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ざまぁの作法~王子の婚約破棄の巻き添えを食った男爵令息、ざまぁの作法を説く

作者: 山田 勝

「女神様に永遠の愛を誓いますか?」


「はい」


 と俺は司祭に返事をした。俺はラルク、20歳、ベークマン男爵家の跡取りだ。


 しかし、婚約者クリュドアは顔を伏せ何も言わない。



 ガラン!


 教会の扉が開いた。礼服の若者が太陽を背に叫んだ。


【クリュドア!迎えに来た!さあ、来い!】


「ゲルト様!―――」


 俺の婚約者クリュドアは花束を抱えたまま間男の方に駆け寄りやがった。

 どこの田舎芝居だよ。



「「私達は真実の愛に目覚めました!」」

「よって、私、リンク伯爵家クリュドアは、婚約破棄をいたしますわ!」


「「「ワー!ワー!ワー!ワー!」」」


 歓声が上がり。


 パチ!パチ!パチ!パチ!


 拍手まで鳴り響く。


 さすがに、俺の両親と縁戚、友人は渋い顔をする。

 義両親となる伯爵夫妻は・・・拍手してやがる。


 確か、ゲルドって、ここ近隣一帯で力を持っているヒュブラー侯爵家の令息だっけ?



 俺は結婚式当日に婚約破棄をされたのだ。



 父上と母上は猛抗議してくれたが、伯爵家令嬢と長いこと婚約者にいられたのだからそちらも良い思いをしたからとわずかな賠償金をもらっただけだ。


 何せ。間男ゲルドは侯爵家の3か第4子、調べる気もしない。

 侯爵家と縁戚になれるのだから、伯爵夫妻は大喜びだ。


 母上は言ってくれた。


「でも、あの方、クリュドア嬢は社交界でもあまり良い噂を聞かないわ・・男関係が激しかったからこれで良かったのかも」


 父上も。


「ラルク、元々は瑕疵ある令嬢だったのをこちらに押しつけたのだ。気にする事はない」


 妹ターニャも。


「お兄様、あの女嫌いだったのです。いつも見下していたのです。私が結婚してあげるのです!」


 と言ってくれた。



「はあ、婚約破棄で良かったかもな。貧乏男爵家だから、贈り物だけでも負担だったのだがな。これも、王家が原因かな」


「滅多な事を言うな」



 実は、婚約破棄は、流行っているのだ。

 数ヶ月前に、王家で婚約破棄事件が起きた。



 王子が無茶苦茶を言って、公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と婚約をした。

 男爵令嬢は策士だな。

 だって、俺だったら、高位貴族と会話すら成り立たない。それほど、教養の差がある。



 しかし、この婚約破棄。深刻な影響を与えた。

 貴族の間で婚約破棄が流行る。



 次は庶民で流行る。

 領内を見回ると、婚約破棄をしている現場に遭遇した。村の広場だ。

 農民だ。何をやっているのだ。



「オラ!真実の愛に目覚めただ!」

「ごめんなさい。フラワさん。ハンスは貴女の事を小便臭い小娘だって言っていたわ。クスッ」

「ハンス、なぁんぜーーー!グスン、グスン!」



 うわ。明らかに、若者のハンスって野郎が年上の未亡人に騙されている。

 体でたらし込まれたな。


「おい、男爵家の名において、公平な仲裁を行う!この場を抑えろ」

「「「はい、若!」」」


 家来に命じて、ハンスと未亡人を捕らえ事情聴取をし。書類を作る。仲裁案を両家に提案する。

 フラワちゃんは被害者なのでお菓子をあげて事情を聞いて慰める。


「グスン、グスン!」

「うん。うん。辛いよな」


 仕事が忙しくなった。

 父上と母上は社交界だ。これも大事な仕事だ。

 ある日、お茶会から帰って来た母上が大慌てで報告してくれた。


「旦那様!ラルク、大変よ。都で、公爵家討伐が決まったのですって!」

「ああ、ワシも商業ギルドで聞いたぞ」


 なら、真実だ。


 私戦だろ?それとも王命?

