真夜中のベーカリー 〜お月さまの光でふくらむ、不思議なパンの話〜
夜が更けて、皆が寝静まる時間になりました。
夜空に、まんまるのお月さまが昇っています。
すやすやと眠っていたおじさんは、ムクリとベッドから体を起こしました。
「さぁて、仕事の時間だ」
おじさんは、パジャマを脱いで、白いズボンを履き、白い上着を着て、頭に白い帽子を乗せました。
そして、棚から大きな小麦粉の袋を持ってきました。
そう、おじさんはパン屋さんなのです。
さらさらとした白い粉に水を混ぜて、よいしょ、よいしょと生地をこねます。
おじさんの顔は真っ赤です。
鼻の頭に、ちょっぴり汗も浮かんでいます。
それでも、手は休めません。
よいしょ、よいしょ、よいしょ。
おじさんが頑張ったおかげで、もっちりした生地ができあがりました。
おじさんは「ふぅ」と息をついて、生地をちぎって小さくまるめ始めました。
丁寧にまるめて、少しだけ粉をふりかけます。
まんまるのパンのもとが、大きなガラスの板の上に20個ばかり並びました。
おじさんは、ガラスの板を大事そうに持ち上げて、外へ出ました。
あれれ?焼かないの?
おじさんは、野原の真ん中にトンと置いてある木のテーブルの上に、パンのもとが乗ったガラスの板をそっと置きました。
「おいしいパンになるんだよ」
頭の上に昇っていたお月さまの光が、パンのもとを照らしています。
すると、不思議なことが起こりました。
ゆっくりと、ゆっくりと、パンがふくらんでゆくのです。
まるでオーブンで焼いているように、ムク、ムク、とふくらみます。
お月さまの光がふりそそぎ、香ばしい良い香りもしてきました。
野原いっぱいに良い香りが漂って、パンはふっくらと焼き上がりました。
お月さまみたいにまんまるのパンは、お月さまのように優しい黄色です。
おじさんは満足そうに焼き上がったパンを眺めて、腰をトントンと叩きました。
「何度焼いても不思議なものだ。なにせ、うちのパンは月の光でしかふくらまないのだものな」
おじさんのパンは、月の光でしかふくらまない、特別なパンだったのですね。
焼き立てのふかふかで、やわらかいパンの上に、角砂糖のようなお星さまがチカリと光りました。
さて、真夜中のベーカリーの開店です。
お客さまは、ウサギかな?リスかな?それともタヌキかな?
森の奥で、フクロウが「ホウ」と鳴きました。




