「夜な夜なお人形遊びはキモい」と追放された俺、理想の美少女パーティを自作してしまう
現在連載の構想を考えている話で、一先ず短編で投稿させていただきました。
「ウィル・ヴァイセンハイム。貴方を今日限りで、私たちのパーティから除名します」
王都ギルドの個室で、リーダーであるセシリアはそう告げた。
白銀の髪を肩のあたりで切りそろえた美貌の剣士は、いつものように背筋を伸ばしている。ただその青い瞳には、固い決意が宿っていた。
隣で弓手のニーナが腕を組んでそっぽを向いている。その側では、魔法使いのアルマがローブの袖をぎゅっと握りしめ、小さく頷いていた。
『大事な話があるから、夕方にギルドへ来てください』
セシリアにそう言われた時、俺は少しだけ期待した。もしかすると、昔から密かに憧れていた幼馴染が、何か浮いた話をしてくるのではないかと。
だが、現実はこれである。
恋の告白どころか、まさかの追放宣告だった。
「な、なんで!?」
動揺して椅子から立ち上がるも、三人の目は依然として冷ややかだ。
「今まで三年間、みんなで頑張ってきたじゃないか! そもそも、田舎で引きこもっていた俺に一緒に冒険者になろう、と誘ってきたのはセシリアだろ!?」
俺は元々、故郷の村で一人、納屋にこもって魔道具や人形を作って暮らしていた。
村の連中は俺を変わり者扱いしていたし、俺としても、他人と関わるくらいなら一日中粘土をこねたり、木片を削り出している方が余程有意義だった。
そんな俺を連れ出したのが、幼馴染のセシリアだ。
冒険者になって多くの人を助けるには、ウィルの力が必要なのだと。真っ直ぐな目でそう言われたから、俺は仕方なくついてきてやったのである。
なのに、今さら除名とは人を振り回すのも大概にせえ。
「それは否定しません」
そう言ってセシリアは言いにくそうに眉を下げた。
「だから今まで我慢してきました。貴方の功績が大きいことは、私もニーナもアルマも、みんな理解しています」
「なら何が不満なんだ」
「最近、貴方がキモいとパーティ内で問題になっています」
「えっ」
キモい。
今確かにそう言った。役立たずでも戦力外でもなく、キモい。
女三人、男一人のこのパーティにおいて、無条件の死刑宣告とも取れる禁止ワードである。
「いや、あの、その」
「落ち着いてウィル。先ずは聞いてください」
セシリアは腕を組みながら小さく息を整えた。
「貴方の固有職である創形師。その能力がどれほど貴重かは、分かっています。魂を込めて作った魔道具を、物理法則を無視して具現化できる。そんなアビリティ、王国中を探しても他に聞いたことがありません」
それはそうだろう。俺のジョブである創形師……まあ俺がそう名乗っているだけだが、俺のアビリティは一般的な鍛冶師や錬金術師とはまるで違う。
素材を加工し、形を作り、そこに俺自身の魔力とイメージを焼き付けることで、理屈では説明できない性能を持った道具を生み出せる。
暗闇の洞窟で敵だけを照らす指向性のランプ。鉱石を豆腐のように切り裂く高周波振動の剣。盾と鋏が一体となり、敵の攻撃を受け止めた瞬間にカウンターを取れる可変盾。
どれもこれも、一流の鍛冶屋にも引けを取らない、俺が寝食を削って作り上げた傑作である。
「貴方がいなければ、私たちはここまで早くAランクになれませんでした。それは間違いありません」
「だったら——」
「ですが」
セシリアの声が、少しだけ低くなった。
「最近の貴方の行動は、さすがに目に余ります」
ニーナが露骨に顔をしかめた。
アルマは俺と目が合うなり、びくっと肩を震わせて、セシリアの背中に半分隠れる。
何だその反応は。まるで、俺が異常者みたいじゃないか。
「ウィルは最近、夜な夜な人形を作っていますよね?」
「そうだが」
「良い年をした男性が人形遊びに興じることについては……まあ、個人の趣味です。私たちが口を出すことではありません」
セシリアは、そこで一度だけ目を閉じた。
まるで今から言う事が、とんでもなく悍ましい事だというように。
「ですが……その人形を作るために、私たちの服のサイズや体重を防具屋に聞いて回ったり、留守中に寝室へ侵入して落ちている髪の毛を集めたり、クエスト中に舐め回すように身体を観察したり、治療するふりをしてスリーサイズを測ったりするのは、明確に問題です」
