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第二十三章 灰かぶり姫・宣言

 今回スィリス視点はありません。アナマリアsideの話になります。

「答えなさいっ、オーベール、何故お兄様を裏切ったの!!」

 高く叫んだ声のまま、わたくしは強く、強く相手を睨みつけた。相手…お兄様の近衛隊の隊長の一人である、オーベール・ブランのことを。

(…なんでっ…!)

 けれど、オーベールはわたくしの声も、睨みつける目にも気付かないように、のんびりと首をかしげてみせる。

「あれー、姫さま、お顔の色がすぐれませんよー?もしかして体調が…」

「わたくしに触らないで!!」

 のびてきた手を力まかせに打ちはらうと、ぱんっと、鋭く音が響く。それでも、オーベールの顔は、困ったように眉を寄せただけだった。小さな子どもが、だだをこねるのを見守るような、穏やかな顔。変わらない、顔。

「…っわたくしはそんなことを聞いているわけではないわっ!答えなさい!オーベール、何故お前がお兄様を裏切っ…」

 そこまで口にして、可能性にいきあたる。兄様が信頼していたオーベールがここにいる。それはもしかしたら、兄様の命ではないだろうか。

「……もしかして、お前、お兄様の命でここにいるの?奴らに協力したふりをしているの?」

「―――いいえー?ちがいますよー」

 けれど、かすかな期待を込めた問いは、躊躇のない否定に打ち消される。

「わたしは、レスト様を裏切り、ロワナに情報を流し、ロワナの人間を王城に引き入れて、あなたを攫ってきましたー。わたしは、あなたとレスト様の、敵、ですよ」

 ロワナ…。ではあの王子かと、苛立ちと怒りがこみあげる一方で、ああ、ついでに近衛隊からも3人ほど引きぬきましたけどねー、そう笑う男のあっさりとした言葉に、思わず顔が歪む。

 近衛隊隊長が1人、オーベール・ブラン。直接話したことこそ少ないけれど、いつもお兄様のそばにいるから、よく見かけた。ぎゃーぎゃーと騒がしいオーベールとキーツを見ているお兄様の笑顔は、いつもの完璧なおやさしく、お強いだけではなくて、少し意地悪で、けれど、温かくて。今日はお菓子をーだとか、今日はお花をーだとか、持ってくるたびにお兄様が苦笑していたけれど、それでもお花はちゃんと飾られていて。

 そしてその横で、キーツが愚痴っぽく、きみはいつもこんななんですよね。なんでこんなにのんびりしてるんですかきみは、いい加減に人の話を聞きなさい!とか、文句を言っていて。そのくせ、たまに…もう腹立たしいほどたまに顔を見せにきたと思ったら、レスト様に怒られて怖かっただの、彼はいつもどおりぼんやりまったりしていてだの、お兄様とオーベールの話ばかりで。

 お土産なんて、お菓子以外もってきたことなかったくせに、「彼が、あなたくらいの年齢なら、お花でもいいんじゃないですかー」とか言ってきたから、と言って、ピンクのリボンのついた、無闇に巨大な花束を持ってきたりして。

 「でもあなたなら甘いお菓子のほうがいいですよね」とか子ども扱いするから腹が立って、いつもキーツのそばに居られるオーベールや、それにお兄様のことがほんの少しねたましくて。

……でも、だけど、わたくしは、わたくしは、キーツから聞くオーベールやお兄様のはなしが、ばかみたいに明るい彼らの姿が、好きだった。好きだったのにっ。

「…おに…いさまは、…キーツ…だって」

お前を、信じて、

「それに、スィリスお嬢さんが斬られたのも、わたしが彼らを引き込んだからですしねー」

「…っ…!!」

 けれど、響いた言葉に、そんな感傷は吹き飛んだ。そう、そうだ。この男が手引きをしたのなら、スィリスは、この男の…オーベールの所為で!

「…っスィリスは…っ」

「え?ああ、うーん、毒は簡単に解毒できるでしょうけどー、傷は深かったですからねー。今ごろ、死んでしまってるかもしれませんねー。おかわいそうですねー」

「よくもっ…、よくもぬけぬけとっ!」

 まるで他人事のようにのたまう男に、体中の血が沸騰するような感覚をおぼえる。こんな風に、よくも。レイの妹を、お兄様を支えてくれる人を、このわたくしの友人を傷つけておいて…!

