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番外編・とある奥方の思い出

 シンデレラモチーフなのに、あまりに継母が出てこない欲求不満により書いた端です。…すみません。


 ほんとにすみません…。

 物心ついたときから、あたくしは美しかった。

 煌く赤金色の髪に、睫毛が長い影を落とす、極上の紫水晶の目。どれだけ夜更かしをしようと肌が荒れることは一度もなく、どれほどお菓子を食べようと、理想的な体型から離れたことはない。

 美しくしかなれない。あたくしのこの罪な美貌は、当然の結果として多くの殿方をひきつけて止まなかった。5歳のときにとある男爵家の当主に求愛されたのを皮切りに、それこそ数え切れないほどの男達があたくしに跪き、贈り物を捧げてくれたものだった。

 そこで、あたくしは幼くして、人生のおきてを体得する。美しさは力であり、そしてあたくしはキレイだと。





 あたくしの気分は最低最悪だった。

 今日はあたくしの15歳の誕生日。にも拘らず、どこぞの伯爵令嬢がイヤガラセであたくしを突き飛ばした所為で、鮮やかなオレンジ色のドレスは土にまみれて、結い上げた髪もぐしゃぐしゃになっている。

 勿論その令嬢はお返しにひっぱたいた上に足払いをかけて、地面をスライディングさせてやったけれど(令嬢は泣いてた。もろいわっ!)、とりあえずこんなドレスでパーティーにはいられないから着替えようと、敷地の裏道を走る。髪がさらに乱れるけれど、気にしないで植え込みを強行突破した瞬間、

「え…?」

「っ!??」

 絶対に人なんかいないと思った裏庭の道に立っていた青年とはちあわせた。ぽかん、とした青年を前に、あたくしは思いっきり凝固する。

(最低だわっ!!あたくしとしたことが、こんな場面を見られるだなんてぇぇえええっ!!)

「ああ…大丈夫でしたか?男爵家の…ロザリア、嬢ですよね?今日の誕生会の主役の」

「…っ…ええ」

 心の中で大絶叫していると、青年がとまどったようにあたくしを案じる言葉をかけてくる。ああっ、ばれているわっ、屈辱だわ!

「よかった…。でも、急に鮮やかなものが現れたから、花か光の妖精かと思いました」

「…っ?」

聞きなれた…むしろ、聞き飽きた類の賛辞。だけど、この場面には酷く不釣合いな言葉に、あたくしはぱっと顔を上げて、はじめて正面から青年の顔を見た。

 グレイがかった茶色の髪に、淡い…少し珍しい色の、緑の瞳。気弱そうで…けれど穏やかな顔に浮かぶ微笑は、「ホンモノ」だった。

(…っ…)

「な、何を言ってっ!あ、あたくしの格好がみえませんのっ?こんな、…ドレスも土だらけで、…髪も、ぼろぼろで」

「?ドレスも髪も、そんなに汚れていませんよ。それに、ほら」

 ふわり、と伸びた手が、あたくしの髪にほんの微かに触れる。そして離れた手には、小さな淡い緑の葉っぱ。

「どんな格好をしてようと、貴女自身が花束みたいだ」

「…っ…あなた…」

「アベルー?どこにいらっしゃるのー?」

 瞬間、響いた高く明るい少女の声に、青年はぱっとそちらを振り仰いだ。遠く、裏庭の出入り口付近に、金色の巻髪を高く結い上げ、ピンク色のドレスを着たあたくしより少し年上くらいの女性の姿が見えた。

そして、青年が少しすまなさそうに、こちらに振り返る。

「すみません。連れが呼んでいるので、これで失礼します」

「…え、ええ。失礼したわ」

「いいえ。それでは」

 何を言おうとしてたのかしらあたくし。気の迷いだわ気のせいだわむしろ錯覚だわ。

「ああ、ロザリア嬢」

「え?」

「アベル・カークランドから、ロザリア嬢に祝福を。誕生日おめでとうございます」

 ひらめくような笑顔と、静かな礼。そして、アベル・カークランドは真っ直ぐに、ピンクのドレスの少女のところへと歩いていった。後日、彼が豪商カークランド家の継男であり、一緒に居た女性が彼の婚約者であるシャルロッテという人だと、何かのあいまに聞いた。

 それは、とるに足らない小さな思い出。15歳の誕生日の、15分にも満たない小さな出会いだった。




 あたくしは年頃になり、ノワール侯爵家の妻として迎えられた。あたくしの家は男爵家で、本来ならつりあわない結婚だったけれど、あたくしの美貌をもってすれば、それも当然の結果だった。

 夫になったボードワン・ドゥ・ラ・ノワール侯爵は厳格な、重苦しい人だったけれど、美しく若いあたくしを妻としたことに満足して、あたくしの望んだものは何でも買い与えてくれた。

