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第四章 灰かぶり姫・家庭事情

今回は予告どおり、兄様VS父様です。というか、兄様が一方的に父様いびってるだけのような気もします!まぁいいか!(投げた)


もはや、「シンデレラ?何それおいしいの?」な感じになってきてますが…。どうか読んでやってください。


【お詫び】

小説内の「お兄様」の名前が間違っていましたので、訂正させていただきました。兄の名前はレイ・カークランドです。…作者、もう阿呆すぎます。本当にすみませんでした。

そして、ご指摘くださった方、本当にありがとうございました。私信になりますが、活動報告にて返信をさせていただいていますので、よろしければご覧くださいませ。


力を入れて雑巾で床をこするたび、階段の踊り場にだけしきつめられた青色のタイルが艶をもって光る。大きな色ガラスをはめ込んだ窓から差し込む光が、穏やかで、物音一つ無い静謐な空間を染め上げた。

(ああ…至福…)

 昼食の支度を終え、階段の踊り場を磨くこの瞬間が、私にとっての毎日の癒しだ。この穏やかで静かな時間は、何にもかえがたい。

「お母様クローディアちゃんシンデレラちゃん!美しい娘兼息子兼お姉さま兼お兄様が今帰ったわよー!!」

 高らかな声と共に、ばぁん!と背後の扉が叩き開けられる音がした。――いつかドアが全壊しそうだから止めて欲しい。そしてこの瞬間、私の至福の時間は終了した。

至福をぶち破った「お姉様」は、本日も素晴らしくテンションが高い。素晴らしすぎて正直振り向きたくない。きっとショッキングなピンクの物体が視界に飛び込んでくるに決まっているのだから。知らないふり知らないふり。

「あらっ?そこにいるのは愛しいシンデレラちゃんじゃなくって!?」

 …とは言え、扉の直線状にある階段の踊り場を磨いているので、見つからない訳がない。はっきり言って無理があった。

見つかった以上無視しておくことも出来ず、出迎えなければ、と立ち上がろうとした瞬間、後ろから伸びてきた腕に抱き締められて、私の動きは止まった。長い腕が着ているのは、白地に細い紫のストライプのシャツ。…シャツ?

「…お帰りなさい。兄、様だったんですか。お仕事終わったんですか?」

「うんそう。ただいまー、シンデレラちゃん」

 肩越しに見上げた人は、口調から予想したドレス姿ではなく、「お兄様」の格好で楽しそうに笑った。裾を出したシャツの上から黒のベストを重ね、長い金髪を首の後ろで一つに括って、前髪のところどころをピンやビーズのようなもので留めている。そうしていると、もとは中性的な顔立ちなのに、間違いなく「お兄様」にしか見えない。って、

「それはともかく離してください、お兄様」

「えー?ヤダ」

 即答しやがった。

「今すぐ離さないと、雑巾とお顔が仲良しになりますが」

「うーん、それはサスガに嫌かな。俺に雑巾は似合わないし」

 そう、口ではでは言いながらも、鮮やかな菫色の目は、楽しそうに笑っている。

 ……本当に顔面に雑巾叩きつけてやろうかこの人、と、物騒な方向にすすみかけた私の手を、お兄様の大きな手のひらがひょいと掴み取った。私の手を包み込める大きくて長い指。私より体温の高い掌。

(さすが男の人。何食べるとこんなに大きくなるんだろう。荷物とか運ぶのらくそうだなぁ…)

 ぼおっとしたまま特に振り払うことなく、掴まれた手を放置すること数拍。兄様の目が不満げに細められる。

「こんなに家事ばっかりしなくていいって言ってるのに…。手、冷たいよ?」

「お母様からのお言いつけです。良いんです、私家事好きですから」

 特に階段の踊り場磨きは至福です、と続けても、微妙に不満そうな顔は変わらない。

「なんなら家事手伝いの人も雇えるよ?」

「いいんです。今のままで充分です。水も冷たくないですし」

 本当は、真冬の井戸水は流石に冷たくて、真っ赤になった手が丸見えだったけれど、ほんの少し強がってみる。それに、つらくなんてないのは本当なのだから。

 正直昔は、少なくは無い家の洗濯に追われて結構大変だったのだけれど…。今はお母様が雇ったおかみさん達のおかげで、私は楽をさせてもらっている。そして、そのおかみさん達を雇うように言ってくれたのは、「お姉様」なのだと、私は知っている。

