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間章・とある王子様の自覚

 …………えーっと、とりあえず、……あれ、あれです、ゴッっ!!!(土下座の音)




 ああ、本当に、たまらない。堪らなく、くだらない。






「オーベール殿が…こんなの、酷い…っ。わたくし達、騙されていましたのっ」

「殿下、こんな酷いことが起こるなんて…っ。わたくしどうしたら良いのですか…っ!?」

「殿下、一刻も早く、貴奴を討つべきです」

「いや、王家の威信を汚したのだ、見つけ次第斬り捨て…」

「あの成り上がり、やはり信用ならぬと思っていたのです。どうかあれの後には我が息子を。必ずや、殿下のお役に立ちましょうぞ」

「何をもっともらしいことを…っ、殿下、我が長子こそ…」

 先程入室してきたレイ・カークランドが、公務があるからと告げても、彼等は全く出て行く気配を見せない。声高に自身が裏切られ、傷つけられたことを叫び、これ幸いと、自分の位階を上げようともくろみ、互いに互いの足を掴み、引き摺り下ろそうとする。

 瞳を伏せ、壁に半ば寄りかかったレイ・カークランドの空気が刻一刻と冷めていくのを感じる。珍しく、隠すつもりもないらしいそれに、けれど彼等は気付かないらしい。

 公務があるから出て行けと言っているのが聞こえないのかな?と言うか、君達がこうして群がっている時点で、君達が王城に、許可してもいない間諜を潜ませていたことは明らかなのにね?さて、どう首を飛ばそうかなこの不快な障害物。

「―――どうか、心をしずめていただけるかな。……僕も、まだ正直信じられないんだ…彼のことを、深く、信頼していたからね」

 内心を面に出さず、哀しげに俯いて微笑むと、群がった臣――警護担当者の血族達でもないのに――の顔が喜色に染まり、それを覆い隠すように、同情の眼差しが浮かぶ。

……ああ、本当に、たまらない。

「ああ、そうでしょうとも、殿下」

「是非、奴を我らの手で討たせて下さい、殿下」

「貴奴の首を即刻落として参りましょうぞ」

 堪らなく、くだらない。

 オ可哀ソウ、アアナンテ酷イ、コンナコトガアルナンテ「ヤツヲ殺スノデス」スグニヤツノ「首ヲ切り取ッテ」ミセマショウオカワイソウナ殿下。

 ……オカワイソウ?誰がオカワイソウだって?皇太子殿下が?それこそ、愚かだ。

皇太子レスト・ファリシアン・リュファス・アレクサンドルは、誰に裏切られようとも眉一つ動かさず、心を揺らさず、誰のことも信用しない。国主とは、王族とはそういうものだ。そう求められ、自らを形作って生きてきた。それなのに、何を、いまさら。「ヤツヲ殺スノデス」?――――――そんなことは、解って…。

 けれど、そうした思考は、響いた声に遮られた。

「出て行ってください」

 それは高く、なのに落ち着いた、酷く耳に馴染む声。振り返った先、映ったのは、森を抱いた淡い翠緑の瞳。肩口から零れ落ちるまっすぐな灰色の髪を持つ、年若い娘。敵者に背を斬り付けられえ、未だ絶対安静のはずのレイ・カークランドの妹。

(スィリス…?)

 細すぎる体をすとんとした寝巻で包み、その肩口から覗く包帯と、やけに白すぎる顔色や、そこに浮かぶ細かな汗。僅かに体を傾け、医師に体を支えられたままの体勢から、怪我のひどさは明白で。

けれど、それより見慣れなかったのは、その表情だった。強く唇を噛み締め、眉根を寄せて、顔をゆがめて、まるで、泣き出しそうな子どものような。

(…何が)

 壁に背を預けていたレイ・カークランドが、「聞いちゃったか…」、と小さく呟く声が、耳をすり抜ける。そして、スィリスはもう一度、「出て行ってください」と静かに繰り返した。

「あ、あなた何なのです、そのような身形でよくもわたくしたちの前に出れましたわねっ」

「なんと無礼な…!」

「止せ、彼女は…」

 こつん、と、高く響く硬い靴音。

「退出を」

 貴族達の非難の声、そして上げた制止の声を遮ったのは、今度は低く通る、なのにどこか艶やかな響きの声音だった。それは、今まで一言も意見を発しなかった男のもの。

「は…?」

「何を言って……?」

「退出をお願い出来ますか?」

 疑問符のついた貴族達の声に、背を壁に預けていたレイ・カークランドは、体勢を戻しながらゆっくりと言い換えた。そして、伏せられていた紫電の瞳がゆうらりと開く。

 けれど、紫色の鏡が映したのは、貴族達ではなく、部屋に控えた近衛たちだった。

「きみ達もさ、いったいなにしてるの?きみ達の主は殿下?それとも、コレ?」

 何故か酷くつらそうな顔をしたまま固まっていた近衛たちの顔が、その言葉に、電気で打たれたかのようにはっとする。瞳に、生気が宿る。

「従うべき相手と支えるべき相手を見誤るのは止しな」

「なっ……」

「酷いわっ…!」

「何を、一介の商人如きが…っ!」

「あれ?嫌だな、聞こえませんでしたか?」

 いきりたつ貴族達は、けれど声を無くす。すっと瞳を眇める、レイ・カークランドの目見だけで。

「俺は、出て行けって命じてるんだよ」

 商人が貴族にするなど許されない、捕らえられてしかるべき傲岸な命に、けれど、一斉に刃を抜いた近衛たちがその刃先を向けたのは、貴族達にだった。刃を手に、執務机を背に、皇太子を…僕を、守ろうとでもするように。

