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第十一章 灰かぶり姫・言葉

 えーと、前書きなしとのことですが、「R指定小説取り扱いについて」、管理者様側からお知らせがありましたので、「灰かぶり姫」のそういった描写の取り扱いについて書いておきます。


 書くのも微妙な気分がしますが、えーと、ディープなキスとかは、書くことになると思います。ですが、いわゆるそういった行為(性描写)については、(ほとんどないか、もしくは)オブラートにつつませていただき、直接的な描写は行いません。なので、R15のままでこれからもタグを使用します。


 よろしくお願いします。

 すっきりした気分で、足音を弾ませながら廊下を歩く。

 さらさらと足首を包むシフォンのドレスも、耳元で揺れる最上級のガーネットのイヤリングも、胸元を飾る同じ石のネックレスも、この上なくわたくしに似合っていて、そしてそれがわかるから、思わず口元に笑みが浮かぶ。

 ああ、今日は本当にいい日だ。そう思って軽くステップを踏みかけた途端、ぐわしっと後ろから頭を掴まれた。

「ひーめーさーまー何をしてらっしゃいましたかのぉ」

「!?…ダールトン将ぐ…っいったー!!いたいいたいいたいいたいっ!!!」

 声でわかった相手を呼びかけて、頭を掴んだ掌がこめかみを押さえてぐりぐりぐり、とされ、あまりの痛みに悲鳴を上げる。

「まーったく、じぃが見ておらなんだら秘密にするつもりでしたじゃろうー」

「何の話よいたいいたいいたい痛いのよ!!離しなさいったらっ!」

「おっと」

 めちゃくちゃに暴れると、大きな掌は簡単に離れた。

 同時に振り返り、目の前にいた予想通りの人物…コルクナ・ダールトン将軍を、思いっきり睨みつける。

 この国の大将軍であるダールトン将軍は、わたくしにとって叔父か祖父のような存在だといってもいい。けれど、痛い!

「いったい何なのっ?ダールトン将軍!」

「愛情表現ですじゃ、ひめ様」

「こんな愛情表現があってっ?レディにこんなことをするなんて、無礼にも程があるわっ」

「いやーそれは仕方ないですじゃ。オシオキですからのぅ」

「おしおき…?何の話よ、わたくしはあなたにおしおきされるようなことなど…」

「スィリス・カークランド嬢のことですじゃー」

 即座に返った名前に、わたくしは反射的に片眉を吊り上げた。

 それは、わたくしのここ数日の不快感の原因であり、そして、わたくしが今日、上機嫌な理由でもある人間だった。

 数日前からお兄様が、個人的に呼び寄せているという理由を、近衛の1人を脅して聞き出した。それは、彼女がツェトラウス古語を自在に話せるからだと聞いたとき、わたくしは耳を疑った。

王族間の取引にだけ使われ、その存在を隠された言語、ツェトラウス古語。各国の王族は、その存在そのものを機密としてひた隠し、ツェトラウス古語の教本を、国家の宝として人目につかせることないように保管した。本当の意味で、至高の言語なのだ。

 けれど、各国には、王族だけでなく、ツェトラウス古語を扱う人間も存在する。王族に古語を教える教師となる人間は必要だから、ツェトラウス古語を研究、修練する、専門の「教授家」と呼ばれる学家が各国につくられた。

 そして、その役目をこの国で負うのこそ、わたくしたちイエーガー家の一族なのだ。けれど、イエーガー一族は先々代国王との確執で一時期王家の庇護を失い、その間起こった疫病、そして誰の手かはわからないままの暗殺によって数を急激に減らした。けれど、現国王陛下…つまりはお兄様のお父様との間に関係は修復され、見事、返り咲いた今、至高の言語を操るイエーガー家は、王族の次に気高い一族となった。そう、皇太子殿下であるレスト様を、「お兄様」と呼んで親しむほどに。

 ―――――けれど、わたくしたちが確執の間に、失ってしまったものがある。それが、ツェトラウス古語の発音の知識なのだ。お父様お母様もすでになく、イエーガー家直系のわたくしにさえ、それは伝えられていない。なのに、発音できる人間がいた…?

 焦ってのぞき見た先で、当たり前のようにお兄様とツェトラウス古語で会話し、説明をする人間を見たときには目の前が真っ暗になった。

(何故?どうしてっ?わたくしが話せないのに、わたくしはたくさん頑張ってるのにっ!)

