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第十八章灰かぶり姫・混乱【上】

【上】、【下】構成になる理由?…そんなもの、作者が切れ目をうまくつけられなかったからに決まっているじゃないですかっ!(←力不足)


 もう…更新再開から遅くてすみません…。本当に…埋まってこようかな…。ごめんなさいすみません本当に使えないです作者。

 



 

 明け方の薄灰青の空の中、氷片のような細い月だけが闇から取り残されている。響いたノックの音に、部屋の窓際に佇んでいた彼は入室の許可を出した。

 部屋に足を踏み入れたのは、輝くような金髪を一つに結わえ、漆黒のフロックコートに一部の隙無く身を包んだ、端整な顔立ちの青年。その美貌を柔らかくほころばせ、青年は静かに、純白の手袋に包まれた右手を差し出した。

「お久しぶりです、ベアール商会長」

「ご立派になられたな、レイ・カークランド殿」

 こたえるようにその手を握り、自身よりも幾分背を高くした青年に笑いかける。

「きみの有能さは多方面から聞き及んでいるよ」

「光栄です」

 そこまで答えて、ふっと、青年の笑顔の色味が変わる。瞬時にまとうそれは、影…いや、威。

「今日は、お力をお貸ししていただきたく、参上いたしました」

「…力?」

「…密入国の手筈と、その人間がこの国に永住するための許可を」

 あなたが9年前、俺の義父の奥方を殺すために、与えた許可と同じものを。そう言って、華やかな美貌の青年は、艶然と、笑った。









 今日も今日とて、レスト様は執務真っ最中だ。いつも通りのツェトラウス古語の発音練習と、あまりにも忙しそうなので、放っておけずにはじめた処理済書類の仕分け(宛先ごとにわけるだけの、機密的に問題の無い範囲で)を続けながら、執務室に響くのはペンを走らせる音と書類をめくる音。そして、時折出されるレスト様の指示だけだ。

 …ちなみに、それはいつものことなのだけれど、今日は執務室に入室した途端に、近衛隊長の方にはおろおろした顔をされ、レスト様には何だか物凄く嫌そうと言うか何と言うか、何とも胡乱な顔をされた。あれは一体なんだったのだろうか。…あれ?

「レスト様、お疲れなんですか?」

「――――は?」

「お顔の色が優れません」

 まあ、疲れているのは、いつものことと言えばいつものことなのだけれど、今日は眉間に皺が思くっきりと寄っているし、雰囲気も不機嫌そうだ。

「……忙しいのは、わかるのですけど、きちんと眠っていますか?…そうだ、お茶をお入れしましょうか」

「―――――――君さぁ…」

「レスト様?」

「……自分の顔見て物は言ったらどうなのさ…」

「…え?」

 言って、レスト様は掌に顔をうずめたまま脱力し、思いっきり深く、嫌そうに溜息をついたまま、沈黙してしまう。

 ……………………。…しかも、そのまま戻ってきてくれない。何故に。

(やっぱり、お疲れなのかな…)

 そろっと、手を伸ばしてみる。何か、この方に…、


『まともに人の前に立ったことも、取引一つしたこともないきみが、どうして俺や殿下の役に立てるなんて思うの?』

『思い上がって出て来られても、迷惑なんだよ』


「…っ…」

 びくり、と、伸ばしかけた指が震えて、反射的に強く握りこんでしまう。…めい、わく…。

…………で、も。

「―――――何、を、してるのさ?」

「い、いえ、あのすみません。止めますか…?」

「――――別に、いいけど」

 驚いたようにこちらを見た紅茶色の目が、ふい、とそっけなく逸らされる。嫌がられてはいないのだろうか、と安心して、私はもう一度、レスト様の頭を静かに撫でた。それを、何度も繰り返す。

 指の間を流れていく、赤銅色の綺麗な髪。伸ばすとわからないけれど、短くすると少しだけ、毛先が猫っ毛の兄様とは違い、さらさら、といういうより、するする、といった感じの艶のある髪。それを、なだめるように。穏やかに。