 うちは独立した家門だが・・・最近、怪鳥便で来る行政文書はおかしなものばかりだ。


「ラルク、次期当主として判断せよ。兵を出すとしたら、お前が率いる事になるからな」



「父上、様子見だな。今は偽王命が出回っている。王太子命令っておかしな命令文書が出回っているし、朝令暮改だから近づかない方が良い」



 しかし、リンク伯爵家が共同出兵を申し出てきやがった。どの面さげてと思ったが格上なので一応赴く。


 伯爵邸に呼びつけられて慇懃無礼に言いやがる。



「まあ、君には辛い思いさせたから償いをします。王家につけば褒賞が得られます。お金を供出をする権利をあげます」

「断ります」


 何でも、ヒュブラー侯爵家のゲルドが兵を率いて王家に忠誠を誓うのだと。クリュドアは新婚旅行も兼ねて王都観光だと。

 戦利品が目的か。


 これは紳士がやることではない。可哀想だけども、せめて利権に加わる事はやめよう。



 恐らく、公爵家は四方から攻められて苦戦する。

 籠城するのなら数ヶ月と言うところか。

 いや、公爵令嬢を人質に取られたら無血開城もあり得るな。公爵は娘を溺愛しているとの噂だ。


 まあ、俺が考える事ではないわ。

 今は目先のこと、領内にはこびる婚約破棄を何とかしなければならない。



 と考えながら屋敷に戻った。


「ラルクや。私の親戚の令嬢は皆婚約者がいるわ」

「母上、心配しないで自分で探すよ」



 嫁さん問題もあった。この近辺の俺と年齢の近い令嬢は皆婚約者がいる。


 社交界に出席して、年上を狙うか。それとも、かなり年下にヌイグルミでもあげて・・・何か嫌だな。犯罪者だな。ターニャぐらいの子しかいないぞ。



「どっかに良い嫁さんいないかな。もう平民でもいいや」


 と言っていたら、メイドのソフィがビクンと反応した。


「若、どうしても、婚約のお相手がいなかったら、私、立候補しても良いですよ」


 サラッと明るく言いやがる。茶髪にポニーテール。アイスブルーに、利発そうな顔つきだ。

 ターニャ付のメイドだ。妹とは相性が良い。

 確か、領内の村長の娘で18歳、平民学校は出ている。社交は未知だが・・・



 ここは・・・頭を下げるか。と思ったが、村娘ジョークで『冗談です』と言われたら嫌なので軽く答えた。


「おう、頼むぜ。もう、伯爵令嬢とか気取った女とかはうんざりだ」


 と言ったら、ソフィはガシッと俺の頭を両腕で抱えた。


「フフフフ、若、お慕いもうしておりましたわ・・大丈夫ですわ」


 いや、クリュドアとは義務だったから、正直婚約破棄をされてほっとしていたが、

 まあ良い。良い匂いだ。


「ああ、有難う・・・グスン、グスン」


 あれ、泣いている。やっぱり、裏切られたのは想像以上に辛い事だったか。



 父上と母上とターニャに報告し、許可を求めた。

 既にターニャとは姉妹のように仲が良い。



「お兄様!ソフィを泣かしたら、絵本を読んであげないのです!」

「ほお、そうか、それは大事おおごとだな」


 しかし、父上と母上は難色を示す。


「私達は大賛成よ。でも、社交界は・・」


 母上は言葉を濁す。何となく俺でも分かる。今や俺は婚約破棄をされた男だ。評判は悪いだろう。

 それに、平民出身だったら、蔑みの目や嫌みを言う輩はダースでいるだろう。

 母上に教育をお願いするか?


