神造兵器と交信せよ
カイが退却した後、アルは戦場に残った静けさの中で立ち尽くしていた。周囲に残されたのは、破壊された廃材と、倒れた兵士たちの残骸。アルは息を呑んで、その光景を見下ろす。
「本当に、どうしてこんなことに……」
心の中で、カイの言葉が繰り返される。『俺が倒すべき敵は、もうお前ではない』。その言葉の意味は、アルにはまだ理解できなかった。しかし、確実に言えることは、カイが自分を倒すために戦っていたわけではないということだった。
「どうして、お前はこんなに迷っているんだ、カイ……?」
その時、リリスがアルの肩にそっと手を置いた。彼女の温かい手のひらが、アルの心を少しだけ落ち着かせる。
「アル、無理に答えを出さなくてもいい。今は、目の前のことに集中して」
リリスの言葉は優しく、そして強かった。彼女の瞳は、アルを見つめながら、彼が抱える苦しみを理解しているように感じられた。
「そうだな……リリス」
アルは頷き、再び前を向く。戦いの後には、まだ解決しなければならないことが山積みだった。そして、何よりも急がなければならないのは、あの「神兵」と呼ばれる存在との邂逅だった。
アルとリリスは、廃墟の中で見つけた隠し扉を開け、地下へと降りていった。そこは、古代の遺跡が眠る場所だった。神殿のような装飾が施された石壁が、異世界のものとは思えぬ程に精巧に作られている。
「これが……神兵が眠る場所だというのか?」
アルが呟くと、リリスが頷く。
「うん。ここに眠っているのは、かつての神造兵器。でも、それを目覚めさせるには、ただの力じゃ無理なんだ」
アルは少し考え、そして決意を固めるように頷いた。
「だったら、やってみるしかない」
彼は手を差し伸べ、周囲の廃材を引き寄せて、新たな錬金術を施す。壁に刻まれた古代文字を解析し、魔力が流れるように再構成する。
「再構成――」
その瞬間、地下の遺跡が震え始め、石壁がゆっくりと崩れ落ちる。内部に隠されていた巨大な装置が姿を現し、その形状はまるで人型の機械兵器のようだった。金属の骨組みに、青白い光が点滅している。
「これは……!」
アルはその異様な光景を見つめ、息を呑む。その兵器は、間違いなく「神兵」と呼ばれる存在だった。
「目覚めた……!」
リリスが驚きの声を上げると、神兵の目が淡い光を放ちながら、ゆっくりと動き出す。アルはその様子を見守りながら、自分の手のひらを掲げ、神兵に向かって呼びかける。
「お前の名前は……?」
しかし、神兵は答えなかった。ただ、静かに目を合わせるだけで、何も語ろうとしない。
「もしかして……意思がないのか?」
アルが少し困惑していると、リリスが声を上げた。
「アル、待って。神兵が反応する時、それは何かの『契約』の時。」
「契約……?」
アルはその言葉に戸惑いながらも、リリスの言う通りに神兵に向けてもう一度手を伸ばす。すると、神兵の目から再び光が放たれ、アルの手に青白いエネルギーが吸い寄せられていく。
「これは……!」
アルの身体に異能が反応し、何かがつながる感覚が訪れる。神兵の力が彼に流れ込み、アルはその膨大なエネルギーを制御するために必死に抵抗する。
「これが……契約?」
リリスの声が響く。
「そう。これで、あなたと神兵は『契約』を結んだことになる。今、あなたの錬金術は、この神兵の力を引き出すことができるようになった」
アルはその言葉を噛み締めるようにして、神兵を見つめる。これで、彼には新たな力が手に入った。しかし、それが一体どれほどの力なのか、どのように使うべきなのか、アルにはまだ分からなかった。
「でも、これがどう戦局に影響するかは、まだわからない」
リリスがそう言うと、アルは静かに頷く。
「そうだな。でも、今はこれを使って前に進むしかない」
アルの言葉に、リリスは微笑みながら、彼の肩を軽く叩いた。
「じゃあ、次はその力をどう使うかだね」
アルは力強く頷く。新たな力を手に入れた彼が、次に目指すべきものは、ただ一つだった。