ロマンスと紅茶から学ぶ礼儀作法
うららかな午後の昼下がり、王立貴族学園のカフェテラスでは学生たちが友人や婚約者との時間を楽しんでいた。
気軽に市井へ出る事の叶わない上位貴族の利用が主であるためか、高級志向で下位貴族には敷居が高めであるためか、伯爵家以上の子女の姿が多い。
もちろん、上位貴族に連れられた下位貴族の子女が同席しているテーブルもあるが、その中でも異彩を放つテーブルが一つ。
「アル様、これすっごいおいしい! こんなの初めて、しあわせ~!」
「はは、気に入ったなら良かった。こちらもブリアナの好みだと思うよ」
「わぁ、ほんと!? 食べたーい!」
テーブルに広げられた各種スイーツにも負けない甘い声をカフェテラスに響かせ、愛らしい顔を綻ばせてケーキを頬張る少女は二年ほど前にとある男爵家の養女となり、昨年この学園へ入学してきた。
そして彼女の向かいでスイーツに負けずとも劣らぬ甘い笑みを浮かべるのが、何を隠そう、王国の王太子たるアルフレッド第一王子殿下その人である。
次期国王として申し分ない知性と人格を備え、武勇にも優れた成績を修める彼は、当然のごとく市民からの評判も良い。
ただ、婚約者である公爵令嬢や側近たちが頭を悩ませているのが、彼の少しばかり趣味である観劇や物語に感化されやすい面であった。
ある時は冒険譚を読んで自分も主人公のように世界を見て回りたいと言い出し、推理小説を読んだ後はしばらく何かにつけ事件性を見出そうとし、異国の物語に傾倒しては私財を注ぎ込んで原書を輸入する。
そんな時、婚約者や側近たちは世界を見て回るには体力が必要と剣の修練を勧め、探偵ならば人々から必要な情報を聞き出すための交渉術が必要と諭し、言葉だけでなくその国の習慣なども知る事でより物語への理解が深まると近隣国家の社会情勢を学ばせた。
そんなアルフレッドが現在傾倒している作品が恋愛小説であると言えば、詳細な説明は不要だろう。
アルフレッドは満足していた。
心地よい日差しと咲き誇る花々。芳醇な紅茶の香りとテーブルいっぱいに並べた、宝石のように美しいスイーツたち。そしてそれらに囲まれ、愛らしい顔に満面の笑みを浮かべて喜ぶ恋人。――先日読んだばかりの小説にあったカフェデートの風景を完璧に再現している。
小説は見習い騎士と子爵令嬢の話だったので市井のカフェでのお忍びデートだったが、残念ながら王太子であるアルフレッドは早々市井へ降りる事ができない。そのため、仕方なく学園のカフェでの実行である。
最も、小説の二人は想い合ってはいるものの身分差もあって恋人同士ではなく、カフェデートも偶然が重なったもの。会話も少なくただただ初々しい空気がページからあふれていた。
すでに恋人同士であるアルフレッドとブリアナには当てはまらないが、そこは数多くの作品を読み込んだアルフレッドである。基礎の詰め込みができていれば、応用など容易いものだ。
「それでね、その子ったらこーんな大きな花束をもらっていたのよ! こぉーんな!」
ケーキを頬張りながら自身の見た花束の大きさを身振り手振りで伝えようとするブリアナ。広げた手が声に合わせて大きく円を描きテーブルを揺らすが、伝えるのに一生懸命な彼女は気付いていない様子だ。
そんな幼気な様子も可愛らしく、アルフレッドは理想のカフェデートを再現できていると満足である。
「それはすごいね。ブリアナの好きな花で負けないくらいの花束を贈ろうか」
「きゃーっ! さっすがアル様、素敵すてき! あたしそんなのもらった事ないわ、うれしい! 楽しみにしてるっ!」
自分の言葉一つでコロコロと表情を変え、手を叩き跳ねるように全身で喜びを表現する恋人に、アルフレッドの笑みは深まるばかりだ。
周囲の学生たちがこちらを窺い見る視線も、物語の恋人同士そのものな自分たちを羨むものだろう。
