6 終了
最終回です
「あー。あー。これ写ってる?」
ライブはマルスの声から始まる。既にチャットは盛り上がっており、幾つもの文字の羅列が飛び交っている。
「やあ。僕だ。悪いが今,急いでてね。前置きは無くして早速紹介しようと思う。」
チャットは急いでいるという発言に対して、原因は何かという議論や質問が飛び交っている。
「すまないが、説明している暇はない。今回紹介するのはこれだ」
マルスがカメラに写した書類の写真の欄には、何も写ってなく、ただの空いている収容室が載せられている。
「今回は資料もあるから…早速、読み上げて行こうと思う。」
そうマルスが説明すると、
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識別コード A=X=N
名前 導く者
収容難易度 simplicity →impossibility
説明
実体を持たない生命体です。特徴としては姿に関する特徴と精神汚染があります。写真や動画越しには視認できませんが、実際に見た際には視認することができます。視認した際の姿に一貫性はなく、これまでの実験から目撃した人物によって姿を変える事が確認されています。また、人間以外の生物の姿の状態でも英語で話すことがわかっています。また、食べ物を食べなくても生きているのが確認されているので、内臓などは存在してないと考えられます。また、体長などは現在確認されている中では最も小さかった事例は3㎝、最も大きかった事例では60000m程であった事が確認されています。
精神汚染について
精神汚染は導く者に対して攻撃的な態度をとると、始まります。精神汚染が始まった者にはカウンセリングなどのあらゆる治療法の効果がない事が確認されています。
収容方法
必ず1日一回ほど導く者との対話の時間を取ってください。また、それ以外の時間は部屋に設置された監視カメラでの監視を行なってください
発見場所
導く者はマリアナ海溝の調査をしている最中に、潜水艦『エレミア』に取り付けられたサーモグラフィーによって発見されました。
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「…以上が、導く者の報告書だ…今から、音声ログを流しておく。すまないが、話してる暇はないんだ。」
チャットでは、導く者にまつわる事で持ちきりで、一部の人間は考察などをしていた。その間、マルスは機材を整えると、音声を垂れ流し始めた。
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音声は低く鋭い男性の声から始まる。
「では、2 65686479。報告してください。」
「分かった。…とても怖かった…」
2 65686479がオドオドとした様子で男性の質問に答える。2 65686479の話しぶりから、とてつもない恐怖を味わった事が伝わって来る。
「…怖かった…ですか。具体的に報告してください。」
「…あぁ。奴はウツボの姿で俺の事をただ見つめていた。まるで…そうだな…動物園の中の動物になった気分だったよ。奴は俺の事を興味深そうな目で見つめていた。」
2 65686479は更にオドオドとした様子で話し続ける。そして男性が再度質問する。
「なるほど。では、会話の内容を教えてください」
「…分かった。最初は…奴の質問に俺が答えるだけだった。答える側からしたら上から目線ではあるが友好的に感じたよ。だが…」
「だが…?」
「あいつが最後にした質問から流れが変わった。奴は…確か…『最後に、何故私の住処を壊そうとするのかね?』って言ったかな」
男性は2 65686479が供述した事の内容をメモしている音が聞こえてくる。
「なるほど…貴方はその質問になんて答えましたか?」
「…人類の発展の為って言ったよ。そしたら奴は『元々は私の住処だ。』と…俺の返答が気に食わなかったみたいだな。」
男性が紙にメモを取る音が聞こえる。また、2 65686479が導く者について思い出したからか、の呼吸が荒くなっている。
「大丈夫ですか?呼吸が荒くなっているようですが…」
「…あぁ。大丈夫だ。忌々しい事を思い出してるんだ。呼吸くらい荒くなるさ。」
「話せるようでしたら話してください」
数秒間、2 65686479は沈黙した後、話し始める。
「奴に睨まれたんだ…あの眼球が頭から離れない…日本の諺には蛇に睨まれた蛙というのがある…俺が蛙なら…奴は蛇なんかじゃない…もっと恐ろしい者だ。」
「貴方は睨まれた時どのような事を感じましたか?」
「奴は『君たちを滅ぼす事など取るに足らない事だ』って俺に言い放ったが…冗談なんかじゃなく、本当の事を言ってると感じたね。何故、この組織があいつを閉じ込めてられるのか不思議でしょうがないよ。」
「……なるほど。」
男性がメモを取りながら、2 65686479の話す内容について興味深そうな声色で相槌をする。
「あくまで俺の考えだが…奴は俺たち人類が繁栄する前から存在していたんだろう…この惑星は奴の所有する豪邸だ。そりゃ…見ず知らずの奴らが家をめちゃくちゃにされたらムカつくよな。だから…俺たちは片付けなければならない。奴の事じゃない。散らかした物は片付けるのが筋だろう?奴に対抗しようとするんじゃない。元の環境に戻すんだ。今すぐ!」
「…ありがとうございました。」
『現在、2 65686479は処理されました。また、導く者の新たなる収容方法を模索しています。』
音声は無機質なアナウンスと共に終了していた。――――――――――――――
「やあ。準備ができたから、こんなに急いでいる訳を言おうと思う。」
チャット欄は画面に数分ぶりにマルスが出てきた事に対して、心配なメッセージや急いでいる理由を聞ける事への歓喜のメッセージが飛び交っていた。
「俺は…多分殺される。このシリーズの再生回数も最低100万回は再生されている。有難いことだが、触れちゃいけない物に触れたんだ。命が狙われないわけが無い。恐らく…この資料の持ち主達が雇った部隊に殺されるだろう。長ったらしく語ったが…これは夜逃げだ。しばらくは動画の投稿ができないのを謝らせてくれ。」
数秒間、マルスは沈黙した後、口を開く。
「最後に…かなり短いが音声を聞いてくれ…」
マルスがそう言うと、音声を流し始めた。
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「こちら、潜水艦アイザック。標的の位置を教えてくれ。」
「アイザック。標的はそこから600m先だ。」
「了解した。」
数十秒間、沈黙。その後、アイザックの船員が話し始める。
「……標的の情報を教えてくれ。」
「体長は推定60m、体重は推定14t」
「これが60m?どう見ても1000はあるだろ。エレミタのレーダーは壊れてたか?」
「いや、出発前の検査では以上発見できなかった。レーダーが深海の水圧程度で壊れるわけが無い。」
数秒間の沈黙が訪れる。
「メーデー!メーデー!応援を求む!魚雷が効かない!」
「了解した。アイザック。」
再度、数十秒間の沈黙が訪れる。
「…応援を取り消せ!奴に…関わっちゃダメだ…」
「一体何があった?」
「奴は俺たちを観察していた。奴にとって俺らは、俺らにとっての蟻に等しい。」
「すまないが…現在、応援の部隊を引き返させるのは不可能だ」
「く…」
アイザックからの無線が途切れて、音声は終わっていた
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「それじゃあ。そ」
マルスの言葉を遮るかの如く、突然、インターホンが鳴る。
「くそ…随分早いじゃないか。」
マルスは荷物の中から拳銃を取り出すと、画面の外へと歩いて行く。チャット欄では戸惑っているようなメッセージが飛び交っており、数秒後、銃声が鳴り響いたと同時に、特殊部隊のような人物達がマルスの家に入り込むと、ライブ配信をしている端末を撃ち抜く所で配信は終わっていた。
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マルス•セラートの家にあった資料とW∴G∴J∴は現在、我々の管理下に置かれています
追加、A=X=Nの行方は判明しておらず、現在捜索中です
ここまで読んでくれた方、ありがとうございました