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第十七章 灰かぶり姫・崩壊

 

 私事で、長らく更新を停止してしまいましたこと、本当に申し訳なく思います。なのに、こんな話を読みに来てくださっていた皆様には、本当に、感謝してもしたりません。

 これからも精一杯頑張っていきますので、よろしければ読んでくだされば幸いです。

「兄様、私、思い出しました。…ツェトラウス古語は、『呪いの言葉』だって」

 声が震えなかったのが不思議なほど、緊張したまま紡いだ声に、だけど、兄様はそう、と笑っただけだった。悲しそうでも辛そうでもない、いつも通りの明るい笑顔。

それに唇を噛みかけて、耳に響いた、はた、と何かが滴る音に息を呑んだ。

「兄様っ…血がまだっ…!」

「血?…ああごめん、床汚れちゃったかな」

 止血したけどシャツが吸っちゃったからなぁ、と肩をすくめる人に、頭のどこかがぶちっと切れた。

「……私のへや、上がってください」

「え?なに、シンデレラちゃ…」

「腕を出して今すぐ私の部屋に来てください!治療するんです消毒するんです包帯巻くんですほら早く!!」





 広間では作業がしにくいので移動した兄様の部屋で、ベッドに腰をかけた兄様の前に膝をついて、治療具を取り出す。

「シンデレラちゃんー?俺やっぱり執務室のほうがいいんだけど」

「駄目です。資料に血が垂れたら取り返しがつきません」

「えー」

 あれから結局、私の部屋での治療は拒否された。治療具は一通り部屋においてあるし、包帯もそこだからと思ったのだけど、「はいパス」と笑顔で言われて終わりだった。しかも、夜中に男に向かってそういうこと言うのは止めようね?と笑顔で脅された。…夜中に無断で私のベッドに入ってきてたくせに、理不尽だと思う。

(…あれ?)

 そういえば、最近兄様は私のベッドに入り込んでこない。最後に入ってきたのは、…レスト様に会うより更に前だ。以前はしょっちゅうピンクなネグリジェと対面してたのに。

「シンデレラちゃん?」

「あ…」

 沈んでいた思考が、不思議そうな兄様の声で戻る。…ダメだ。今はそんなこと考えてる場合じゃない。

「…すみません。じゃあ、作業がしにくいので、服、まくりますね兄様」

「えーっ。イヤだわシンデレラちゃんのすけべっ」

「――――腕締め上げますよ兄様」

「…冗談。冗談だからそんな怖いこと言わないでよ」

 くすくす笑った兄様が、しょーがないなーとか言いつつ袖を折り上げ、止血のためにしていた布をようやく解いた。

 出血が止まっていることを確認し、清潔な布を水で濡らし、傷口をおさえて血を吸わせる。擦ると傷口を余計に痛めるので、注意しながらゆっくりと。そうして改めて傷口を見ると、確かに傷はそこまで深くなかった。多分、きちんと消毒して、膿まないようにすれば痕も残らない。