「母上、ソフィに礼儀作法を教えてあげて下さい」

「ごめんなさい。最近、腰が痛くて、これを機会にマナー講師を雇いましょう」


「分かった。そうしよう」



 だが、使用人ギルドで出したが・・・思ったような人材がいない。

 行儀作法で他家に修行に出すにしても・・・最低限の知識は必要だ。


「使用人ギルド・・・いや、もう、冒険者ギルドでクエストを出そう。

 書類仕事が出来て、貴族の作法が分かる者、

 俺の手伝いと、ソフィに貴族令嬢としての教育を出来る者、給料、月銀貨三十枚以上可能・・・犯罪歴がなければ過去は問わない・・と」



 クエストを出した。冒険者ギルド、希望に満ちあふれた若者が入る面もあるが、中には、理由があって表では働けない者が登録する場合が多々ある。



 何人か来たが、断った。


 どうみても詐欺師な者。痩せたおっさんが来た。


「私は貴族のお屋敷で働いた事があります」

「役職は?」

「はい、執事です」

「なら、貸借対照表について教えて下さい。討伐した事ありますか?」


 とワケの分からない質問をしてみる。


「はい、ヒョウですね。何度か討伐したことがあります」

「はい、不採用」

「はあ?理由は?」

「理由説明したら、次の詐欺で使うでしょう。追っ払って」

「はい、若!」



 次は、どう見ても10代半ばのニキビがある人参色の髪の娘さんだ。自称22歳。


「あ~し、大きなお屋敷のお嬢様のお気に入りでレディスメイドしていたみたいな~」

「ほお、素晴らしい。ソフィ、お茶を入れてあげて」

「はい、どうぞ」

「美味しいって感じ~」


 だめだ。貴族は紅茶を飲むとき。カップの受け皿を持つ。これは生まれた時から染みついた習慣だ。


「またの機会を」

「何故!」


 皆、一月でクビになったとしても、その月の給金が目的か?

 そろそろ苦情をギルドに入れようとしたときに、女が来た。



 黒髪の腰まで伸ばし。やや細顔で、紫の瞳、魔道師との触れ込みだ。ローブを羽織っている。


「初めまして、マリーンと申します」

「どうぞ、お座り下さい」

「失礼します」


 好感が持てる。


「では、質問です。貸借対照表について教えて下さい」

「はい、資産と負債を比べて財務状況を掌握する方法ですわ」

「結構です。紅茶をどうぞ」

「有難うございます」


 カップをクルッと回して、左手で受け皿を持ち上げてカップに添えて飲む。指はカップの取っ手をつまんでいる。

 合格だ。


「是非、経歴書をみたい」


「はい、どうぞ」


 綺麗な字だ・・・思えず声が出た。


「え、16歳!」

「失礼ですが、年齢、過去不問とありましたから応募しましたの」

「いや、驚きました。その若さでこの所作」


 俺の4歳下か。どうりで三年制の貴族学園で見かけた事のない令嬢だ。

 没落貴族で学園には通えなかった感じか?


 ここで、過去を聞いてはいけない。


「是非、働いて頂きたいが条件はありますか?」


「はい、住み込みでお願いします。それと、屋外での仕事で私を使わないで頂きたいですわ」


 つまり、屋内での仕事オンリーか。


「もちろん、良いですよ」


 契約書を作成し。次の日から働いてもらった。



 いや~、彼女は頭が良い。好感が持てる。


 ソフィの教育は、まず自分から手本を見せて。


「これが一般的なお茶を飲む作法ですわ」

「はい」

「では、ソフィ様の所作を魔道水晶で記録させて頂きます」



 ソフィも頭が良いから分かっている。

 魔道水晶でソフィの所作を見せて。


「うわ。マリーン様と比べて・・・私の動きは多過ぎですわ」


 自分で欠点を見つけさせる。

 そして、改善点を言う。

 これは向上心があり頭の良い人で通じるやり方だ。


「ソフィ様、顎が動いています。それを直せば及第点ですわ。さすがメイドですわ。その他の所作は手順通りですわ。いつも見て学んでいらしたのね。後は回数です」



「はい、先生」

「私がメイド役をやりますから、毎日お茶を飲む時間を作ってくださいませ」


 何だ。彼女はメイドも出来るのか?