「……」
まさか気付いていたとはな。
だが誤解だ。俺は決して、性的な目的でそんなことをしていたわけではない。考えてほしい。一流の画家が裸体をデッサンする時に、一々モデルに欲情するだろうか? 答えは否。
なぜなら創作とは、観察である。
真に優れた造形物を作るためには、対象を徹底的に理解し、構造を把握した上で、目指すべき美しさを再現しなくてはならない。
「……確かに、俺はお前たちを観察した。だが待ってくれ、それは全て芸術のためだ」
「芸術?」
「ああ。セシリア、お前の無駄のない剣士としての体幹。ニーナのしなやかな肩甲骨と、弓を引く時に浮かぶ背筋。アルマのかわいさと、その小さな体に広がる無限の可能性」
「ひっ……」
アルマが小さく悲鳴を上げた。
「お前たちは最高の造形をしている。こんな素晴らしい参考資料が手元にあるのに、何もしない方がむしろ冒涜だろ。俺はお前たちの美しさを世の中に広めて、永遠に残る美として残したいだけなんだ」
「発言がもう犯罪者です」
頭を抱えるセシリアを見て、今まで黙っていたニーナが、限界だと言わんばかりに机を叩いて立ち上がった。
「大体ねえ! あんた、前からずっとキモいのよ! この前ダンジョンに行った時も休憩中に、私の事を見ながら『なるほど、インナーが汗で脇に張り付くとこういう質感になるのか……』とか言ってたの知ってんのよ!」
「ああ、あれは素晴らしい光景だった」
「黙れ!」
ニーナの顔が赤い。
彼女は怒ると少しだけ野性味が増すのが非常に良い。首筋から覗く日焼け跡も相まって健康的な魅力がある。例えるなら、長期の休みで実家に帰った時に偶然出会う、田舎の美少女だ。しばらく見ない間に、こんなに綺麗になって……ってやつ。
「ほら! またそういう目で見てる!」
「違う、観察だ」
「同じよ!」
今にも弓を抜きそうだったがセシリアが手で制すると唇を尖らせて椅子へ戻った。
「アルマも言いたいことがあるのでしょう」
アルマが恐る恐る顔を上げた。
彼女はパーティ最年少の魔法使いで、少し気弱なところがある。だが、それがいい。
庇護欲を刺激する、非常に完成度の高い妹系の素質の持ち主だ。
「あ、あの……ウィルさん」
「どうしたの? アルマ」
俺は普段使わない表情筋をフルに使って、アルマに優しく微笑みかけた。
「前に、その……私に『お前は俺の理想の妹キャラだから、お兄ちゃんと呼んでほしい』って言ったよね」
「ああ。勿論、今もそう思っている」
「本当に嫌だった」
座っているはずなのに、ぐらりと足元が揺れた。
何故だ。
俺はただ、お兄ちゃんと呼んでほしいだけなのに。
「アルマ、誤解だ。俺はお前のことを本当の妹のように大切に思っているというだけで、別に本当の妹だと思っているわけではない」
「そ、それは分かってるけど」
「言い換えるなら、単に理想の妹キャラと言っただけだ。小柄で、気弱で、けれど才能があり、いざという時には健気に頑張る。しかも、何かあるとすぐにローブの袖を握って震えながら我慢しようとする。まるで、全人類の妹として生まれてきたような逸材だ」
「いやあああ! 怖いよううう!」
アルマが涙目で叫んだ。
普段おとなしい彼女がここまで声を荒らげるのは珍しい。
その必死さもまた、胸を打つものがあった。庇護欲を掻き立てられるのに、何故かいけない気持ちになる。やはりアルマは可能性の塊だ。
「ウィル」
セシリアの声はもう説得を諦めた響きがあった。
「私が止めなければ、ニーナもアルマも、とっくにギルドへ訴えていました。貴方の功績を鑑みて、今まで我慢していただけです」
「待て。俺にも非があるのは分かった。だが、俺がこのパーティに入る時、好きにしていいと言ったのはセシリアだろう」
そもそも俺は、冒険者になんぞは興味がなかったのだ。旅も戦闘も面倒だし、知らない人間と関わるのも好きではない。
それでも加入したのは、セシリアが俺に言ったからだ。
『ウィルは好きにしていい。作りたいものを作っていい。貴方の力が必要なの』と。
「自由にしていいと言った。だから俺はこの経験が創作の役に立つかもと思って加入したんだ。それを今さら、創作活動が気持ち悪いから追放するなど、職権濫用だ」
「自由にも限度があります」
