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第五章灰かぶり姫・お出かけ 【下】

 はい、【下】の更新です。読んでいただければ幸いです。


 しょっぱなからハイテンションです。気をつけてお読みください。

「はぁーいっ!全ての乙女の美しく輝かしく眩い最強にして最高の味方っ、このアタシが参上したてまつったわよぉぉぉぉぉぉ!!」

「帰れ」

 ばぁんっと、扉の音も高らかに、シリアスな空気をぶち壊しながら入室してきた男性……女性?まぁともかくショッキングピンクな方を見た瞬間、レスト様の手元から、同時に3つほどのペーパーウェイトが飛んだ。透明、緑、薄青色…?

 硝子細工のそれを迷い無くキャッチした方は、不満そうに唇を尖らせた。

「んーもぅ、殿下のいけずぅ。アタシを呼んだのは殿下のほうでしょうっ。しかも物凄く急に!…あ、照れてる?このアタシの可憐さと美しさに、照れてトキメいて素直になれないのねっ!?もぅ、殿下ったら恥ずかしがり屋さんなんだからぁぁ!!」

 あなたが可憐かどうかはさておき、そのペーパーウェイト、結構な勢いで投げつけられましたよね?しかも顔面に3つも。それを事も無げに(しかも片手で)全部掴み取るって、どんな反射神経してるんですかカークランド殿。近衛に勧誘したいです。

 …いや。近衛隊のっとられそうだからやっぱり嫌だ。

「君と会話をしようとした僕が馬鹿だった。今すぐ出て行け眼球が腐る」

「まぁああっ!アタシはこんなに、こんっなに美しく可憐で儚げなのに失礼しちゃうわぁっ!」

 口調が明るいので全く落ち込んでるか傷ついてるようには見えませんカークランド殿。儚さに関しては影も形も見えません。むしろもうちょっとテンションを下げていただけると助かります。主に、私に向けられる殿下の殺気の余波が減る意味で。

 まぁ、可憐かどうかはともかく、今のカークランド殿は美女だ。華やかな金髪を軽く巻いて頭の上で高く結い上げ、鮮やかな紫色の目はきらっきらしている。ショッキングピンクに総レースというとんでもない衣装も、この人ならばこの上なく似合う。…ただし男性だが。限りなく男性だが。つまるところありがたみもゼロだが。

そして、凍りついた世界の中で、空気の読めない同僚が感心したように声を上げた。

「わおー。きれいだなぁ、カークランドさん」

「あら、近衛さんその2の方!お久しぶりねっ!うふふ、そーよそーよ、褒め称えていいのよ近衛さんその2の方!」

 いいですねきみは空気読めないおかげで何時も幸せで。

 拍手をするな口でもぱちぱちーどんどんぱふぱふーとか言うな決めポーズをとらないでくださいカークランド殿!というかその呼び方から察するに、あなた私の名前も絶対覚えてないですよねっ?