もちろん、アルフレッドとて次期国王としての分別はある。
ブリアナとの恋人関係は学生の間だけのものと婚約者にも側近にもあらかじめ告げてある。
彼らはアルフレッドが恋愛小説に傾倒し始めた頃からこうなると予測していたのか、ブリアナを紹介すると呆れたような顔でため息をつかれたが、それだけだった。
王太子としての務めも、婚約者としての務めもきちんと果たしている事は彼らも理解してくれており、いわばこれは恋人ごっこだ。アルフレッドの理想とする物語を演じるごっこ遊びである。理解ある婚約者と側近たちには感謝しかない。
(可愛らしい恋人との仲睦まじいデート……完璧だ。)
自身の思い描いた通りの演出にアルフレッドは満足していた。
「アル!」
不意に声をかけられてアルフレッドは思わず眉を寄せそうになった。完璧なこの場を崩す闖入者だが、王太子としての体面と、その声に聞き覚えがあったので表情を崩すことはなかったが。
「クリスじゃないか、久しぶりだね。いつ戻ってきたんだい?」
声の主はアルフレッドの友人でもあり、隣国との国境を守る辺境伯家の嫡男・クリスティアンである。
彼は溺愛する妹に持ち上がった婚約話のため、一年ほど前から実家のある辺境伯領へ戻っていたが、いつの間にか戻ってきていたらしい。
久しぶりの友人との再会をうれしく思うと同時、アルフレッドはブリアナを紹介し、この完璧な”仲睦まじい恋人同士のデート”を友人に自慢したくなった。
「先週戻って来たんだが、学園に戻るのは来週以降になりそうだ。
そんなことより妹を紹介させてくれ、我が妹のディアナだ!
まだ五歳だが中央の侯爵家へ嫁入りが決まって、来年から初等部へ入学予定なんだ」
鍛えられた肉体を窮屈そうに制服に押し込めた彼は、長身も相俟って一見粗野にも見える。しかし有事の際には公爵家以上の発言権を持つ高位貴族の次期当主として相応しい、優雅な所作で後ろに隠れていた小さな少女をエスコートした。
クリスティアンの後ろから現れたのはまだデビュタント前の小さな少女だった。初等部入学前なので制服ではなくデイドレスを身につけている。少しばかり型が古いのは、流行の最先端である王都と辺境伯領との距離のせいだろう。
そんな田舎から出て来たばかりといったあか抜けない少女に、ブリアナは小ばかにしたような笑みを浮かべてテーブルの上のマカロンを口へ放り込んだ。
「お、王国の若き太陽に、辺境伯家が長女、ディアナが、ご挨拶、もうしあげます……」
たどたどしく、最後は少し噛んでしまったのが恥ずかしいのか、頬を染めたディアナが慌ててカーテシーをする。慌てたせいで少しぐらついてしまったが、それでも彼女が将来有望な淑女であると思わせるにはじゅうぶんだった。
そういえば、今でこそ淑女の鑑と言われて令嬢たちの手本とされている婚約者も、初顔合わせをした五、六歳の頃はこのように初々しく、練習中のカーテシーを披露してくれた。
会うたびに磨き上げられていく彼女の所作に、婚約者として誇らしく、自分も負けてはいられないと鼓舞されたものである。
「丁寧な挨拶をありがとうございます、レディ」
小さな淑女への礼儀としてアルフレッドも席を立ち、手を胸に当てて返礼する。
顔を上げたディアナは自身の失敗を恥じて悔し気に唇を噛んでしまっているが、それでも彼女の年齢を考えれば貴族のご令嬢としては合格点だろう。むしろ向上心があり努力家な面が見えて好ましいとすら思える。
「見たかアル! 淑女教育を始めてまだ一年にも満たないのにうちのディアナは可愛らしいだけでなくこの歳でマナーまで完璧なんだ!」
「クリス……相変わらずだね」
「お兄様……恥ずかしいのでやめてください……」
声も高々にクリスティアンが最愛の妹を褒めちぎる。休学前から変わらぬ友人の様子に、アルフレッドも苦笑するしかない。