即答だ。
「それに、それは私たちの尊厳を侵害していいという意味ではありません」
「まったく、大げさな」
「大げさじゃない!」
セシリアが声を荒げると、ニーナがふと思い出したようにこちらを睨んだ。
「……そういえば、あんた、私たちの人形を勝手に売ってたわよね?」
「あれは失敗作だ」
「無断で王都の露店に並べてたじゃない!」
「あの子達は残念ながら、俺の目指す高みには届かなかった。ただ、このまま処分するのは可哀想だから、欲しいというファンのみんなに有料で配っただけだ」
「セシリアの胸当てに勝手に脱着機能をつけたり、聖女様のフィギュアも無断で作って売ってたでしょ!」
「あれはニーズに応えただけだ」
「言い方!」
アルマは「教会に怒られますよ……」と小声で呟いている。
納得がいかない。こいつらにはタダで作ってやる分、材料費は自分で稼がないといけない。
俺のフィギュアは好評で、特に第三弾の聖女フィギュアは販売前から行列が出来るほどの人気だった。
怒られるどころか、俺は購入した一部の信徒からは「神」と崇められている。
需要があるものを供給して何が悪い。
「……とにかく、今日をもって貴方は私たちのパーティから除名です。これはリーダーである私の決定であり、ニーナとアルマも同意しています」
「そんな馬鹿な。アルマ、嘘だよな。お兄ちゃん悲しい」
「ひっ!」
「やめなさい」
セシリアの瞳に迷いはなかった。
三年前、田舎の納屋にこもっていた俺を迎えに来た強い目は、今度は俺を自分達から切り離すために向けられた。
「最後に、ギルドに報告しない迷惑料として、これまで作った装備品とアイテムは、すべて残していってください」
「……息子達を?」
「ええ。貴方も分かっているでしょう。あれらがなければ、私たちは明日からの依頼にも支障が出ます。貴方の行動によって受けた精神的苦痛を考えれば、それでも足りないくらいです」
普通なら怒るところなのだろう。俺が作ったものだ。俺の技術で、俺の時間で、俺の魂を削って形にしたものだ。
それを置いていけと言われて、断るのは簡単だ。だが、息子達もそろそろ親元を離れて、良い使い手と一緒に暮らす方が幸せかもしれない。
「……分かった」
セシリアがわずかに目を見開いた。
ニーナもアルマも、意外そうな顔をする。
「元々お前たちのために作ったものだ。大切にしてやってくれ」
高周波振動剣も、可変式シールドも、指向性ランプも、魔力圧縮弾も、緊急脱出用の転移札も。
すべて、彼女たちの為に作ったものだった。なんと言われようと、その気持ちは本物だった。
「三年間、世話になったな」
そう言って、俺はギルドの個室を出た。
「ウィル……」
セシリアの声が聞こえたが、振り返らなかった。
ギルドを出ると、王都の夕暮れが街を赤く染めていた。
街行く人たちの笑い声。店から漂う料理の匂い。馬車の車輪の音。いつもと変わらない街並みなのに、俺だけがこんなにも孤独だ。
そのまま宿へ戻り、部屋の鍵を掛けるや否や、ベッドへ身を投げ出す。
「……やはり、人は信用できない」
暫くぼうっとした後にぽつりと漏れた言葉は、意外なほどに心に刺さった。
セシリアも、ニーナも、アルマも、俺の力を必要だと言った。俺の作品のお陰で、俺がいなければここまで来られなかったと認めた。
それなのに、最後には俺をキモいと言って追い出した。俺の創作活動やフィギュアを気持ち悪い、お人形遊びとバカにして。
この高尚な魂を理解できないとは、やはり生身の人間というのは不便で、面倒で、理不尽な存在だ。
だが、逆に考えれば、もうパーティ活動に時間を取られることはない。
依頼の予定も、野営の準備も、女どもへの気遣いも、機嫌取りも必要ない。
俺には時間がある。フィギュアを売って得た金もそれなりにある。何より三年間の冒険で得た素材と技術と経験がある。
「だったら、作ればいい」
俺はゆっくりと顔を上げた。
生身の仲間などいらない。
文句を言わず、裏切らず、俺の美学を否定せず、それでいて理想を完璧に体現した存在。
「最高のパーティを」
そう言って、ニヤリと笑った。
俺はその日から宿屋にこもった。
食事は最低限。睡眠も最低限。宿の女将には何度か心配されたが、「創作中だ」と告げると、それ以降は何も言わなくなった。