 他にも書類仕事は任せられるレベルだ。



 ターニャとの関係も良好だ。


 ターニャはソフィを盗られたと敵視していたが。マリーンは巻き込んでくれた。


「ターニャ様、お義姉様のお手伝いをお願いします」

「・・・フン、仕方ないのです。お義姉様のためなら」


 と言いつつ。

 一緒に教育を受ける。


 何の役にたっているか分からないが。


「二人でやると中だるみしなくて良いのです」

「そういうものか・・・実は助かる」



 順調だ。後はおかしな婚約破棄というブームがなくなれば良いのだ。


 ある日、母上がギックリ腰になった。


 父上は母上に付き添う。看病するとの事だ。


「代わりに社交界に行ってくれ」


「ああ・・」


 どうする。ソフィのお披露目はもう少し先だ。最低限の礼儀作法は学んだが。

 教養はまだまだ。


 だが、マリーンさんがつきそうと言ってくれた。しかも、メイドとしてだ。


「いいのかい?契約違反になるけど・・」

「実はソフィ様の事、好きになったのですわ・・・その友達になって頂きたいですわ」


 ・・・何か乙女だな。そういやまだ16歳だった。ソフィは快諾する。


「マリーン様。こちらからお願いするわ」

「まあ、嬉しいですわ。ウフフ」


 ウフフか。まるでどこかの令嬢のようだ。手を胸の前で組み嬉しそうにウフフフしている。


 それから、教養の猛特訓を受けた。あくまでも社交界で使いそうな言い回しや格言だ。

 まあ、失敗したら俺がとぼけて帳消しにしよう。とくだらないジョークを・・・


「ラルク様も参加して下さいませ」

「はい、マリーン先生」


 一緒に教育を受けた。




 ☆☆☆


 社交界に出席した。中立のマルド侯爵家だ。侯爵夫人は母上と仲が良い。昔、母上は夫人付のメイドだった。


 しかし、この日はリンク伯爵夫妻も招かれていた。


 マリーンさんは黒縁の伊達メガネを掛け。メイド帽を深く被り。髪を後ろにまとめていた。顔を伏せがちだ。



「ここで、紹介する。ベークマン男爵家の跡取りラルク殿とその婚約者ソフィ嬢だ」


「ラルクと申し上げます」

 俺は皆の前で右手を後ろに回し一礼する。


「ソフィでございます」


「「「オオオーーー」」」


 ソフィのカーテシーでどよめきが起こった。マリーンさんと特訓した成果だ。



 パチ!パチ!パチ!パチ!