 もっとも、本人に聞いたら「シンデレラちゃんがいい子、かつこんっっなにもカワイイから、神様もめろめろになってご褒美を降らせてくれたのよー!!サスガはアタシのマイスウィートシンデレラちゃんだわぁっ!!」とか、かっとんだことを言って誤魔化されたけれど。

 そう、このお兄様は、基本的に家族に甘いのだ。そして、その延長線上にいる私にももれなく甘い。自由奔放で、他人のことなど知らないそぶりの人だけれど、本当は常に、こちらがつらい思いをしていないかを見ている人なのだ。

 お母様がパーティーの行き過ぎで疲れきって倒れるとき、真っ先に気づくのは、いつも兄様。クローディア姉さまが朝起きれない体質なのを理解して、何時だって庇っているのも兄様。そして、私に家事をさせていることを、一番嫌がっているのも、この兄様だ。

それが嬉しくないといったら、嘘になる。嬉しいに決まっている。けれどそれは、本来私に向けられるべき優しさではない。

 お母様とクローディア姉さまにだけ、向けていればよかったものを、私にまで向けたら、兄様はきっととても疲れてしまう。

(自重…自重。甘えすぎちゃ、いけない)

 だから私は、兄の気遣いに、いつもにっこり笑ってみせる。兄様に、これ以上気遣わなくていいのだと、そう伝えるために。…ちなみに優しさとか気遣いとかいうものよりほぼ意地なのは自覚している。

「…まぁ、いいけどね。無理は禁物だよ、シンデレラちゃん」

 兄様の顔に、しょうがないな、とでもいいたげな苦笑が浮かび、くしゃりと頭を撫でられた。

 ……ひいてくれたのだ、とわかる。私はまだまだ嘘が下手で、兄様を納得させることはできなくて、それでも騙されたふりで退いてくれたのだ。

「…ありがとう。兄様…」

 意地っ張りな子どものような声でつげた感謝の言葉に、くしゃくしゃともう一度、髪がなでられた。



 ところで、どんなことにも“例外”、というものがある。どれほど整然とした公式だろうと、どんなに古くからの決まりごとだろうと、そこには必ず例外が存在する。

「ところでさ、今日のお昼はなーに?」

「ミネストローネ風リゾットの、ソフトボイルドエッグ(温泉たまご)のせです」

「わぁ、いつもどおり美味しそうだね」

「…ありがとうございます。それじゃあすぐに、お昼にしますね。先に父様にお昼届けてくるので、それが済んだらすぐ…」

 あ……。しま…った…。

「…父様、ね」

 今この瞬間、私の体感温度は間違いなく10度くらいは下がった。正確に言うと、隣のお兄様がすぅ、と目を細めた途端、周囲の気温が急激に冷めた。しかも、口元がうっすら笑っているのが威圧感を増してより怖い。

「シンデレラちゃん、お願いがあるんだけど」

「な…なんでしょうか」

「その昼食、俺が持っていってもいいかな?」

「どうしてでしょうか…?」

 本音をいうと聞きたくない。けれど聞かないととんでもない事になりそうなので聞いてみた言葉に、帰ってきたのは神々しいまでに煌く笑顔。

「ちょっと認印を押してもらいたい書類があるから、ついでにね」

 あ、意外とまともな理由…。

「それにあの人もお疲れだから。一服盛って埋め…寝かせてあげたいんだ」

 いやいやいやいやいや!この人今一服盛るって言ったっ?もっともらしい理由をつけてもダメだよだってニュアンス的に「一服盛る」はアウトだもの。毒とは毒とかしか連想できない言葉選びだもの。しかもそのあと埋めると言おうとしたこの人!

