【悲報】正体を隠したい日本トップランカーの俺、バズったクラスメイトの美少女と二人でパーティーを組むことになった。【やめて】
「あれ、三上くんじゃん!こんにちは~!」
「こんにちは……奇遇だね……」
現在地、ダンジョン。目の前には完璧な美少女がいる。物部五月、学年でもそこそこ人気があるクラスメイト。そしてなぜか、俺は彼女に話しかけられていた。
「突然でごめんなんだけどさ。私を撮影してくれない?」
「……撮影?」
「ごめんごめん、言い方良くなかったね。配信がしたいんだけど、一人で撮るの大変でさ。だから、知ってる人に会えて良かった!」
「いや、まだ何も言ってないけど……」
「え、無理だった!?ごめん、そうなら全然断ってくれていいから……!」
「……いや、大丈夫。暇だし、付き合うよ」
「本当?ありがとう~!マジで助かった!」
俺の背筋に冷や汗が流れる。ヤバい。だいぶヤバい。
俺、撮影がプロ級になってしまう。
子供の頃、家の近くにダンジョンがひっそりとできた。当時純粋だった俺は秘密基地感覚でそこに入って、魔物に襲われて逃げてきた。魔物は幸いダンジョンの外には出れなかったようだが、負けず嫌いの俺はとにかくダンジョンに潜った。勉強も運動も、……まあ顔はいいほうかもしれないけど、人より優れているところがなかった俺にとって、それはまるで価値を見つけるための行為だった。そのダンジョンの魔物を狩り尽くした後は色々なダンジョンに潜り、そして気付けば、とんでもないレベルになっていた。
……レベル、2518。
国内ランキング1位。ちなみに世界ランキングは見る勇気がなかった。
それを知った始めは、努力が報われた気がしてとてつもなく嬉しかった。狂喜乱舞して怒られたこともある。だが、俺は考えた。
__目立てば目立つほど、面倒くさいんじゃね?
俺は相手が何考えてるのかさえ分からないから、これじゃあ媚びてる奴とか、壺売ってくる詐欺師とか見分けられない。きっと毎日テレビに映って、外に出ればインタビューされて、いやこれは大げさかもしれないが、そう考えると途端に正体を隠したくなった。
しかし、一番の理由はそれではない。俺のプレイヤーネームは【黒幕】。何も考えていなかった俺の小学生時代がフラッシュバックして、恥ずかしさに悶えた。これは5年に1回しか変えることができない。なんでかは忘れた。でも、今さら変えるのも気まずくて、プレイヤーネームに関しては日々考えないようにしている。
ちなみに夏休み、暇すぎて配信を始めた。【黒幕】として。ただ、配信頻度は1カ月に1回。服装も、場所もバラバラだ。ちなみに手元だけ映したスイーツ店巡りが一番の再生数を誇っている。なんでだよ。
……というわけで、俺は『手加減』の方法を忘れた。攻撃とかなら全然制御できるが、身についてしまったものは仕方がない。
俺は彼女と少し深い階まで潜る。
「よし、ここでいいかな……じゃあ始めるね!三上くんは、適当に私が戦ってる姿映してれば大丈夫だから!ごめんね、よろしくね」
「うん、任せて」
彼女は深呼吸をして、配信ボタンを押した。
「皆さんこんにちは~!最強探索者のサミダレです!今日は、出会った魔物50体倒すまで終わりません!よろしくね~」
『こんにちは!』
『可愛い』
『楽しみです』
同接は40人。ちらほらと他愛無いコメントが流れた。
「おっ、最初はゴブリン!説明するまでもないので……さようなら」
俺はその姿に目を見張った。拳一つでゴブリンを消滅させている。
「次がオーガ……相変わらず大きいねえ!はい、じゃあ次!」
『この強さが良いんだよな』
『すごい』
彼女は次々と魔物を消滅させていく。驚異的なスピードだ。
ただし、俺も尋常ではない。視点を切り替え、距離を詰め、角度を変える。
『なんかカメラ変わってね?』
『思った。めっちゃはやい』
『カメラ上手いよな』
『酔わない』
彼女は軽やかに魔物を倒していく。
動きがぴたりと止まった。
「これで50体。今日は終わりです!見に来てくれてありがとうございました~!ではまた次の配信で!」
配信が終わった。
彼女はふうと息を吐く。
「……三上くん、ありがとう。1週間に4回以上配信しないと収入入ってこなくて……本当に助かった!」
「いや、こちらこそ。『サミダレ』って名前なんだね」
「あ、そうそう。私、下の名前『五月』じゃん?『雨』を加えたらすっごく良い響きになるなって思って」
「確かに良いね。物部さん、すっごく強いし。言いたくなかったらいいんだけどさ……レベルって、どのくらい?」
「えへ、ありがとう。あっ、言ってなかったっけ?