(…何を、している?)

 その内幾人かが、恐れ気もなく彼らの腕をとらえた。

「き…さまらっ…!商人如きに従うかっ!」

「我らが従うは、レスト皇太子殿下お1人のみ」

 答えたのは、いつもおどおどとした、もう1人の近衛隊長。そして彼等を引きずり出しながら、彼は僕に深く礼をした。

「……殿下、後ほど、我ら近衛一同、御前にまかしこり、お詫びをいたしたく存じます」

(…頭が、動いていない)

 状況を把握しきれず、けれどその声に無意識に頷き返し、そして、近衛の最後の1人が出て行くのを見届けて、レイ・カークランドが医師の肩を押して部屋を出て行った。うつむいたままのスィリスの頭を、くしゃりと乱すように撫でて。

 それに背を押されたように、はじめて、不安定によろめきながらも、スィリスがこちらに一歩踏み出した。

 けれど、やはりバランスが取れないのか、ふらりと揺らめいたスィリスに駆け寄り、腕を伸ばして支える。華奢な肩は、思いのほか軽い。

「…った…」

「…君。何やってるのさ?」

「……す、みませ…」

「いい。それより傷は…」

 声をかけようとして、言葉を失った。

 口元を覆うように握り締められた細い手。細かく震える肩と、震える口元。

「こん、なの…っ」

 かすれたような、湿ったような声と、……頬を伝う、透明な光のすじ。

「……何で、……君が、泣くのさ?」

 半ば呆然と問うた声に、スィリスはぶんぶんと首を振った。それにあわせて、細かな雫が空に散る。

「…っいてません…」

「どこがさ」

「…ふっ…う…」

 ぼろぼろ、ぼろぼろと、白い肌の上を、大粒の雫が伝っていく。スィリスの、涙。それは今までけして、見たことのなかったもの。

 斬られたときも、レイ・カークランドに傷つけられたときも、……レイ・カークランドの話を信じるのなら、母親に捨てられたと気付いた時にすら、泣かなかったくせに。今のスィリスは泣いていた。いつも落ち着いた顔を、子どものようにぐしゃぐしゃにして。痛み止めがきれたのか、先程より顔色が蒼褪め、肌に汗が滲んでいるのに、酷く、傷が痛むだろうに、自分の痛みではなく、僕の、…僕の?

「―――聞いていた?」

 僕を裏切ったのが、オーベールだと…僕の信頼していた人間だという事を。僕が裏切られたという、事実を。そして、「裏切り者」であるオーベールを、僕は、当然討つ…殺すべきなのだという役目を。

「…っ……だ…って」

「うん?」

「何故、あのかたがたは…っ、レストさまに…ころせ、なんて」

 レストさまが、おつらくないわけないのに。

 それは、掠れた声。ひきつれて、嗚咽に塗れて、それでも、胸が、締め付けられた。

「―――いいんだよ。解っていたことだ。一国の皇太子は、そういう立場なんだよ」

「…っうう…あ…」

 きれぎれの声に答えると、押し殺しそこねた嗚咽が、スィリスの細い肩を揺らした。

「…泣くな、スィリス」

 囁いて、伸ばした手は、半ば無意識だった。

 引き寄せた肩が、思っていたよりもずっと細かった。ほとんど変わらなかった身長差が、この短い間に、わずかに、けれど目に見えて開いていることに気がつく。

さら、と、掌を、淡い灰色の髪がすべった。

(…そうか…)


『レストさまの…たい、せつな、妹君なのに……っ』


 意識を絶つ寸前に聞こえた言葉。あれは、皇太子への謝罪じゃない。大切な妹にも等しい存在を危険にさらされた、「僕」への謝罪だ。不思議なほどに正しく、王子としての「僕」を見るくせに、あんな時、本当にぎりぎりの所で、君は僕の心を思ってくれた。そして、今も。


『ころせ、なんて』

『レストさまが、おつらくないわけないのに』


 だから、スィリスは泣いているのだ。僕が、傷つけられたから。そして、これからオーベールに「当然」するべき行為を成したとき、僕につく傷を思って。皇太子殿下ではなく、「僕」につく傷を、痛みを、思って。

 傍に在った人間を殺さなければならないのなら、「当然」つらいはずなのだから、と。

(……ああ…)

