下着泥棒から始まる不器用な求愛
土曜の朝、一人暮らしの会社員・賢介が目を覚ますと、何やら家の中が無残な有様になっていた。
「う、うわっ!?なんだこのパンツだらけは!」
リビングから寝室に至るまで、男物の下着が散らばっていた。誰かに室内に侵入され、下着を取り散らかされたらしい。
賢介は慌ててパンツを拾い集めながら、警察に通報した。容疑者の手がかりは全くなかった。
「被害届けを受理いたしました。捜査の過程で、何か分かり次第ご連絡します」
そう言われながらも、賢介は納得がいかなかった。こんな異常な事件の背景に疑問を感じていた。
数日が経過し、平穏な日常が戻りかけたある日、賢介の職場のロッカーに一通の手紙が届いた。
「あなたの下着姿に、私は生きる活力を得ています」
差出人の名前は記されておらず、ただその熱い想いだけが綴られていた。賢介はこの謎めいた手紙の出所に頭を悩ませた。
そんな矢先、部下の三沢から相談があった。
「実は、僕も昨日似たような手紙を受け取ったんです」
三沢が差し出したのは、先ほどの賢介あての手紙と同じような類のものだった。
「この筆跡…どこかで見たことがあるな」
ふと、賢介は頭に浮かんだ記憶があった。それは、かつての職場の同期だった詩穂の筆記体に酷似していた。
詩穂はフリーターとして好きにしたいことをして生きる自由人で、賢介のことが片思いだったのは周知の事実だった。
賢介は詩穂の筆跡を思い出し、彼女が下着泥棒の可能性に心を乱された。
彼女がこんな大胆な方法で自分の注意を引こうとしたとは、考えもしなかった。
その日の夕方、賢介は深く考え込んだ末、詩穂に直接会う決意を固めた。彼は詩穂の住むアパートを訪れ、ドアを叩いた。
詩穂がドアを開けると、賢介は迷いながらも問いかけた。
「詩穂、どうして私の部屋に来て、私のものを勝手に持っていくなんてことをしたんだ?」
詩穂は泣きながら賢介に詫びた。
「ごめんなさい、私ってばホントおバカなんです。でも賢介さんのことが大好きで…少しは気付いてくれると思って」
しかし、こうした露骨な下着泥棒は行き過ぎだった。
「詩穂、そういう真似は二度とご遠慮だよ。あまりにも度が過ぎる」
賢介は強く注意をするが、最後に思わず口を滑らせた。
「でも、お前がそこまでして欲しいと思ってくれたことは嬉しかったよ」
そう言うと、詩穂は賢介の腕の中に宿り、安堵のため息をついた。下着泥棒の目的は、確かに求愛にあった。
この出来事を期に、詩穂と賢介は付き合うことになった。
同僚の美代子は「不器用な2人ゆえの痴話ゲンカだったね」と冷やかしながらも、2人の恋路を喜んでいた。
数年後、詩穂は「賢介の部屋で拾った下着を、たくさん自宅に持ち帰っていました」と打ち明ける。
それらは2人の初めての思い出の品々だったのだ。
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