 嫁いで1年後に息子のレイが産まれ、その次の年にはクローディアが産まれた。二人ともあたくしに似て美しく、あたくしは充分に幸せだった。

 そうして何の不満も無くときは過ぎて、けれど、ある年のあたくしの誕生日、夫が事故で急死した。

あまり話すことはなかったとはいえ、突然の死にあたくしは呆然となった。悪いことは重なるもので、夫の急死後2月ほどして、夫の弟であり、新しく当主となった人が死んだことも重なり、あたくしは落ち込んだ。けれど、2週間もすると、あたくしはしっかりと未来を見据え、拳を固めて決意した。

「あたくしのこの美貌さえあれば、何処にだっていける!あたくしは美女!あたくしはキレイ!お金のうなっている男の妻か愛人になって左団扇で暮らしつつ、レイとクローディアを養ってあげるのよぉおおお!!だってあたくしはこんなにも美しいんですものぉぉぉおお!」

 あたくしの見事な未来設計は外れることなく、方々からあたくしにむけて、多くの求愛書がおくられて来るようになった。

 侍女たちは「愛人なんて失礼なっ」とか「あらこの方お腹が出てるわ」とか「ほらこの方美男子ですわーっ」とか煩かったけれど、あたくしが、「それで、この中で一番お金を持ってるのは誰なの?」と聞くより先に、侍女の1人が息せき切って室に駆け込んできたのだった。

「奥様ー!正妻になってほしいって話が来ましたよっ!!商人様ですけどーっ!」

「あらまぁ、商人如きが図々しい…」

「でもでも、王都組合会幹部の方ですからお金持ちですよ。えーっと、アベル・カークランド様?」

(アベル・カークランドっ!?)

「なんですってっ…!!??」

 聞こえた名前にあたくしは、椅子を蹴倒してその侍女に詰め寄った。微妙に怯えた侍女が伝えた情報は、アベル・カークランドの奥方が男と逃げ出し、彼が新しい奥方を探しているということだった。

『どんな格好をしてようと、貴女自身が花束みたいだ』

 頭をよぎったのは、平和そうな笑顔と平和そうな声。心が、決まった。―――理由なんか無いわ。美貌の主のみが持ちうる直感よ!いーのよ相手はお金持ちなんだから。

 侍女たちや、実家の人間は、商人に嫁ぐなんてと反対したけれど、あたくしにはどうでもいいことだった。それでもあたくしの可愛い子ども達の反応は気になり、それでもいいかと聞いてみた。

「勿論。おかーさまがそうしたいって思うんなら、俺に文句はないよ」

「――――いいんじゃない」

 きらめく笑顔とショッキングピンクなドレス(そういえば、レイが女装しだしたのはこのころだったわ)。めんどくさそうな半眼と黒いカーテンを巻きつけた姿で言われて、あたくしは決心を固くし、そうして、カークランド家に嫁いだ。

 嫁いだ先のカークランド家でも、何の不自由もない生活がまっていた。家のことは家政婦が何でもやってくれるし、アベルはあたくしの望んだものは何でも買い与えてくれて、あたくしの行動に干渉せず、穏やかだ。義理の娘であるスィリスも、嫁いだその日から「お母様、お母様」とまっすぐに懐いてくれて、何の問題もなかった。…そういえばあのばか娘も昔はもっと素直で可愛かったのよ!どうしたことかしら…っ。

 ――――――けれど、ああ、けれど。問題点が一つ。

 アベル・カークランドは妻になったあたくしに対して、一度も夫婦の関わり…夜の夫婦の務め、を求めてこなかったのだ。会話はする。一緒にお茶を飲むこともある。けれど、けれどあたくしたちは、本当の意味で夫婦ではなかった。

 そして恐ろしいことの、その状態は未だに継続中なのだ!

「どーゆーことかしらっ!?何が“君ののぞむようにして下さい。ロザリアさん”よ!!あたくしに…このあたくしに、女としての魅力が足りないとでもいうのかしらぁあああっ!?あたくしのこの引き締まった腰!豊満な胸!滑らかな肌が見えないとでも言うのっ!!?このあたくしに何の不満が…!!!!?」

『アベルー?どこにいらっしゃるのー?』

 その瞬間、頭によぎった人影に、あたくしはぶぅっと思い切り唇をとがらせた。シャルロッテ・カークランド。金の巻毛とエメラルドの目を持ち、スィリスと瓜二つの容姿をもつという人。アベルの妻であった女性。

(髪が巻毛じゃないのが問題なのかしらぁっ?それとも目が緑じゃないからとでも言う気!?)

 そうだわ!あのど鈍男に女の誇りを傷つけられたから、あたくしは珍しくもスィリスに意地悪をしてしまったのじゃない。…しかも全部失敗したし。

 ある時は、掃除洗濯料理をさせて、「お母様っ。そんなことできない私っ、わたしどーすればっ」って泣きついてきたスィリスの前で、「よくってよ、よくってよぉおお!」と慈愛満ち溢れる笑顔のあたくしが、この美しさによってエレガントに家事をやってのけ、スィリスに尊敬の眼差しで見られる予定だったのに、あっさり「わかりました」と言ってやりはじめ、それから嬉々として家事をこなしだした。…何故なの!?