「ああ、そういえばさっきあなたの部下の人が、あなたを探してたわよ近衛さんその2の方?お客様がーとか何とか」

「へ?本当ですかー?来客予定ありましたっけねぇ。ああ、ではー、少し失礼しますね、レスト様」

「―――ああ。ゆっくりしてきて構わないよ」

 そして空気を凍らせたまま出て行くのですかっ?ああああ、わざとじゃないだけに腹が立つ…。

 そんな私の恨みの篭った視線に微塵も気づかず、同僚がにこやかに出て行くと、室中に先程より数段重い沈黙が落ちた。

 眉間に皺を寄せて、ショッキングピンクに一切目を向けないレスト様と、それにも負けずににっこにこしているカークランド殿。………一体私にどうしろと。

 泣いてもいいですかーいいですよねー、とか思いはじめた私の横で、レスト様が諦めたようにため息をついた。

「…とりあえず、この資料見なよ。特に右下」

「あぁらなにかしら?…って、ちょっと殿下。小麦とその加工製品の価格ならこっちで把握してる―――へーえ?」

 ひょいっと、軽い仕草でページを繰ったカークランド殿の目が、冷めた。

驚きでも怒りでも、苛立ちですらない不可思議な色が紫電の瞳をよぎり、ぞわりと肌が粟立つ。しかしその色は一瞬で掻き消え、その目に常通りの愉しげな笑みが浮かぶ。

「下がるならともかく、上がったの、値段。しかも小麦そのものの値段は上がってるのに、パン他、加工製品の値段に変化はなし、か。―――圧力ね」

「まず間違いなく、ね」

「どうやってこれを?」

「うちの近衛…さっきいただろう、オーベール・ブランが町に下りるというから、ついでだから探らせた」

「んーもぅ、アタシ以外にも頼むなんて、殿下の浮気もの」

「やめろ鳥肌が立つ」

「あはは。―――どこからの圧力とお考えかお聞きしても?」

「新興国で、うちに市場拡大したがってる奴…マルクトかオルサート、かな。ロワルの可能性もあるけど、あそこは今国主が代替わりをしたばかりで、他国にちょっかいをだしてる暇はなさそうだ」

「まぁ、その辺りでしょうね」

 レスト様は、この国の西方と北方の隣国。そして南方に浮かぶ島国の名を口にし、カークランド殿もさらりとそれに同意した。

 私も資料を拝見させていただいたが、はっきり言ってどこからその答えが弾き出されるのかはまるで解らなかった。…とゆうか、他国っ?

 国内の商人どうしの足の引っ張り合いだと思っていたが、それでは規模が全く違う。

 下手をしなくても国際問題なのに、何故にこのお二方は平然としているのか。

「どうするか…調べを進めるのに必要なら、人を貸すけど?」

「あら、ありがとうございますわ殿下。けーど、2日ほどお待ちください。アタシ個人のツテから探ってみますから」

「わかった。…って訳だから、例の“おまけ”の告発と諮問、遅らせるよ」

 話題の展開が異様に速くて付いていけない。と思っていたらまた話題が変わった。一体どんな頭の構造してるんですかお二方。

「ええー。助かりますわ。今組合を瓦解させたら収集がつかないですもの。―――それで、お話それだけ?アタシは帰ってもいいかしらぁっ?」

 組合の瓦解ってなんですかカークランド殿。あなたが言っていると本気で悪役くさいです。何やってんですか普段。…いや、正直あんまり知りたくないですけど。

 腕が立つだけの凡人には、知ってはいけない世界ってありますよねー、と思っていた私の脇で、返事も待たずに退出しようとしていた(無礼にもほどがありますカークランド殿)を放置しかけたレスト様が、ああちょっと待て、と声をかけた。

「君は超速急で消えて構わないけど、頼んでいた資料置いていけ」

「……あらやだ」

「は…?」

「置いてきちゃった。アタシったらお・茶・目っ」

「――――――今すぐ取りに帰れよ?」

 目を瞬き、てへっと可愛らしく(ただし、なんかこー無性に腹立つ感じで)舌を出したカークランド殿に向けて、もはや笑う気も失せたらしいレスト様が、物凄い無表情で言い切った。





 鏡の前で軽く髪を梳いてから、リボンの一巻を新しく切り取り作ったそれで、髪を結わえる。家事をするにしても、やっぱり髪は、結んでおかないと邪魔になる。

(オーベールさんの恋人…喜んでくれたらいいんだけど)

