第7話 「やめてくれ!」と手を振ったら、隣国の軍隊が壊滅しました
【前書き】
私は平和主義者です。争いごとは嫌いです。
虫も殺せないような性格だと自負しています。
ですが、相棒(精霊)の判断基準は少し違うようです。
その日、異世界の路地裏はいつもと違う緊張感に包まれていた。
俺が店(屋台)を開こうとすると、スラムの少年ジグが血相を変えて飛んできた。
「旦那! ヤバイぞ! 今日は店を畳んだ方がいい!」
「どうした? 衛兵の巡回か?」
「違う! 『黒鉄の騎士団』だ! 隣国の傭兵部隊だよ。この街の市場を乗っ取りに来たんだ!」
隣国の介入。
俺の『黒い粉』や『調味料』が経済に影響を与えすぎて、隣国が資源を独占しようと動き出したらしい。
俺は即断した。
「わかった。今日は撤収だ」
命あっての物種だ。俺は荷物をまとめようとした。
しかし、遅かった。
ガシャリ、ガシャリ、と重厚な金属音が路地に響く。
現れたのは、全身を黒い鎧で覆った十数人の騎士たちだった。
先頭に立つ隊長らしき男が、俺を指差す。
「貴様だな。出処不明の物資をばら撒き、我が国の経済を混乱させている商人は」
「……何の話でしょうか。私はただの行商人ですが」
俺は精一杯の愛想笑いを浮かべた。
だが、隊長は剣を抜いた。
「問答無用。その物資のルートと、背後にいる組織を吐け。さもなくば――」
騎士たちが一斉に武器を構える。
殺気。
以前のゴロツキとはレベルが違う。本職の軍人の殺気だ。
俺の足はガクガクと震え、歯の根が合わない。
逃げ場はない。後ろは袋小路(納屋への扉があるが、鍵を開ける暇はない)。
殺される。
ここで、俺の人生は終わるのか?
嫌だ。せっかくリフォームした家で、まだ数回しか風呂に入っていないのに。
「ひぃっ……!」
騎士たちが一歩踏み出す。
俺はパニックになり、両手を前に突き出した。
降参のポーズだ。あるいは、来るなという拒絶のポーズ。
「ま、待ってくれ! やめてくれぇ!!」
俺は叫んだ。
ただ、命乞いをしただけだった。
――ヒュン。
俺の肩の横で、タマが小さく鳴いた気がした。
次の瞬間。
ズゥゥゥゥゥン!!
世界が歪んだ。
比喩ではない。俺の目の前の空間が、ぐにゃりと歪曲したのだ。
そして、不可視の巨大なハンマーが振り下ろされたかのような衝撃が、騎士団を襲った。
「ぐわぁぁぁぁっ!?」
「な、なんだこの重力はッ!?」
重装備の騎士たちが、まるでおもちゃのように宙に舞い上がった。
そして、ピンボールのように左右の壁に激突し、鎧をひしゃげさせながら、路地の彼方へと吹き飛ばされていく。
十数人の屈強な男たちが、一瞬で。
空の星になった者もいれば、地面にめり込んで動かなくなった者もいる。
一分もしないうちに、路地裏には静寂が戻った。
残っているのは、ボロボロになった鎧の残骸と、腰を抜かした俺だけ。
「……は?」
俺は自分の手を見た。
突き出したままの両手。
震えている。
まさか、俺が? いや、違う。俺にそんな力はない。
恐る恐る横を見る。
タマが、何食わぬ顔でプカプカと浮いていた。
だが、その光は心なしか「やってやりましたよ!」というドヤ顔(顔はないが)に見える。
「お前……『やめてくれ』って言ったのに……」
俺の「やめて(攻撃しないで)」を、タマは「やめて(視界から消して)」と解釈したのだろうか。
AI翻訳の誤作動みたいな悲劇だ。
物陰から、ジグたちが顔を出す。
その目は、恐怖と尊敬がないまぜになり、限界突破していた。
「す、すげえ……」
「旦那、手を振っただけで……一個小隊を全滅させやがった……」
「『神の御手』だ……」
違う。
誤解だ。
俺は必死に否定しようとしたが、喉がカラカラで声が出ない。
その沈黙すらも、彼らには「強者の威厳」と映ったようだ。
翌日、俺の二つ名は『路地裏の処刑人』から『破壊神の使い手』へとランクアップしていた。
俺は胃薬を飲みながら、店を早じまいした。
【後書き】
主人公のリョウさんは、ただ命乞いをしただけです。
しかし、精霊タマの過剰防衛により、国際問題レベルの武力衝突を単身で制圧してしまいました。
これで異世界側での「武力による脅威」はなくなりましたが、逆に「魔王扱い」されるリスクが高まりました。
次回、現実世界でもピンチが訪れます。
最強の敵、国税局の影が忍び寄ります。
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