当の本人は妹に窘められても気にしていない、というよりさらに喜んで破顔する有り様である。構われて喜ぶ大型犬に見えてきた。
「でも確かに、お若いのに素晴らしいです。大変努力なさっているのですね」
「ありがとう存じます、王太子殿下。お兄様や婚約者様のため、今後もしょうじんしてまいります」
まだまだ未熟な点はあれど、年端もいかない少女の努力が窺えるカーテシーに、アルフレッドは理想のデートを邪魔されたことも忘れて心からの賛辞を贈った。
これまでの努力を認められたディアナも、ようやく頬を緩めた。もちろんそれを見たクリスティアンが可愛い! と声を上げる。
「聞いたかアル! 家門や婚家のことを考えて振る舞えるなんてうちのディアはやはり才媛なのでは?! ああ、やはり嫁になど出したくない……ディアはうちの家宝だ、末代まで崇め奉るべきだ、そうだろう!」
その家宝の努力を無に帰す勢いである。
ディアナが困り果てたようにアルフレッドと周囲、そして最後に兄の顔を順番に見て、恥ずかしそうにうつむいてしまった。
クリスティアンのシスコンぶりは今に始まったことではないが、このように衆目のある中で声もひそめず、というのは初めて見る。
領地から初めて出てきた妹を案じ、守ろうとしているのだろう。少しばかり声の調節がおかしい気もするが。
ふと、アルフレッドは思い返す。
ディアナは五歳で、一年ほど前から淑女教育を受け始めたばかりだという。
紹介するタイミングがなく、すっかり静かになってしまっているブリアナを見れば、テーブルに頬杖をついて指に巻き付けた毛先を眺めていた。
どうやら自分が話に入れないと感じ、飽きてしまったらしい。
彼女は二年ほど前に男爵家の養女となり、その頃から淑女教育を受けている……はずである。
果たして自分は、ブリアナのカーテシーを見たことがあっただろうか?
いや、自分たちは恋人なのだから、かしこまって挨拶する必要はない。
ただ、初対面の時も、側近たちに紹介したときも、と思い返すごとに内心で首を傾げてしまう。
ブリアナが挨拶をする時、だいたいいつも遠くからアルフレッドの名を呼び、大きく手を振って飛び跳ねるように駆け寄ってくる。
自分に会えてうれしいのだと全身で表現する彼女を小動物のように愛らしいと思っていたが、貴族女性が大きな声をだしたり走ったり、というのははしたない行為だ。
アルフレッドの側近や友人に、恋人として紹介したときには一応かしこまった仕草を見せてはいたが、ぺこっと頭を下げて「ブリアナです、よろしくお願いしまぁーす」と花開くような満開の笑顔で挨拶をしていた。
あれらは平民の挨拶であり、貴族が取るべきものではない。
恋人に対してはまぁ、親愛や愛情表現と思えば……学生、いや……うん、未就学の幼い子であれば、貴族もする……かな? となんとか自分を納得させる。
しかしアルフレッド以外への挨拶は、となるとこれはちょっとフォローが難しい。というか、アルフレッドには説明ができない。
基本的に王国における貴族間での初対面の挨拶は、目上の者から下の者へ声をかけるところから始まる。ブリアナの場合、アルフレッドが紹介をしているのでこれは当てはまらない。
しかし、王太子が紹介をしたとはいえ、男爵令嬢であるブリアナは貴族社会では基本的に一番下の階級であり、アルフレッドの側近たちはほとんどが伯爵家以上の家の子息たちである。
となれば、目上の者に自身を知ってもらうためにも、初対面では必ずどの家門の人間であるのかなど、決まった口上というものがある。
もちろん、どんな爵位の家の子であっても真っ先に習うマナーの基本である。基本……のはずである。
そういえば、一緒にお茶や食事をしていて、ブリアナの笑い声や話しが途切れることがない。本来、食べながら話すのはマナー違反だ。
