4 移動
今回の動画もいつも通りマルス•セラートが画面に向かって喋っている。だが、前回より比べて、顔色も悪くなっていた。
「やぁ。みんな。今回は前置きはカットして、早速、記録を紹介しようと思う。」
マルスは書類の束をいつも通り机の上に出し、書類を選び始める。
「うし…じゃあこれで。」
か細い声を出しながら、資料をカメラに映す。そこにはいつもとは違い写真が載っている欄には「不明」と載っていた。
「今日は体調が悪いから、機械音声で読ませてもらうよ。それじゃあ行くよ。」
マルスがそういうと、画面は切り替わり、収容されている物の紹介の画面に移り変わる。
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識別コード 64-17-5
名前 BAR『キュリオス』
収容難易度 simplicity
説明
アメリカの【削除済み】の【削除済み】地方にあったバーです。実験によってドアとその枠さえ設置すれば店内の空間に入れる事が判明しており、ドアとその枠が収容されています。
内部の空間について
ごく普通なバーで、カウンターの奥に人間と酷似した生命体(以後、64-17-5αと表記)がいる事が確認されています。店内にはクラッシックなどの音楽が常に流れて事がわかっており、何処から流れているのかは不明です
64-17-5αについて
BAR『キュリオス』のバーテンダーです。ラテン系の見た目で人間に対してとても友好的です。また、ジョークなどを話せる事も実験により判明しています。64-17-5αが提供する酒は種類によって、記憶の消失などの現象が起こる事が確認されています。64-17-5αの素性は判明しておらず、質問をしても、毎回回答が異なる為、信憑性はありません。
収容方法
常に収容室内の監視カメラを使い常に監視してください。また、ドア枠を固定している部品の点検を定期的に行ってください。
発見場所
アメリカの【削除済み】の【削除済み】地方に広まっている噂から調査が開始され発見されました。現在は周辺住民の処理は完了しています。
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マルスが画面に映るが、顔色や目元のくまも無くなっており背景も変わっている。
「やあ!今回は音声ログなどが、大量に…とまではいかないけれど手に入った!こっから流していくよ!」
マルスはカメラの画角内に様々な物を入れて見せると画面は切り替わる。
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音声はドアの開く音と共に始まる。ドアの開閉と共にジャズの音が聞こえてくる。
「いらっしゃいませ。」
64-17-5αと思われる男性の声が撮影者に声をかける。撮影者は席に座ると、通信を始める。
「あーあー。聞こえるか?」
「はい。聞こえますよ。3 69547546。何か注文してください。」
「分かった。それにしても…仕事で酒が飲めるとはな…ハハッこんなクソッタレた職場でもいい所はあるもんだね。」
「あくまでもこれは実験です。飲んだ際には体調などの報告を忘れないでください。」
「了解した。」
撮影者の3 69547546は男性と通話を行う。そして64-17-5αに話しかける。
「マンハッタンをくれ。あ、ストレートでな。」
「分かりました。少々お待ちください。」
数十秒間、ジャズの音声のみ収録される。
「なあ。あんた、面白い話はないのか?」
「面白い話ですか…少々お待ちください。」
3 69547546は64-17-5αに話を振る。64-17-5αは少し考えた後、酒を作りながら話し始める。
「では一つ…ジョークを… 『男ってのは結婚して初めて真の幸福ってやつを理解する。ただ、その時はもう手遅れだけど。』」
64-17-5α のブラックジョークと共に3 69547546の笑い声も収録されていた。
「じゃあ俺からも一個。」
3 69547546が少し深く息を吸うとジョークを64-17-5αに言い始める。
「スカイダイビングで、飛ぶ直前男は質問した。
『このパラシュートは勿論安全だよな?』
するとガイドは答えた
『もちろんです。その証拠に、故障したなどという苦情は1件も寄せられておりません。』」
3 69547546のジョークに64-17-5αは声を抑えて笑った。
「なかなか面白いですね。では、ご注文の品です。」
3 69547546は64-17-5αから出された酒を飲み出す。飲む音が収録され、それが終わると3 69547546は通信を始める。
「酒を飲んだ。今の所、特に異常はない。」
「分かりました。後は好きなタイミングで戻ってきてください。」
「分かった。もう少し居させてもらうよ。」
数秒間、3 69547546が酒を飲む音が収録された後、突然3 69547546が苦しみだす。
「聞こえるか?」
「ええ。どうしました?」
「頭が…割れそうだ…」
「分かりました。直ちに帰還してください。」
3 69547546が苦しんでいる音が録音されると、64-17-5αが話しかける。
「良ければ入り口まで肩を貸しますよ」
「ああ…頼む…」
64-17-5αは3 69547546に肩を貸すと、店外へ連れて行く。
「この人をお願いします」
64-17-5αは誰かに向けてお願いをする。その後、複数の足跡と3 69547546が呻いている声で、音声は終わっている
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「次はインタビュー記録を見ていこう!」
マルスがそういうとまた、画面が切り替わり、先程とは違う画面になる。
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「まず名前をお願いします。」
「ええ。名前は… シュルピス・ヤザルと申します。」
音声は20代ほどの若そうな男性の声から始まる。男性は64-17-5αに名前を聞く。
「分かりました。ヤザルさん。出身は?」
「ええ。ポルトガルですね。」
男性のメモに記録を書き綴る音が収録される。
「分かりました。では、あなたはいつから此処に?」
「……いつごろだっけな………」
「具体的には分かりませんか?」
「ああ。かなり前だった気がする。もしかしたら…君達が生まれる前かもしれない」
64-17-5αは軽口を交えながら、男性の質問に返答する。
「では、質問を変えましょう。あなたは何故お客様に酒を提供するのですか?」
「なぜ…ってそりゃあバーテンダーだからね。酒を出さないバーテンダーが居るかい?」
「それはそうですが…前回来店してお客さん居ますよね?」
数十秒間、64-17-5αが沈黙した後答える。
「はい。」
「一応言っておきますが、我々は貴方を問い詰める事が目的ではありません。ですから、肩の力を抜いてください。」
「分かりました。」
「よろしいですね。では、貴方が提供する酒は飲んだ際に記憶に影響が出るということ自体は知っていますか?」
「ええ。」
数秒間、男性が呼吸を整えている音が収録されている。
「では、何故提供するのですか?」
「さあ?俺にだって分からないさ。君たちと一緒。末端の奴に分かることなんてごく僅かだ。そうだろ?」
「…じゃあ貴方より身分が上の者が居るのですか?」
「さあね。」
『記録終了』
音声は無機質なアナウンスと共に終了していた。
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「さて…随分急に終わった感じがするね…」
マルスは眉を顰めながら、考え事をしているような表情をしている。数秒間、黙った後、口を開いた。
「うし!悪いけど今回の動画はこれで終わりにしようと思う。考察は……そうだね。視聴者達に任せよう!」
マルスは明るい表紙でそうカメラに向かって答える。
「動画を終わる前に、気付いた人もいると思うけど撮影場所を変えたんだ。実は前の場所だと常に誰かに見られてる気がしてね、寝れなかったんだ。しばらくはここでやらせてもらうよ。」
マルスは少しの沈黙の後、にこやかな表情を作り直しカメラに向かって手を振る。
「それじゃ!またね!」
マルスは動画終わりの挨拶をすると、いつものチャンネル登録の催促の画面に映り変わり動画は終わった。
遅れました