改めまして、物部五月、レベル164!よろしくね!」
「164!?」
一般的に俺のレベルがおかしいだけで、二桁は非常に努力が必要だ。
「……日本ランキング、見た?」
「んー、勇気がなくて見てない。同接100人いったら見ようかなあ。あと、もうちょっと深く潜りたいしね」
彼女は可憐に微笑んだ。
「……うん、良いと思う」
プレイヤーネーム『五月雨』に、俺は見覚えがある。もしかしたら別人かもしれないが。
……日本ランキング、29位。
やべえ奴と関わってしまった、と思ったと同時に、強く興味を引いた。
地上に戻ろうか、と言おうとしたそのとき、地下から悲鳴が響いた。
「私、行ってきます!三上くんは戻ってて!」
「俺も行く」
お互い全速力で魔物をなぎ倒し、走った。物部さんは自分についてこれる俺のことを不思議に思わないのだろうか。
「た、助けて……助けてください!」
そこにいたのは、ペアの男女。
男は血を流して倒れていて、二人の目の前にはもっと深い層にいるべき魔物。
神狼だ。
神狼といっても、ただただ驚異的な力を持っているだけだ。そのため、見かけたら逃げろといわれている。
「……二人の安全を確保して。特に怪我人ははやく治療を!」
「分かった」
彼女はどうするのだろうと思って、男に簡単な治癒をかけながらちらちら見る。
「……こうなったら最終兵器か。出でよ、双剣」
彼女は、何もないところから双剣を出した。
「死ね!」
彼女が神狼に目に追えないスピードで切りかかった。
「グオオオオオ!」
神狼が咆哮をあげる。
ものすごい接戦だった。彼女はボロボロになりながらも、神狼に確実に致命傷を負わせていた。
「嘘……」
彼女を置いて戻るなんてことはできなかったから、その場にとどまり続けていた。女の子の声が聞こえてふとそちらを見ると、配信しているのか数々のコメントが目に飛び込んできた。
『うおおおお頑張れえええええ!』
『すごすぎる……この子誰?』
『神狼を相手にできるなんて強すぎる』
『頑張れ!!!頑張れ!!!』
『やれ!!!』
同接、2万。
とんでもない数だ。
「あっ……」
彼女が体勢を崩し、倒れた。
神狼の攻撃をなんとかはじき返し、よろよろと立ち上がる。
ああ、この子はもうダメだ、と思った。
俺は今までに、死にゆく人をたくさん見てきた。そんな中で、この状況で生き残った人は一人もいない。
救助班はまだ来なかった。でも仕方ない。ここは思ったよりも深い層なのだから。
……違った。
俺が彼女を見誤っていた。
神狼の爪が、彼女の頭上まで来る。
そのとき、彼女の雰囲気が、変わった。
「……深海の孤独」
瞬きした次の瞬間に、神狼は倒れていた。
『やった……やったぞこの子!』
『すげえ!』
『とんでもない逸材だ!』
『頑張ったな!』
視聴者は皆、拍手喝采している。俺も同じ気分だった。
俺がこっそり配信ボタンを切ると同時に、彼女が俺たちのほうを死んだ目で見た。
「……えっ!?三上くん、もしかして見てた……?」
「うん。かっこよかった」
「そうかなあ……えへへ」
物部さんは照れくさそうに笑った。
「ごめん……立ち上がれなくなっちゃった。手、貸してくれる?」
「もちろん」
俺たちは手を重ねあった。
そのときだった。
神狼がぴくりと動くのを、俺は見逃さなかった。
ここで神狼が動いたら、すべてが台無しになる。
俺はかっと目を見開き、指をぱちんと鳴らした。
白い靄があたりに広がる。
「あれ?」
彼女の困惑した声。ごめん、バレるわけにはいかないんだ。
俺は神狼に、魔法で最後のとどめを刺した。
靄が晴れると同時に、俺は彼女を引っ張って立たせた。
「ほら、救助班の声聞こえるよ。行こう」
「う、うん」
ペアの男女を俺は救助班のもとへ運び、彼女と、別にいいといったのに俺まで地上に一緒に届けられた。
「物部さんさ、最後にすごい魔法使ってたじゃん?あれ、もしかしてオリジナル?」
「そう。なんか、ちょっと前にダンジョンに潜ってたら覚醒しちゃって」
オリジナル魔法は、人生で一度開花させることができたらすごいとされている。
俺のすごいよ、という声は地上の歓声にかき消された。
「サミダレさん!」
「すごかったです!」
「インタビューさせてください!」
「手振って~!」
「……え?何この状況……」
「あー、物部さんバズってたもんな」
「バズってた?」
「さっきの戦闘、配信に映ってましたよ!私も見ましたが、本当にすごかったです!」
地上にいた案内のお姉さんがそう言う。
「うーん、あんまり実感湧かないかも」
それは分かる。
俺は救助班の一人に声をかけた。
「あの、俺怪我もないし先に帰っていいですか?裏ルート使うので」
「良いですよ~」
「えっ、三上くん帰っちゃうの!?」
彼女が不安そうに言った。
「うん。あと、今言うことじゃないけど、クラスメイトの俺が一緒にいた、ってあんまり言わないで欲しいかも」