 良かった。

 挨拶回りだ。



「おう、ラルク、良い嫁さん見つけて良かったな!」

「その節は迷惑を掛けました」

「いんや、迷惑掛けたのはあのじゃじゃ馬だろう?おう、婚約者紹介させるわ」


「初めまして、ソフィ様、私、ガング子爵家ルドの婚約者イーダと申しますわ」

「宜しくお願いしますわ」

「何でも聞いて下さいね。私は騎士爵の出身よ」



 近隣諸候との顔合わせがすんだくらいに奴らはやってきた。リンク伯爵夫妻だ。


「おや、ラルク君、君は若いのに王都での戦役に参加していないとは」

「まあ、このお嬢様、手が太いですわね。これなら洗濯も楽そうですわ。クスッ」


 さっそく、嫌みを言いやがった。ランドリーメイド、大事な仕事だが、メイドの中では下層に位置する。ソフィがメイド出身である事を卑下しているな。


 すると、ソフィはちゃんと返した。


「まあ、それはワルキエラ初代王妃殿下のようで光栄ですわ。賊討伐で疲れ果てた臣下の服を自ら手洗いされ謝意を示されたとか」


「!!まあ、そんな話、初耳だわ。不敬ですわ!」


 いや、どこの家門も誕生してから貴族なんていない。

 この国も初代王は羊飼い出身、王妃は洗濯娘出身だった。

 それは周知の事実のハズだか。ワザワザ言ったりしない。


 ただ、王妃は好んで洗濯をし、感動した臣下は忠誠を誓ったとか。

 その話はするのはOKだ。

 まだ、この国が小国で建国当初だった頃の話だ。



「あら、王国年代記に記されておりますわ。王都の高位貴族はメイドの修行もされるとか。見習いたいですわ。ウボウの過ちにならぬように日々精進ですわ」


「まあ、そうね・・・」


 伯爵夫人は知らないな。

 ウボウの過ちとはメイドの修行を命じられたウボウ家の令嬢が、洗濯が辛いと服を捨て買うを繰り返し。家が破産した話だ。



 ここで、更に俺が追い打ちを掛ける。伯爵夫妻に提案をした。


「ところで、ここ近隣一帯で、婚約破棄が流行っております。裁判、仲裁費用すら馬鹿になりません。名案を思い付きました。旅劇団に婚約破棄の劇をさせます。婚約破棄をした方が没落する。すると、素朴な農民達は感化され少しは減るでしょう」


「!!!今日は帰りますわ!」


 夫人は踵を返しスカートの裾をあげてホストに報告もせずに帰ったようだ。

 元々マルド侯爵家の社交界には馴染みがないからな。



 しかし、この俺の思いつきで言った案は採用された。


 マルド侯爵夫妻に呼ばれる。耳に入ったようだ。

 侯爵は小太りの気の良いおっさんだ。


「それは良い案だ。金は出そう。まずは吟遊詩人だ。それから下地を作って婚約破棄の劇をやらせよう。何、当事者の君が指図してくれ」


「旦那様!!」


「おや、こりゃ、失礼」


 夫人が注意してくれた。この侯爵、言いにくい事をはっきり言うが、決まってこの時は、言葉だけではなく、「よっしゃ。よっしゃ」と金を出してくれる。口だけではないのだ。



 屋敷に戻るとマリーン先生は婚約破棄の劇について興味を持った。



「あの、婚約破棄の劇の仕事、私にやらせて下さい」


「はい、お願いします」


 マリーンさんは吟遊詩人、旅芸人との調整をしてくれた。


 彼女が大筋を書いてくれる。

 それを、吟遊詩人と旅芸人がそれぞれカスタマイズしてくれる。



「マリーンさん。こりゃ、大ウケしそうですよ!勧善懲悪で単純明快、しかし・・」

「ええ、王家を出すのははばかりますから・・・どこかの貴族の家にしましょう」



 出来上がった劇は、大げさだ。馬鹿貴公子と側近達が男爵令嬢に籠絡され、真実の愛に目覚めたと悪役令嬢との婚約を破棄する。


 悪役令嬢は即日裁判に掛けられ真実の愛を邪魔したと死刑とされるところを、メイド、護衛騎士の尽力により逃げ出す事に成功した。


 実家とは連絡が取れず悪役令嬢は冒険者ギルドに身を潜める。


 後に、馬鹿貴公子の親は、悪役令嬢の家を潰して財産を奪おうと、貴公子の策に乗り。兵を挙げる。悪役令嬢はヒーローと出会い皆の助けも得て、最終的には勝利する。


 さあ、どうだ。

 報告では好評であるとの事だ。


 祝祭日に各地で行わせる。すると、領内での婚約破棄は下降の一途をたどる。



「フウ、何とかなったか?」


 婚約破棄は不誠実な行いであるとの認識が一般的になった。


 やがて、王都からも問い合わせが来た。


「是非、うちでもやらせて下さい!」


 権利はマルド侯爵家だ。もし、男爵家だったら勝手に真似をされたかもな。

 侯爵に許可をもらい。

 台本を売る。もちろん。王都での興業限定だ。地元の劇団は保護する。



 すると、風の噂が入って来た。

 何か公爵家がやや優勢らしい。

 商人から報告があがった。


「王家側の募兵が上手く行ってないらしいです。何でも婚約破棄の劇がはやってからだそうです。どうみても、王家とグリーンヒル公爵家との事ですからあの劇を見てグリーンヒル公爵家びいきの風潮が蔓延しています」


