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10 雅楼の周辺

雅楼の周辺



桔梗の話はまだ続いた。


「気をつけてほしいこと、いえ絶対に守らないといけないことの一つがこの店、店

 関連で見聞きしたことを、他へ漏らしてはいけないことね」


「どういうことですか」


「口の軽い女は軽蔑されるということよ。お客は付かなくなるし信用も無くなる」


「・・・・・」


「たとえば、内乱が近く起こることなどここから漏れたことが判れば反乱軍の、最

 初の目標になってしまうわ。それ以外料理の秘伝のたぐいなど雑多な知識は世間

 ではなんとか入手しようと動き回っているわ。はっきりいえばここは特殊なの、

 ここでのことをみんな知りたがっているわ」


「へえ、そうなんですか。もし漏らせばどうなるのですか」


「命が無いと思ったほうがいいわよ。実際に行方不明はあったのだから」




これは本当のことで、料理部門の女の子がほかの店に拉致された。


酷い拷問を受けてもその秘密は漏らさなかった。


雅雄が動いて相手の店は壊滅。


その後、出火して事実上店は消えた。


そして、女の子はこの業界から抜けさせられた。


秘密を封印されて地元で何も知らず生活していた。


拷問されても秘密を洩らさなかったことに対する報償だ。

(洩らしていたら?お店と運命を共にしていた可能性は大きい)


もちろん、業界とお店の方には行方不明という扱いだ。


桔梗も実情を知らない。


ただ、雅楼の女の子を攫えば悲惨な目にあうという噂だけ流れていた。


だから、安心して外を歩けるのだ。




「怖いですね」


「そう、怖いところよ。でもルールさえ守っていれば快適なところよ」


「快適ですか?、しっかり見張られていても」


「こういう商売では知ってる?、暇なときは牢に入れられるのよ。雅楼では自由に

 外にでられるの、この違いわかるわよね」


「はい」




薫はなんとなく雅楼の実情が見えてきた。


家族を人質に逃げられないように縛られているのだ。


それが、自由の代償とも言えた。




「他の店の女の子は雅楼で働きたくてしょうがないのよ。快適な職場を手放したく

 なかったら少しのことは我慢するしかないの」


「私の場合は?」


「あなたは知らないと思うけど、この町に登録されてるの。そして登録されてる人

 が理由も無く町の入り口に行き、抜けようとすれば、捕まえた人のものになるの」


「それは、どう意味ですか」


「そのまんまよ、店の権利も通用しないの、その女の人はその男の奴隷になるの」


「たとえば無理やりさらわれた場合どうなるのですか」


いわゆる脅されて人質同様に連れ去られようとしたときだ。


「心配しなくてもいいわよ、誘拐した犯人は皆殺しだから、そんな大胆なことを仕

 掛けるものはいないわ。芝居で殺されたらいやでしょう」


桔梗の答えは人質に関係なく皆殺しという回答だ。


攫われた振りして逃げ出そうというのは無駄と教えられた。


薫は背筋が冷たくなるのを感じた。


「そうですか、逃げることは不可能なんですね」


「そうよ、考えないほうがいいわ。それより店のほかの人たちを紹介するわね。

 ついていらっしゃい」


そう言うと席を立ち店の方に向かう。薫はついていくのみである。




街の番人に捕まれば奴隷ということと、他の店は牢に繋がれているということ以外は

嘘だ。


もう一つ、女を攫おうとしたときの皆殺しも真実だ。


この世界では人質という物は役立たない。


犯人に対する一方的な懲罰が優先する。


運がよければ人質は助かる程度だ。


そして、実際に雅楼を逃げ出した者はいない。


単に脅しただけだ。




給料が無いといわれた薫。


自分が働いて、仕送りできるという淡い期待を抱いていた。


それが出来なくなったからだ。


心配になって家族に確認をすれば、薫の給料分が家に送られていた。


その給料で兄や弟や妹たちが生活できることを知った薫に後顧の憂いは無い。


雅楼に忠誠を誓ったのは当然だった。




桔梗の仕事は雅雄の個人秘書といったところだ。


雅楼のほぼ全部門を掌握する立場だ。


薫はその伝令役ともいうべき仕事を与えられた。


一月経つうちに仕事の内容も粗方覚えていった。


薫は驚きの連続で一月を過ごしていく。


雅楼の効率の良さと規模の大きさに圧倒されていた。


情報を扱う部門の効率の良さは信じられないものがあった。


ただ訳の判らない事があった。




娼館のはずなのだ。


ところが、客を取っているはずの姐さんが部屋で寝ているところに出会った。


偶然とは思えなかったので、それから意識的に確認をとったからだ。


薫の行動に対してすぐにチェックがはいって厳重に注意されてしまう。


深夜に予定外の動きをしていることに対してだ。


睡眠時間も美容のために気をつけるように注意されたのでそれ以後確認が取れなかった。


しかし、薫は雰囲気的に気付いていた。


この雅楼が他の娼館とは全然違うということに。




他の娼館は店の前から見て判るほど女が淫靡な雰囲気を持っている。


しかし、この娼館の姐さん方はその雰囲気が無いからだ。


娼館のはずなのに相手をするはずの姐さんはどこか不自然に感じる。


それは男に対して免疫のようなものが感じられないのだ。


ちょうど、一般の店の女性店員といった感じに思える。


男に対して、嫌悪感等を持たない普通の娘という印象。


男を相手にしているはずなのにどこか純情に振舞う姐さん方はお客に好評だ。


それが、雅楼の特徴でもあった。


理由を知らなかった薫だ。


しかし、その理由を直接知る機会が出来た。


あの、宿屋で薫を買おうとした男がお店に顔を出したからだ。




雅雄が書いた証文を盾に薫が相手をすることになった。


雅楼の方は手順どおり接待のプログラムを進ませていく。


そして、薫が事務所に呼ばれた。



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