「何なのかなこの底抜けのお人よし馬鹿は…」

「はい?あの、よく聞こえなかったのですが…?」

 ぼそっと、小さな声で呟かれた言葉を聞き取れずに首を傾げると、ゆっくりとレスト様の目線が上がり、一拍、間を置いて、その手がこちらに向かって伸ばされる。紅茶色の綺麗な目がほんの少し細められ、…何か、憶えのない色を宿して、揺らいだ。


『こんなことから逃げられもしないのに、役に立ちたいなんて良く言えたよね?』


「…っ…!」

 身は、退かずにすんだ。けれど、あからさまな程に強張った表情に、聡いレスト様が気付かないわけがなくて、静かにレスト様の顔から表情が消える。

 ざっと、顔から血の気がひいた。

「あ…す、すみませ…」

「…いや、いいよ」

 あっさりと手は引き戻され、紅茶色の目も、机の上の書類に戻される。

「あの、レスト様…」

「君さ、アナマリアのところに言ってきなよ」

「…アナマリア、さま、の、ですか?」

 今日はアナマリア様のところに行くお約束はしていなかったはずだ。顔に不思議さを出したまま首をかしげると、一度上がった目線はすぐまた、興味無さそうにそらされてしまう。

「そう。…そんな顔していられても、扱いに困るからね」

「…そんな、かお…?」

「……本気で自覚がない訳だね」





 いいから行こうか?と、適当に手を振られて、おまけに微妙に機嫌の悪そうな笑顔に見送られ、部屋を出て向かった先。扉の前に立っていた侍女の方に頭を下げ、オレンジがかった柔らかな茶色の扉をノックすると、「誰よ?」、と声が返った。

「あの、スィリス・カークランドです。突然失礼し…」

「すっ…スィリス…!?」

「?はい」

「な、何よ今日はわたくしのところに来ないのではなかったのっ?」

 何かとても慌てた風のアナマリア様の声に、申し訳なくなる。…やっぱり高位の貴族の姫君であるアナマリア様のお部屋に、何の先触れもなく伺うのは失礼だったのだろうか。

「あ、すみません。お忙しいなら…」

「待ちなさいっ!!だ、誰が戻れなんていったのっ」

 けれど、そう言って扉の前から離れようとした途端、物凄い勢いで声をかけられた。

「…はい?あの、でもアナマリア様何か慌てていらっしゃいますし…」

「そっ、それはだってあなたが今日来るなんて思わなかったから服が全然お洒落じゃないし、イヤリングだってネックレスだってもっと…」

「え?あのすみません、よく聞こえなかったのですが…」

「~~~~~~~っ。いいから入りなさいと言ってるのっ!」

「…はい」

 失礼します、と言ってから、もう一度ノックをして扉を開くと、オレンジと白、そして薄黄色を基調にした部屋の丁度まんなかのあたりに、アナマリア様が立っていた。すっと、胸元に手を当てて腰をかがめる。

「入室の許可をいただき、ありがとうございました。スィリス・カークランド。皇太子殿下の命により、まかしこりました」

「…お兄様の?…そ、そう。…い、一々かしこまらなくてよいと言ってるでしょうっ?顔をお上げなさい」

「…はい」

 ゆっくりと顔を上げた先、目に映った姿に思わず首をかしげた。

 今日のアナマリア様はチェリーレッドの可愛らしいドレスに、同じ色のリボンで髪を二つに結い上げている。部屋着だからなのか、いつもはつけている、大粒の宝石のネックレスもイヤリングもないけれど、薔薇の妖精みたいに可愛らしい。…だけど、アナマリア様の顔は真っ赤に染まり、繊細なレース飾りのついたドレスの裾を、掌でぎゅっと掴んでいる。

 何か、すごく不本意そう…と言うか、恥ずかしそう?

「アナマリア様?」

「…っ…み、見なくていいのよ今日は…っ」

「はい?」

「あ…あなたと会う日は特別お洒落しているわけではないのよっ!?わたくしはちゃんといつもきちんとしてて、…きょ、今日は地味、かもしれないけどでも…」

「?いいえ。いつも通り可愛らしいです」

「なっ…あ、あなたねそういうことを言うのは…ってっ」

 より真っ赤になった顔で上向いたアナマリア様の顔が、次の瞬間、思い切りよく引きつった。

「…あ、なた何よその目!」

「め…?」

「目といったら目よ!というか、目の下の隈!」

 くま…熊?…いやいやいや、目の下に熊がいたら怖い。初等学校に通っていたころ、居眠りしていたベアールの瞼のとか頬とかにタコとかイカとか額に「肉」とか落書きしていたけれど、今は明らかに話が違う。目の下のくま…ああ、隈か。

