腐都ラギル、武器売りと名を上げる
ラギルの街は、どこか歪な美しさを持っていた。古びた建物がひしめき合い、煙の上がる工場の中で生まれる金属や鉱石が空気に漂う。腐敗した都市、ラギル。その名に違わぬように、街の中は常に活気に満ちているが、そこに流れる空気はどこか不穏だ。
「この街、確かに腐都って名前にぴったりだな」
アルは歩きながら、周囲を観察した。街のいたるところに腐敗と闇が蔓延している一方で、商売をしている者たちの活気も感じられる。
「でも、この街なら、うまくやれるかもしれない」
アルがそう呟いたのは、単なる勘だ。
彼とリリスは、工房を整えてから数日が経ち、ついにラギルの市場に足を踏み入れることを決めた。目的はひとつ。自分たちの作った武器や道具を売り、名を広めることだ。
「見て、あの店! 武器屋よ」
リリスが指さした先に、武器を並べた店があった。店の看板には「カスパー商会」と書かれている。
「どうする、行ってみるか?」
「うん、でも警戒しないと。ここは治安があまり良くないからね」
そう言いながらも、リリスは警戒心を隠せない様子だった。だが、アルは目を輝かせて言った。
「いや、逆に言えば、この街の混沌の中では俺たちの武器が輝くかもしれない」
アルは歩みを速め、リリスを引き寄せて、店に向かって歩き出した。
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店内は薄暗く、棚に並べられた武器はどれも古びていて、所々に錆が浮いている。店主と思しき男が、アルたちを見て、だるそうに肩をすくめた。
「おい、何だよ、お前ら。武器売りか?」
アルは自信を持って、懐から一振りの剣を取り出した。まだ形は粗削りだったが、しっかりと錬金術で強化された剣だった。
「これ、売り物だ。錬金術による特殊強化が施されている。どうだ?」
店主は一瞥すると、興味深そうに剣を受け取った。その手に感じる力強さに、目を見開く。
「これは……お前、どこでこんなものを作った?」
「俺の工房だ。もし気に入ったら、今後も供給できる」
「……供給?」
店主は一瞬考え込んだが、すぐに商売人の顔に戻った。
「分かった。持ち帰って試してみるよ。気に入ったら、取引しよう。だが、約束はできねぇ」
「了解だ」
アルは即座に答え、もう一本、今度は大きなハンマーを取り出した。これは試作だったが、強化された金属を使っているため、かなりの破壊力を誇っていた。
「これも試してみてくれ。次の商談があれば、さらに強化してやる」
「ふむ、面白い。お前の力は、確かに面白いな」
店主は少しだけ真剣な顔をしたが、それと同時に商売人としての興奮を隠せない様子だった。
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その後、数日を経て、アルの名はラギルの街に少しずつ広まった。
「ゴミ錬金のアル」──そう呼ばれるようになったのは、アルが作る武器があまりにも独創的で、他の店では見かけないような特別な武器ばかりだったからだ。
他の武器商人たちが自分たちの商品の品質に満足している中、アルの武器は『異能者専用』という特別な価値を持ち、その性能は格段に優れていた。
そして、とうとう、リリスと一緒に街を歩いていた時、一人の冒険者がアルに声をかけてきた。
「おい、ゴミ錬金のアルか?」
その男は、どこか荒くれた様子の冒険者で、見るからに経験豊富な武闘派だった。アルは少し驚きながらも、答える。
「俺がアルだ。何か用か?」
「なかなか噂になってるじゃねぇか。お前の作った武器、評判だぜ。俺も一つ買いたいんだ」
「買うのか?」
「もちろんだ。だが、ただの取引だけじゃなくてな……俺たち、少し面白い仕事をしてるんだ。興味があれば、話を聞かせてやるよ」
その男の言葉に、アルの目が鋭く光った。
「面白い仕事、か。どういうことだ?」
「簡単に言うと依頼だ。ちょっとした冒険者仕事さ。お前の武器が必要な理由は、まぁ……それなりに理由があるってわけだ」
アルはしばらく考え込むと、リリスに軽く目配せをした。
「話を聞こう」
これが、アルとリリスにとって、初めての本格的な冒険への一歩となるのだった。




