5 名
大変遅れました
動画はとあるフリー素材のキャラの立ち絵が黒く縁取られた白い背景の画面に写り始まる。
「今回は諸事情により、このキャラクターの声と立ち絵を使って紹介させてもらう。」
白色の字幕と共に立ち絵の口や表情が動く。
「それじゃあ今回紹介するのは……これだ!」
デジタル化された資料の写真が画面に表示される。そこには黒く塗りつぶされた写真が写っていた
「読み上げ!…の、前に。今回は悪いが閲覧注意だ。俺が今回こんなふうに動画を撮っているのも、これが原因になってる。おそらくだが、視聴者の君達にも俺と同じ事が起きるかもしれない。以上のことを了承したうえで、続きを見てくれ。」
キャラクターの話し方から少し緊張している様な雰囲気が感じられる。
「それじゃあ読み上げ行くよ!」
フリー素材のキャラの声と共に画面は暗転する。そして資料の写真が表示される。
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識別コード 【削除済み】
名前 【削除済み】
収容難易度 不明
説明
繁民米子という日本人女性と思われる名前に関する資料である、日記、音声、写真、記事、映像、【削除済み】、繁民米子の名前に関する現象についてです。
現象について
繁民米子に関する資料を読んだ際に発生する現象です。資料を読んだ、もしくは、視認した人物には以下の事が発生するのが確認されています。
第一段階では、特にこれといった症状は確認されておらず、カウンセリングでも問題が無い事が確認されています
第二段階では、強い不安感、鬱、幻覚、幻視、幻聴、繁民米子という名に対する強い嫌悪感が確認されています。
第三段階では、【削除済み】、【削除済み】、【削除済み】、死に対する恐怖感の欠如、【削除済み】が確認されています。
これらの症状への対処法は現在、発見されてません。また、第三段階まで症状が進んだ人物は【削除済み】がある方向を見ながら、笑っている表情で死んでいるのが判明しています。
収容方法
【削除済み】
発見場所
【削除済み】の【削除済み】地方の【削除済み】県【削除済み】町の中にある【削除済み】で発見されました。
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「とりあえず報告書を読み上げたが分かることが少ない。だから、今から資料を読もうと思う。再度警告するが、ここからは視聴者にどんな事が起きるかわからない。見る気ならこのことを分かった上で見て欲しい。それじゃあ一気に読み上げいくよ。」
再度、フリー素材のキャラの声と共に画面は暗転する。そして資料の写真が表示される
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8月24日
人の記憶とは大変曖昧な物であるのを私は今、ひしひしと痛感している。脳になんらかの問題があるのだが、私にも医者にも分からない。だが、確実に問題があるのは感じる。私はもう、実の母親を思い出す事ができない。母との思い出は鮮明に思い出すが、顔の特徴を思い出せない。これは、毎日の労働によって起こった物ではないのは明らかだ。認知症の症状がまさか私に起こるとは…だが、薄れゆく記憶の中で鮮明に思い出せる物が一つある。米子だ。それを「誰?」と聞かれたら私は答えることは出来ないだろうが、私の脳は米子という人物の事を実の母よりも覚えている。顔も姿も身長も輪郭も何もかも分からない…だが、私の脳は米子という存在を焼き付けている。今日は随分と疲れた…明日は精神科にでも行こう。
8月25日
精神科医でも私の症状は分からないらしい。そして、認知症でもないらしい。となると…気になるのは私の記憶を蝕んでいる米子という存在についてだ。私の記憶は学生時代の青春の記憶すら忘れたらしい。今日、昔ながらの友達からの連絡が来てしばらくそれを誰か思い出すことができなかった。私は私の自我を形成する記憶を失いつつあるが、米子という存在は薄れず、ただ、記憶に存在し続けている。随分と疲れた。今日は寝る
8月26日
私にはもう何も分からない。私は誰だ、米子とは。いくら問おうが答えは出ない。全て忘れたが、脳が認識している米子という人物は思い出を侵食し、あどけない顔で俺を拒絶する。ただ、もう疲れた。
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レコーダーが何処かに置かれる音と共に音声が始まる
「どうした?こんな場所に呼び出して。」
「その…幾つか聞きたい事があってな。」
音声は2人の男性の声が確認できる。また、2人の男性以外にも複数の人物の声が聞こえる。
「まあ、飲み物でも頼もうや。すいませーん!」
呼び出された男性(以下、男性A)が誰かを大声で呼ぶ。
「注文していいですか?」
「はい。構いませんよ。」
「ミルクティーください。お前も頼めよ。」
「あ…あぁ。同じのを」
「ミルクティー2つで大丈夫ですか?」
「はい。お願いします」
男性Aが店員を呼ぶと、ミルクティーを注文する。そして呼びつけた男性(以下、男性B)が話し始める。
「本題を話そう。繁民米子って知ってるか?」
「…誰?お前の初恋の人?にしては名前が古臭いな。」
「かもしれないな…」
「まじ?」
「分かんない。」
会話をしてる最中に、2人が使っている席の机にコップが置かれる。男性Aのミルクティーを一口飲んだ後、コップを机に置く。
「ぶっちゃけ分かんないんだ。何もかも。ニュースに出てたかもしれないし、友達や知り合いだったりするのかもしれない。ただ…そいつの記憶がないんだ」
「ふーん。夢で見たとか?」
「分かんない。嫌、記憶がないわけじゃない。上書きされていくんだ。」
「へぇ…それってゲームのセーブデータみたいな感じ?」
「あぁ…だが、かなり…」
数秒間、静かになった後、男性Aが話す。
「かなり?」
「雑なんだ。下手なコラ画像みたいなイメージ。ただただ記憶の中の人の顔を変えただけみたいな感じ」
「そう…」
突然、音声にノイズが混じり始める。
「それ…やっぱ…こ……事だろ?………じゃ……誰……」
「待て、お前何言ってるんだ?」
「お…おい…お…って…言っ…だろ…」
「やめろ!やめろ!やめろ!」
男性Bの男性Aの言動に怯えるような音が聞こえて、音声は終わっている
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画面に『以下の写真は資料として残っている写真を再現した物です』という文字が表示される。そして画面は切り替わり、写真が表示される。
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•家族写真
映っていた4人全員の口元のみが歪んでいて、足元に白い靄がかかっている
•妊婦のエコー写真
胎内にいる胎児がこちらを見ている。右下に油性の赤色のマジックで『いる』と書かれてる。
•無数の地蔵の写真
頭の無い地蔵が地面にゴロゴロと転がっており、幾つかと地蔵には文字(解読不能)が削られて、掘り込まれている。
•鳥居の写真
鳥居のしめ縄は髪のような素材で作られており、鳥居の下にはにっこりと笑みを浮かべたまま箒を持っているスキンヘッドの女性が佇んでいる
•少女の写真
顔が渦を描くかのように変形しており、写真の裏にはボールペンで殴り書きされた様に『君、私、◀️、米子』と書かれている
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写真の紹介が終わり、フリー素材のキャラの立ち絵が黒く縁取られた白い背景の画面に写る。
「以上が、僕の持つ資料の全てだ。残りの記事、映像、それに…正体不明な資料は手に入らなかった。」
白色の字幕と共に立ち絵の口や表情が動く。
「次回は、ライブ配信をしようと思う。の8月の24日の21時だ。良ければ視聴者のみんな、見に来てくれ!それじゃあ!」
動画終わりの挨拶をすると、いつものチャンネル登録の催促の画面に映り変わり動画は終わった。