粘土、木材、金属、魔石、魔獣の革、精霊糸、竜骨粉、霊銀、そして三年間で集めた膨大な観察記録。
すべてを机に並べ、俺はひたすら手を動かした。
セシリア、ニーナ、アルマ。
それぞれの特徴をそのまま写すのではなく、俺の中で再構築し、より理想に近い形へ昇華させていく。
創形師の能力は、ただ形を作るだけのものではない。
魂を込め、役割を与え、存在の輪郭を定めた時、それは単なる創作物ではなくなる。
俺の作品は、俺の理想を宿して動き出す。
一月後。
机の上には、三体の人形が完成していた。
一体目は、白銀の髪を腰まで流した、お淑やかな姉騎士。
名前はセシル。
セシリアの余計な頑固さや説教臭さを取り除き、包容力と優しさを大幅に強化した、みんなのお姉ちゃんである。
戦闘時には細剣と盾を操り、仲間を守りながら優雅に敵を切り伏せる。盾のレリーフには最高純度の加護の魔石が使われていて、装備している間は自動修復機能がある他、蓄えた耐久値を放出して攻撃反射をする事も出来る。お姉ちゃんは、みんなを守る時が一番強いのだ。
性格は穏やかで、疲れたみんなに「よく頑張ったね」と膝枕をしながら、頭を撫でてくれる。パーティメンバーを甘やかすのが生きがいという設定だ。
二体目は、小麦色の肌をした、黒髪ボーイッシュな弓使い。
名前はニア。
ニーナの快活さと野性味を参考にしつつ、怒りっぽさを健康的な明るさへ変換した。
関節の動きを阻害する装備は極力廃し、俊敏性と攻撃力に特化したユニット。弓は分離して短剣になる他、オプションのマントには光学迷彩機能もあり、一撃離脱を得意としている。
見た目は短めの髪、引き締まった手足、そして肩や太ももにうっすら残る日焼け跡。ここの調色は苦労した。何度も何度も塗り直した、こだわりのグラデーションである。
どうだい? この黒髪の小麦色のうなじから、今にもお日さまのいい匂いがしてきそうだろ? 鼠蹊部はコントラストを意識して、純白のアーマーを装備させた。
三体目は、薄紫の髪をした、無表情気味の魔法使い。
名前はエルマ。
アルマの持つポテンシャルを極限まで研ぎ澄まし、そこに一雫のクーデレ要素を滲ませた、俺の理想の妹に限りなく近い存在だ。
普段は淡々としているが、俺にだけは甘えん坊で絶対の信頼を寄せている。呼び方は当然、お兄ちゃん。戦闘時には杖に仕込んだ最高純度の氷魔石を媒介にした氷魔法を得意とし、近づく敵を無言で凍らせる。
正直、見た目はそのままに弟にしようかと悩んだ。最後の三日はほぼ寝ずにそれだけを考えていたくらいだ。だが、最終的にはアルマへの感謝とリスペクトを忘れないためにも妹にした。
生まれてきてくれてありがとう、アルマ。そしてハッピーバースデー、エルマ。
いつか弟も作ってやるからな。
……完璧だった。
俺は三体の前に立ち、震える手で胸を押さえた。
これまでの技術。
これまでの経験。
これまでの観察。
そして、これまでに蓄えたレア素材の数々。
すべてを余すところなく注ぎ込んだ、最強にして最高の理想の勇者パーティ。
残念ながら生身の彼女たちは、俺を理解できなかった。
だが、この子たちは違う。
俺が生み出した。俺の理想を宿している。俺の魂にもっとも近い場所から生まれた、俺の魂そのものだ。
「さあ目覚めろ。セシル。ニア。エルマ」
魔石が淡く光り、部屋の空気が震えた。1/12スケールだった彼女たちの体が、輪郭をほどくように膨らみ、やがて等身大の女性の姿へと変わっていく。
そして間もなく、人形たちの瞼がゆっくりと開いた。
最初に反応したのは、薄紫の髪の少女——エルマだった。彼女は無表情のまま、俺を見上げた。
「初めまして……お兄ちゃん」
その瞬間、全身に電流が走り、視界が晴れた。
いつかの為にと各種素材を根気よく採取し続けた甲斐があった。全てはこの瞬間のため、むしろ俺の人生はこの日のためにあったのかもしれない。
イメージの核となる触媒の鮮度が高いほど、自分の期待通りのものが具現化できる。もうこれは人形ではない。新しい命だ。
俺の本当の冒険は、今日から始まったのだ。
読んでいただきありがとうございます。
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