「いえいえいえ!大丈夫です平気です!私がすぐもっていって、すぐに帰ってきますから!」

「どうしたの、慌てて。遠慮しないで、ちゃんと俺が殺ってくるよ?」

 これを慌てずにいられるか。いくら冷めてる私でも、父様が毒殺の危機なのに落ち着いていられるほど強くない。というか、今「やってくる」が「殺ってくる」に聞こえたのは私の耳が悪いのか、兄様の意図が悪いのか。

「いいです本当にいいです!むしろ兄様はなんで隙あらば父様に色々飲ませようとするんですか!」

「一服盛るのは目標達成のための過程であって、最終目標は別だよ。埋めるとか焼くとか沈めるとか…他色々」

「いやぁあああ!止めてくださいぃぃ!!」

 実に楽しそうな笑顔の兄様を前に、私はめったに酷使することのない喉を全開にして、力一杯絶叫した。

 そう。何事にも例外は存在する。そして、“家族が大切”という兄様の公式の中での唯一の例外は、私の父様なのだった。



 お盆にのせたリゾットとサラダ。そしてレモンで香りをつけた水を両手に持ち、私は父様の部屋へと急いでいた。兄様の善意溢れる申し出は、不安であること山の如しだったので、結局私が食事を運び、兄様には父様を起こしてもらうことにしたのだ。…兄様はえーっ?とか言って不満そうにしていたが。

 父様は決して夜型人間ではないが、仕事に没頭すると寝食を忘れることも多く、そのため、明け方に寝て、この時間に目覚めることも少なくはない。なので、正直なところ兄様が起こしてくれるのは助かる。父様が眠っていた場合、私だと諸事情のため、扉の前で延々と「起きてくださいー」と叫び続けることになるからだ。けれど、何とはなしに不安に駆られた。具体的にはわからないが、まぁ、色々。

結果私は結構な速さで階段をのぼり、館の西端にある父様の仕事部屋兼・寝室にたどりつく。すぐに扉をノックしかけて、聞こえてきた会話に止まった。

「何するの、って、うたた寝してたみたいだから、起こして上げただけですよ?」

「レイ君はおとーさんを起こすときに、座ってた椅子を蹴り転がすの…?」

 蹴り…ころがす…。

「たまたま《わざと》、足を引っ掛けちゃったんですよ。すみません足が長くて」

「わざとと書いてたまたまと読んだよ!?酷い…泣くよ…?」

「男が泣いてもトキメケないです。まぁ、女の子の涙の価値は無限大ですが」

「女の子…おんなのこ…?っ…!レイ君まさかきみマサカキミ、うちの娘にロックオン!?きゃー!狼がでたぞー!!!」

 何ですかその話の飛びっぷりは。父様が壊れた。

「おっさんが“きゃー”とか言ってもキモチワルイですよ?俺なら可愛いですけど」

 自分で言い切った。というか、話の飛躍については指摘しないんですね、お兄様。

「いやキモイよ。正直びっくりするくらいキモイよレイ君の女装。だってオーラが男なのに服と見た目だけ女性だもの。そんな人に娘はあげません!!」

 いや、兄様も私は欲しくないと思う。

「この部屋から出てこれるようになってから言ってくださいね。どうでも良いから認可印押してもらえますか」

「おまけにうちの奥さんと長女にもスナイパー!?おーまいごーっと!!」

「スナイパーの意味は“狙撃者”であって、“狙いをつけること”じゃありませんよ?阿呆さが眩しくて素敵な限りです」

「……嫌われてる?レイ君に嫌われてる気がするのはお父さんの気のせい…?」

「そんなことより、今すぐ認印もらえまか。急ぎなので」

 流した。しかもあっさり。

「…え?だってまだ内容読んでな…」

「俺が確認済みだから何の問題もないです。あなたに判断はそもそも求めてないので、印押し機の如くぺこぺこ何も考えずに押してみましょうか?」

「お父さんしょーっく!!!」

 …お父様、いつもの事ながら、後ろ向きにテンションが高い。兄様相手だと特に。そして兄様は、父様相手だとテンションが低い。いや、テンションが低いというよりは、背後に渦巻くオーラが黒いと言ったほうがいい気がする。今もにこにこしながら酷いことを言いまくっているのは、私の気のせいだろうか。いや、気のせいではない。(反語)

