廃墟の工房と、錬金の再誕
ラギルの廃墟に辿り着いてから、二日が過ぎた。
アルとリリスは、徐々に工房の整備を進めていた。崩れたビルの中で、アルは見つけた素材を使い、道具を作り、環境を整えた。リリスは魔法を使い、建物を修復したり、精霊との交信を試みたりと、できることを一つ一つこなしていた。
ゴミの山から取り出した金属やガラスを再利用し、無駄なく作業を進めるアル。その手のひらから次々と誕生する道具や装置は、まさに異能の力を実感させるものだった。
リリスはその様子を見守りながらも、時折アルに助言をしていた。
「この部品、少し強化してみる? こっちの方がきっと安定するわ」
「うん、それを使うと……確かに、耐久性が増しそうだ」
二人の間に、言葉だけでなく、信頼の空気も流れ始めていた。
そして、三日目。
「よし、これで準備完了だ」
アルは満足げに作業台を見渡した。目の前には、あらゆる道具や素材が整然と並び、錬金術師としての環境が整っていた。
「こんなに早く、工房を整備できるとは思わなかった」
「アルのおかげよ。私ができることは限られているけれど、少しでも力になれたなら嬉しいわ」
リリスは優しく微笑んだ。
「それにしても、この部屋。元々は何かの工場だったのかしら?」
「うーん、多分……何かを作っていた場所だったんだろうけど、今では完全に廃墟だな。ま、俺にはちょうどいい」
アルは机の上にある大きな歯車をひとつ手に取り、しばらく眺めた後、ぽつりと言った。
「こうして、この場所で、俺の力が活かせるって、すごく不思議な感じだな」
「どうして?」
「だって、異世界に来た理由なんて、ただの追放だろ? あの国では、俺の力は何も価値がないって言われて、捨てられた。それが、ここでなら何でもできる。まるで、運命が俺に再生のチャンスをくれたみたいだ」
リリスはしばらく黙っていた。彼女の瞳は、何かを思索しているようだった。
「アル……あなたが言った通り、この異世界のゴミ──無価値だと思われていたものが、今では大きな可能性を持っている。あなたの《再構成》という力こそが、その可能性を引き出す力なのよ」
「でも、それって──」
「それが、あなたの力の価値よ」
リリスはそう言って、ゆっくりとアルを見つめた。
「アル。あなたが、無能だと言われたその力こそ、未来を変える可能性を秘めている。だから──私はあなたを信じている」
アルは、リリスの言葉をじっと受け止めた。
それは、今までどこかで、欠けていた信頼という感覚を、彼に与えてくれるものだった。
「ありがとう、リリス。俺も、君を信じるよ。君の精霊魔法や力も、必ず役立つと信じてる」
その言葉に、リリスは少し驚いたように目を見開き、そしてにっこりと笑った。
「じゃあ、私も頑張るわ。あなたの力に応えられるように」
その笑顔に、アルは何か胸の奥で温かいものが込み上げるのを感じた。
──さて、これからだ。
二人の新たな挑戦が、静かに始まった。
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次の日。
二人は、工房内で初めて本格的な錬成を行った。
アルは集めた廃材を使い、まずは簡単な武器を作ることにした。基本的な設計は、彼の能力である《再構成》によって成り立っていたが、重要なのは、どの部品をどのように組み合わせるかというアイデアだ。
「これで、魔物の狩りができるようになる」
アルは、新たに作り出した一振りの剣を手に取り、リリスに見せた。
その刃は鋭く、ただの金属の塊から錬金によって生まれたとは思えないほど美しい輝きを放っていた。
「すごい……これはまるで、精巧な工芸品みたい」
「いや、まだ完成形じゃない。今は基礎的な部分を作っただけだ。これから、この剣にさらに強化の手を加える」
アルはさらに錬金術を加えて、剣を細かく調整していく。手元からは、次々に新たな武器や道具が生まれていく。
「これが再構成の力か」
リリスは、ただただ感心するばかりだった。
それから数日、二人は順調に錬金術の技術を磨き、さらに強力な武器を作り上げていった。廃墟の工房には、どんどん新たな装置や武具が並べられていき、アルの力を実感する瞬間が続いた。
「次は、どんな武器を作ろうかな」
アルは目の前のスクラップを眺めながら、ふと心の中で決めた。
──俺の力が、この世界を変えるんだ。
そして、彼は新たな挑戦のために一歩を踏み出した。