揺れる乙女の火花
その日の夜。宿屋の食堂には、漂うスパイスの香りに誘われるようにして、『メテオ・ティア』と『セイブライフ』のメンバーが集まりました。テーブルには、柊平とメイジが二人で丹精込めて作った、大鍋いっぱいのカレーが置いてあります。
「さあさあ、今日は俺とメイジの特製カレーだ! 遠慮なく食ってくれ!」
柊平が景気よく声を上げると、冒険者たちの歓声が上がりました。
「わあ……! 本当にカレーなんですね。金井さん、すごい!」
真琴は、目の前に置かれた懐かしい香りの一皿に、瞳を輝かせました。
「真琴さん、お口に合うといいんだけど! 故郷の味、完全再現とはいかないけど自信作なんだ」
柊平は、真琴の反応が気になって仕方ない様子で、そわそわと彼女の顔を覗き込みます。
真琴が一口食べると、その顔にパッと花が咲いたような笑みがこぼれました。
「おいしい……! スパイスが効いていて、でもどこか優しくて。なんだか、元気が出てきます。金井さん、ありがとうございます!」
「はは、そうか! よかった! いやあ、頑張って作った甲斐があったなあ!」
真琴の「おいしい」の一言で、柊平はこれ以上ないほど舞い上がり、デレデレと鼻の下を伸ばしています。その満足げな様子は、誰が見ても「惚れている男」そのものでした。
しかし、そんな二人の甘い空気を、煮えたぎる鍋のような視線で見つめる少女がいました。
(……シュウ兄、鼻の下伸びすぎ。私と一緒に作った時はあんなに威張ってたのに、あの人の前だとあんなにだらしない顔して……!)
メイジは、自分の分として盛られたカレーを、スプーンでぐちゃぐちゃとつつきながら、猛烈に嫉妬していました。自分が手伝った「二人の共同作業」の結果が、結局は真琴を喜ばせるためのものだったのかと思うと、胸の奥がチリチリと焼けるような感覚に襲われます。
「……メイジちゃん。スプーンが折れそうだぞ」
隣から苦笑混じりの声がしました。ロアンです。彼は、あからさまに不機嫌なメイジの様子を察し、そっと彼女の皿に美味しい肉を多めに移してやりました。
「アイツはああいう奴だ。お堅い『心臓』さんに憧れて舞い上がってるけど、結局アイツの心の健康を毎日支えて、隣で戦ってるのは誰だ?」
ロアンの言葉に、メイジはハッとして顔を上げました。
「……私だもん」
「だろ? 自信持てよ。アイツにとって、あの人は『憧れ』かもしれないが、お前は『日常』であり『支え』なんだからな」
ロアンに頭を軽く叩かれ、メイジは少しだけ毒気が抜けたように、ふうと息を吐きました。そして、改めて一口、自分が手伝ったカレーを頬張ります。
「いつもよりも劣るかも。シュウ兄、味付けちょっと甘かったんじゃない?」
メイジはそう毒づきながらも、柊平の背中を、少しだけ大人びた眼差しで見つめるのでした。




