12.桜の木下に響く音色
前書き
私たちの日常は、一見すると平凡で変わり映えのしないものかもしれません。朝目覚めて学校や職場に向かい、決まりきったルーティンの中で一日を過ごす。けれども、その「日常」の裏側には、私たちが知らない不思議な世界が広がっているかもしれません。
本作『日常の向こう側:朝霧の神社と猫耳の友人』は、そんな日常と非日常が交わる瞬間を描いた物語です。主人公・つとむは、普通の高校生として何気ない毎日を送っていました。しかし、ある朝、怪我をした猫を助けたことをきっかけに、彼の世界は一変します。猫耳を持つ不思議な少女・みおとの出会い、そしてディスガイズという存在との関わりが、つとむの日常に新たな彩りを加えていきます。
この物語を通じて、私は読者の皆さんに「見えないものの存在」や「日常の裏に隠れた非日常」に対する新たな視点を提供したいと考えています。私たちが普段当たり前だと思っている世界の裏には、無数の秘密や冒険が潜んでいるのかもしれません。そして、その秘密に気づくことで、私たち自身の日常もまた豊かに、そして鮮やかに変わっていくでしょう。
つとむと共に、日常の向こう側に広がる未知の世界を探求する旅に出かけてみませんか?彼の物語を通じて、皆さん自身の心の中に眠る冒険心を呼び覚ますきっかけとなれば幸いです。
それでは、つとむの冒険の始まりにページをめくりましょう。
しおりは小さく頷き、顔を上げた。「分かったかも。おばあちゃんのお家に行きましょう。」彼女の声には、どこか確信めいた響きがあった。四人はしおりの祖母の家へ向かった。到着した家は、昔ながらの木造で、どこか懐かしさを感じさせる佇まいだった。「着いたけど、鍵は?」みおが尋ねると、しおりは自信たっぷりに答えた。「大丈夫です。おばあちゃんは、昔飼っていたワンちゃんのお家の中に合鍵を置いてあるって言ってたので、多分この辺りに…」そう言って、しおりは犬小屋の中に手を入れた。「ほら、ありました。」としおりが合鍵を見つけると、皆が安堵の表情を浮かべた。しおりが鍵を開け、玄関の戸が軋む音を立てて開いた。「どうぞ、お入りください。」しおりの招きに、とうかが丁寧に「お邪魔します。」と応え、四人は家の中に足を踏み入れた。家の中には、しおりの祖母の思い出がたくさん詰まっているかのような温かみが感じられた。しおりは仏壇に向かい手を合わせ、慎重に奥へと手を伸ばした。「あ!箱がありました。」仏壇の奥から見つけた小さな箱をしおりは机の上に置き、そっと蓋を開けた。中には沢山の写真や手紙が丁寧にしまわれており、その下には一枚の絵が収められていた。しおりはその絵を手に取り、じっと見つめた。「この絵…」「この絵が関係あるの?」つとむが尋ねると、しおりは絵を広げて机に置き、桜の木の下を指差した。「なぜか今まで忘れていたけど、私、小学校を卒業する時にこの木下にタイムカプセルを埋めたんです。」「卒業する記念にってこと?」みおが問いかけると、しおりは首を振った。「いや、違うと思います。何だろう、何か思い出しそうで思い出せない。」とうかが時計を見ながら提案した。「今日はもう遅いですし、明日この場所に行きましょう。」みおも頷き、「そうですね。また明日行きましょう。」と言った。こうして、その日は四人とも解散することになった。
その日の夜、朝霧の神社の事務所では、みおが一人、デスクライトの下で資料に向かっていた。「霧隠れの森の祠、鹿の女神……まだ、足りない。私は、まだ近づけないのか。」みおは呟きながら何かを書き込み、資料を机にしまい込んだ。そして、事務所の明かりを消し、扉に鍵をかけて神社を後にした。
