メイジの初仕事
メイジの『メテオ・ティア』としての初仕事は、森の街道を脅かす「アーマード・ライノ(装甲犀)」の群れの討伐でした。柊平はメイジのサポートをする事になりました。
「いいかメイジ、お前は後方で支援魔法を。危なくなったらすぐに俺の影に隠れろ」
「もう! 何度も言わないで! 私はシュウ兄みたいに、回復も攻撃も完璧にこなす魔術師になるんだから!」
メイジは柊平への対抗心から、彼が真琴に教えていた「魔力の微調整」を必死に模倣しようとします。しかし、目の前に巨大な犀の群れが迫ったその時、彼女の「本能」が叫びました。
「ダメだ、メイジ! 切り替えが遅い!」
柊平が叫び、身を挺して彼女の前に出ようとした瞬間。メイジの中で、繊細な制御の糸がぷつりと切れました。
「……ああっ、もう、じれったい!!」
メイジが杖を地面に叩きつけると、彼女の瞳が鮮やかな水色に発光しました。柊平の教えた技術とは真逆の、純度100%の破壊衝動。
「吹き飛んじゃえ!!」
放たれたのは、初級魔法のはずの『ウィンド・カッター』。しかしそれは、微風の刃などではなく、空気を切り裂く巨大な真空の嵐でした。
轟音と共に、街道の木々はなぎ倒され、硬い甲羅を誇ったアーマード・ライノたちは、戦う暇もなく遥か彼方まで消し飛ばされました。
沈黙が流れる中、更地になった森を見て柊平は顔を引き攣らせます。
「……メイジ。お前にオールラウンダーを禁じた理由、わかったか?」
「えっ……?」
「お前が『支援』だの『回復』だの気にして魔力を抑えるのは、大砲の火薬をスプーン一杯分だけ分けるようなもんだ。効率が悪すぎる。お前は敵の前に立って、全部消し去る。それがお前の、唯一にして最強の役割なんだよ」
柊平は「怖すぎるだろ……」と本音を飲み込みながら、呆然とするメイジの銀髪をガシガシと撫でました。
数日後。初仕事の報酬を手にしたメイジは、鼻歌を歌いながら街へ買い物に出かけました。柊平は「どうせ新しい魔道書か、可愛いリボンでも買うんだろう」と高を括っていました。
宿に戻った柊平を待ち受けていたのは、ドヤ顔のメイジでした。
「はい、これ! シュウ兄にプレゼント!」
「……なんだこれ」
渡されたのは、目がチカチカするような蛍光オレンジに、変な魚の模様が入ったアスコットタイ。そして、食べると舌が真っ青になるという「激甘ブルーベリー・キャンディ」の袋。
「この街で一番高い、オシャレなネクタイなんだから! これをつけて、真琴さんよりずっと可愛いパートナーを早く見つけなさいよね!」
メイジは顔を真っ赤にして叫ぶと、自分の部屋に逃げ帰って行きました。
柊平は、手の中の絶望的にセンスの悪いアスコットタイと、不気味な色の飴を見つめ、深いため息をつきました。
「……趣味、悪すぎんだろ」
そこへ、リーダーのヤワンとロアンが通りかかりました。
「おっ、柊平。なんだそのアスコットタイ。罰ゲームか?」
「……うるせえ。メイジが初給料で買ってくれたんだよ。最高にオシャレだろ?」
柊平は、文句を言いながらも、次の日の定例会議にその「魚柄の蛍光アスコットタイ」を堂々と締めて出席しました。
ロアンが
「お前、真琴さんに振られて頭がおかしくなったのか」
と冷やかしても、柊平は
「これは最先端のトレンドだ」
と言い張り、真っ青になった舌でキャンディを転がしながら、嬉しそうに笑っていました。
そんな柊平の背中を、メイジは扉の陰から眺め、少しだけ満足そうに、そしてもっと深い恋心を募らせながら微笑むのでした。




