5年後の約束
ダンジョンから帰還したその日の夜。メテオ・ティアの拠点では、無事に戻った事を祝うささやかな宴会が開かれていました。しかし、柊平の様子はどこかいつもと違っていました。
彼は不意にジョッキをテーブルに置くと、立ち上がって仲間の顔を見渡しました。
「……みんな、聞いてくれ。大事な話がある」
その真剣すぎる声に、ロアンもヤワンも、そして隣にいたメイジさえも動きを止めました。柊平は一つ深く息を吐き、隣に座るメイジを真っ直ぐに見つめて言い放ちました。
「俺は、メイジを……『一人の女性』として、愛していることに気づいた」
拠点内が、水を打ったような静寂に包まれました。メイジの顔が、一瞬で耳まで真っ赤に染まります。しかし、柊平の言葉はそこで終わりませんでした。
「だが、メイジはまだ15歳だ。これからもっと広い世界を見て、いろんな男に出会う時期だ。俺が今すぐこいつを繋ぎ止めるのは、親代わりとしても、一人の男としてもアンフェアだと思う。……だから、宣言する」
柊平は拳を握り締め、力強く続けました。
「メイジが20歳になるまで、俺は待つ。 その時まで、俺はこいつの『一番近くにいる男』として自分を磨き続ける。そして5年後、もし、まだメイジの心が俺にあってくれたら……その時は、俺と結婚してくれ」
数秒の沈黙の後、最初に動いたのはロアンでした。彼は豪快に笑い飛ばしながら、柊平の背中をバシバシと叩きました。
「ははは! お前、真面目か! 散々迷走して、結局行き着いた先が『5年待ち』とはな! お堅いレイルズさんを笑えないくらいの堅物野郎だぜ!」
リーダーのヤワンも、呆れたように、しかし温かい眼差しで頷きます。
「……まあ、柊平らしいな。だが20歳か……。柊平、その頃にはお前、三十路を越えてるぞ。若いメイジに見捨てられないように精々頑張るんだな」
ギルドの仲間たちからも、次々と声が上がります。
「おっ、実質的な婚約発表か!?」
「5年も待たせるなんて、柊平も罪な男だねえ」
「メイジちゃん、今ならまだ逃げられるぞ!」
野次が飛び交う中、メイジは俯いたまま肩を震わせていました。柊平が
「嫌だったか?」
と不安げに覗き込もうとした瞬間。
メイジは勢いよく顔を上げ、柊平の腕に力いっぱいしがみつきました。
「……バカ! 5年も待たせるなんて、シュウ兄のケチ! 意地悪!」
涙目で叫ぶメイジでしたが、その口元には、隠しきれないほどの幸せな微笑みが浮かんでいました。
「でも、わかったわよ。5年なんて、あっという間なんだから。その代わり、他の女の子とデートなんて一回でもしたら、その瞬間に最大火力の魔法をぶち込んであげるわ!」
「……おう、肝に銘じておくよ」
柊平は苦笑しながら、今度は躊躇わずに、メイジの銀髪を優しく撫でました。
後日、この話を聞いた『セイブライフ』の面々も大喜びしました。
「5年待ち! 金井さん、意外とロマンチストなんですね」
と笑う真琴。
「ふん、まあ妥当な判断だな」
と、どこか安心した様子のレイルズ。
ミリヤムの赤ちゃんを抱きながら、
「5年後には、この子も歩いてるわね。楽しみ!」
とユーリも二人の未来を祝福しました。
かつて、孤独な異邦人としてこの世界に放り出された金井柊平。
彼は今、守るべき愛しい少女と共に、5年後の春を目指して、今日も賑やかな冒険へと繰り出し続けます。
その隣には、いつも変わらぬ、銀髪の輝きと水色の瞳がありました。




