最初の武器、スクラップソード
「アル、その剣……」
リリスは、崩れた魔物の残骸と、アルの手にある武器を交互に見つめていた。まるで、それがこの世界の常識を超える存在であるかのように。
──いや、それは事実だった。
「ただのスクラップを組み合わせただけなのに……」
アル自身、信じられなかった。
廃材、折れた刃、壊れた機械──そのどれもが、錬金術を通して融合したとき、何かが反応した。
剣の柄に刻まれていた、謎の紋章。
そして、刃の内部に眠る『青白いエネルギーコア』
明らかに、ただの鉄くずではなかった。
「リリス。君、この文様……知ってる?」
剣を差し出すと、リリスは驚いたように目を見開いた。
「これ……古代機構式よ。かつて存在した《原初の機文明》の遺産。今はほとんど残っていないはずだけど……まさか、こんなところに……」
「原初の……?」
「ええ。伝承によれば、今よりもはるかに高度な文明が存在していた時代。精霊とも人とも違う、機構神と呼ばれる存在たちが世界を動かしていたって……」
アルは剣を見つめ直す。
たしかに、普通の金属ではない。
質感、重さ、反応──すべてが異質だった。
「この世界のゴミ……本当に、すごいな」
異世界の廃材には、眠っていた技術と力がある。
地球では、無能とされた彼の異能は、ここでは──可能性そのものだ。
「俺の《再構成》は、ただの変換じゃない。構造と性質を読み取り、再配置する。つまり──過去の技術だって、蘇らせられる」
それはまさに、蘇る錬金術。
世界が捨てた遺産を、再び形にする力。
「なら……もう、無能なんて言わせない」
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その夜。
二人は廃材の影に身を寄せて、簡易な焚き火を囲っていた。
リリスの体調は回復していたが、まだ魔力の流れは不安定だった。
「ねえ、アル。これからどうするの?」
「そうだな……まずは、拠点が必要だ。安定して錬成できる場所と、素材の保管庫。それに──君の回復にも静かな場所が必要だ」
「うん……」
リリスは頷き、視線を遠くに向けた。
「このゴミ山を越えた先に、廃墟都市があるわ。ラギルっていう、かつての交易拠点。でも今は、盗賊と魔物の巣になってるって噂」
「……そこに、行ってみよう」
「えっ?」
「このスクラップソードみたいな素材が、まだあるかもしれない。いや、絶対ある。行くしかないだろ」
その目は、過去を振り払うように、真っ直ぐだった。
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翌日、二人はゴミ山を越え、廃墟都市ラギルの手前までやって来た。
そこは、想像以上に荒れていた。
崩れた塔。風化した看板。かすかに残る、かつての文明の名残。
そして、すぐに歓迎があった。
「チッ、誰だてめぇら……よそ者か?」
金属の装甲を纏った男たちが、道を塞いでいた。
腕には、粗末な義手。背中には、魔力駆動の火炎銃。
──盗賊たち。
「リリス、下がってろ」
アルは再び、周囲の素材を見渡す。
鉄板、ネジ、ケーブル、そして──歯車。
「短時間で組めるのは……ボウガン型か。いや、狙い撃つ余裕はない。なら──爆散型!」
構築開始──《再構成》!!
その場で一気に錬成を開始。
手の中に、小さな金属球が複数現れる。
「手榴弾……か!? こんな短時間で!?」
盗賊たちが驚く間に──
「警告はした。……投擲!」
アルが球を投げつけると、地面が爆ぜ、衝撃波が周囲に広がる!
盗賊たちは混乱し、煙に包まれて視界を失う。
「リリス、今だ!」
「わかった!」
二人はその隙に建物の裏手へと回り込み、息を潜める。
「すごい……あの爆弾も、スクラップから作ったの?」
「ああ。昔、読んだ資料に似た構造があってな。……想像力と素材さえあれば、何でも作れる」
何でも作れる。
それは、最強の力だ。
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盗賊の包囲を抜け、二人はようやく廃ビルの一つへ辿り着いた。
「ここ……悪くないな」
防御性、内部スペース、周囲の素材──すべて及第点。
「ここを、工房にしよう。異世界のゴミを、俺の力で武器に変えるために」
「……うん。私も手伝う。魔力が戻れば、精霊たちの声も聞けるようになる」
「頼りにしてるよ、リリス」
視線が交差する。
共に捨てられた者同士が、同じ場所に立った瞬間だった。
──かつて、無価値とされた者たちが。
今、世界を変える始まりとなる。