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第二章灰かぶり姫・朝のお仕事

よ…読んでくださった方がいました…っ!ありがとうございますっありがとうございます!


今回シンデレラが多少ぼけてますが、彼女は基本的にはツッコミ要員です。

こ…こんな話ですが、どうかよろしくお願いします!

部屋に入ってまず目に付くのは、鮮やかな真紅と艶やかな漆黒。

「おはようございます、お母様方」

そっと室内の明かり窓を開けて、私は穏やかに声をかけた。反応が無いことを確認し、真紅のベッドに丸まるお継母様、ロザリア・カークランド夫人に近づいて、静かにもう一度声をかける。

「おはようございます、お母様」

「…う…」

「起きてください、もう朝ですよ」

「うぅあ…う…るさ……」

「また夜更かしをなさったんですか?夜更かしするから寝不足になって、低血圧でもないのに起きれないんですよ?」

「あたくしは低血圧!低血圧は美貌の主のステータスよ!!」

 やっと起きた。というか毎朝毎朝、何故にそこに反応するのか。起きてください、にも、朝ですよ、にも反応しないのに、何故か低血圧の話題には即座にこたえるファンタジー。

「いーい!?古くから美形といえば低血圧!低血圧と言えば美形!!これは侵すべからざる黄金の方式なのよ!?」

 どうでもいいから叫ぶのは止めてくれないだろうか耳に響く。この親子はそろいもそろって、何故こうもテンションが高いのか。

「そしてあたくしは美形!美貌!美女!!炎のような赤金の髪は煌く太陽!紫水晶そのものの瞳は百万の宝石!紅く熟れた唇は極上の果実!殿方はあたくしの姿に胸をときめかせ、あたくしの一瞥のために財産の全てを投げ出しても悔いはしない!!」

「髪が寝癖で爆発してますお母様。」

「お黙り!…そう、このあたくし程美しい女がいるかしら!?あたくしほど生気に満ち溢れた美貌の女がどこに!あたくしほど素敵な女性がいて!?」

「目がステキに充血してますお母様」

「お黙りというのに!!…まったくお前は本当に嫌な娘ね。いーい、そもそもあたくしの武勇伝はそう!5歳のときにとある男爵に求婚されたところからはじまるわ!」

 それは単なる幼女愛好の変態じゃないだろうか。無事でよかったですねお母様。というか毎朝毎朝同じネタで飽きないのだろうか。

「そして次は8歳のとき!あたくしの美貌に心奪われた隣国の大商人が…」

 まだロリコ…いや、幼女愛好精神に溢れる人々の話は続くらしい。声が大きい、ど派手な真紅のネグリジェが目に痛い。確実に人体有害物質が含まれていそうだ。致死量…。…………………なんだろう、似たようなことを感じた記憶がある。しかもごく最近に。

「…彼は…あたくし…11歳…そしてついにっ…………、……またもう一度13…春」

 いやいやいや気のせいだ。デジャヴだデジャヴ。脳が疲れているんだ瀕死の重傷なんだ朝っぱらから。決して、家の中にど派手真紅とショッキングピンクの物体がある所為ではない。だって、家の中で致死量の有害物質に2度も出会う訳無いもの。気のせい気のせい。

「そうそしてあたく…………か………うんめ………14さ…」

 こういうときは読書に限る。ジュンデエッタとローデンブルグの物語の続きを読もう。たしか邪悪なる魔女ローデウーニアによって、ジュンデエッタが通算13回目の誘拐をされて、お城の中で涙に濡れる場面だった。

「……………………き……………………シン……しんで……ら…」

 …そう、塔の中に閉じ込められたジュンデエッタが、愛しいローデンブルグのことを想って涙ながらに詩を作るこのシーン。やはり生半可な作家とは格が違う。こうして読んでいても、ジュンデエッタが可哀そうすぎて涙が、

「シンデレラーぁぁぁぁあああ!!!!!!」

 美しい月光の中の物語から私を引き戻したのは、お母様の野太い…もとい、魂のこもった絶叫だった。驚きすぎて取り落としかけた本を押さえ、見上げた先に広がるのは、東国にいるらしい、「悪い子はいねぇかー」と叫び、ショウガツにはプレゼントを持ってきてくれるという悪魔、ハンニャに似た顔。

「お、ま、え、はぁぁ!あたくしが話しているというのに何をしているのかしら!?」

「本を読んでますお母様」

 ずばんと答えたら、お母様のこめかみがひくっ、と引きつった。怖い。

「何で本を持ってるのかしら?こ・こ・に・は、そんなものは置いていなくてよ?」

「ポケットに常備してますお母様」

 びきびきっ、とまた、新たな青筋がこめかみに浮かんだ。

「そぉお。あたくしの話をさしおいて、いったいどんなハナシを読んでいたというのかしら?いえる物なら言って御覧なさいな」

「遊歴の騎士ローデンブルグと、純潔の心を持つジュンデエッタの恋物語です」

「ロー…?じゅんで…?」

「はい。とある国の王女であったにも関わらず、魔女の呪いによって、凛々しい若者に変身させられてしまったローデンブルグは、これまたとある国で、純潔の乙女の心をもったジュンデエッタと出会い、恋に落ちるのです」

「ちょっ、ちょっと待ちなさい!もとが王女なら、ジュンデエッタ?と恋をしたらまずいのではなくて!?」

「いいえ、ジュンデエッタは男性ですから問題ありません、お母様」

「…おとこ?」

「はい。純潔なる乙女の心を持ちながら、レースのドレスを着れば張り裂けるほどの筋肉を持ってジュンデエッタは生まれてきてしまったのです。純潔であるゆえ努力家な乙女としては、筋トレを怠るなどとても出来ず、ジュンデエッタの筋肉は煌くように磨かれていくばかり。物語の中盤でローデンブルグの呪いは解け、王女に戻るのですが、ジュンデエッタはもちろん美筋肉青年(※not 美青年)のまま…。切なくて涙が出てしまう場面です」