 真っ白なフリージアの花をそのまま持って帰ろうとする人に、さすがにそっけないかと思って、私の結んでいたリボンでこっそり結んだ人の恋人は。

 ほわほわと穏やかな男の人の笑顔が目に浮かび、私は思わず小さく笑った。

 ありがとう、と言っていた。お城につかえているから、何かあれば来て欲しいといっていたけれど、警備兵の人か何かだったのだろうか。また会う機会が、あるだろうか。

 あればいい。そしていつか、オーベールさんの恋人にも会えたら、それはきっととても楽しいだろう。

 結び終えた髪を整えて、持ってきていたお盆をもって立ち上がる。階段をおり、廊下を奥まで進んで、突き当りの部屋の扉をとん、とノックする。一拍、二拍。中々反応がない。

「兄様、お茶を持ってきたので、休憩にしませんか?」

 とんとん、と扉をノックして、今度は声をかけて返事を待つ。けれど、「うん。ありがとー、シンデレラちゃん」という、いつもの明るい返事は無かった。

「……兄様?」

 とんとん、ともう一度。間を置いて、とんとんとん、と更にもう一度。

「……………兄様、私です。入りますよ?」

 らちがあかなそうな感じがしたので、確認のために一声かけてノブを回して、兄様の部屋に入り込んだ。

「兄様?」

 遠慮がちに足を踏み入れた部屋の中、きちんと整頓されたマホガニーの事務机に、けれど兄様の姿は無かった。…珍しくうたた寝でもしているのかと思ったのだけれど。

 両手に持っていた茶器と、昼食と一緒に作っておいたココア風味のフィナンシェを机の端に下ろし、改めて部屋の左右を見下ろしても、兄様の姿はやっぱり見えない。

 兄様は、どこに出かけるにも、律儀なほどに報告をしていってくれる。…報告されても微妙に困る場所―――組合の極秘会議の場所、女性用の衣服店など―――まで言い置いてくれる兄様が、何の言葉もなく出かけた。と、いうことは、

(…お城のお仕事、かな)

 兄様は、数年前からお城の仕事を手伝っているらしい。らしい、という言葉のまま、何の仕事をしているのかは、極秘事項だということで私は知らない。兄様自身が、私にそれを知らせたくない、と思っていることが何となくでもわかるので、積極的に聞いたことも無い。何ヶ月かに1回、兄様がこうして出かけているのに気づいて、ああ、まだお仕事を続けていたのだな、と思うくらいだ。

 隠しごとの上手な兄様のお出かけに、私が毎回気づける訳はないから、本当は結構な頻度でお城に出かけているのかもしれないけれど。

(………ケガとか、してないよね。…とき、みたいに)

 ふっと心が暗いところに落ちかけて、ぶんぶんっ、と1人で頭を振った。いつものお出かけというだけだ。暗くなりすぎるのもいい加減にしないと。

「フィナンシェは、クローディア姉さまが好きだから、もう3つくらいなら食べられるよね。お茶…は、私が飲もうかな。……?」

 お茶とお菓子の対処方法について考え、お盆を持ち上げかけた私は、机の脇にのせられた資料の束をみて、思わず目をしばたいた。

「“紅の人に依頼された資料 2月18日 城へ”…?」

 真っ白な紙の上。兄様の綺麗な、けれど少し急いたような筆跡、青いインクで書かれた言葉。

 それが気になった理由は、二つ。ひとつは、「私生活は適当に、仕事はきっちり」とのスローガンを持つ兄様が、机の上に資料を放置するのが、とても珍しいことだから。そしてもうひとつは、そこに書かれた日付が、“今日”だったから。

(兄様の、忘れもの…?)

 そつのない兄様が忘れものをするなんて、酷く酷く珍しいことだ。持っていく書類を無防備に放置してあることと言い、酷く急いでいたのだろうか?それほど、急ぎの仕事でも入ったのだろうか。

届けに、行くべきだろうか。けれど、城の仕事だというのなら、重要な資料なのかもしれないし、勝手に持ち出すのはいけないかもしれない。それ以前に、兄様ならすぐに気づいて、取りに帰ってくるかもしれない。そうしたら、行き違いになることだってあり得る。でも、

(…重要な資料なら、なおさら早く)

 家から城まで、道を走って、馬車を使えば15分もかからない。迷っている暇があるのなら、届けてしまったほうがずっと早い。それに誰かの帰りを待っているのは、少し、不安だから。

 ……最後の私情が理由の大部分を占めていることは自覚しているけれど、それでも。

 万が一、兄様と入れ違ってしまったときのことを考えて、メモに城に行くむねを書いて、そのまま部屋の外に走り出る。手伝いに来てくれていた近所のおかみさんに外出を告げ、申し訳ないけれど、家を見ていて欲しいと頼むと、先ほども出かけていたのに?―――夕食の買い物のことだ―――と不思議がられて、それでも大まかな事情を話すと、快く頷いてくれた。

「それで忘れもの届けてあげるのかい?安心しな、奥様からなにかお言いつけがあったらあたしがやっておくからね」

「すみません。本当にありがとうございます」

「いいさ。お嬢さんはほんとに良い子だねぇ」

 明るく笑ってくれるおかみさんに頭を下げて、小走りに大通りに向かう。途中で、上着を着てくるべきだったかとも思ったけれど、春の早いこの国では、2月でもあまり肌寒さを感じない。

 



(何だってこんなことに…)

 城の小さな客間。それでも豪華すぎる調度品と、完璧に整えられ、私の背の丈くらいまである植え込みに囲まれた庭で、てきぱき働く庭師の人を眺めて、私は深くため息をついた。

