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13 再会

再会



薫と別れた後、勝男はあの天女に見えたのが薫だとは信じられなかった。


だが話をしたかぎり間違いなく薫だった。


連れの老人も薫を預かるのみだという。


将来買い取ってくれるなら預かるのみで手を出さないようなことを言っていた。


だがその条件が白国千人長だなんてどう考えても不可能だ。


だがあの老人は勝男に『見込みがある』と言ってくれた。


それも最低千人長だと言っていた。


見方をかえればそれ以上ともいえるのではと夢をふくらませた。




今の自分はまだ兵隊にさえいれてもらえない。


まだ子供扱いだった。


近くで大きな戦でもなければ、このまま部屋隅で一生を終えるのだ。


おそらく、兄貴の下で十人長になるのがやっとであろう。


今のままでは、薫のような美人を妻にすることは不可能だ。


今まではそのように考えていた。




ところが、老人に会ってから発想が変わった。


嘘のように消極的な考えが消えて物事を積極的に考えるようになっていた。


それは勉強にあらわれ、武術の稽古にも現れてきていた。


いつの間にか五長になっていたのだ。


五長といっても戦闘部隊ではない。


部下を5人持って偵察などを行う部隊だ。


思慮深い勝男は偵察などの行動で活躍した。


それが認められていた。


ただ、年が若く体つきも小柄だったので戦闘は不向きと思われていた。


しかし、山賊などを相手に戦うようなときは情報がすべてだ。


そのため、部隊の中では結構名が売れるようになっていた。




そんなある日、町外れを散歩していた。


すると、かつて薫と一緒に歩いていた老人と再び出会った。


「勝男殿、元気にやってるかい」


「ご老人、薫は元気にやってますか」


「もちろん、大切な預かり人だ。しっかりやっているから安心していいぞ」


「今日はこちらにご商売ですか」


「いや、そなたに会いにきたのだ」


「わたしに?、何か御用でも?」


「これを渡しにきたのだ。ぼちぼち必要になるからな」


そういって、剣と服をわたされた。




「これは」


剣は細身の直刃で切れ味はよさそうだ。


しかし、およそ剣士が持つものに見えなかった。


服は肌着といった薄物でそれだけではとても表を歩けるものではない。


「確かに渡したぞ。そなたが老人になる頃に引き取りにくるから手放すなよ」


「そうはいってもこれらは使えない」


華奢すぎる剣は実戦では使えないからだ。


「そうか、その剣を抜いて構えてみなさい」


そういわれて剣を構える。


確かに細身の刀なので軽い。


小柄な勝男でもらくらく扱えた。


しかし、実際に思ったことはそれ以上に軽く感じることだ。


まるでおもちゃの剣というのが感じた実感でもあった。




「それじゃ、振ってみたらどうだ」


言われたように振ると、軽いので普通の剣よりすばやく振れる。


「軽いけど、これでは戦えない」


感想をいう。


「それじゃこれはどうかな?」


そういうと、いつのまにか手にした大剣を振りかざして襲いかかってくる。


条件反射で剣を受けに使ってしまった。




こんなおもちゃでは受けきれるわけない。


癖と言うのは恐ろしい。


しまったと思ったときには剣は当った直後だ。


不思議なことに大した反動がないままに剣はがっちりあわさっていた。


振り下ろされた剣の力は経験からすごいものだ。


老人がそれだけの力を持っているとは考えてなかったので油断だった。


しかし、その勢いが止まっているのだ。




「な、なにがおきてるのだ」


老人はにやにや笑いながら、剣を戻している。


「どうだ、剣の威力は」


「俺は力を入れていなかったのに、剣が受けられた」


「それじゃこれを斬ってみろ」


そう言って持っている剣を地面に突き立てた。


大きな剣はその重量で軽々と地面に突き立った。


改めて見ると肉厚の重量級の結構な刀だ。


大柄な戦士が好んで使う円月刀だ。


それを斬ってみろといわれても焦る。


このおもちゃの刀のように歯ごたえが無い刀でなにが出来るのか?


『駄目元』でと、軽く横に振ってはじき飛ばそうとする。


もし刀が折れても刀身が飛んでいかないように用心して振った。


だが、このおもちゃの剣は折れもせず曲がりもせず軌道を変化させもしなかった。


そして、軌道上の刀を斬っていたのだ。


斬れた刀の柄が地面に落ちる。


「なんだ、この刀は」


「天より与えられた至宝だ。大事に使うがいい。ちなみに手入れはするな。下手

 に手元から離せば盗まれる。といってもそなたが損するだけだがな」


「どういう意味なのですか。天より与えられた至宝というのは」


「そなたを助けるため神より与えられたという意味だ。気にすることはない。そ

 なた以外のものが扱えば見た目通りのなまくら剣になるから実害はない」


「でも最初に受けた時は切れなかったのに」


「当たり前だろう切れたら受けにならんだろう。そなたの意思が受けようとした

 から反応しただけだ。もっとも剣自身が判断したのもある」


「剣が判断した?」


「そうだ、剣が斬っていいものか、いけないものか判断したのだ。」


「私の意志は?」


「剣の意思が優先するように設定されてる」


「そんなばかな」


「そうか?、人間の判断は間違うことが多いからな。そなたが剣を振ったとき仲間

 がそこに飛び込んできたとき、そなたは判断できるか? そなたが良かれと思っ

 て柱を斬ったら全体が崩れて生き埋めになるようなときは?」


「たしかにとっさに判断が間違うこともあるが、自分の意思で切れない剣なんて」


「本当に役立たないかな、逆じゃないのか敵に対して迷わず振ればいい。味方は

 斬らないのだから、乱戦になったときこれほどありがたい武器はないぞ」


「たしかに」


「だが剣の判断は自動だが、剣を振るかどうかはそなたの判断だ。ここを間違う

 な!振るのを迷えばそなたは斬られておしまいだ。振るのをためらうな!」


剣を振る事をためらい無く行うように念を押されていた。


「はい、たしかにその通りでした。斬れる斬れないは二の次でした」


「まあ、長い付き合いになるのだから、だんだんわかっていくさ。それで服も当

 然それなりのものだ。大事にして他人に知られないようにつかうがいい」


「いったいあなたは」


「雅楼の主だ」


「でも」


「それだけだ、では待っているからな・・・」


それだけ言うと老人は消えていった。


まるでそこに誰もいなかったようにだ。


残されているのは剣と服だけだ。


足元には円月刀が刺さっていた穴と切られた部分が地面に落ちて付いた痕だけが残

っていた。


老人が立っていた筈の場所に足跡さえ残っていないのだ。


「いったいなにが・・」


呆然と立ち尽くした勝男の横に風が吹くのみだ。



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