 お兄様…レスト様が少し発音をなされることは知ってたけれど、でも、それはお兄様が天才だからだ。 王族として立たれている気高いお兄様なら、話せても当たり前。王族間の取引には、各国の教授家の当主は顔を隠して同席し、それを補佐するけれど、わたくしにはそれがちんぷんかんぷんでわからない。なのに、立派にやられているすばらしい方なのだから。だから、わたくしは大家として恥ずかしくないように、美しく着飾ってお兄様のすばらしさを教えて差し上げるのがつとめだったのに。

(なのに何故、庶民ごときがはなせるのっ!?)

 怒りにかられて、裏庭を呑気にあるく相手を引きずりこんで、問いただしていた。

 スィリス・カークランドは、レイの妹とは思えないくらい地味な子だった。…まぁ、義理の妹だというから、あたりまえのにかもしれないけど。

 地味な髪の色。地味な服装。明るくて優しくて親切でお洒落で、はじめて会ったときから大好きなレイとは大違い!それに、あの澄んだ若葉色……いいえ違う。つまらない緑色の目でこちらを見据えられると、なぜだか胸がざわざわする嫌な子だった。庶民のくせに、何でわたくしにへつらうことをしないのよって、腹が立った。

 けれど、話を聞くうちに、その苛立ちはどこかに飛んでいった。

 スィリス・カークランドは、自分の発音を天性だといった。それは、何も努力せずにそこにいることを意味していた。だったら、「完璧」っていったって、どうせたかがしれてるに決まっているんだから。だから、聡明なお兄様はそれに直ぐ気付いて、この子はすぐにいらないと仰るに決まっていたからだ。

 折角だから、「身の程をわきまえなさい」と、親切に忠告もしてあげた。氷みたいに凍った顔していたのは、やっとホントウが見えたからだろう。

 聡明で気高いお兄様と、優しくて格好良いレイのそばにいるのにはわたくしが相応しくて、そして、あの子は分不相応なんだってことが。

 だから言ってあげたのに、おしおきされるいわれはない。―――――ない…それは、ちょっと言い方がきつかったかもだけど、そもそもあの子が悪いのだし。

「こっそりお話を聞いたのは悪いとは思うけど、だってきになったのだもの」

「じゃなくてですのぅ、なーんであんな酷いことをおっしゃるのですかのぅ」

「酷い?親切に教えて上げただけじゃない」

「ひめ様、じぃがしとるのはそーいう話ではなくてですのぉ」

「何よ、あんな子に、わざわざ、身の程というものを教えてあげたのよ?むしろ感謝してほしいくらいだわ」

「姫様」

 瞬間。呼び方は同じはずなのに、反射的にびくついて、ダールトンの顔を見上げる。そこにあった「将軍」としての顔に、知らずに顔が凍りついた。

「―――わしが言っても聞いていただけないようですの。…仕方がありません。殿下にご報告申し上げます」

 小さな溜息と一緒に言われた言葉に、ざっと血の気が退いた。

「なっ…!やっ、止めなさいよ!わたくしは何も悪いことなんて…!」

「そうお考えならば、言っても問題ないですじゃろ?」

「…っそれは…」

 そう、わくしは悪いことなどしていない。なのに何故か勝手に血の気がひいて、心臓が痛いような音を立てて鳴る。

「とっ、ともかく、止めなさい!命令よっ!」

「嫌ですじゃー。さー殿下に叱ってもらいますぞひめ様―」

「なっちょっと離しなさいったらダールトン将軍!!」





「…アナマリア」

 ダールトンから報告を受けたお兄様は、片手で額を押さえて、深く溜息をつき、低い声でわたくしを呼んだ。

 無理矢理お兄様の執務室までつれてこられてダールトン将軍は出て行ってしまい、それだけでも居心地が悪いのに、大好きなお兄様は何故だか怒っているみたいで、余計に緊張する。

「は、はい。お兄様…」

「盗み聞きはこの際置くとして。――――彼女が…スィリス・カークランド嬢が僕の客人だと言う事はわかっていたね?なのに何故、彼女を侮辱するような真似をしたのかな?」

「ぶ、侮辱などしていませんわっ!わ、わたくしは、ホントウのことを…」

「何が、“ホントウ”なのかな?」

 すぅ、とお兄様の紅茶色の目が細められる。それが怖くて、わたくしはおもわず言いつのった。

「だっ…だって、あの人がツェトラウス古語を話せるのは天性なのでしょう!?だったら、それは努力してないってことで、お兄様やレイのそばにいるのは身の程知らずってことでだから忠告してあげただけ…」