「良いけど……なんで?」
「いや、あんまり目立ちたくないから」
「……分かった。三上くん、今日は本当にありがとう」
「いや、こちらこそ」
運ばれていた台から俺は飛び降り、悠々と走っていった。
裏ルートを通り、自宅に戻る。
スマホを開くと、リアルタイムでは先ほどの案件がトレンドを埋め尽くしていた。配信を見返すと、幸いにも俺は最初のほうの声しか載っていなかった。
安心して明日の学校の準備をした。
次の日学校に行くと、物部さんは休みだった。
「三上、お前見た!?なあ、見たよな!」
「何をだよ」
友人の本村が話しかけてくる。
「物部さんのことだよ!ずっとすごいって思ってたけど、やっぱりすごかった!」
「語彙力ねえじゃねえか」
ほかのクラスメイトも、ほぼ物部さんの話題だ。
手のひら返しやがって、と思う。
物部さんが来たのは、3日後だった。
がら、と控えめにドアが開くと同時に、物部さんが現われる。
「物部さんおはよう!」
「おはよう~!ね、見たよ!」
「すごかった!」
「どうやったらあんなに強くなるの!?」
たちまち彼女の周りに人が集まる。
「あー……えへへ。ありがとう」
物部さんは曖昧に誤魔化していた。
俺に気付くと、軽く手を振ってくれた。俺は簡単に会釈を返す。
物部さんはそれから毎時間囲まれていた。だからなのか、帰りはそそくさと素早く教室から出ていった。
帰り道、俺は後ろに気配を感じて振り返った。
「あ……やっほー、三上くん。気付くの早いね」
「物部さん……」
そこにいたのは、髪を下ろしてサングラスをかけた物部さんだった。すごくオーラが出ている。
「ほら、今なんか私バズってるじゃん。髪下ろしてサングラスかけたらすごく雰囲気変わるでしょ?」
「確かに」
俺は頷いて、顔を上げた。
「それで、俺になんか用でもあるんじゃない?」
「バレバレだね」
彼女は軽く微笑む。
「言いたいことは三つある」
「一つ目は?」
「改めまして、この前は本当にありがとう」
彼女が頭を下げた。
「いや、こちらこそだって。頭上げて」
「えへ、三上くんは優しいね」
彼女は髪を耳にかけた。
「二つ目。連絡先交換しない?」
「良いけど……」
彼女のアイコンはポップコーンだった。意外と可愛い。
「三つ目。これが本命なんだけど」
「うん」
彼女は、とびきりの笑顔で言った。
「私と、パーティーを組んでくれない?」
「は?」
思わず声が漏れた。
「いや、俺よりももっと物部さんにふさわしい人がいると思うよ。だから」
「私にふさわしい人って誰?」
彼女から表情が消えた。
「三上くんも分かるでしょ?私はクラスや学年で、別に悪い立ち位置にいたわけじゃない。でも、一番ってわけではないし、クラスの班長にだって選ばれないほど人望がない。実際、この前の出来事からみんな態度、変わったよ」
「……まあ、そうだね」
「それでも、私は三上くんなら信用できるよ」
俺は言葉に詰まった。
「……たまにだけど、数学のときとか、解き方をほかの人じゃなくて私に聞いてくれるし、優しいし。話しかけてくれるし、一緒に手伝ってくれる」
「俺、そこまで美化されるようなことはしてないけど」
「ううん、私にとってはすっごく嬉しかったんだ。それに……三上くん、強いでしょ。神狼が復活しそうだったときだって、私たちに分からないようこっそり処理してくれたじゃん」
「……それ、俺じゃないよ」
「ふふ、私には分かるよ。白い靄があったって、見えるんだから。そういうスキルも持ってるの」
そこまで考えてはいなかった。俺はなんだか悔しい気持ちになった。
「私って強いし、綺麗だし。きっと、今までよりもっと楽しいことばっかだと思うよ?それに、私能力高いから。なーんでもできちゃう。計画も、コミュニケーションも、笑顔も!」
「でも俺、あんまり目立ちたくないんだよなあ」
「あはっ!それ確かに言ってたねえ。でも、もう遅いよ」
彼女は俺に向かって手を伸ばした。
「私と、パーティー組んでください」
俺が迷っていると、じっと見つめられた。その瞳からは目が離せなくて、でも楽しそうだと思う自分がいるのには否定できなかった。
「……分かったよ」
「本当!?やったね!」
物部さんはぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねた。
実際、俺もその提案は悪くないと思っていたのかもしれない。自分の予想を裏切って、高みへとぐんぐん進む物部さんの姿は、まるで光のようだったから。
「じゃあよろしくね。【黒幕】の三上颯真くん?」
「え、なんで知って……」
「えへへ、秘密!」
物部さんは真っ赤な夕日に向かってゆっくりと走った。俺は慌ててそれを追いかける。
これは正体を隠したい俺と希望に満ち溢れている彼女の、のちに最強と呼ばれるパーティーの始まりだ。