「この…っ!」

「ああー、部屋、鍵かけますから、暴れても無駄ですよー。あぶないですから、逃げようとしないでくださいねー」

 振り上げた手は、けれど軽々とよけられて、笑うオーベールにますます苛立つ。だから、背を向けて部屋の扉に手をかけたオーベールに、叩きつけるように言い切った。

「お兄様とレイがいるのだもの、お前など…っ、お前とあの腹が立つ王子など、すぐに見つかって罰せられるのよっ!せいぜい覚悟をしておくことね!」

「なにか欲しいものがあったら、人が扉の前にいるので言ってくださいねー」

 わたくしの言葉など聞こえないように、あっさりと扉から出て行こうとした男に、わたくしは思いっきり、靴のかかとを床に叩きつけた。だんっと、きつい音が鳴り、振り返るオーベールを、まっすぐに睨みつけ、宣言する。

「わたくしは、お前を許さないわ、オーベール!」

 それに、オーベールは一瞬だけ表情を消し、そうして、ゆるやかに笑って、扉を閉めた。鍵をかける音と、遠ざかっていく靴音。それが聞こえなくなるまで立ちつくし、大きく息を吐く。

 …………スィリスの怪我は、王城の医師なら大丈夫だ。あの男は、毒はかんたんに解毒できるものだと言っていた。なら、大丈夫にきまっている。

そうしてそこではじめて、わたくしは、ゆっくりと部屋に目をめぐらせた。

 赤い薔薇。赤い壁紙。赤いカーペットに赤いタペストリ。机の上に置かれた茶器も赤と金で、ごていねいに金のスプーンにも赤い石がはめ込まれている。赤、赤、赤一色。なんて悪趣味。

どうせやったのはあのロワナの第一王子だ。理由はないけれど、この暑苦しい自信たっぷりな感じはそうにきまってる。本当に、上品で完璧なお兄様やレイとは大違い。……こんな輩に、お兄様やレイが負けるわけがない。

(不安になど、ならないわ…っ!)

 それに、


『…あれは……』


 本当に小さな声だったけれど、聞こえた。スィリスは、きっと何かに気がついて、だからこそ、わたくしを逃がそうとしたのだ。だから、スィリスが生きていれば……生きているに決まってるのだから、必ずわたくしを助けに来てくれる。

「見ていなさい。わたくしは、負けないわ」

 スィリスを馬鹿にして、あろうことか傷つけるきっかけをつくったロワナの自信満々自意識過剰王子。それに、スィリスに傷を負わせるのに協力し、お兄様と彼を裏切り、わたくしをこんなところに押し込めたオーベール。あの愚か者達のことは、たとえスィリスが許しても、このわたくしがゆるさない。死ぬほど後悔させてやる。

「ぜったいに跪かせて、頭を地面にこすりつけさせてっ、おもいっきり足を踏みつけてやるわ!!」

 わたくしの大事なものに手をだした罪、なにがなんでもつぐなわせてやる!

 高らかに宣言し、わたくしは囚われのヒロインがすべき第一の行動である「げんじょうはあく」をすべく、いきおい良く踵をかえして、部屋の確認にかかったのだった。







 ばぁああんっ、と、扉を叩き割るような音を立てて、1人の従者が部屋に転がり込んできた。確か、マルス王子殿下の命で軟禁させた、アナマリア・イエーガー姫についていたはずの従者だった。

「第一王子殿下ーーーーーーーっ!どうか、どうかお許し下さいぃいいいいいい!!」

「……何だというのだ。騒がしいぞ」

 そうお思いならせめて一瞬でも鏡から目を離して下さい王子殿下。

「あのっ…姫が…っイエーガーのっ、姫が…っ!」

「何だ、出せと騒いでいるのか、もしくは、泣き喚いて……」

「違いますっ!!……っ、いえ確かに最初は出しなさいと言っていたのですが…っ、落ち着いたら…っ」



『こんな趣味の悪い部屋にわたくしを置いておく気っ!?絨毯もタペストリもベッドも赤だなんて、センスを疑うわっ!そこのお前っ!今すぐこの趣味の悪いものを即刻わたくしの前からのけなさいっ!』

『……へ?…え、いえ、ですが……』

『ですがもなにもないわっ!いきなり連れてこられただけで無礼極まるというのに、そのうえこんな趣味の悪い部屋に押し込められたら、わたくしの目が腐ってしまってよっ。壁紙は白、タペストリは黄色と黄緑のガラシャ織、絨毯も同じガラシャ織の最高級のものを持ってきなさいっ』

『な…あ、貴女様は幽閉をされている身、きちんとわきまえて…』

『わきまえて、ですって……?』

『……え?』

『おまえ、口のききかたがなっていないようね。良いわ、そこに座りなさい』

『は…?』

『座りなさい。従者とは何たるかについて、このわたくしが、わざわざ、しっかりと教え込んでさしあげるわ』

『は……っ?』

『わ・た・く・し・は、そ・こ・に・す・わ・れ、と言っているのよ?』 

『ひぃっ!!』


(三時間後)


『いい、何よりも先に、レディが声を上げなくちゃいけない状況を作り出すことそのものが従者としての不手際なのよ、優秀な従者ともなれば……って、お前、きいていてっ!?』

『き、ききき聞いていますぅううう!』

『ひ、姫君、どうぞもう…』

『ああ、お前、いいところに来たわ。花束を買ってきなさい。オレンジのブリリアントリリーと白の胡蝶蘭を入れて、わたくしにふさわしい気品がある、可憐な、かつ華やかな花束をね』

