守られるばかりの少女じゃない
柊平が「空っぽのデート」を繰り返していたツケは、意外な形で回ってきました。
ある日の午後、メテオ・ティアの拠点に、筋骨隆々の男が血相を変えて踏み込んできたのです。
「おい! 金井柊平はどこだ! 出てこい、この放蕩者が!」
男は町でも有名な力自慢の鍛冶職人で、先日柊平が一度だけデートした看板娘の兄でした。
「うちの妹を散々その気にさせておいて、二度目の誘いもなしにシカトたぁどういうつもりだ! 妹は部屋で泣いてんだぞ!しかも、他にも色んな女性に声をかけているそうじゃないか!」
柊平が奥から慌てて出てこようとしたその時、その前にスッと立ちふさがったのは、銀髪を揺らしたメイジでした。
「……騒がしいわね。ここはギルドの拠点よ。暴れるつもりなら、衛兵を呼ぶわ」
メイジの声は、驚くほど冷静で凛としていました。
「なんだ、このガキは! どけ! 俺はその軽薄男に一発食らわせなきゃ気が済まねぇんだ!」
男が怒りに任せて拳を振り上げ、威圧感を放ちます。しかし、メイジは一歩も引きませんでした。彼女の周囲の空気が、ピリピリと魔力で震え始めます。
「『ガキ』じゃないわ。私はメテオ・ティアの魔術師、メイジよ。……あなたの妹さんのことは気の毒だと思うけど、シュウ兄を責めるのは筋違いよ。彼はただ、自分に合う人を必死に探していただけ。それに応えられなかったのは、彼が不器用だからよ。でも、遊び半分で傷つけるような人じゃないことくらい、隣にいる私が一番よく知ってるわ」
メイジの瞳が、海のような鋭い水色に輝きます。
「これ以上シュウ兄を侮辱して、力ずくでどうにかしようとするなら……私が相手になるわ。あなたの自慢の筋肉が、私の魔法に耐えられるか試してみる?」
圧倒的な魔力のプレッシャーと、少女とは思えないその毅然とした態度に、男は気圧されてたじろぎました。
「……っ、ちっ! どいつもこいつも、魔術師様はこれだから……!」
男はメイジの気迫に負け、捨て台詞を吐いて逃げるように去っていきました。
静寂が戻った部屋で、柊平は呆然とメイジの背中を見つめていました。
「……メイジ」
メイジは肩の力を抜くと、ゆっくりと振り返りました。その顔には、先ほどの凛々しさはなく、いつもの「シュウ兄」を心配する少女の顔がありました。
「……もう、情けないわね。あんな風に怒鳴り込まれるようなデート、もう二度としないでよ」
柊平は、自分を守るために立ち上がったメイジの小さな背中が、いつの間にかとても大きく、頼もしくなっていることに気づきました。
「……ああ。悪かった。……助かったよ、メイジ」
柊平の手がメイジの頭に伸びかけましたが、彼はふと手を止めました。これまでのように「子供」として頭を撫でることに、説明のつかない「躊躇い」を感じたからです。
メイジを一人の女性として意識せざるを得ない、決定的な変化が、柊平の中に芽生え始めていました。