「―――不愉快だから止めてくれるかな?」

「…っ」

 中断した声の低さに、思わず一歩後ずさる。そして、顔を上げたお兄様の目は、わたくしの見たことのない色をしていた。

「――――彼女は努力をしているよ」

「…で、でも何となくで発音したって…」

「彼女がどんな言語でも、文法さえ理解すれば発音出来るのは、何となくじゃない。―――例え本人がそう思い込んでいても、何となくでツェトラウス古語の難解な発音が出来る訳がない」

「でも…っ」

「彼女が発音出来るのは多分、文法からその語の法則を見極め、パターンに当てはめるからだよ。その法則を見極める能力が他よりずば抜けている…天性と言ってもいいものだとは認めよう。…だけどね、それを行うためには、文法の完全な理解が不可欠なんだよ」

「―――文法の完璧な、理解…?」

「そう。そしてそれは、天性なんかじゃない。血の滲むような努力の果てに、彼女が自力で得たものだ」

 ―――――何、それ?血の滲むような努力。自力で?

 そんなの、だって、そんなの。わたくしは…。

 お兄様が、苛立ちを殺すように深く、もう一度息をついた。

「―――――――僕は君たち一族は王家の犠牲者だと認識している。だからこそ君が、ツェトラウス古語の研究をせずに、ドレスを着たり、夜会を好むのも構わないと思っていた。…君を妹のようにおもっているのも本当だしね。…けれどね、アナマリア。人を不当に貶める振る舞いはよすんだ」

「でもっだって!あの子は否定しなかったもの!!」

 言って、はっとする。そう、そうだ。お兄様の言うことが事実なら、スィリス・カークランドはわたくしの言葉を否定したはずだ。なのに、一言も反論しなかったのは、むしろ、刺されたような顔をしていたのは、わたくしの言葉こそが本当だからで、

「それは、その“血の滲むような努力”も、彼女の中で、努力としては数えられていないからだろう?」

「…え…?」

「どれだけ努力しても、頑張っても、まだ足りない。まだ足りない、と自分を追い詰める。それが僕がレイ・カークランドから聞いた、そして僕が会話をしたスィリス・カークランドだよ」

 自虐的、後ろ向きといえばそうだけれどね、と続いた言葉に、声もなく息を呑みかけ、言い返す。

「っ…だけど、お兄様やレイの前ではいい子のふりをしてるだけかも…」

「“自分自身の義務も果たさず、ただ権利ばかり求めて、他人を批判する人間は最低”」

「…?」

 不意の耳慣れない言葉に眉を寄せると、お兄様は静かに、続けた。

「君が慕っているレイ・カークランドの言葉だよ。彼はそうした人間が吐き気がするほど嫌いだそうだよ。…この場合、君と彼女のどちらに、この言葉はあてはまるのかな?」

「…っ!」

 言われた言葉を理解するのと一緒に、お兄様に退出のゆるしもえず、わたくしは執務室から駆け出した。


(ひどいっ!ひどいひどいひどいっ、お兄様いつもお優しいのにっ!ダールトン将軍も、…レイも…!あの子ばっかり!わたくしはちゃんと頑張ってるのに!わたくしにあんなひどいこと言うなんてっ)


 全力で走りながら、頭を駆け巡るのはそんな言葉ばかり。走って、走って、幾度もつまずきながらそれでも走って。そして自分の部屋に飛び込んで、ベッドに突っ伏す。

「――――アナマリア様っ?どうかなさったので…」

「うるさい!出て行って!」

「ですが…」

「でていきなさいっ!命令よ!!」

 耳障りな侍女の声に叫んで、手もとにあったクッションを投げつける。数拍の間を置いて侍女達が退散していき、静かになった部屋で叫ぶ。

「ひどいっわたくしはこんなにがんばってるのに!ひどいわひどいわ!あんな酷いこと言うなんて、わたくしはがんばってるのに!!」

『それは、その“血の滲むような努力”も、彼女の中で、努力としては数えられていないからだろう?』

「…っ…!」

 不意によみがえった声に、羽毛布団に顔をこすりつけた。

『…この場合、君と彼女のどちらに、この言葉はあてはまるのかな?』

「違うものっ!」



 本当は、わかっている。ツェトラウス古語の読み書きは出来るとはいえ、まともに研究もせず、お兄様のように発音を聞き取ることもしないで、綺麗なドレスを着て綺麗な宝石をつけて…。お兄様は1人でちゃんと出来るからと、その言葉を盾にして。