「そうか、公爵家押されているが一戦で覆る事があるからな」



 だが、ここで公爵家に組みすることはしない。

 今、ここで味方してもたいした勢力ではない。

 むしろ、王家に組みして・・・公爵家は品性方正で名高く名誉を重んじる。


 それを逆手にとって、公爵家の寄子の貴族を攻めて、見殺しにするかしないかの選択を迫らせる。もっとも、それを嫌う公爵軍は・・・って、これは紳士のする事ではないな。



「今できる事は、情報を早く掴むことだ・・・少し金を使うか」


 情報ギルドに依頼する。

 旗振り信号で、大まかな情報は教えてくれる。

 求める情報はどっちが勝ったか負けたかだ。


 公爵家が負けたのなら今のままで良い。

 公爵家が勝ったのなら素早く行動しなければならない。



 やがて、情報ギルドよりも先に狼煙で分かった。

 いや、火事だ。王都方向からここからでも分かる煙が見えた。夜は炎だ。


 王都が燃えている。という事は・・・王家の負けだ。



「マリーンさん。いや、グリーンヒル公爵令嬢マリアローズ様」


 俺は雇い人の立場であるマリーンさんに膝をつき礼をした。

 薄々分かっていた。



「やはり、バレていましたか・・・」

「ええ、隠しきれませんよ。王都に行きましょう」


「はい・・でも、しばらく時間をおいた方が・・敗残兵がウロウロしておりますわ」

「マリアローズ様のお母様は王女殿下でございます。今、王家の血筋はマリアローズ様にございます」


 時間をおくと、ワケの分からない王族が名乗りをあげるかもしれない。それにまた勢力が味方し、内戦が起きる。


 マリアローズ様が女王になるのが一番良いのだ。


 それに、混乱している時期に行くのが良い。

 時間をおくと、敗残兵が居着いて体制を整え盗賊化する。




 いろいろな手があるが、ここは正攻法で街道を行く。


 男爵家で抱える兵の半分の50人を選抜、領内で盗賊討伐に参加した事がある精鋭だ。皆、騎馬だ。



「父上、領内の事はお任せします」

「お前、マリアローズ様をよろしく頼むぞ」

「お兄様、生きて帰ってくるのです!」

「ラルク様、グスン、お待ちしておりますわ!」


 尚、俺が出発した後に、情報ギルドより公爵家勝利の連絡が来たそうだ。



 俺たちは強行軍で王都に3日で着いた。


 王都近郊で決戦が行われ・・・王都の四分の一が燃えたそうだ。いくら荒れていても兵50人いれば、手を出す者はいないだろう。と思っていたら、王都の門に入る前で


 公爵軍の警戒網に捕まった。


「誰か!」


 公爵軍の兵が槍を向け誰何すいかする。


 俺は即答した。


「ベークマン男爵家が子息ラルク!貴軍の所属を教えられたし!」


 多分、旗から公爵家だが、一応問うた。


 軍隊って不思議なもので、戦いはだまし合いだが、誰何では騙さない。


「グリーンヒル公爵軍である!用は如何に!」


「グリーンヒル公爵令嬢マリアローズ様をお届けに参った!」


「何!生きておられるのか?!」

「貴様ら、嘘をつくとどうなるか分かっているのか?!」


 どうやら、公爵家では亡くなったと伝わったらしい。


「問い合わせをされたし!・・『いえ、その必要はございませんわ』」




 マリアローズ様が騎馬から降りてきた。兵の背中に背負われ毛布で巻かれていた状態であった。兵達の前に立つ。



「「「「姫様!」」」」


 一目で識別したな。

 その後、向こうが馬車で迎えを寄越して来た。

 メイド、女騎士がマリアローズ様を囲む。



 皆、「「「グスン、グスン」」」と泣いている。感動の再会だ。