またある時は、暖炉で灰をかぶっていたから、灰かぶり(シンデレラ)ってあだ名をつけた。予定では、「お母様っ。そんなあだ名なんて私っ、わたしどーすればっ」って泣きついてきたスィリスに、「よくってよ、よくってよぉおお!」と慈愛満ち溢れる笑顔のあたくしが、新たに、「アンブロシアヌジュリエークフォルカルロザモンド」、という、我ながらうっとりするほどハイセンスなすばらしい名前を授けてあげて、スィリスに尊敬の眼差しで見られる予定だったのに、あっさり「あーいいですねソレ」と受け入れられた。…何故なの!?

それもこれも全部あの鈍いこと山の如し男がいけないのよまったくっ…!

「あんっの唐変木おとこぉおおおおおおおおっ!!!!!!!!」

「わっと…大丈夫かい、ロザリアさん」

「何ようるさいのよあたくしの…って、―――アベル」

 大絶叫していたあたくしの背後の扉を開けたアベルが、にこ、と笑った。少し疲れたような、それでも平和そうな笑顔。

「―――――いつも引き篭もってらっしゃるくせに、いいのかしらっ?」

「うん。レイ君に、ロザリアさんが二日酔いだって聞いたから、心配で。…家政婦さんにグレープフルーツをジュースにしてもらったんだけど、飲めるかい?」

「―――――まぁ、飲んで差し上げても、よろしくてよ」

「良かった。はい」

 ガラスの器を受け取ると、アベルの顔が嬉しげにほころんだ。…何よ。普段は部屋から出てきもしないくせに。あたくしが二日酔いだからって…。あ、美味しい。

「おいし…」

「良かった。―――ああ、ロザリアさん、髪が広がってるよ?」

 煩いわねどうせ寝起きは爆発してるのよ頭が二日酔いでがんっがんに痛くてさっきまで寝てたのよしょうがないでしょう!!?…と、言う前に、ふわり、と伸びた手が、あたくしの髪を撫でて、背中に払った。

 少し屈めたせいで、直ぐ目の前にある目が嬉しそうに和む。

「ああ…。はじめて会ったときみたいだね。髪をふわふわにして」

「な…」

「やっぱり、貴女自身が花束みたいだね」


『どんな格好をしてようと、貴女自身が花束みたいだ』


「っ!!!うっ、煩いのよぉぉぅうううう!!」

「え?」

 ずべしっと、伸ばされた手を払いのける。

 何よ何よいい年こいて。大体今まで何にも言わなかったくせに覚えていたなんてそんなのそんなのこの唐変木男ぉおおおおお!!

「あぁぁあああああああ!!!もぉおぅうううううう!!」

 絶叫して、ぜーはーぜーはーと鏡台につっぷす。

ふわり、と、また髪を梳かれて、ぎろりと目だけ上げると、少し驚いたような顔をしていたアベルが、またも懲りずにあたくしの頭を撫でていた。

「だいじょうぶ?」

「………………まーねぇ」

 また、相手は笑う。今日一番嬉しげな笑顔で笑って、そうしてあたくしの頭を撫でる。さらさら、さらさら、微かな音がする。

(―――――――…諦めてなど、やる訳がないでしょう)

 いつか、今では無くてもいつか必ず、この男をあたくしの美貌の前にひざまずかせる。前の奥方ではなく、あたくしこそを見させて、あたくしを認めさせて、あたくしに触れたいと思わせて見せる。

 だって、このままでは不公平。あんなちっぽけな思い出一つを胸に抱き続けてきたあたくしが、馬鹿みたいではないの。だから、

「――――負けなくってよ…」

「?…ああ、うん。何だか良くわからないけど、頑張って」

 天然記念物級のど鈍男は、あたくしの決意に穏やかに笑う。


 それは、とある国のとある奥方の、とある穏やかな昼下がり。


 すみませんごめんなさい反省してます!だって本編が書いても書いてもラブのラの字も出てこないからつい!合間合間のストレス解消に書いていたら長くなっていました…。


 …思いっきり継母と父様しか出てきてません。需要はどこでしょうか。無いですねどこにも。…それでも書いたのでのせる貧乏性の作者ですみません本当に。


 ちゃんと、本編も、書きます!


 そして、お話の通り、お母様は実は父様が大好きだったことが判明しました。父様は気付いてませんが、兄様は気づいてます。主人公も本当にうっすらとは。クローディアは…どうなんでしょうね。気付いてても気づいてなくても我関せずでしょうが。


 そしてどうやら、主人公の口説き癖は父譲りだったようです。


 甘酸っぱくない話ですみません…。もし、もし読んでくださった方がいたら、ありがとうございました!

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