純白の誓いと空回りする心
6月。雲一つない晴天の下でレイルズと真琴の結婚式が執り行われました。
会場には、いつもの防具を脱ぎ捨て、見違えるほどお洒落をした冒険者たちが集まっています。柊平は、以前メイジが贈った「あの魚柄のアスコットタイ」ではなく、今日のために新調したシックな装い。その隣には、淡い水色のドレスに身を包み、少し背伸びをして大人っぽく着飾ったメイジが並んでいました。
純白のドレスを纏い、幸せの絶頂にいる真琴がレイルズと腕を組んで歩く姿を見て、柊平は静かに目を細めました。
(……綺麗だな、本当に。……よし、これでおしまいだ)
柊平は、心の奥底に残っていた小さな未練を、祝福の拍手と共に空へと解き放ちました。隣でその横顔を盗み見ていたメイジは、柊平の表情から「憧れ」の影が消えたのを感じ取り、安堵でそっと胸を撫で下ろしました。
ところが、式が終わった翌日から、柊平の行動は極端な方向へ振り切れました。
「おっ、そこのお嬢さん! 今度、美味しいお菓子でも食べに行かない?」
「ギルドの受付嬢さん、次の休み、空いてたりするかな?」
柊平は、町中の女の子に手当たり次第と言わんばかりにデートを申し込み始めたのです。元々顔立ちも良く、身のこなしも軽やかな柊平です。誘われた女性たちも「あのメテオ・ティアの柊平さんなら」と、まんざらでもない様子で応じます。
しかし、奇妙なことが一つ。
「……シュウ兄、また別の人と出かけるの?」
「おう! 今日は花屋の娘さんだ」
柊平は毎週のように出かけますが、不思議なことに、二回目のデートに繋がる相手が一人もいないのです。
夕暮れ時。一人で寂しくポーションの瓶を磨いている柊平の背中に、メイジがそっと歩み寄りました。その表情には、恋心よりも先に、深い心配の色が浮かんでいました。
「ねえ、シュウ兄。……ちょっと、いい?」
「ん? どうしたメイジ。腹でも減ったか?」
いつも通りの軽い調子で振り返る柊平。ですが、その瞳の奥には、どこか落ち着かない空虚さが漂っているようにメイジには見えました。
「……シュウ兄。そんなに無理して、誰かと出かけなくていいんだよ? 真琴さんが結婚しちゃったからって、自暴自棄になって、誰でもいいから隣を埋めようとしてるんでしょ?」
メイジの真っ直ぐな言葉に、柊平は一瞬、図星を突かれたように固まりました。そして、観念したように大きなため息をつき、椅子に深く腰掛けました。
「……自暴自棄か。そう見えたか」
「そうだよ。全然、楽しそうじゃないもん。二回目のデートに行かないのは、相手の女の子と続けて付き合う踏ん切りがつかないからじゃないの?」
柊平は苦笑して、天を仰ぎました。
「参ったな。……確かにそうかもしれない。俺、『誰か一人を大切にする』って感覚が、アイツを見てから分からなくなっちまったんだ。誰といても、どこか上の空でさ。相手にも失礼だよな」
メイジは一歩踏み出し、柊平の膝の間に割り込むようにして立ちました。そして、彼の顔を覗き込み、強い意志を込めて言いました。
「無理に探さなくていいよ。……シュウ兄の隣は、空いてるわけじゃないんだから」
柊平は、目の前にあるメイジの真剣な瞳を見て、ドキリと心臓が跳ねました。
「……メイジ?」
「私が、ここにいるでしょ。シュウ兄が『誰か』を見つけられるようになるまで、私がずっと隣にいてあげる。だから、あんな空っぽのデートはやめて」
夕闇が迫る部屋の中で、二人の視線が重なります。
柊平は、自分が守り、支えてきたはずの「娘」が、いつの間にか自分を「一人の男」として包み込もうとしていることに、初めて戸惑い、そして激しい動揺を覚えるのでした。