 あれから走って到着した大通りでは、幸運なことにすぐに馬車も見つかり、馬車にゆられて城に着くことが出来た。

 この国の王城は割と大らかで、城の庭の一部は公園として開放されているし、城の中には、市民の意見を聞くための役所もつくられている。けれど、流石に事務官の方に、何の理由も無くお会いするのは無理だろうとわかっていた。番兵か警備兵の人に、レイ・カークランドの兄妹が来ていることを言伝ててもらおうと思っていたのだが…。

「あの、すみません」

「はい、何か御用で…って、あー!!!」

「えっ?」

「そのリボンの色、ブラン隊長の花束と同じ!」

「ブラン…隊長…?」

「オーベール・ブラン隊長に、乙女ピンクな色じゃない花束をすすめてくれたお嬢さんって、あなたじゃないですかっ!?」

「へ?…オーベールさんを、ご存知ですか?」

「やっぱりですかぁ!!あんまり見ないくらい綺麗なグリーンのリボンだから、印象に残ったんですよ!ありがとうございました本当にあーいう花束持ってかえってくると殿下の機嫌悪くてっ!」

「で…んか…?あの…」

「あー、来客用ですけど客間きてください客間!待っててください今隊長呼んできますからー!」

「え…」

 以上、回想終了。

 完璧にぬかった。勢いに押されて呆然としている内に椅子に座らされ、やたらハイテンションな兵士の人は、あっという間に部屋から出て行った後だった。

 とゆうか、オーベールさんのことを、隊長と呼んでいた。下の名前は聞いていなかったけれど、花束を持っていたというなら多分同じ人だろう。けど、

(オーベールさん…偉い方だったんだ…)

 通された客間は、小さめとは言え、かなり王城の奥のほうだ。そこから考えても、かなり高位の官人であることは私にもわかる。

 …失礼ながら、全くそうは見えなかった。いや、あんまりにものどかな空気をまとっているから。

 それはともかく、中々帰ってこない兵士の人に、少しじれてきた。何の用事も無いならともかく、今は兄様への届け物がある。

(勝手に出て行ったら失礼かな…。…失礼だよどう考えても)

 自分で聞いて自分で答える。とはいえそろそろ本気でまずい気がしてきた。これでは城まで急いだ意味がない。…とりあえず、庭師の方に言伝だけでも頼んで、兄様を探させてもらおう。

 繻子張りの椅子から立ち上がり、開け放たれたテラスをすり抜けて部屋を出る。青々とした下草を踏みしめ、忙しく立ち働いている庭師の方に近づいて、声をかえようとして…立ち木の切り残しに足を引っ掛けた。

「…っ…!?」

 ぐらり、と体が傾ぎ、壁のように立った植え込みに突っ込む。植え込みと顔面衝突を覚悟したけれど、…植え込みは何の抵抗もなく左右にわかれ、緑の壁をすり抜けた私は、結果地面に突っ伏した。…どうやらちょうど、植え込み用の木々の切れ目だったらしい。

 …なんとか顔はかばったけれど、掌と膝が微妙に痛い。そして何より心が痛い。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。いつから私はこんなにドジになったのか。…ほんとうにっ、

「もう消えたい…っ」

「…自殺ならよそでやってくれる?」

 呆れたように返った言葉に、反射的にばっと仰向いた。そして、目を、奪われた。

 陽光に鮮やかな赤銅色の髪。そして、目が合い、一泊置いて見開かれた意志の強そうな、…透るような紅茶色の瞳。

(きれい…)

 少し驚いたような顔をした、酷く、酷くきれいな少年が、私の目の前に立っていた。


 はい、ついに出会いました王子と主人公ー。なんかマヌケですけど、つっこんだら負けです!


 それにしても王子はよっっぽど「お姉様」(兄様)の女装が嫌いなようです。…ちなみに深い理由はありません。ただ生理的に受け付けないだけです。キモイ消えろと思ってるだけです。


 次回は王子視点でお送りすると思います。はじめて主人公の容姿描写をしなくてはいけなくなりそうです。おーまいごっと。


 あっ、お気に入り登録ありがとうございます!1万PVもありがとうございます!物凄く支えです!


 出来れば、次回もよろしくお願いします。

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