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2話 緋遊と遊那

「ところで、お前、名はなんていうんだ?」 

「わかんない!」


目の前にいる男の子が、わからないことを、申し訳なさそうにするでもなく、恥ずかしそうにするでもなく、かといってごまかそうとすることもない。ただ、満面の笑みで自信満々に、堂々と「わからない」と言い切る姿は、とても清々しい。


「じゃあ、何か覚えていることはないか?」

「う〜ん…?」

「何でもいい。何か、記憶に残っているものはないか?」


う〜ん、う〜んと数分考えた末、何かを思い出したように顔を上げた。そして、大きな声で言ったのは思いがけない単語であった。


「あか!」

「赤?」

「そう!あめちゃんみたいな、きれいなあかいろ!おねぇちゃんが、きれいな、あかいかんざししてた!」

「そうか。じゃあ、お前の言うおねぇちゃんとやらはお前のことをなんと呼んでたんだ?」

「わかんない!でも、ぼく、あのあかいろすき!」

「きっと、お前にとって大切な色なんだな。」 

「うん!」


にこにこと満面の笑顔を浮かべる姿は、もう、餓鬼とは思えないほどだ。


「じゃあ、これからはお前のことを"緋遊(ひゆ)"と呼んでもいいか?」

「うん!いーよー、おねぇちゃん!」

「そうだ。私のことは"おねぇちゃん"ではなく、人間の前では遊彼(ゆうひ)、妖怪の前では遊鬼(ゆうき)と呼ぶんだよ。」

「わかったよ、遊ねぇちゃん!」

「ん。そいじゃ、お前の世話係と顔合わせをしようか。遊那(ゆうな)。」


虚空に向かって名を呼ぶと、後ろから声がした。


「なんでしょうか、御館様。」


先ほどまで誰もいなかったはずの私の後ろには一人、緋遊より数歳年上に見える少女が立っていた。


「新人だ。お前と同じ、"座敷童子"だよ。」

「それはそれは。新人など、珍しいですね。」

「あぁ。元餓鬼でね。世話係を頼めないかい?座敷童子をまとめているお前が一番任せやすいんだが…。」

「えぇ。私にお任せください、御館様。」


彼女は座敷童子の遊那。私の(もと)についている座敷童子たちを纏めてくれている、座敷童子(ざしきわらし)統括責任者(とうかつせきにんしゃ)だ。見た目の年齢的には八、九歳ぐらいだが、実際は三百年近く存在している中堅の妖怪だ。黒髪のおかっぱに狐目、黒地に赤の彼岸花と手毬が(えが)かれた四つ身の着物を着ており、いかにもな座敷童子の格好をしている。


「遊ねぇちゃん。ぼく、餓鬼じゃないの?」

「あぁ。お前は今飢えが満たされているだろう?だから餓鬼ではなく、座敷童子へと変化している。ただ、また空腹になれば餓鬼に戻る。だがら、腹が減ったらちゃんと言いなさい。わかったか?」

「うん!わかったー!」

「いい子だ。」


はーい、と元気に手を挙げる姿はなんとも可愛らしく、ついつい頭を撫でてしまった。


「ずるいです、御館様。私も頭を撫でて欲しいです。」

「あぁ。屋敷に戻ったらいくらでも撫でてあげるよ。」

「本当ですか!?ありがとうございます!」


長く存在しているが、彼女が座敷童子だからだろうか。油断すると感情が出やすく、仕草やしゃべり方などが子供っぽくなってしまうらしい。


「それでは、緋遊君。はじめまして。私は遊那。遊鬼様の下についている座敷童子の統括責任者をしています。そして、これから御屋敷で暮らす貴方の世話係になります。これからよろしくね。」

「うん!ぼくはね、緋遊っていうの!ゆうなねえちゃん、よろしくね!」

「えぇ。よろしく。」


二人が話すところを傍から見ると、元気な弟としっかり者の姉に見え、まるで本物の姉弟のようだ。


「それじゃ、挨拶も済んだようだし、お前たちは先に屋敷に戻ってな。緋遊にする諸々の説明は後で私がするよ。」

「わかりました、御館様。」

「んじゃ、扉をつなげるよ。」


そこら辺の建物の中から一つ選び、扉を開けると、中には至って普通の内装が見えた。そして、一度扉を閉じ、もう一度開けると、そこには先ほどとは違う内装が広がっていた。


「あ、御館様だー!」

「ホントだ、ホントだ!御館様だ!」

「どうしたの〜?」


建物の中からは大勢の妖怪が顔を覗かせており、皆がわいわいと騒いでいた。


「後で詳しく説明するけど、もと餓鬼の座敷童子が新人として入るから、仲良くしてやってね。あと、歓迎会準備もお願いするよ。」

「うん、わかった!」

「仲良くするよ〜!」

「座敷童子だってー!」


きゃっきゃと嬉しそうに騒ぐ者もいれば、興味津々といった様子の者もおり、逆に少し心配そうにするものもいた。


「では、御館様。先に失礼致します。」

「うん。緋遊をよろしくね、遊那。また後でね、緋遊。」

「はい。」

「うん!またね、ゆうねぇちゃん!」


二人が屋敷の中へ入ると、緋遊は手を振り、その後ろで遊那は礼をし、扉が閉まった。扉をもう一度開けると、その中は最初の状態に戻っていた。


「―鴉。」

「カァ」


空に向かって呼ぶと、翼に伝達用鴉特有の黒以外の羽が生えた一羽の鴉が私の腕に止まった。


「鴉。報告をするから、本部に繋いで。」

「カァア」


腕にとまった鴉が一鳴きすると、黒い目がぐるんと回り、本部と書かれた紅い目に変わった。なんでも、伝達用鴉は雛の頃から呪力の込められた餌を食べて育てられる故、個体によって異なる呪力を帯びるらしい。通信をできるのはその呪力を利用して通信回路をつなげるからなんだとか。ちなみに、目や羽が黒以外の色になるのはその影響だそうで、呪力は個体によって異なる故、色も個体によって異なるようだ。


「こちら遊彼。聞こえるか?」

『こちら本部。聞こえている。』

遊郭街(ゆうかくがい)八丁目(はっちょうめ)桃花屋前(とうかやまえ)にて出現した餓鬼の対処が済んだ。交渉の結果、友好的ではないと判断し、餓鬼の試料は足りているため、討伐へ移行。討伐に移行後、討伐完了した。周囲への損害はなし。怪我人も出ていない。」

『了解。報告の為、本部に戻られよ。』

「了解。」


通信を終えると鴉の目がもう一度ぐるんと回り、元の黒い目へと戻った。


「お疲れ。行っていいよ。」

「カァ」


カラスの頭を撫で、一鳴きすると、紅い羽の混じった黒い翼を広げ、遠くへと飛び去って行った。


「それじゃあ、"遊彼"として報告に行きますか。」

どうも、古瑠璃です。遊妖骸記、第2話を読んでくださりありがとうございます。物語の設定を考えるのがとても楽しく、ついついたくさん書いてしまいました。


次回も、よろしくお願いします。

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