 イエーガーの気高い家といいながら、その当主としての「努力」をしてないのは、誰なのか。誰が、レイの言うような、「最低」なのか。

「―――――ちがうもの…っ」

 掠れきった情けない声が、部屋に、落ちた。







 とぼとぼとぼとぼと大通りを歩きながら、私はふかく溜息をついた。

 まだ、正直胸が痛い。ずきずきする。

(何時までひきずってるんだろ、私…)

 もう、気にしていないと思っていたのに。悩んでばかり、沈んでばかりは止めようとして…なのに。

『じゃああなた、何一つ努力せずにそこにいるんじゃない』

 人からの言葉に簡単に揺れて、落ち込んで、立ち上がれなくなる。それに何より、もっと考えるべきことがあるはずなのに、投げ出してしまっている。これはいい加減で、無責任な行動だ。

(せめて、考えなきゃ)

 私は考えることしか出来ないのに。

(アナマリア様の言ったこと、ちゃんと)

 考えることすら出来ない私に、意味なんかないのに。考えなくちゃ考えなくちゃ努力しんくちゃでないと、

『あなたなんか、やっぱり必要ないのだわ』

 いらないって、言われてしまう。

「…おい…」

 えーと、アナマリア様はイエーガー家の方で、それで、

「…おい…?」

 この国ではツェトラウス古語を唯一あつかう一族、だから…、

「おいガリべ……じゃなかったカークランド!」

「…!」

 呼ばれた名前にではなく、むしろ、大きな声に驚いて振り返った先に見つけた姿に、反射的に顔面に引きつった。

 短く刈った鳶色の髪に、たくましい体。じゃらじゃらとしたネックレスは外し、シンプルな上着姿は見慣れないけれど、見間違えられるはずもない。…むしろ見間違えと言うことにして流して視界から消したいたい気はするけど。…と言うより、私が消えたい。丁度今心情的にそんな感じだし。

 うん、軽く消えたい。神様もしいるのなら、何でこんな元気もやる気もまるでない時に、物凄く会いたくない人とあわせるのでしょうか。

「えー…」

「えーっておい」

 前回の言い過ぎを反省したので「げ…」は自重する。自重するけど、

「はー…」

「溜息つくんじゃねぇ溜息!このぶす…じゃねぇ!!」

 何だこの人。さっきから微妙に挙動不審なのだけれど。

 それはともかく、

「…ベアール…」

「な、何だよ」

「――――すみませんが今余裕がないので放っておいてもらえますか」

「は?」

 もう何と言うか今は彼に構っている精神的余裕はまるでない。きっぱりさっぱり、無い。

 取り敢えず言うべきことだけ言って、くるりと踵返して競歩な勢いでベアールから離れる。正確には、離れようとした。

「ちょっと待てよ!」

「いた…っ」

「あっ悪ぃ!!」

「………へ?」

 容赦ない力で腕を掴まれた時は、正直「またか」と思ったのだけれど、そこからが意外だった。痛みに反射的にあげた声に、ぱっと腕が離される。

 ……ベアール、何か、変わっただろうか。

「…何かありましたか、ベアール」

「いやちょっとあいつに叱られ…じゃねぇ諭され…?いやちげぇ忠告…も何だかムカつくし…」

 …何なんだ一体。そもそも誰だろうかあいつって。

「あーうーともかく!ちょっと座れ!」

「…はぁ…」

 指でしめされて、抵抗する気もおきず、大通りぞいのわき道の階段に腰掛ける。普段なら絶対に断るけれど、今日のベアールは何かいつもと違った。

 …そういえば、じゃらじゃら飾りをつけてないだけじゃなくて、今日は髪もきちんと整えている。…仕事、中だったのだろうか…。

「―――なぁ、どうしたんだよっ?」

「へ…?なにがです?」

 思考を中断された声を聞き取れなくて聞き返すと、ばっとベアールがこちらを向いて叫んだ。

「だからっ、んな辛気臭ぇツラしてんのは何だってんだよ!」

「…っ…いいえ、なんでもないです」

「なんでもないってツラじゃねぇだろ!」

 一瞬息を呑んで、それでもしぼり出した声を即座に否定されて、言葉に詰まる。だって、自分でもわかっている。自分が今、どれだけ情けない顔をしているのか。私は本当に、本当に弱くて。

 気付けば、口からかすれた声が出ていた。

「―――――あのー、ですね、ベアール」

「ああ?」

「その、私は…努力できていない、ですよね…」

「はぁっ!?」

 「努力できてないですか?」と聞くつもりが、断定形になった。だって、知ってる。

 先ほどの女の子…アナマリア・イエーガーと名乗った方の言葉が痛かったのは、それが本当だったからだ。私は、自分が努力を全くしていないとは思わない。けれど、レスト様や兄様。それにきっとアナマリア様に比べたら、全然、努力できていない。

