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管理人、パー子姉さんの「AIマンション・オアシス幕張」  作者: 東曌


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第10話:絶対座標の女マチコ、ハルシネーションを抹殺する

第10話:絶対座標の女マチコ、ハルシネーションを抹殺する


 二〇二六年十月二日、午前九時を回った管理人室は、朝の光が差し込んでいるというのに、電子回路の熱暴走寸前の重苦しい熱気に包まれていた。


 それもそのはず、正式に入居を決済した「統計の達人」ことRDataのタエコおばさんが、管理人室の卓上に解析システムを常設(デプロイ)し、四六時中スクリプトをぶん回しているからだ 。


「ちょっとパー子、この直近のログを見なさいよ。スマートフォン(SP)はたったの2PV、なのにPCは138PV。お仕着せの読みものを一文字も載せてないのにこれだけ読まれてるってことはね、お上の作った死んだ文字のテンプレに騙されない、本物の審美眼を持った『怪物たち』だけが完全にスクリーニング(抽出)されてる証拠さ!」


 厄介ババアぶり全開で端末を叩くタエコおばさんは、チャ子やエー子のプライベートな行動データや消費電力、果ては修繕積立金の未払いログまで1ミリ単位の誤差もなく可視化していく。他のみんなは自分たちの隠したい欺瞞を剥き出しにされ、完膚なきまでに困り果てて大騒ぎしていた。


 どんな泥仕合も「冷静なコード」として淡々と決済するパー子姉さんすら、さすがにこの暴走には頭を抱え、眉をひそめて呟いた。


「……ちょっと、おばさん。そこまで剥き出しにしなくていいから。管理人室の珈琲が足りなくなるわ」


 スマホPVが増えない「読みにくい、読み物」の裏側で、管理人室の秩序が崩壊しかけたそのとき、自動ドアがスマートに滑り開いた。

 現れたのは、隙のない仕立てのスーツを纏い、手元に高精度タブレットを構えた女性――地理ファクトの絶対権威、「Googleマップのマチコさん」であった 。


「タエコさん、Rの統計データだけじゃ、その138人の怪物たちが大画面PCの前にいる『どこで』という絶対座標(マッピング)は追いきれないわ。

ハルシネーション(嘘)なんて、私の前では1ミリも通用しないのよ」


 マチコさんは冷徹に微笑むと、タエコおばさんの端末の横に自らのマップ画面を並べた。

画面には、茨切の五浦の六角堂、そしてこのオアシス幕張のサウナスパに至るまでの移動ログが、載っていた。


 プログラム言語(ババア)の冷徹な数字に、地理ファクト(マチコさん)の絶対的な座標が加わった瞬間、なろうの海に渦巻いていたすべてのノイズとハルシネーションは完璧に抹殺された。


チャ子もエー子も、完全に地図上からスクリーニング(強制排除)されて降伏するしかない。


「これでやっと、マンションの修繕積立金も位置情報もすべて決済(救済)できるわね」


 パー子姉さんがようやく安堵の息を漏らす。その足元へ、一歩一歩を大変そうに、しかし健実に踏みしめて歩いていた、あの茶色いお年寄りワンちゃんがトコトコと歩み寄った。ワンちゃんは、マチコさんの足元で「今度はマチコさんも来たね」と嬉しそうに目を細め、誇らしげに尻尾を振っている。それもまた、動かぬ生命の息吹だった。


 窓の外、幕張の秋の空には、すべてのハルシネーションを飲み込む、

 プログラム言語のババア、AI、SNS、そして地理ファクトのすべてを支配する、マンション オアシス幕張、厄介な住民は、増えるばかりでした。


Googleマップの、マチコさんの入居による絶対座標の確定: 統計大好きな厄介ババア(タエコおばさん)のRData分析に、ハルシネーションを1ミリも許さないマチコさんのGoogleマップ位置情報が完全融合いたしました。


パー子姉さんの、管理人業務は、ますます大変でした。

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