盾のない午後 1-0-0
この作品はノンフィクションにフィクション要素を取り入れた作品です。
冷たい雨が降っていた。僕の手袋のつけていない手はまるで氷のようにかじかみ、かろうじて消しゴムを使えるほどだった。ある時僕は知った。
僕は今年で偏差値50ちょっとの私立中学校に入学した。前には公立の普通の小学校に通っていた。僕はみんなを離れてわざわざ受験してまで私立中学校に入ろうと思ったわけがわからなかった。入学してからもそうだった。ー僕がその学校に行きたいといったのは女の子の長馴染みと一緒に公園で遊んでいたときだった。となりには中学生がいた。僕が「OO中学校に行きたい」といったときその中学生はすごいとか頑張れとか、僕はそれを特に気にもとめなかったがすこし嬉しかった。その時は小学4年生だった。なんとなく過ごして、特に勉強もせず、国語と社会のテスト以外はまあまあの点を取る。そんな日々だった。僕はその幼染み以外に友達はいなかった。普段は中で静か日本でも読む、先生以外のだれとも話さなかった。ただ、平凡な日々ではなかった。僕はいじめを受けていたがなかなか直らず、卒業式の前日に、爆発して教室の中で泣きじゃくり、プリントをグシャグシャにした。僕はその後もだれにも相談しなかった。卒業式は幼染みとも話さず、式が終わったらまっすぐと家に帰った。嫌な思い出しかなかったから特に思うこともなく入学式を迎えた。でも今僕はずっと胸の底が痛い。中学生になっていじめを受けることはなくなり、友だちもでき、毎日一緒に帰る女子だっている。小学生の時と比べたらそれは比べものにもならない青春だ。でも僕はいじめを記憶から消すことは出来ず、逆にあの時の爆発がフラッシュバックとなり、毎日鬱々とした気持ちである。僕は昔から誰かに相談することに疎い人である。それ故誰かに気持ちをいったり、ましてやカウンセラーなど恥ずかしくてできなかった。そんな日々は塵屑のようにつもりいつの間にか心に深い傷をえぐり続ける毎日になった。
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今僕は中学2年生である。半年以上前にほしいといって親からの条件はクリアしたにも関わらず3Dプリンターは買えず、ストレスが溜まっていたのだろう。僕は母から現金45000円を盗み、名古屋の家電量販店でレゴを2つ買った。3月のことである。僕は母にバレて、今年にある海外研修には行けないと言われた。その時、僕は自分で自分の信頼とお金と人生経験を失ったのだと思い、悔しさでもうなにもいえなかった。お母さんはあまりにもショックだったのだろう。本当に冷たい反応だった。妹からも嫌われ、いっそ自分の命をも疑うようにもなった。お母さんは僕に何度もレゴを返品することを求めたが、それを返品することはあまり心地よく思わなかった。返品すると嘘をついてそのレゴを眺めていた。そのレゴは返品するには惜しかった。無責任だったとは思う。不届き者だったかもしれない。でも愛着があった。ある日お母さんに言われた。速く返品しろと怒られた。僕はその時のお母さんの話は覚えていない。でも、大切なことに気付かされた気がした。
「レゴはいつでも買える。みんなはそう思うかもしれない。ただ、僕が買ったこのレゴには僕なりの愛着があり、もうすぐ返品になるものだった。きっとこの後うんと高くなると思った。でも、どれだけ高くなっても、時間が立ってもお金があれば買えるのだ。それにそのレゴも数年後には10万を超えるものにもならない。たしかに人気ではあるが、そこまで厳しいものでもないのだ。土地や株とは違うのだ。バイトでも何なりとして自分でお金をためたら買えるのだ。だからその時に買えばいい。今はそんなもので気を落ち着かせる時期じゃない。きっとその時期はこの後くる。今やらなくてもいいのだ。だから返品しよう。レゴはその後買えばいい。」
僕は心のなかでそんな言葉が聞こえたような気がした。確かに今よりは高くなっているかもしれない。でもお金があれば買える。実際それをしたんだ。先を急ぐ必要はない。今は焦らず、自分の将来を掴めばいい。それで、僕はレゴを返品した。覚悟はした。自分の好きなものを眼の前で手放すのはなかなかに辛いものだ。でも我慢できたんだ。僕は我慢ができるんだ。出来たんだ。だからどんな不満があっても自分なやりたいことを誠実にやれば気持ちは晴れる。
僕は帰りの電車の中で小さくガッツポーズをした。失敗は成功のもと。まさにいまそれを証明したんだ。僕はちょっとだけ自分に自身が持てた。雨の降っていない曇りだった。