ブリアナが見たもの、感じたことをアルフレッドと共有したいのだと思っていたが、その割に彼女はアルフレッドがその話を聞いてどう思ったか、アルフレッドならどうするか、と言ったことには興味がないようだった。
甘い物が好きな所も可愛らしいが、溶けきらないほど砂糖を入れた紅茶はちょっとどうなのか。
砂糖は流通しているとはいえ、まだ庶民には手の出しにくい価格設定の調味料だ。貴族ならば手に入れやすいが、だからと言って過剰に使うのはあまり品の良い行為ではない、というのがアルフレッドの感覚である。
あと、単純に甘いケーキと甘い紅茶では胸やけしそうだ。
テーブルマナーも曖昧なようで、カトラリーの順番はまちまちで、よく皿とぶつかり音を立てる。
肉を切るときはナイフで皿を引っ掻き、タルトは欠片を皿の外まで飛ばす。そんなときブリアナは気にした様子はなく、切るのを諦めてフォークを突き刺し、齧り付いていなかっただろうか。
口の周りにソースやクリームをつけ、おいしいとはしゃぐ姿は子供のように無邪気で可愛いと思っていたが、目の前のディアナ嬢(五歳)はしなさそうである。
婚約者も幼いころのお茶会では多少の失敗もしたが、同席者への礼を忘れたことなどなかった。
ブリアナの明るさや人懐こさ、飾らない姿を素朴で純真と好意的に見ていたが、一つ気が付けばふとした瞬間に感じた違和感や不快感が思い出されてきた。
物語のような理想の恋人同士を演じることに夢中だったアルフレッドは、その一つ一つを些細なこととして気付かないふりをしていたが、改めて意識してしまうとどうにも気になって仕方がない。
確かに細かなマナーなど難解で面倒なこともあるし、アルフレッドとて私的な食事くらいは気楽に楽しみたい。
だが、他の客や店への配慮をないがしろにしても良いという事にはならないし、何よりも同席していてちょっと恥ずかしい。
「クリス……君の妹、幾つになったと言ってたかな……?」
「うん? 五歳だと言っただろう。まぁ同年代と比べてもディアは……」
「もうやめてください、お兄様。この程度のことが出来なくては、私を連れるお兄様や婚約者に恥をかかせる事になるのですから、当然のことです!」
あれ、私の恋人、五歳児以下……?
「婚約者のため、と言うのは面白くないが、努力を惜しまないところもディアの美点の一つだ。
そんなわけでアル、一つ頼みがあるんだが聞いてくれないか」
「えっ、ああ、うん……なんだい?」
衝撃の事実に一瞬呆けてしまっていたが、クリスティアンに呼ばれて慌てて意識を目の前の辺境伯兄妹に戻した。
今はブリアナのことは考えたくない。
「さっきも言ったが、このディアナは中央の侯爵家に嫁ぐことが決まってな。
俺としてはこのままでも申し分ないとは思うんだが、うちは田舎だからな。中央の貴族とは感覚が違うところもあるやも知れん。
それで出来れば淑女の鑑と名高いお前の婚約者殿とディアナを会わせてやりたいんだ。彼女の所作は見るだけでも勉強になるし、彼女から一言でももらえればディアナも自信がつくだろう」
そう言って愛し気に妹の肩に手を置くクリスティアン。
ディアナも兄へ微笑みを返してからアルフレッドへ頭を下げた。
「ぶしつけなお願いとは存じますが、どうかお願いいたします」
仲睦まじい兄妹になんとか頷き返しながら、アルフレッドは婚約者である公爵令嬢を思い出していた。
彼女との食事中は会話が少ないものの、その所作は美しく、料理人や給仕への配慮を欠かしたところは見たことがない。
彼女自身の話をすることはあまり多くないが、その際にはアルフレッドならどうするのか、ちゃんと聞いてくれた。
逆にアルフレッドが話す際には最後まで遮ることなく聞いてくれて、同意するばかりではなく時には諭し、意見もくれる。