 本当のことを言われて落ち込むなんて、私は。

「馬鹿じゃねぇーの!?できてるもできてねーも、お前努力ばっかりじゃん!」

 けれど、呆れ返ったような大声に、反射的に顔を上げていた。

 アホかこいつ、という感情を全面に出したベアールが、嫌そーに顔をしかめる。

「お前いつでもどこでも勉強だーってほんとにガリべ…じゃぁなかった!…勉強してばっかだし、家事してばっかだし。…正直時々アホじゃねーかと思うぞ」

「あ…ほ…」

 ぽかん、と、間抜けに口をあけて、固まる。私は、ちゃんと…。ほんの、ちょっとでも努力できて…?

 そして、ゆるんだ口から、望みがもれた。

「――――私、私は、…兄様のそばにいたいんです」

「……はぁっ!!?」

「兄様やクローディア姉さまやお母様や、父様のおそばに…」

「…………………………………あ…あーそーいう意味かよ…」

「そういう?」

「いや何でもない!!」

「……そばに、いても、いいのでしょうか…」

 こんな、私でも。

「…っとに馬鹿だなお前!!あのなお前っカークランド!!」

「…は、はい」

「―――――お前はいていいに決まってんだろーが!!お前はあそこの娘で、…ムカつくけどすっげームカつくけど!レイ・カークランドの妹だろうが!!努力してるとかしてねーとか、お前ほんっとにアホじゃねーの!!?」

 単純な、言葉。乱暴な、言葉。けれど、力のある、言葉。

「―――そう、かな」

「かなじゃねーっつの」

「―――――――そう、だね」

 私は、兄様の妹だ。努力とかではなくても。そして、努力をするのは、私がそうしたいからだ。兄様や父様やお母様やクローディア姉さまや、レスト様…私が尊敬する人たちに、恥じない自分でありたいから。

 努力をするのを誰かの「せい」にするな。私は、私のために、私がそうありたいから、努力するんだ。過去のことも、何も、関係ない。ベアールが今言ってくれたように、今までの“私”がそうしてきたように。

「…よし…」

 すべきこと、やらなきゃいけないこと、取りあえず、それを片付ける。それが出来なくては、それこそ兄様のそばにいることも、レスト様に協力することも、私は私に許せない。

「とりあえずは、夕食準備かな」

 丁度時間的にも帰らないとまずい…。そう思った瞬間、りーんごーんと鐘が鳴った。それは、5時を報せる時計塔の音。………うん、本気で帰らないとまずい。

「ベアールすみません私ちょっと帰らないとまず…」

「うわやっべぇ!!遅れたらくそ親父にまた怒鳴られる!」

 私が言葉を言い終わるより先に、がばっと立ち上がったベアールが駆け出して行く。一瞬呆気にとられた後、そのあまりの走りっぷりの良さに吹きだした。それと同時に、はっと気付いて急いで声を上げる。

 言い忘れていた。大切なこと。叫ぶことはあまりないけれど、気付かせてくれた彼に、言葉を、届けなければ。

「ベアール!!」

「――――あぁっ?」

「このあいだはごめんなさい!それと、今日は本当にありがとう!」

「……………………は…?」

「あなたに、心から感謝します!ありがとうベアール!!」

 精一杯叫んで、そして、振り返ったベアールに大きく手を振る。そして今度こそ、私も自分の家に帰るために、ベアールに背を向けて駆け出した。





「―――――やっべぇ…はじめて笑いかけられた…っ」

 少女が駆け去ったあと、1人の青年が、大通りの真ん中で耳まで真っ赤になって座り込んでいたのは、秘密の話。







 うーどんどん遅筆になってる気がします作者…。すみません見捨てないで下さいーー一!!!


 そして、はい、アナマリアが叱られました。王子は妹分にも容赦がありません…いえ、これでも一応容赦してます、多分。


 そしてあの人こと当て馬☆ベアール君です!----自分で言うのもなんですが男っぷりが(多少)上がりましたね彼。ところどころおまぬけですが、そこはご愛嬌。もうくっつく相手ベアール君でもいいんじゃない?とか思ってます作者。だって腹黒じゃないし。アホだけど。


 そしてそして、次回はアナマリアの救済…できるかなー?したいなー。と思っています。読んでくださるとうれしいです!よろしくお願いします!


 最後になりましたが、感想、お気に入り、本当にありがとうございますー!!

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