『ちょっ……』

『なぁに?わたくしに文句を言おうというの?お前にも従者のありようを教えて…』

『めっ、滅相もありませんっ!』

『ではいきなさいな。はやくっ!』

『は…はぃいいいい!!』



「しかも買ってきた花束が気に入らないとかでその後1回目は花束が小さくてみすぼらしい、2回目は色合が下品だとか仰られて3回も買いなおしに行くことにっ!しかも今現在も午前と午後でそれぞれ1回ずつ花束(超巨大)を買いに行かされて、かつ壁紙の色から置物、花瓶の色に至るまで全面的な改造をおこなわれドレスの全面作り替えも行われておりっ、かつ暇だから踊れと孔雀踊りを踊らされておりますぅうううう!!」

 ばたばたばたばたっ、と音を立て、良く整えられた鬚を持つ頬の上を、滂沱と涙が流れ落ちていく。鼻からはとどまることなく水が垂れ、目の下にはくっきりと、タヌキ顔負けの隈がうかんでおり、目だけが充血して爛々とした光を放つ。まぁ一言でいうと……物凄い形相で、従者は王子殿下の足元にすがりついた。

 ちなみに孔雀踊りとは、熱帯地方の少数民族の踊りで、腰蓑だけを身に付けて、背中に巨大な孔雀の羽のオブジェを背負い、それをばっさばっさと揺らしながら踊り狂う一度見たら死ぬまで忘れられない悪夢的な踊りだったはずだ。

「殿下っ、でんかぁあああっ、このままではっこのままではわたくしっ、会談の終了を待たずして髪がまるっと散ってしまいまするぅううううう!!!!!」

 常に生真面目な初老の従者のあまり壊れっぷりに、いたたまれなくなって目線を逸らす。

 アナマリア・イエーガー姫。年若いながらも、“ソルフィアの黄金の薔薇”とも歌われる華やかな姫だと聞いていたのだが……そんなに物凄い性格だったのか。

 人は見かけによらない、と蒼褪める私の横で、未だエンドレスで鏡と向かい合っていた王子がそのままの姿勢で声をもらした。

「ふむ、花を愛でるとは貴族たるものの教養だな」

 食いつくところはそこですか、王子。

「しかし、イエーガーの姫も、ものを見る目はまだまだ足りぬようだな。この私直々に選び抜いた調度品で飾られた『真紅の間』の美がわからんとは…」

 いえ、私も正直あの部屋の趣味はどうかと思いましたが。一つ一つのものはいいのに濃いというかしつこいというかくどい……いや、素晴らしく個性的なのだ、と思うことにする。薔薇の匂いが濃すぎて窒息しそうな気分になったが。

「長じればわが妻として迎えてやっても思っていたのに、これはまだまだ修行をさせる必要が…」

「でんかあぁああああああああああ!!!!」

「ああ……華女神フレーラよ、今日の私も美しい……」

 涙と鼻水にまみれて絶叫する従者と、相変わらず話を聞かずに鏡に語りかける王子の会談はそのまま長々と続き、何故か私が解決に出向かなくてはならなくなったことには触れておく。

 ちなみに華女神は、ロワナで全ての花と、男女の美貌を表す女神の名だが…意味はないだろう。特に。

 ちなみに、感想としては………………あの姫、コワイ。


 ……さて、なんとか期限内に更新できたぞっと☆良かった良かった。…………じゃない!!前回は地平の彼方の如く遅れたにもかかわらず、謝罪もまともにせずに申し訳ありませんでしたぁああああああ!!おーうおうおうっ、しかも今回もぎりぎっりっ、もうっ、御免なあさいませぇぇええええ!!!そして私は悟りました。長い謝罪は単に鬱陶しいだけだと。なのでとりあえず地面に頭をめりこませながら、話の内容にうつらせていただきます。


 ……アナマリア……あのね、あなたといいスィリスといい、なんでそんなにヒロインな役割をぶち壊すのかな!?前回までならアナマリアは正に「囚われの姫君」ポジションだったのに、そういう悲劇のヒロイン的要素がどこかにいきましたよっ?宣戦布告をするな従者をいびるな人質が部屋の内装に文句をつけるんじゃない!むしろ従者が可哀想に見えてくる摩訶不思議。―――もう少し静かに囚われててくれてもいいと思うんだ……。


 ああ、単なる愚痴に…っ。いやでもね、最初はちゃんと、閉じ込められて泣き崩れるアナマリアを想定していたのですよっ?なのに何故かこんなことになりました…。


 えーと、次回は兄様、スィリス、王子それぞれに動き始める予定です。そして、作者は明日から合宿なので、多分次回更新がまた遅れますことを、ご報告させていただきます。申し訳在りませんがご了承くださいませ!


 読んでくださった方々、感想を下さった方々、お気いり登録をしてくださった方々、どうもありがとうございます!皆様のおかげで支倉は書いていられます!よろしければ、また次回も覗いてやってくださいませ。


 それでは失礼致しました!

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