「―――――よかった…」

「?何?」

「いいえ。何でもないです」

 ほっとしてる場合でもないので、水で薄めたアルコールを霧吹きで吹き付ける。兄様がいったー、とか言うけれど、口調が明るいので無視して、今度は包帯を巻いていく。

 幅の広い布を、端を重ねて、ずれないように…。…どうしてだろう、上手く、出来ない。良く転ぶお母様の手当てで、慣れているはずなのに。

「――――シンデレラちゃん、手、冷たいね」

「…春先でも、今日は冷えますから」

「心配させちゃったね」

 言って、みっともなく震える私の手を取って兄様は微笑う。強く、首を振って、私は俯いた。兄様も口を開くことはなく、部屋に、沈黙が落ちる。

 それでも、包帯の続きをしようと、やんわりとその手から逃げて、白布の端を持つ。ゆっくり、ゆっくり、きつくしてしまわないように。

「――――――兄様、痛くありませんか」

「痛くないよ?シンデレラちゃんのおかげ」

「…でも、痛かったですよね。こんなに血が出たら」

「………」

「ごめんなさい」

 私がきちんと避けられていれば、兄様はこんな怪我はしなかった。そう思っての言葉だったけど、やっぱり兄様はあっさりと首を横に振る。

「シンデレラちゃんのせいじゃないってば。今回のは、俺の責任。だから俺こそごめ…」

「…兄様、何を、してるんですか」

「シンデレラちゃ…」

「何を、しているんですか、兄様。何を兄様は…兄様もレスト様も、そんなに危険なことに関わっているんですか?」

「大丈夫だよ。俺たちも何も考えずに行動してるわけじゃ…」

「私なんかより兄様や…レスト様こそ危険なんじゃないですか?」

「大丈夫だよ、シンデレラちゃん」

 繰り返す兄様の顔に、無意識に顔がぐしゃりと歪む。

「…にい、さま、気付いて、いますか?兄様は、わたしにうそをつくとき、そういう、ほんとにやさしい顔で笑うんです」

「…っ…」

 にこっと、屈託なく笑うときとは違う、右目を左目よりほんの少し細める。優しい、やさしい笑い方。それが、私の言葉に音もなく、消える。

「お願いですから兄様、話してください…っ!」

 あなたに守ってもらうことを、迷惑だと思ったことなんて一度も無い。嬉しかった。兄様はずっと、優しくて強い、自慢の家族だった。だけど、

「兄様が、私のかわりに傷つくのは何度目ですか…っ?私の所為でしなくてもいいことをしたのは…っ」

 私の、所為で。

「話す気はないよ」

「兄様っ!」

 叫ぶけど、兄様の目は揺らがない。

「…わかり、ました。…レスト様に直接、私からお聞きします」

「――――止めてよ。きみには、関係ない」

「っ…」

 不意の言葉に、ぎくり、と、体が強張る。

「で…も…。私、だって、兄様のために何か…。兄様の役に立つことも…」

「出来ないよ」

 次ぎかけた言葉も、あっさりと断ち切られる。そうして、巻きかけの包帯の端が、そっけなく掌の中から抜き出された。

「きみには、無理だよ。まともに人の前に立ったことも、取引一つしたこともないきみが、どうして俺や殿下の役に立てるなんて思うの?」

 …それは。

「…で、でも、私にはツェトラウス古語が…」

「特殊な言葉が話せるってだけで思い上がって出て来られても、迷惑なんだよ」

「…っ…」

 心底面倒そうな声。嫌そうにそらした視線は、ベッドの脇にある窓の外に向けられていて、こちらを見てもくれない。

 呆れられた?嫌がられた?面倒だと、イラナイって。

『イラナイッテイワレルノハ、イヤ』

(…違う。そうじゃない!)

 違う。違う、違う。違う。それじゃ、だめだ。ちゃんと、わかったはずだ。ベアールやアナマリア様の言葉で。レスト様の在り方で。

(そうだ。私は)

 俯きかけた顔を上げ、くじけそうになる心を押しとどめるために、唇をきつく噛み締める。そして、手を伸ばして、兄様の頬をばちんっ、と音を立ててはさんで真正面から目線を合わせた。驚いたような、菫色の目。

「…い、や、です。私、は兄様が傷ついているのに、危ない目にあっているのに、1人だけぬけぬけと笑ってるなんて出来ません。…もう、したくありません!」

力が無い、何も出来ない私が教えてほしい、力になりたいと言っても邪魔になるだけ。邪魔だと思われるだけ。だから言わなかった。…言えなかった。だけど。

 誰かに…兄様に必要とされるためじゃない。私は、私のために、たとえ邪魔だと思われても、それでもすべきことをするんだ。





 再び落ちた沈黙から一拍置いて、すっと、目の前で兄様の長い睫毛が半ば伏せられた。

「そう…」

 頬を挟んだ両手に、兄様の手が重ねられる。そして、兄様はそのままうなだれるように、私の首もとに顔を埋めた。

「兄さ…?…つっ…!?」

 かけようとした声が途切れたのは、首もとに走った小さな痛みの所為。けれど、理由を見下ろすよりも早く、ぐるりと視界がひっくり返った。

 背中にあたる柔らかなシーツの感触。目の前の、瞼を閉ざした端整な顔立ち。唇を覆う、冷たい感触。…キスされているのだと気がつくまでに、数拍かかった。そして、気づいた瞬間に絶句する。

(…なに…っ?なんで…)

「兄さ…やめ…っんぅっ」

 顔を背けて続けようとした拒否の言葉は、再び重なった唇に奪われる。薄く開いた唇からすべりこんできた熱に、びくりと肩が震えた。

(…やだっ…)

 反射的に突き飛ばそうと、投げ出していた手を伸ばすけれど、逆に腕をとられてシーツに押し付けられ、もう片方の腕が、強く腰を引き寄せる。

「…ふ…っ……やっ…」

 口腔を、熱い舌が這い回り、逃れようとした舌先を捕らえられて、強く吸い上げられる。

「…やだっ…!」

「…はっ…」

 拒絶も抵抗も許されずに貪られて、口の端からこぼれる声に体ががくがくと震えて…兄様の息をつぐ音と、耳をふさぎたくなるような厭らしい水音だけが部屋を満たして…。

 息が苦しい。押さえられた手首が痛い。何これ、嫌だっ。助けて…!