 さあ、俺たちのやることは・・・


「帰るぞ」

「若!さすがに公爵閣下に会うだけしましょうよ」

「やだよ。これからが面倒臭いのだ」


 俺は馬を走らせ領地に帰った。


 兵には休み7日間を与え金貨も配る。これで十分だろう。


 しばらくは敗残兵問題をマルド侯爵家や近隣諸候と共同で対処を考える。


 ソフィも母上の代わりに社交にでるようになった。




 敗残兵問題が片付き。王国中の貴族の当主か総領息子の集合がかかった。

 俺はソフィも連れて行く。王宮に一室が待機場所になっている。


 謁見の間に集められて、グリーンヒル公爵閣下が宣言をする。

 自らは摂政になるそうだ。マリアローズ様が成人したら即位をされる。



「新体制は、マリアローズをワルキエラ王国王太女に・・・・」


 新たな体制が示された。

 俺は領地を温存されれば御の字だ。


「ベークマン男爵ラルク殿は残られよ」


「御意にございます」


 俺だけ残された。このまま退室は出来なかったな。


 執務室で、マリアローズ様と会う。既に、ソフィもいた。

 畏れ多くもマリアローズ様と対面してお茶をしていた。


「フフフ、ソフィ様とはお友達ですもの」


「ですもの」じゃねえよ。


 公爵は天井に頭がつきそうと思えるくらいの大男であった。

 ヒゲモジャで武闘派だ。

 俺の小知恵が通じる相手ではない。




「座られよ」

「はい」


 俺はソフィの隣に座る。


 ドカッと公爵閣下はマリアローズ様の隣に座った。



「褒美を取らす。マリアローズを庇って助けたと聞いたぞ」


「いえ、畏れ多くも冒険者ギルドを通して雇いました。お給金を払い。マリアローズ様には、提示したお給金以上の働きをして頂きました・・・」


「フム、あの劇は貴殿の発案とか」


「はい、領地経営の一環でございます。民は思ったよりも感化されやすいもの。ですから教訓の劇を興業した次第です」


「うむ。あの劇は戦局に影響を与えた。何か、王宮の役職についてもらいたい」




 うわ。俺には無理だよ。それに何か手柄を立てたワケではない。

 マリアローズ様を助けたのも偶然だ。

 それで褒美をもらったら、何かなくても爵位を取り上げられるかもしれない。



「でだ。貴殿の貴族学園の成績を調べた・・・中々ユニークだな。軍学は平均50点、それ以外の教科は平均よりは上、100人中30位くらいの成績をキープ・・・」


「はい、恥ずかしい次第でございます」


 そこまで調べたのかよ。


「答案が気に入った。煙幕を使った奇襲!夜間の侵入方法・・・貴殿、ブッカー流軍術か?」


「はい、領内の冒険者から習いました。盗賊対策の一環です」



 ブッカー流、下級兵士や野戦の騎士、冒険者の間で流行した軍学だ。

 どうやって、その場を切り抜けるかに特化した戦術だ。

 小集団同士の戦闘、斥候、謀略に向いているとされる。


 盗賊のやり方にも似ているとも評される。

 児戯にも等しいと馬鹿にされる反面、学ぶ者が後を絶たない。

 実戦から得られた教訓が記されているからだ。



 公爵は髭をかきながら。



「では、マリアローズ、ソフィ殿を庭園にご案内しなさい」

「はい、お父様」


 と言いつつ。俺を王宮の奥に案内する。




 ☆☆☆




 白い壁の塔に案内された。白は夜でも目立つ色だ。これはガチで24時間監視する塔だな。

 塔の前では兵士が番をしている。ドアの前に歩哨に二人。

 その他にも気配がする。何人兵が隠れているか分からない。



 中には王族と協力した貴族たちが入っていると言う。