 くま、と呟いたまま、顔の真横にあった、目の端にうつった金縁の壁掛け鏡に目線を移す。…うわぁ。

「たしかに、酷いですねぇ」

 鏡に映った顔、目の下にそれはそれはくっきりと残る隈。もはや何かのお化粧のようになっている。しまった。昨日も今日も一睡もしていないのに、朝、鏡も見ないで顔洗って髪を括って終わりにするんじゃなかった。

 …もしかしなくても、レスト様が微妙に嫌そうな顔をしていた原因はこれだろうか。確かに、この顔でうろうろされるのは精神衛生上かなりよろしくない。…ごめんなさい、レスト様。

「淑女たるものが、そんなみっともない目元していていいと思っているのっ!?」

「…すみません」

「…あ、違…!…な、なんでそんな顔をしてるのよっ。眠れなかったのっ?」

 怒ったような、でもどこか心配そうな声に、いつも通りのアナマリア様に、気が、ゆるんで。口の端から、言葉が零れ落ちてしまった。

「………にい、さまと」

「兄様?レイと何かあったの?」

「…おこ、らせてしまって」

「怒る?レイが?…スィリスに?」

「…はい…いいえ、きらわれて…しまった…」

「嫌い!?レイがそう言ったの!?」

 訝しそうな顔をしていたアナマリア様の顔が、きっと眉を吊り上げる。


『迷惑なんだよ』

『俺にきみはもう必要ない』


「い、え…。なにも…」

「言いなさいっ!命令よっ!!」

 叩きつけるような、命じることに慣れた声。それでも唇を閉ざしていると、ぎゅっとアナマリア様の唇が引き絞られた。ああ、だめだ。そんな顔をさせるなんて、だめ。

「…い、要らない、と、は言われ…」

「っ…!!!許さないっ!!」

 けれど、言った瞬間、鮮やかなほどの憤怒に染まったアナマリア様の表情に、私は自分の選択が間違っていたことを知った。物も言わず、私の横を通り過ぎたアナマリア様が扉を開け放ち、控えていた侍女の方に声をかけるのに、ぎょっとする。

「…?姫さ…」

「レイを今すぐわたくしのもとに呼び出しなさい!イエーガー家直系、アナマリア・イエーガーの命よっ」

「…はい?いえ、姫さま、カークランド殿は、殿下の命で、家を空けておられると…」

「なら呼び戻しなさいっ!!…聞こえなかったのっ?レイ・カークランドを…」

「あ、アナマリア様、お止めくださいっ」

 必死に、アナマリア様の手を掴んで静止する。それが無礼なことだと、考える余裕もなかった。怒りに燃える目で振り返ったアナマリア様に、懇願するように強く首を横に振る。

「はなしなさいスィリス!」

「違うんです申し訳ありませんっ。私が、兄様のこと何もわかっていなくて、怒らせてしまって。だから、兄様は悪くないんです」

 そうだ。私が不甲斐なかったから、兄様は行ってしまった。どこかに、…多分、ロワナに。絶対に危険なのに。止めなくちゃ、いけなかったのに。

 私が悪いんです。申し訳ありません、とアナマリア様と、それから侍女の方にも深く、頭を下げると、侍女の方は戸惑ったように私とアナマリア様を見比べた。

「…やっぱり、いいわ。…下がっていなさい」

「…はい」

 アナマリア様の言葉に、安心したように礼をしてさがる人に、やっと力を抜く。くるりと踵返したアナマリア様が、音を立てて扉を閉めるのを聞いて、そうだ、お礼を言わなくては、と気付いた。

「ありがとうございます…」

「…何故、止めたのよ―――――ばかみたいだわ、あなた」 

「…はい。本当に、申し訳…」

「違うわよ!何があったのか知らないけど、あなたが要らないって言われるの嫌いなの、レイだって知っているじゃないっ!ひどいこと言われたのでしょうっ!何故怒らないのっ、何故、そんなっ…へいきな顔を…っ!」

 言いかけて、言葉がとぎれる。そして、アナマリア様は叫んだ。

「三度目だわっ!!」

 瞬間、ぼろぼろ、ぼろぼろと、アナマリア様の琥珀みたいな焦げ茶色目から、大粒の涙がこぼれだした。可愛らしい顔が、くしゃっと歪められる。

「え…?」

(さん、度目…?)