 気付きたくはなかった。叶うはずの無い想いだ。けれど、

「……スィリス…っ」

(……っ僕はどうしようもなく、君が愛おしい)

 「恋」なんてくだらないものは、一生抱くことはないと思っていた。ただ国のために結婚をして、子を持ち、死ぬのだと。

なのに、僕は彼女が、スィリス・カークランドが愛おしい。王子としての僕を尊敬してくれながら、それでも「僕」を想ってくれるスィリスが。どんなに辛い時でも泣くことなどしなかったのに、今、僕のために泣いてくれているスィリスが。

「……スィリス…っ」

 伝えられるはずもない想いを込めて、僕はただ強く、スィリスを抱きしめていた。










 腕の中のスィリスの漏らす嗚咽が収まってきていた。どれほどの時間が過ぎたのかはわからない。5分か10分か…それとも30分ほども経ったのか。まぁ、時計で確認すれば一発なんだけど、執務室の置時計はどこぞの脳味噌筋肉将軍が「軽くつついた」時に大破してそのままなんだよね。いい加減修理に出すべきなのは解っているんだけれど、執務に追われて丸投げしていた。

 まったく、何であの脳筋将軍から、あんなうじうじした息子が生まれるのかな。能力も精神力もあるくせに、妙に抜けているし。…まぁ、それを言うなら、近衛隊のほぼ全員、大事な螺子が数本は吹き飛んでるんだけどね。

(大体あの場面でわざわざ刃を抜くなんて、自殺行為もいいところ…ああ、そうか)

 そこまで考えてはじめて、自分の頭が全く動いていなかったことに気付いて苦笑した。 貴族に近衛が刃を向けたとなれば、悪くすれば懲戒されかねない。なのに彼らは、貴族達に刃を向け、僕に頭を下げた。その意味は明白だ。

 ……守ろうとしたのだろう。僕を、彼らから。貴族に対する無礼を働いたとして、罰せられることを覚悟した上で。

(それに)

 レイ・カークランドもまた、僕を庇った。自分に非難の目を向けさせ、近衛たちを促し、自身が罰せられる危険を、あの場の近衛たちに刃を向けられる危険を冒してまで。

 彼等の行動の意味に気付けなかったのは、僕自身に余裕がなかったからだ。いくら平気なふりをしてみせようとも、僕の内面はしっかりと子どもだったらしい。

 その子どもを、それでも彼らは守ってくれた。そのことに心から、感謝する。

 小さく笑うと、腕の中で、スィリスが小さく身じろいだ。

「…あの…」

「何?」

「す、みません…。落ち着きましたので、離してくださって大丈夫です…」

「そう」

 言われて、あっさりと手を離して距離を置く。小さく息を吐いて、見事に赤くなった目が、それでもまっすぐにこちらを見上げてくる。

 ああ、もしかして。

「お願いがあって、まいりました」

「……何?」

「私を、国家会談に出してほしいのです」

 静かな言葉に、予感が確信に変わる。

 それは、涙で目元が真っ赤になっていても、強く、強く澄んだ目。色味こそ違くとも、よく似た光を宿した目を知っている。

 そうか。君はもう、決めたのか。追うべき、慕うべき、…愛すべき、たった一人を。

「―――そう」

 たった一人を追って強くなった淡翠緑の目に向けて、僕は小さく微笑んだ。


 …………すみません、もはや今回にいたっては言い訳もできません。多忙…は、多忙でしたが、それはまぁ、何とかできるレベルだったのです。今回の更新停止は……単に作者のスランプです!!


 もう書けなくて書けなくて書けなくてぇえええええ!!……まぁ、支倉の文章力など常にスランプも同然なのですがそれでもっ、こんな作者にでもスランプなるものはやってくるようです!!すみませんもうううううううううう!!!謝ればすむものでもありません。って言うか毎回謝ってるのに全然直りません作者(←最低)


 切れ目が上手くつくれずにここで切りましたが、もうちょっと書いてあるのでなるべく早く載せます。いくらなんでも切り方がまずいので。


 えーと、内容…内容、…王子サマの自覚、なのですが、何でしょうこの胸キュンとかトキメキとかそういうモノが欠片もない自覚場面は。よっぽどレストを不幸にしたいのでしょうか作者は?……違いますよ!?むしろ不幸にするならどこぞの兄様のほうが…げほげほ、何でもありません。


 …チキンな作者は、更新できていない申し訳なささにサイト自体も覗けていなかったので、返信が出来ていなくてすみません!今より絶好調でさせていただきます!!もしよろしければ覗いてやってください!


 もう、今日サイトを見たとき、お気に入り登録が0になってたらどうしようと思っていたのに、まだ登録してくださっていた、そして、読みに来てくださっていた女神(…神?)のような皆様!ほんとーに、ありがとうございました!!皆様のおかげで作者は何とか書いております!


 それではひとまず、失礼致します!

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