「でだ。こいつらの処遇をどうしたら良いのか分からないのだ・・」

「なるほど・・・それは難題ですね」


 王族を処刑したら、下剋上だ。これをしたら、少し力をつけた諸候が反乱を起しやすくなる。いや、その前に、同じ公爵家の中で実権を握った者がクーデターを起すかもしれない。


「なら、このまま閉じ込めたままにしておいたら如何ですか?」


「それがな。冥界の精霊様に誓約を設けたのだ。・・・もし、マリアローズを助けて頂いたら、敵を送るとな・・・どうしたらよい。賢者、司祭、参謀、どれも納得のいく回答を得られない」


「少し、中を拝見しても」


「おう、いいぞ」



 ・・・・・・・



 うわ。王族だ。・・・その中に、ゲルドとクリュドアがいた。

 何だ。


「カイル!私よ。私、クリュドアよ!助けて!」


 誰だよ。カイルって。俺はラルクだ。


「あのピンク髪の男爵令嬢は?」

「ああ、小ズルイのでな。奥に閉じ込めている」



 ピンク髪の部屋の前に来て、聞いてみた。


「おい、そこの元男爵令嬢、出たいか?」


「ちょっと、私は策略が上手く行かなかったから閉じ込められているのだからね。あんたなんかの愛妾にならないのだからねっ!」


 そうか、王太子殿下は戦死をされたのだっけ?


 こりゃ。女傑だな。訓練すれば宮廷工作に使えない事はない。いや、これは俺の考える事ではない。



「なら、提案します。真実はいびつです。ですから、物語で民を矯正します・・この場合・・・」



 俺は提案をした。あの婚約破棄の劇の男爵令嬢をもっと悪にする。王太子や王は騙されただけだ。全て男爵令嬢が悪く、しかも頭お花畑にする。この矛盾は男爵令嬢は異世界の精霊に乗っ取られた事にしてもよい。


少しは、元王族の罪は軽くなるだろう。


 冥界、それは地下のイメージで良いだろう。


 地下に牢獄を作り。彼らをそこに押し込める。

 過酷な環境だ。


 これで、冥界に送った事にならないか?


 もし、この待遇に文句を言わない者がいたら、マリアローズ様の女王即位の恩赦で解放しても良い。


 ざまぁの作法は民に迷惑を掛けない事だ。



 と提案したら。



 ☆☆☆王宮謁見の間


後日、文武百官の前で叙勲された。



「ベークマン男爵ラルク殿、諫言の功績により。大臣の職を与える!婚約者殿と共に王宮に住まわれよ」




「御意にございます」



 与えられた職は諫言大臣だと!その職責は政策の粗を探し報告する事だ。

 謂わば、反対意見をまとめる役でもある。


「年間金貨800枚の俸給、その他、食費・・・・尚、ベークマン男爵家にはリンク伯爵家の所領を与え新たに伯爵位に叙勲する!」


はあ、いきなり伯爵家か、これなら、ターニャに婿をとって元の男爵家を継がせれば良いか・・・


はあ?男爵令嬢ターニャ?少し、脳天気な所があるな。大丈夫か?実は男爵令嬢は良い人のバージョンの劇も作ろう。男爵令嬢への風評被害が行かないようにしなければとのんきに心配している俺がいた。






最後までお読み頂き有難うございました。

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― 新着の感想 ―
冥界の精霊様に誓約云々が出てくるまで、信仰が形式的な設定であるなら大満足でした。 しかし、信仰が王族の命左右するレベルで重要な世界観となると、 冒頭「女神様に(クリュドアへの)永遠の愛を誓いますか?…
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