 そう。本来ラブ・ロマンスに興味の持てない私でも、思わずハンカチが必要になる名場面だった。作者のロザモンド・ビビアンヌ・フォルマルクは天才に違いない。

「…筋肉」

「そして更に、ジュンデエッタの筋肉に一目ぼれした魔女がジュンデエッタをさらって…」

「もういい!!」

「え?」

 二人の恋について語ろうとした私を、またもお母様の絶叫が断ち切った。しかもなんか本気で嫌そうに。…どうしたのだろうか。

「もう、いいわ。さっさとあたくしの髪を結って服を着付けなさい、シンデレラ」

「…はい、お母様」

 なんだか疲れたようにひらひら手を振るお母様の背後に回って、丁寧に爆発大火山状態の髪を梳く。細く長く、ゆるく波打つ髪は絡まりやすいけれど、櫛でととのえるとすぐに艶をもつ、とても綺麗で素直な髪だ。

 髪だけでなく、自分自身で豪語するとおり、お母様は綺麗な人だ。某「姉」と同じ濃い紫の瞳はばさばさ音を立てそうな長いまつげに囲まれている。プロポーションも完璧で、いわゆる「美女」の名に相応しい。

 その美しきお母様は、アンニュイな感じに頬づえをつき(髪結いにくいのでやめてくれないだろうか)、真紅のカーテンの張られた窓辺を見つめて、ふっと物憂げな吐息をこぼした。

「……ふぅ…」

「――――」

「…はぁ…」

「――――」

「……………………………………………………はぁぁああああ」

「更年期障害ですかお母様」

「そんな訳がないでしょうこの馬鹿娘!それに、あたくしは永遠の20代なのよ!!」

「――はぁ、そうですか」

 なんだ、ため息ばかりついてるから、最近とみに噂の例の病気かと思ったのに。というか、いくら美しいとは言っても、軽々と20歳以上サバを読むのはいかがな物なのでしょうかお母様。

 まぁそれはともかく、更年期障害でないというのなら、お母様は何故ため息をついているのか。正直あまり興味は無いのだけれど、お母様は今も、聞きなさい~聞きなさい~、とでも言いたげな恨めしそうな瞳でこちらを見上げている。放置するのは可哀そうだろう。

私はしぶしぶ口を開いた。    

「お母様、いったい何を悩んでいらっしゃるのですか?」

「ふふんっ、このあたくしが、お前などにこの尊い胸の内を教えてやる訳が…」

「あ、ではいいで」

「乙女が胸を焦がすものといったら、それは恋しかなくってよ!」

 物凄い勢いで前言撤回をなさった。しかも言い切った。その他もろもろの多くの深刻な悩みを抱える方達ゴメンナサイ。私が言ったわけではないが、なんとなく謝っておく。精神衛生的によろしくないので。

「……はぁ、恋、ですか。ちなみにどなたに?」

「あたくし程の美貌の主となれば、ふさわしい相手はおのずと限られてくるに決まっているでしょう!?」

それ以前にお母様は一応、父様と結婚してらっしゃるはずなのだけれど。まぁいいか、いつものことだ。

「あたくしがわざわざ出向いて恋を仕掛けて差し上げるにたる男性!それは勿論この国のこーたいしでん…」

(交対市電?)

     リンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリン!!!

「――――――アレは、なんの音かしら…?」

「朝食用のゆで卵がゆであがった音ですお母様。というわけで、台所に行ってもいいですか?」

 朝ご飯に出すゆで卵が固ゆでになります、と至極真面目にお願いをした私に、お母様はぱくぱくと口を開閉させ、肩を落としてからしっしっと手をはらって見せた。

 心なしかぐったりしているような気がしたけれど、それこそ例の「美形のステータス」だろう。何だかよく解らないが大変そうだ。

 私は綺麗に髪を結い上げ、朝から完全無欠に真紅と黒のベルベッドのドレスに着替えたお母様と、部屋の隅にきらきら漆黒に煌く特注☆棺桶型ベッドから手首だけをだらりと出したもう1人の、そして(性別的に)正真正銘の姉に、深く深く頭を下げた。

「おはようございます、お母様、クローディア姉さま」

「……おやすみ、灰かぶり…」

「はい。そしておやすみなさい、クローディア姉さま」

 地を這うような声で、姉さまだけが返事をくれる。これも、毎朝のこと。起きにくい時間帯なのに挨拶をくれる優しい姉に、私も笑いかけ、音をたてないように扉を閉めて、急ぎ足で台所に向かった。


(え?今まで姉はどこにいたかって?…?ずっといらっしゃいましたよ?クローディア姉さまは無口で控え目で、物静かな正真正銘のレディです。まったく、お母様と半分だけお姉さまも、クローディア姉さまを見習って下さったらよろしいのに。……なんですかその目は。何か問題が?)



 ちなみに私が、お母様が恋の相手として白羽の矢を立てた「この国の交対市電」の正体が、「この国の皇太子殿下」だということに気づくのは、随分と先になってのことである。そのときの私は紛れもなくただの町娘で、皇太子殿下の顔さえ知らない、出会うことなど考えても見ない、一介の市民に過ぎなかった。


 次話は多分「皇太子殿下」サイドです。…いえ、主人公にまかせておくと、王子様と出会うのが物凄く遅くなりそうなので。そして多分「姉」(性別的に間違ってるほう)が目立つことになると思います。


よろしくお願いします!

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