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ゴミ山の中の少女

──その日、世界は音を取り戻した。


 風がざわめき、廃墟の鉄骨が軋み、瓦礫の隙間から弱々しい吐息が漏れる。


「……ありがとう、って言ったよな。君」


 アル=グレンベルクは、目を細めて少女の顔を見つめた。


 淡い月光に照らされたその瞳は、青紫色に揺れている。半ば意識を手放しながら、それでも確かに、彼女は微笑んでいた。


 命を繋ぐために錬成したポーション。それが確かに、彼女の命を救った。


「……よかった」


 初めてだった。

 自分の力で、誰かを救えたのは。


 地球では──無能と笑われた異能《再構成リコンストラクト


 だけどこの世界では──必要とされた。


「……こんな感覚、初めてだ……」


 アルは少女の体をそっと抱え、周囲のガラクタで簡易の寝床を作る。


 その夜、風は冷たかったが──アルの胸の奥には、温かな火が灯っていた。


====


 翌朝。


 陽が昇ると同時に、少女は目を覚ました。


「……っ、ここは……?」


 不安げに辺りを見回す彼女に、アルは静かに声をかけた。


「大丈夫だ。落ち着いて。君をここで見つけたんだ。瓦礫の下で、倒れてた」


「……そう、だったのね……」


 少女はゆっくりと体を起こす。痛みに顔をしかめながらも、立ち上がる意志は強かった。


「名前、聞いてもいい?」


「……リリス。リリス=アークレイン。あなたは?」


「アル=グレンベルク。異世界から来た……落ちこぼれの錬金術師さ」


「ふふ……落ちこぼれが、命を救えるわけないでしょ?」


 そんなことを、さらりと言ってのける少女──リリス。


 その笑顔はどこか儚く、それでいて──強かった。


====


 リリスは語った。


 かつて神殿の巫女として仕えていたこと。

 精霊と交信し、癒しの魔法を司る祝福者だったこと。

 だが、ある日の「魔力暴走事故」で多くを失い、神殿を追放されたこと。


「この世界も、同じ。役に立たなくなった者は、いらないって」


 彼女の言葉に、アルは黙って頷くしかなかった。


 それは、あまりに似ていたからだ。

 自分の過去と。


「でも──あなただけは違った。ゴミ山で倒れていた私を、見捨てなかった。救ってくれた」


「君を救ったのは、偶然だよ。僕は……自分の異能が、本当に使えるのか、確かめたかっただけなんだ」


「なら、私はその証明ね?」


 少し拗ねたように笑うリリス。


 アルは思わず目をそらす。


「……そ、そんなつもりじゃ」


「冗談よ。ありがとう、アル」


 その言葉を、彼は黙って受け取った。


====


 しばらくして、二人はゴミ山を探索し始めた。


「ここ、本当に全部……ゴミなのか?」


 高層ビルが崩れたような鉄骨の山。溶けかけたガラス。廃棄された機械、パーツ、電線、エネルギー炉の残骸──。


 全てが朽ちていたが、アルには違って見えた。


「いや、違う。素材だ。……どれも、まだ使える」


 異能《再構成》を発動し、鉄くずを分解。

 成分と強度を測定し──最適な形をイメージ。


 再構築──!


 ガシャン、と音を立てて、手の中に「金属製の簡易ナイフ」が現れる。


「本当に……ゴミから、道具を……!」


「僕の異能は、役に立たないって言われてた。でも、それは素材と想像力がなかっただけだ。この世界には──素材が、山ほどある」


 それは、再生の異能。変化の異能。

 世界が捨てたものに、新たな価値を与える力。


 それこそが、錬金術。


 ──だが、そのときだった。


 「ギィィィィィ……!」


 唸り声と共に、瓦礫が爆ぜた。


「っ、魔物か……!」


 飛び出してきたのは、腐食した金属の獣。

 錆びた鋼鉄の牙、燃えるような赤い眼光。


 まるでこのゴミ山に取り憑いた怨念が形になったような異形だった。


「リリス、下がってろ!」


「でも……!」


「大丈夫。ここで逃げたら、また無能に戻るだけだ」


 アルは、震える手で周囲のパーツをかき集めた。


 古びた剣の刃。折れた銃身。壊れたモーター。

 組み合わせれば──いける!


「構築開始──《再構成》!」


 閃光が迸り、錬成が始まる。

 回路が空間を走り、鉄と鉄が融合し──


 完成したのは、一振りの大剣。


 ボロボロの外装の中に、青白く光るエネルギーコア。

 そして、刃に刻まれた謎の文様。


「スクラップソード──行けるか……?」


 アルは剣を握り、迫る魔物に立ち向かう!


 ズガァンッ!!


 衝撃音と共に、刃が魔物の頭部を叩き割った。

 スパークと共に魔物は崩れ落ちる。


「倒した……? いや、あの剣……!」


 リリスが驚愕の声を上げた。


 アルが振るったその剣は、ただのスクラップではない。

 かつて存在した古代文明の兵器技術を内包していたのだ。


 アルは呆然と剣を見つめる。


「まさか、こんなものが眠ってるなんて……この世界、一体……」


 異世界のゴミには、想像もつかない価値が眠っている。


 その事実を知ったとき──アルの胸に、確かな決意が灯った。


「なら、やってやるさ。この世界のゴミ全部、俺の武器にしてやる」


 ──そして物語は、静かに動き始めた。


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