第10話(第1章・完) 店じまいと、新しい日常
【前書き】
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
第1章の締めくくりです。
リョウさんは、一つの区切りをつけます。
それは撤退でも敗走でもなく、「働き方改革」です。
アニメ化の騒ぎと、銅像の一件から数ヶ月。
季節は冬になっていた。
実家の庭には薄っすらと雪が積もっている。
俺は縁側で、湯呑みをすすりながら雪見をしていた。
隣には、少し大きくなった気がするタマが浮いている。
「……そろそろ、潮時だな」
俺はポツリと漏らした。
これ以上、俺自身が異世界の表舞台に出るのは危険だ。
王族や貴族、他国のスパイが血眼になって『破壊神リョウ』を探している。
認識阻害の指輪があるとはいえ、いつかボロが出る。
それに何より、疲れた。
腰も痛いし、寒い中を毎日出勤(納屋への移動)するのは、還暦間近の体には堪える。
俺は立ち上がり、納屋へ向かった。
今日は、大事な契約の日だ。
納屋の扉を開ける。
そこには、すっかり逞しくなった少年、ジグが待っていた。
彼はもう、ただの浮浪児ではない。
俺が与えた資金と知恵を使って、路地裏の子供たちを組織化し、立派な情報屋兼自警団を作り上げていた。
身なりも整い、目つきには自信が宿っている。
「旦那。呼び出しなんて珍しいな」
「ああ。ジグ、お前に頼みたいことがある」
俺は懐から、一枚の羊皮紙と、鍵を取り出した。
この納屋の扉(異世界側)に取り付けた、新しい錠前の鍵だ。
「俺はこれから、あまりこっちには来ない」
「えっ!? ……街を出るのか?」
ジグが動揺する。
「いや、引退だ。隠居だよ。これからはこの扉を閉ざし、裏方に徹する」
俺は説明した。
俺が直接動くのではなく、ジグを『代理人』として立てる。
商品は定期的にこの納屋(異世界側から見れば謎の倉庫)に転送する。
ジグはそれを回収し、ガラムやギルドに卸す。
売上の一部はジグたちの報酬とし、残りは金貨ではなく、珍しい鉱石や魔導書として納品してもらう。
「つまり、俺が旦那の手足になれってことか?」
「そうだ。お前ならできるだろ? 俺の相棒」
俺がそう言うと、ジグは顔を真っ赤にして、鼻を啜った。
「……当たり前だ! 任せとけよ! 旦那の安眠は、俺たちが守ってやる!」
契約成立だ。
俺はジグの頭を一度だけ撫でてやり、こちらの世界へ戻った。
扉を閉める。
ガチャリ、と鍵をかける音。
これで、俺はもう、毎日あの喧騒の中に行かなくて済む。
リビングに戻り、PCを開く。
『小説家になろう』のマイページ。
俺は連載中の小説『定年目前の〜』の第一部完結のボタンを押した。
そして、あとがきを打ち込む。
『これにて、第一部の「行商編」は終了です。
主人公リョウは、表舞台から姿を消し、伝説の黒幕として生きることを選びました。
しかし物語は終わりません。
むしろここからが、彼の本当の「異世界スローライフ(という名の引きこもり生活)」の始まりです。
第二部「隠居編」、準備ができ次第、再開します』
投稿ボタンを押す。
即座につくコメントの数々。
『うおおお! 黒幕ムーブきた!』
『ジグ君の成長に涙』
『アニメ化おめでとうございます!』
『ところで先生、国税局は撒けましたか?』
俺は苦笑しながら、画面を閉じた。
窓の外、雪が強くなってきた。
静かだ。
俺は一人だ。
けれど、納屋の向こうには信頼できる相棒がいる。
ネットの向こうには、数万人の読者がいる。
そして隣には、最強の精霊がいる。
俺はコーヒーを啜った。
苦味が、心地よく喉を通る。
「……悪くない人生、だったかな」
いや、過去形にするにはまだ早い。
俺の人生(余生)は、まだ始まったばかりだ。
俺はPCに向き直り、新しいプロンプトをAIに入力した。
『次の章の展開を考えてくれ。もっと派手で、もっと俺が楽できるやつを』
画面の中でカーソルが点滅する。
俺たちの物語は、まだまだ長く続きそうだ。
(第1章 完)
【後書き】
これにて第1章、完結です!
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
リョウさんは死にません。むしろここからが本番です。
「孤独」だけど「一人じゃない」。
そんな彼の奇妙な余生を、これからも書き続けていきたいと思います。
第2章では、成長したジグの活躍や、現実世界の編集者との攻防、そして納屋のダンジョン機能の拡張など、さらにスケールアップしてお届けする予定です。
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リョウさんの安眠のために、清き星を!




