11 初接待
初接待
桔梗に呼ばれて薫が事務所に行く。
やがて、書類を持った男が訪ねてきたことを教えられる。
例の薫を取り合ったお客だ。
証書を見せられた。
間違いないか確認を取られる。
薫はうなずいた。
桔梗から散々愚痴を言われる。
薫の仕事が立て込んでいたときだからだ。
でも客室担当の娘が薫を連れ出していった。
連れて行かれた部屋は化粧部屋だ。
娘達が寄ってきて薫に化粧をしていく。
慣れた様子で出来上がっていく。
鏡の中の娘はみるみる仕上がっていた。
あの宿屋の時、自分が変身したように思っていた。
しかし、今見れば化粧もしていない田舎丸出しの娘だと判る。
あの時は比較すべき美人が近くにいなかったので目立っただけだと判る。
ところが、今鏡の中の娘は姐さん達に負けない魅力の娘に仕上がっているのだ。
化粧担当の娘達の技術の凄さを肌で知った。
「素材がいいから楽でいいわ」
娘達の雑談が聞こえた。
『素材がいい』と言われて少しだけうれしくなって微笑んだ。
「いいわ、その笑顔よ。忘れてはだめよ」
どうやら、緊張で表情を緩めるための外交辞令だったのかとがっかり。
「だめよ、笑顔を絶やさずにね」
すかさず娘たちからチェックが入った。
顔を作った後、衣装担当の娘が迎えにきた。
薫は連れられて衣裳部屋に入る。
そこで、全裸に剥かれてしまった。
そして行われたことは思いっきり背中をそらされた。
腕を上に伸ばしたところで背中越しに手首を持たれた。
そして、そのまま引っ張られて彼女の腰に乗る形だ。
全裸なだけにその格好は恥ずかしい。
それが済むと声が掛かった。
「姿勢が悪いわよ。重量が掛かる衣装だから背筋を伸ばしていないと苦しいわよ」
そう言って注意される。
毎晩柔軟体操をさせられて気をつけていた。
しかし、化粧のため座りっぱなしで少し姿勢が崩れていたようだ。
同じ姿勢を保つことの大変さを知らされた。
下着といわれるものを付けさせられた。
胸を覆うものではなく、腹を閉める矯正具だ。
胸の下を受ける形で作られていた。
そのため、それほど無かった胸がふた周り大きく見える。
「あなたの胸はまだ小さいからこれでごまかすわよ」
個別の人に合わせて下着が選ばれていることを知った。
「あのお客は胸が大きい方が好みだから」
「前に来たことあるお客さんですか?」
「まさか!、初めてきた客よ」
「なぜ、それが判るのですか」
「決まっているでしょう。部屋に入る給仕への視線の位置よ」
そう言って客の好みを教えてくれる。
書類を提出した客は店からの饗応を受けてその間に好みなどが調べられていく。
その情報に基づいて薫の衣装が選定されるのだ。
似たような前菜の皿から選ぶ心理テストを受けて客の好みが調べられる。
三つ子が違う着物を着て案内するときの客の動きも調べられて服などの好みまで確
認が取られるのだ。
初めてきた客がいきなり自分好みの女が割り当てられて驚く理由だ。
前菜や案内の娘の選び方で好みが知られているのだ。
矯正下着によって、体型まで変えられる。
そして、服装の色までが調査されて連絡が来ているのだ。
そして、男の好みは緑基調で赤を多用した着物という回答だった。
その情報を元に薫の着物が決められる。
衣装係りは数万着の中から目的の着物を出してきた。
それを着せられて薫は呆然としていた。
あの宿屋で見た美少女はそこには存在していなかった。
鏡の中の女性はどこから見ても完璧な美女だからだ。
「あなたはまだ体型が定まっていないから今回は暫定よ」
衣装係りの娘にすればこれでも不満げにしていた。
着物を着終わると案内係の童女が迎えに来た。
薫より小さい娘だ。
まだ客を取れない娘で看板娼婦を案内する役目をしていた。
なれない履物を履いてゆっくり歩く薫はどこから見ても一人前に見える。
そして、部屋に案内された。
童女に案内されて部屋に入る。
あの時の男が居心地悪そうに席についていた。
確かに、他の客に比べて粗末な衣装だ。
衣装というより、衣装にマッチしていない。
本人は奮発して来たのだろう。
しかし、店に来る客たちはそれを日常に着ているものばかりだ。
その中に一張羅を着てきましたという雰囲気がありありとしていた。
一応個室なので救われた印象だ。
宿屋の時など比較にならない料理がならべられている。
薫が席に着くと、客から見えないところに文字が書かれていた。
相手のことに対して調べた結果が書かれている。
身分から出身地、現在の立場などが細かく書かれていた。
相手の好みまで書かれているのだ。
薫が形を整えるまでの二時間の間に店の方で調べられる限り調べた結果だ。
男は薫を見ただけで真っ赤な顔だ。
そんな様子がほほえましい雰囲気だ。
薫はその情報を元に話を合わせて行くだけだ。
楽しい歓談の場が展開していく。
そしてその後、寝台に向かう。
男は童女が別室に案内して着替えを行う。
薫も食事の場の着物から寝室用の衣装に変更だった。