 どれだけ、そうしていたか解らない。けれど、やっと開放されて、私は激しく咳き込んだ。

「…げほっけほっ!…っ…けほっ…っ…はぁ…」

「こんなことから逃げられもしないのに、役に立ちたいなんて良く言えたよね?」

 それは、冷めきった声音。

 見上げた先、薄暗い灯りを受けて、内に暗い光を篭めた、目。体を離した兄様はゆっくりとベッドから降り、私を見下ろして、小さく嗤った。

「――――兄さ…」

「“妹”だっていうのなら、守ってあげるよ。ディアにとって、きみは大事みたいだから。…でもね、邪魔はしないで?」

 乱れた長い前髪の金。愉しげに歪められた目の紫。赤黒く染まったシャツと、巻きかけの包帯の白色。

「邪魔をするのなら、俺にきみはもう必要ない」

「…っ………」

 声を無くし、目を見開く私をこの上なく愉しげに笑って、そして、兄様は私に背中を向けた。こつこつ、と淀みなく足音が流れ、扉が開かれる。

 そして、ふと気まぐれのように肩越しに振り返った兄様は、にこりと、屈託なくもう一度私に笑いかけた。

「いいこにしてるなら、“優しい兄様”でいてあげるよ。きみのためじゃなく、ディアのためにね」

 オヤスミ、シンデレラちゃん。

 「いつもの」兄様の挨拶は、閉ざされた扉と一緒に、消えた。





 閉ざした扉を振り返ろうともせず、かつかつと靴音をさせて廊下を行き、執務室のドアを開けて中に入った青年は、机に山と積まれた書類に肩をすくめる。

「うーわー過労死しそう」

 そう言いながらもぱらぱらと書類をめくり、ペンを走らせかけた青年は、ふ、と自分の腕に目を留めた。

 解けかけた包帯。真っ白な、けれど端だけが不自然に皺だらけになったそれ。

「――――」

 それが、どうして皺にまみれているのか、青年は知っている。

 彼女が、握り締めていたからだ。自分の不安に負けないために。小刻みに震える手を、指を、抑えるために。

 何気なく伸びた長い指が、半ば解けたそれの端をとり、くるくると外していく。

 白の中、ほんの少しの朱を滲ませた包帯を外し終えると、青年はその端にそっと唇を寄せ、…そして何の躊躇いもなく、それをクズカゴの中に落とした。

 そして何事もなかったかのように、さらさらとペンの音が流れていく。さらさら、さらさら、と。








 ……はい、支倉です。…なんて書けばいいのでしょうかっ!!?…申し訳ありません本当にすみません沈没すればいいのに作者むしろ埋め立てられればいいのになにやってんの本当に何やってんのもうあれだね!紐なしバンジーをしてお詫びするしかないですよねすみませんでしたぁぁあああああああ!!!


 …えーと、すみません。本当に。ごめんなさい許してください本当にすみま…。切ります。とりあえず、きります。


 えーと、テンションを変えますが、私事でご迷惑をおかけし、本当にすみませんでした!支倉はもう大丈夫です!ハツラツです!もしこれからもお付き合いいただけるような女神(…神(男性)もいらっしゃるのでしょうか…?)のような方がいましたら、どうぞよろしくお願いします!


 では、内容です!…内容も暗い!!…兄さんのせいです作者のせいじゃないですどこぞの女装癖が悪いのです。酷いこと言ってるのも酷いことやってるのもそこはかとなくエロくさいにおいがするのも全部あの人の所為です以上!…言えない。初期ではもうちょっとすけべったらしいことしてたなんて言えない…!(言ってる)


 兄様、自重。


 次回は上げます!なんとかかんとか主人公を引き上げます!帰って来い!そしてまじめに王子が出ない!!


 こんなところで、本日は終了です。今回の長期更新停止は、本当に申し訳ありませんでした。役立たずヘタレ作者ですが、よろしければ、もしよろしければ、もう少し読んでやってくださいませ!皆様の感想、お気に入り登録が、本当に私が書くことの支えです!心から感謝します!それでは、失礼致しました!




【私信】

 休み中に感想を下さった方。本当に本当に、涙が出るほど嬉しかったです。ありがとうございます。これより返信をいたしますので、お暇なときにでも読んでやってくださいませ

 

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