次の日の朝、朝霧の神社にしおり以外の三人が集まった。つとむは準備してきたスコップを手に取り、「スコップは、これで大丈夫だよね。」と確認する。「そうですね、あとはしおりさんが来ればですね。」とうかが頷くと、みおも「うん、まだ時間には早いし、もうすぐ来ると思うよ。」と応えた。しばらくして、しおりが息を切らして到着した。「すいません。遅れました。」彼女の顔には、何か不安げな表情が浮かんでいた。「いえいえ、大丈夫です。早速行きましょう。」みおが元気に声をかけると、しおりは躊躇いがちに口を開いた。「その事で、少し不安なことがありまして。」「不安なこと?」つとむが怪訝そうにしおりを見ると、しおりは苦笑いを浮かべた。「でも、桜の木って言えば、この辺りだと小学校くらいなんじゃ?」と続けた。「そうなんですけど…」しおりは不安そうに呟く。「まぁ、とりあえず向かいましょう。」とうかが場を和ませるように提案し、四人はしおりの通っていた小学校へ向かった。学校の敷地内には、大きな桜の木が何本も並んでおり、見上げると枝が広がり空を覆っていた。「不安なことってもしかして…」つとむが口にすると、しおりはゆっくりと頷いた。「はい、どの桜の木の下に埋めたかは、分からなくて。」しおりは絵を広げて見比べるが、どの桜も同じように見えてしまう。みおが苦笑しながら「確かに、どの桜の木か分からない…」と呟くと、四人は途方に暮れてしまった。その時、つとむの首にかけたペンダントが突然光り出し、一本の桜の木を照らし始めた。「また光った!」つとむが驚きの声を上げた。
みおはその光に目を凝らし、「あの桜の木ってことなんじゃない!」と確信めいて叫んだ。「そうですね。ここを掘ってみましょう。」とうかもその提案に賛同し、四人は示された桜の木の根元を掘り始めた。しばらく掘り進めたところ、しおりが小さな箱を掘り当てた。「あっ!ありました。この箱です。」彼女は喜びを抑えきれない様子で箱を手に取り、みおが「よし、開けてみましょう。」と言うと、しおりはそっと箱の蓋を開いた。箱の中には、しおりが祖母から貰ったオルゴールが静かに収まっていた。とうかが興味津々に「この音色って聞けますか?」と尋ねると、しおりは頷いてオルゴールのネジを巻いた。「確か、このネジを巻けばなると思うんですけど。」しおりがネジを巻き終えると、オルゴールは静かに優しい音色を響かせた。その音は、どこか懐かしく、子守唄のように四人の心を包み込むようだった。「とても、綺麗ですね。」つとむが音色に耳を傾けながら呟いた。その音色に合わせるかのように、つとむのペンダントが再び光を放ち始めた。「今度は、何だ!?」つとむが驚きの声を上げると、四人はペンダントの光に導かれるように、何か新たな展開を予感しながらその場に立ち尽くした。音色が広がる中、彼らは次に訪れる出来事を静かに待ち受けていた。
あとがき
この物語を最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
物語を通して、主人公のつとむが日常の中に潜む非日常に出会い、新たな冒険へと踏み出す姿を描きました。彼の孤独な朝から始まり、みおやとうかとの出会いを通して変わっていく日々は、私たち自身の人生の中にも共鳴する部分があるのではないかと思います。
つとむの物語は、一見普通に見える日常が、少しの視点の違いや誰かとの出会いによって鮮やかに彩られることを教えてくれます。そして、未知の世界や不思議な出来事が彼を待ち受けているように、私たちの人生にもいつどんな瞬間に変化が訪れるか分かりません。この物語を通して、読者の皆さんにもそんな新たな発見や冒険心を感じてもらえたなら、これ以上嬉しいことはありません。
また、みおやとうか、けんたといったキャラクターたちは、つとむの成長を支えながらもそれぞれの物語を秘めています。ディスガイズという存在が何を象徴するのか、そして彼らの生きる世界にどんな秘密が隠されているのか、これからの展開で少しずつ明らかにしていきたいと考えています。
つとむが出会う日々の小さな出来事が、彼の心にどんな変化をもたらしていくのか、そして彼らがどのようにして自分たちの世界と向き合っていくのか――続く物語の中でさらに深く探求していく予定です。
最後になりますが、この物語を通じて、少しでも皆さんの日常に新たな視点や心の彩りを加えることができたのなら幸いです。これからも、つとむたちの物語を見守っていただければと思います。
ありがとうございました。




