水色の下げ飾り
ふと、針を持った手を止めて顔を上げる。
日差しは昼を過ぎた頃。
「そろそろお茶にしようかしら」
とつぶやいて、刺繍枠をテーブルの上に置いた。
立ち上がって、窓から外を見る。
窓の向こうでは、湖面が午後の光を受けて、小さくキラキラしていた。
お茶を淹れてからテーブルに戻り、カップに口をつけてまた外を見る。
「飽きないのよねぇ。本当に、ここに越してきてよかったわ」
誰に聞かせるでもないひとりごとは、この家に越して来てから何度言ったかわからないが、本心だから仕方ない。
それから、今まで刺していた刺繍に目を戻す。
小さな四角の中に、クロスステッチで刺した左右対称の模様。
これはビスコーニュにする予定だ。
正方形の布を2枚。角と辺を合わせるように縫い合わせると、複雑な多面体にも見える不思議な形になる。この形がお気に入りだ。
青と水色の2色で刺してるから、青系の房をつけようかしら、などと頭のなかで仕上げをあれこれ考える。
注文を受けていた品物は仕上げたから、しばらくは趣味の作品をいくつか作ろう。
同じ模様で色違いもいいな。
次は紫の濃淡で刺してみようかしら。
少しぬるくなったお茶を飲んで、添えたクッキーを口に入れた。
明日はクッキーも焼こうかな。
それともドライフルーツをたっぷり入れたパウンドケーキにしようか。
材料のストックはまだあったかしらと貯蔵庫を脳裏に浮かべつつ、午後の日差しがゆっくりと通り過ぎていく庭をまた眺めた。




