裏切りの英雄たち
アルとカイの激しい戦いは、瞬く間に広場を埋め尽くした。異能者部隊の兵士たちは、その圧倒的な戦闘力に驚きながらも、彼らの戦いに巻き込まれまいと一歩引いて見守る。
カイが放つ崩滅雷撃(デストル=ボルト)は、空間そのものを歪め、周囲の風景を一瞬で消し去ってしまうほどの威力を持っていた。その雷撃がアルに向かって放たれると、アルは急いで廃材を引き寄せ、まるで生き物のように武器を錬成して防御を固める。
「くっ!」
アルの体は、その衝撃で後方に吹き飛ばされた。強力な雷撃は、アルが作り上げた防御を貫き、彼の体を貫こうとする。
だが、アルはその瞬間に目を閉じ、すべての力を集中させる。周囲の物質を再構成し、その破壊力を吸収し、反転させるのだ。
「再構成……!」
声が響き、アルの周囲の廃材が一斉に動き出し、アルの体を守る盾を形成する。それは、まるで巨大な鋼の壁のように、雷撃をすべて吸収していった。
「お前の力も、そんなものか?」
カイの冷たい声が響く。彼はアルの防御が成功したのを見て、冷静にさらに力を込めた。空間が歪み、次の雷撃が放たれる。
だが、アルはその雷撃に対して反応するよりも先に、次の戦術を決めていた。目の前に広がる破壊された廃材の中から、彼はさらに強力な武器を作り上げる。
「今度こそ……お前を倒す!」
アルは猛然と突進し、カイに向かって再構成した武器を振り下ろす。だが、カイは余裕の表情でその攻撃を避け、さらに攻撃を繰り出す。
「お前が、どれだけ力を振り絞ろうと、俺には勝てない」
その言葉が、アルの胸に突き刺さる。かつて親友だったカイの顔が、今や冷徹な兵士のそれに変わり果てていることに、アルは強い喪失感を感じた。
「そんなこと……」
アルは悔しさと怒りを胸に、再度武器を構える。しかし、その時、カイが不意に立ち止まり、手をかざした。
「お前、まだ気づいていないのか?」
カイの言葉に、アルは一瞬だけ動きを止めた。
「気づいていないって……」
アルが声を出すと、カイは静かに告げた。
「俺は、お前を倒しに来たわけじゃない。俺の目的は、もっと大きなものだ」
その言葉に、アルの胸に重いものがのしかかった。カイの眼差しが、まるで遠くを見るように虚ろになり、言葉が続いた。
「お前を見捨てたのは、俺の決断だ。だが、それが正しかったのか、今はわからない」
アルはその言葉に驚愕し、目の前のカイを見つめ直した。彼は、もはや無感情な兵士ではなく、何かに悩み、葛藤しているように見えた。
「カイ……?」
その呼びかけに、カイはわずかに顔をゆがめたが、すぐにその表情を抑え込む。
「お前には関係ない。だが、俺が倒すべき敵は、もうお前ではない」
その言葉と共に、カイは再び力を込め、異能者部隊に向けて命令を発した。
「撤退しろ。お前たちの任務は終わった」
その命令に、異能者部隊の兵士たちは戸惑いながらも、次々に退却を始めた。しかし、アルはその姿を見ながら、理解できない思いで胸が締めつけられるのだった。
「カイ……お前、どうしてそんなことを……?」
アルは、かつての親友の背中を見送りながら、胸の中にわだかまりを抱えていた。その背中には、もはやあの頃の笑顔も、あの頃の友情も感じられなかった。
アルの心には、言葉にできない感情が渦巻いていた。それでも、彼は一歩一歩、前に進まなければならなかった。
リリスが静かに声をかけた。
「アル……」
アルは深いため息をつきながら、ゆっくりと振り向く。
「リリス、ありがとう。だが、これからが本当の戦いだ」
そう言って、アルは力強く前を向いた。