「わたくしが、あなたが酷い事言われるのを放っておくのは…っ。一度目は、わたくし、二度目はあのロワナの王子、今度のレイで三度目よっ。もう嫌よっ!何よ、なんで泣かないのっ、馬鹿みたいだわ、わたくしっ。わたくしばかり、大事で…」

(いやだ、なんで…っ)

 どうして、泣くの?嫌だ。どうして。

「…っアナマリア様、泣かないで下さい」

「泣いていないわっ…」

 うそだ。アナマリア様は、泣いてる。私が、泣かせたの…?どうして、大事な、可愛らしい方なのに。泣かせたくなんて、ないのに。

「何よ、スィリスのばか、どうしてわたくしを頼ってくれないの、ツェトラウス古語教えてくれて、文字も、話し方も…貴族に悪口言われたの、庇ってくれてたの知ってるわ、知らないとでも思ってるのっ…!知ってるもの、ちゃんと。なによ、平気そうな、顔して…どうせ、わたくしばかり、助けられて、わたくしばかりスィリスのこと、大事なのだわ…ちょ…ちょっとくらい、頼ってくれたって…」

 声はかすれて、アナマリア様はへなへなと、その場に座り込んでしまった。カーペットの上にへたりこんだ方は小さくて、泣きじゃくる声と嗚咽に細かく震えている。

(…わた、し…)

 ああ、そうだ、私は。

(ああ、私、自分がされてかなしいことを、アナマリア様にもしてたんだ)

 けして泣かせたくない、…僭越だけれど、年下の大事な妹のようにも感じている方を不安にさせたくなかった。だから、誤魔化そうと、「平気だ」と言った。でも、

 私は、頼っても、いいのだろうか。

「…ごめ、んなさい、アナマリア様」

「ちっ…違うわ…。あ、謝ってほしいわけでは、なくて、だって…」

「…はい」

 どうして、一人ぼっちな気分でなんていたのだろう。悲劇のヒロインぶっていて、心配してくれる人がいることも気づけなくて。自分が情けないけど、だけど、今なら、まだ。

「はい。…わた、し、今、少し、つらくて」

 泣きながら、怒りながら、それでも手を差し伸べてくれるこの方に、私は、ちゃんとこたえたい。それが、どれだけ情けなくても。弱くて、ちっぽけでも。

 ゆっくりと、膝を折る。真っ赤に、うさぎのように染まった目を覗き込む。

「だから、お話をさせて、もらえますか…?」

「…あ…」

「頼っても、いいでしょうか?」

「あ、当たり前よっ!本当に、本当に、あ、あなたって、ばか、なんだから…っ」

 怒っているのに、泣いているような、泣いているのに、どうしようもなく力強い、そんなアナマリア様の声に、私はへにゃりと情けなく笑った。そしてそれが、一昨日からのはじめての笑みだと気付いて、また、微笑えた。






 ごぉーめぇーんーなーぁさぁー。…と、やりかけて、謝るぐらいならするな、ということに気付いてやめました。すみませ…いや、本当に遅くて遅くて遅くて文章力皆無な人です埋まればいいのに自分。紐なしバンジーで地面に沈没すればいいのに…。


 すみませんちょっとでも続きを書くためあとがきはここまでですでも各キャラに一言。


スィリス=じめじめしないで下さい。作者もネガティブ思考なので伝染します。

兄さん=どうしようどうやっても悪役臭がするよ兄さん。こんなヒーロー私ならごめんです。

アナマリア=…うん、直球最高!!ものをあまりうだうだ考えないほうがステキです!行動あるのみ!!

レスト=…奪ってしまえ。今ならあのどS兄がいないからチャンスだ。きっと。



 失礼しました!【下】のあとがきはもうちょっと書きます!そして、こんなのを読んでくださってあまつさえ感想を下さった方々もはや女神です!!これから変身いたしますのでおまちくださいませーーー!!!


 

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