自分の趣味の観劇には少し口煩い事もあるが、物語に夢中になる余り仕事を疎かにしそうになる自分を諌めてくれているのだ。おかげで誰に後ろめたいこともなく、趣味の時間を楽しむことができている。
その趣味の一環として、ブリアナとの時間も楽しんでいた……のだが、なんだかこのままカフェデートを続けたいとは思えなくなってきていた。
ああ、婚約者との静かで優雅なお茶会で癒されたい――。
そんなふうに思いながら、アルフレッドはクリスティアンとディアナに予定を確認次第、連絡をすると応えた。早急に婚約者の予定を確認しなければならない。
「ありがとう、アル。お前も忙しいだろうにすまないな。
――それにしても、いくら忙しいとはいえこんなところに芸人まで呼ぶなんて、お前も相変わらずのようだな!」
「……え?」
「お前の観劇好きは知っているが、学園に呼ぶならもう少し質の良い芸人の方が良いんじゃないか? これではさすがに周りにも迷惑だろう」
そう言って視線だけで周囲を見た後、最後にブリアナへ視線を向けたクリスティアンは眉を寄せて不快感を露わにする。
ブリアナは自身が芸人と称されたことに気づいていないようで、我関せずとばかりに頬杖をついたままケーキを大きく頬張っている。口の端についたクリームを拭った指先まで口に入れて堪能しているようだった。
アルフレッドもつられて周囲を見れば、皆一様に気まずげに目を逸らす。中には顔すら背けているものもいた。
クリスティアンの言うように、迷惑とは思いつつも王太子殿下の連れに苦言を呈することはできない、そんな周囲からの無言の肯定だった。
物語のような仲睦まじい恋人同士のデートと思って浮かれていたのは自分だけで、周囲からは道化のように思われていたのだと気づき、アルフレッドは急激な羞恥に見舞われて呻くしかできなかった。
――その後、アルフレッドと共に公爵家のお茶会に招かれた辺境伯家の兄妹は、それはそれは丁寧なもてなしを受けた。
公爵令嬢は努力家なディアナをいたく気に入ったようで、自身も王太子妃教育で忙しい身でありながら、その後も何度か公爵家へ招きマナーレッスンと称したお茶会を開いている。
アルフレッドとブリアナの関係はといえば、あのカフェテラス以降、思うところのあったアルフレッドより関係の解消がなされた。
関係解消の理由として、アルフレッドは誠意を持って互いの礼儀作法に対する意識の違いを説明したが、ブリアナはなぜ急に別れを告げられたのか理解できない様子だった。
最終的にはアルフレッドが思わず零した「マナーのない君といるのが恥ずかしい」という身も蓋もない本音が決め手となり、二人は円満――ではないかもしれないが、関係を断った。
ブリアナは学園の卒業を待たず、男爵家から籍を抜き、平民に戻っている。彼女も貴族としての生活には思うところがあったようで、自ら平民に戻る事を強く願ってのことだったという。
アルフレッドの観劇や物語好きは変わらずではあるが、今までほど傾倒する事はなくなり、婚約者や側近たちも安堵したようだった。
なお、アルフレッドは改めて婚約者に自身の趣味によるあれこれの謝罪を行ったが、彼女は鷹揚に頷き――
「殿下のお目覚めが早くて良かったですわ。
もう少し遅いようであれば、彼女には女性としての幸せを諦めていただくことになっていたでしょうから」
そう言って見惚れるほど美しい所作で小さくカットしたタルトを口へ運んだ。
その日の紅茶は生涯忘れられないほど苦かったが、それでもやはり甘いケーキに合わせるならば、紅茶に砂糖は不要だとアルフレッドは婚約者を敬愛を込めて見つめた。
閲覧ありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけたなら、評価などいただけると今後の励みになります。