14 初陣
初陣
剣を手に入れてから数ヶ月
はじめはおっかなびっくりで使っていた。
そのうち意識するのが馬鹿馬鹿しいように手に馴染んでいく。
それに伴い部隊内で勝男の名前は広がっていた。
ただ、初めは武勇としてではなかった。
魔法のような剣を持つ男としてだ。
華奢に見える体格とおもちゃのような剣では見た目が悪い。
部隊内の練習でいくら成績が良くても実戦では役だたないと思われた。
この時点では勝男の武勇は全然評価されていなかった。
練習試合では攻撃はすばやく、剣をあわせる暇も無く勝ちをひろっていく。
その剣の扱いはまるで剣に重さが無いがごとく軽々と扱うのだ。
実際にその剣を借りて同じことをしようとしたものもいた。
しかし、剣が重くてとても振り回せそうも無い。
そのうち、勝男はすごい剣士だという噂がひろがっていく。
しかし、体格と剣で正当に評価されない。
それはある意味、当然の事だった。
当然、部下の男達も勝男を子ども扱いだ。
些細な所で反発していた。
勝男がいくら活躍してもそれは実戦ではなく情報戦の段階だからだ。
そして、勝男の周りにいる者達は情報を軽視して、戦いに生きる男ばかりだからだ。
勝男の真の実力を完全のものにしたのは、山賊偵察戦のときだ。
勝男が十八歳のときだ。
斥候として山賊の砦の周辺を調べていた勝男の一団。
別の斥候も出していた。
それらの斥候達は皆殺しに遭っていた。
勝男の一団にお鉢が回ってきたのだ。
案の定、山賊の罠にはまり取り囲まれてしまった。
砦の前に見張るのにちょうど良い茂みが見えたのだ。
勝男はいやな予感がするので無視することにした。
勝男が止めたが新参の男が功を焦って近付きすぎた。
その茂みは砦の見張りが斥候をおびき寄せる罠だった。
取り付いた瞬間、砦に響く鳴子。
たちまち男は取り囲まれていた。
勝男は見捨てることも考えた。
しかし、老人の言葉が頭をよぎった。
『一人を見捨てて十人を犠牲にする場合』と言われた言葉。
十人でもないが四人の部下がいた。
振り返って仲間を見た。
頷く部下達。
部下たちの期待は助けに行くことだと確認できた。
ここで彼を見捨てれば、二度と勝男に部下は付いてこなくなると思った。
簡単に指示を出す。
四人で囲んで彼を保護するように頼む。
賊たちの動きが巧妙なのは遠目に判るからだ。
まともに行けば全員同じ境遇になるだけだ。
事実、今までの斥候は勝男の予想通りだった。
囲んでいる人の数が少ないので戦えると思って援軍に出向く。
実際は巧妙な連携でたちまち餌食だった。
しかし、勝男はその結果を知らない。
知っているのはそれらを狩った賊たちだけだ。
勝男は猛然と突撃を掛けた。
各個撃破の予定で取り囲んでいた十数人。
毎度、ワンパターンで嵌る獲物に狩のようなものだ。
留守を預かる守備役としての楽しみでもあった。
罠にはまった男を取り囲んで狩のように楽しんでいた。
砦の中からは羨ましげに残った数名が見学しているぐらいだ。
向かってくれば剣襖で追い返す。
激しければ、後退してやり過ごす。
獲物を中心に疲れるまで弄って止めを刺すのだ。
そこに、五人だが一人を助けるために飛び込んできた新たなる獲物。
多少数が増えても陣形が完全なら獲物に変わりが無い。
獲物が増えたことで楽しみが増えて喜んでいた。
しかし、この獲物は巧妙だった。
疲れた一人を庇って四人が守る。
そして、そこを中心にたった一人で切り込んできたのだ。
取り囲んで疲労をさそう輪形陣があっさり崩されてしまう。
建て直しを図る前に三人が倒されていた。
そうなれば、乱戦だ。
勝男はその敵味方入り乱れての乱戦でみごとに山賊を半数近くを斬り伏せてしまっ
たのだ。
味方のものたちは勝男の縦横無人に振る剣の間合いに入れない。
剣戟が凄くて合流出来ないのだ。
そのため、残った仲間と陣を組んで動く。
それが、結果的に相手に囲ませる形を邪魔した。
移動する二つの点が囲みを薄くしたのだ。
敵の攻撃がきて、危ないと思うといつの間にか勝男が助けに飛び込んできた。
そして、体でかばってくれるのだ。
相手の剣を受け、時には相手の剣をへし折るのだ。
ものの数分で相手の武器を全部切り落としていた。
傍目にはおもちゃのような華奢な剣だ。
それを勝男があやつれば鬼神の剣に思えるものだった。
戦いが終わった時、周りには死体が五つ転がっていた。
相手の怪我人の数は数え切れない。
残った賊は砦に引き上げて出てこようともしない。
たった一人に追い散らされた恰好の賊たちだ。
勝男たちは仲間を連れて堂々と引き上げてきた。
勝男は、その功績もあり五人長から十人長に上がり戦闘班にまわされた。
助けられた男はあの絶体絶命のときに助けてくれた勝男に心酔だった。
命令無視して敵の罠に嵌ったのだ。
見捨てられても文句を言えないところを自ら飛び込んで助けてくれたのだ。
それまでは子供だと馬鹿にしていたのが嘘のように勝男信奉に変わった。
周りの者もそのときの戦いの様子を聞いて勝男を見直していた。
戦いだけではなく、戦術的な意味においての戦い方についてだ。
同じ状況なら間違いなく全員が一丸となって戦う。
そして、賊達の思惑通りに狩られていたはずだからだ。
勝男がただ強いだけではなく頭が良いことに気付いたのだ。
やがて内乱がおこり勝男の村から五十人の部隊が編成され戦地に送られた。
勝男は自分から志願して戦地に飛び込んでいった。