ。


もしあれより多くの兵が動いていたらおそらく門のところで大混乱になっていただ

ろう。




それと、もう一つ大きな要因があった。


あのタイミングの出動で敵の主力がおびき出されていた。


結果的に大将の首を取れたのだ。


慎重な敵の大将が勝利目前という段階で顔を出したからだ。


単純な勝利では逃げられていたはず。


その運の良さに期待したのだ。




白国の鎮圧部隊は千人長が当たる確立が高い。


彼の下なら生存確率が高いという打算だ。


ある意味、自分が戦うより優秀な上官のもとで戦ったほうが無難という考えだ。


後にそれが証明されることになった。




事実、他の多くの千人長は反乱軍のもと苦戦を強いられた。


訓練された兵士による力押しが原因で『窮鼠猫を噛む』を目の当たりにする。


勝男の部隊では、勝つための情報を仕入れ、相手をおびき出して戦う。


その方法は、相手の強みを消してジリ貧にする。


そして、戦いを相手から仕掛けさせることにさせるのだ。


万全の態勢に飛び込んでくる相手。


それは、袋の中の物をとるように容易な勝ち方だ。


力の戦いではなく情報がメインの今までにない戦い方。


勝男の鎮圧部隊は連戦連勝でその名をとどろかせていったからだ。




もともと目をかけていたその男の発言に万人長は漢意気を感じる。


彼が居たから千人長を送った。


しかし、結果的には彼でも阿呆は使えなかったということだ。


そして、異例の千人長抜擢を決めた。


それを聞いた千人長の部下たちはみんな喜んだ。


結果的にはみんな彼によって救われたようなものだからだ。


あの場は城の中に逃れた者も同様だ。


大半の味方を討ち取られた後、城攻めが始まれば敗北は必死だったからだ。


それを、たった一度の突撃で大勝利に導いて賞金まで手にして帰ってこれたのだ。


その立役者の男に忠誠を誓うのはなんでもなかった。


戦場に年齢は関係ない!


強いか弱いかと、部下を見捨てない上官は歓迎だった。




勝男が千人長になったのは鎮圧の被害が大きかったのも理由だ。


中央に知らされた被害は送った人員の三割が戦死していた。


その意識を逸らせるため、英雄が欲しかったのだ。


それも扱いやすい英雄を!


年若い勝男はその絶好の生贄ともいえた。


その知らせは白国城下に瞬く間にひろがりいまや勝男は英雄になっていた。


だが情報はまだまだ勝男のところにとどかなかった。




勝男は戦後の論功行賞に大したものはなく五十人長になって撫連を囲っていた。


白国正規兵ではなく城付きの地方兵だ。


目標ははるか先に思えた。


部下になったものたちはみんな勝男を尊敬しているので居場所そのものは良かっ

た。


しかし、実の兄と同格になったことで勝男自身が居づらいのだ。


兄の方は勝男の活躍に喜んでいたのだから不思議なもの。


その日も酒をのんで部屋に寝ていると枕元に例の老人が立っているではないか。


「どうやら、活躍することができたようだな」


酔眼でそこにいる人を確認すると


「ご老体、いついらしゃったのですか。気付きませんでした」


そういって非礼をわびる。


「たいしたことではない、予定が早まったようでな、20歳でまさか千人長にな

 るなんて思ってもみなかったのでな」


「ご老体、冗談はよしてください。五十人長でさえようやくなれたところで、ま

 だまだ千人長は先のこと、それより剣と鎧は感謝します」


「ところが事態は予測を上回ったのでな、やむ終えず教育に顔を出したところだ」


「事態が上回った?、教育にきた? なんのことでしょう」


「こちらのことだ、少し眠ってもらえるか」


「眠るというのは」


「こういうことだ」


そういって首筋に手をあてる。


酔っているのでかわすまもなく気絶させられた。


老人は耳元で高周波に似た音を発すると数秒続けて音を聞かせる。


そして来た時と同じように消えていく。


深い眠りのあと勝男は目を覚ます。


しかし、老人と会ったことは忘れていた。



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