 何はともあれ、このまま放置しておくと、ギスギスした談笑が永遠に続きそうなので、私は目の前の扉をノックした。

「失礼します。父様、兄様」

「あれ?早かったね」

「…ええ、と。いるのかい…?ああ、ええと、…ス…」

「はい、父様!ここに昼食を置いておきますねっ。食器は2時間ほどしたら取りに来ますから、ちゃんと食べて下さいね!」

「あ、…ああ」

 呼ばれかけた名前を遮るように、わざとらしいほど明るい声で返事をする。これは、いつものことだ。

 それ以前私はここ数ヶ月、父様の顔をまともに見ていない。父様は…きっともっと長く、私の顔を見た覚えはないだろう。あまり見たくも、ないのだと思う。最後に真っ直ぐ見合った昨年のクリスマス。父様は困ったような顔をしていた。私の顔は、父様と私を捨てて男の人と逃げた母に、そっくりだから。

(…ああ、根暗だわ、私。今日も絶好調で根暗だわ)

 わかっていても、変えられたらそれは本当の根暗ではない。本当の根暗である私は、ぶんぶんと首をふって、とりあえずその考えを頭からたたき出した。

 昼食を扉の脇の戸棚に入れて、朝食のときの食器を取り出す。そうして私は何時もどおり、すぐさま扉に背を向けて歩き出した。

「ちょっとシンデレラちゃん!待ってよ俺も行くから」

 だから、私は知らない。扉に手をかけたまま明るく私にそう言った兄様が、肩越しに父様を振り返り、残酷なほど冷めた目をしたことを。そして、吐き捨てるように放たれた言葉を。

「あなたがそんな風に逃げているから、あの子が苦しむんですよ」

 紫電の瞳に宿った怒りの苛烈さも、私は何一つ、知らなかった。


「待ってってば、シンデレラちゃん。食器俺が持つから」

「いいです…って取らないで下さい兄様」

「聞こえないな、何の話?」

「子どもっぽいことしないでくださいっ。…ちょっと、届かないとこまで持ち上げないで下さいってば、兄様!」

「ごめんね、俺って背が高くて」

「しらじらしい…っ」


 遠ざかっていく娘と息子の声を聞きながら、アベル・カークランドは自分自身の掌を拳をきつく握り締めた。

「もう…1年近く君の顔を見ていないね…」

 優しい娘が、自分を気遣ってしてくれていること。そして、その優しさに甘えたままの自分自身。何より…その優しい娘に、未だに真実を話せていないという事実。それが何よりも、つらい。

 家族も…実の娘にすらに背を向けて自室に引きこもり、顔を合わせてもふざけて誤魔化して…息子が怒るのは当然だろう。彼は、本当に優しく、強い子に育ったから。

 息子にも、娘達にも、妻となった人にも…。僕はどうして何一つしてやれないのだろう。

「…すまない。すまない……ェル…」

 ああ、そして、

「僕は君の声さえ忘れてしまったよ…シャルロッテ…」

 虚しいような色をした声が、ぽつん、と一つ、床にあたって砕けた。



はい、終了しましたー。そしてまた…しりあす…?シリアス風味…?あれ?


 …もう、兄様登場禁止令でも出そうかと思います。シリアスになるのは全部兄様のせいです。(←責任転嫁)


 えーっと、次回は「主人公に恋してる男の子!でも当て馬だよ☆っ!」の、回になると思います。どんな回でしょうね一体。


 そしてそろそろ王子出さないとだめじゃない!?と、思いはじめてます。作者が。頑張って次の次の回には出して、その次の回には主人公と出会わせられれば、と思ってます。…でも予定というか希望なので、ダメかもしれません…。


努力します!見捨てないで下さい!(これ毎回言ってる気がする…でも見捨てないで下さい…)


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