渋々、婚約破棄をする王太子の話
「ヒィ、キャ」
・・・あら、男爵令嬢、ピンク頭の聖女が、私を見て、尻持ちをつきましたわ。
いじめられているアピールかしら。
フフフ、まるで、小説の世界ね。
私は侯爵令嬢フレデリカ。
貴族学園の二年生、一学年上の王太子殿下と、婚約している。
まあ、王太子殿下が、側近とともに来たわ。
「聖女殿、大丈夫か?」
「フ、フレデリカ様が・・・フレデリカ様が」
「腰が抜けている。おい、そこのご令嬢たち、聖女殿を保健室に運んでくれないか?」
「「はい!」」
「私も行く」
「私どもも行きます」
「おう、俺も行くぜ」
ギリ!と王太子と側近達は私をニラミつける。
「フレデリカ・・・・いや、いい」
王太子が去り際に何か言いかけた。
「ええ、逃げも隠れもしませんわ」
私は悪役令嬢フレデリカ。
小説だと、王宮のパーティで断罪され、その場で、宗主国の皇子、ハラルドに求婚される見通しよ。
フフフ、早くスパダリ来ないかしらね。楽しみだわ。
☆王宮歓迎パーティ
今日は、私は、各国の客人に、婚約者として、紹介される予定よ。しかし、エスコートも無し。ドレスのプレゼントもない。
これは、断罪が来るわね。
「皆の者、聞いてくれ。今日は断罪をする!」
よし!きたーーーー断罪イベントの始まりよ。
この後、ハラルドに、精神的にボッコボコにされ、陛下とハラルド皇子に逆ざまぁ、廃嫡、聖女とともに断種、不妊魔法をかけられ、北の塔に幽閉よ。
幽閉ってまるでニートね・・・・これは、王太子の話よ。
「聖女殿、前へ」
「はい、殿下」
「まず一つの罪!聖女様に対する非礼の数々だ!もはや、これはイジメと言ってもいい!」
「殿下・・・それは、一言謝罪をしてもらえば・・それでいいですわ」
来たー頭空っぽのピンク頭の定番!
私は、侯爵令嬢!ピンクは男爵令嬢、身分が違うわ。
あの女、あの腰を抜かした後、私の家に、招待もないのに、会いたいとしつこくくるようになった。
だから、門前払いをしてやったわ。
「身に覚えがございませんわ。そこの男爵令嬢には招待状を渡しておりませんわ」
「そうか・・・次に義妹君だ。メルル嬢、前へ」
「はい、殿下、私は・・・グスン、グスン」
「おお、泣くな。気をしっかり持つのだ」
はっ?あの王太子、義妹にまで、手を出すの?最低だわ。
「お前は、メルルのシスターなのに、勉学やマナーを教えなくなった。一緒に、遊び回っていたそうではないか?これはイジメだ。いや、虐待だ!」
ああ、あれね。シスター制度ね。貴族学園では、上級生が下級生の生活の面倒を見る制度があるわね。
あの子、連れ子で平民だから、フレデリカが面倒を見ることになったのね。
『今日は、勉強は無し、恋バナしましょう』
『義姉様!どうなさったのですか?!私、勉強したいですわ』
『勉強なんて、学校の授業で充分よ』
一緒に、おそろいのドレスを仕立たり。観劇したり可愛がってあげたのに、ざまぁ返しに義妹も入れてやる!
「全く、事実無根でございます。何故、それが虐待になるか分りませんわ」
「そうか、認めないのだな」
ザワザワザワ
ざわめきが大きくなった。各国の大使や王族が、何事かとみているわね。
「・・・・マックス、お前は最近のフレデリカをどう見る」
「おう、殿下・・・俺には、オークの動きに見えるぜ」
・・・え、騎士団長の息子ごときが、何を言っているの?これは断罪ではない。侮辱よ。
「殿下・・・マックスの言動は、いくら何でも、令嬢に対する礼を失しているのではないですか?」
「ここ数ヶ月、フレデリカ嬢の動きが、何かもそもそして、体重が重い者の動きだ。80キロぐらいの、大柄の貴族の歩き方にしか見えない」
「そうか、マックスもそう思うか。実はな。数か月前から、歩くときのフレデリカのドレスの裾の音が大きく出るようになったのだ。歩き方もおかしいと思ったぞ」
え、何ですって、
「お前は、誰だ!そして、フレデリカをどこにやったのか?聖女殿、見立てを言って下さい」
「はい、殿下」
「この者の体はフレデリカ様でございます。しかし、魂は、別人です。太って、コットンの服でしょうか?毛だまりだらけで、黒髪も枝毛だらけ。二本のツルのある曇った眼鏡をかけ。寝っ転がっている姿が、見えます。
私、怖くて、怖くて・・・まるで、オークに見えます。だから、思わず腰を抜かしてしまいました」
「「「何だって」」」
【ピンク頭の分際で、分ったようなことを言うな!】
シーーーーーン
このフレデリカの言葉で、別人であると証明したようなものであるが、本人は気が付かない。
「私も聖女殿から聞いたときは信じられなかったが、本当のようだ」
「この悪魔め。厳しくて優しい義姉様を返して!」
「ちょっと、メルル、フレデリカは、貴女をイジメていたでしょう?いつも、間違えたら、ムチで叩いていたでしょう?」
「あのな。メルル嬢は、平民出身だ。勉学、マナーがいささか遅れている。だから、君が優しくムチで叩いていたのではないか?
貴族教育の初等教育では、ムチで叩くのが普通だが・・やっぱり、お前は誰だ!」
「わ、私は、義姉様にとって、恥ずかしくない義妹になりたかったですわ。義姉様は、『厳しくってよ』って言いながらも、ムチで叩くときは、優しく、ペチンと、義姉様は泣きそうな顔で・・・グスン、グスン」
「そしてだ。さっきから、聖女殿のことを男爵令嬢と言うが、男爵令嬢出身の聖女殿だ。その身分は王族に準じる。
私の姉上が、会いたいと言ったら、貴様は、招待状はございますか?
と言うのか?聖女殿に調査をお願いしたのだ。それを知らないお前は、やはり、別人だ!」
「そんな。そんな。設定はありません!」
・・・おかしい。皆、おかしい。
「静粛に、国王陛下とハラルド皇子殿下のご来場です!」
来たー私を溺愛してくれる皇子!
「ハラルド皇子!助けて下さいませ。王子が・・」
「ええと、ご令嬢、貴女を知らないのだが・・・」
「貴方は宗主国の皇子ですよ!私を助けて!」
「・・・ヘンドリック王太子殿下、国王陛下、違うのだ。私はこの女とつながっていない!」
・・・え、ここで男らしくバサっと逆ざまぁするでしょう?
「皇子殿下、分っております。この女、おかしいのです。貴国のスパイとは思っていません」
「貴国の寛大な処置、感謝する」
宗主国、確かにこの王国は、ハラルド皇子の国よりは、国力、兵力は劣るが、しかし、国際慣習法上は対等である。
大帝国であるが、近隣諸国との微妙なバランスで成り立っている。
この国が、離反したら、イース連邦とのけん制に不利になる。
陪臣の娘ごときに、公式の場で「宗主国」と崇め立てられても迷惑だ。
「よって、断罪する。この女はフレデリカではない。閉じ込めろ!取り調べだ。陛下の許可も受けているぞ」
☆
目が覚めた。瞼を開けると、見知らぬ木製の天井。
明るい。昼。
メルルは?アンは?
義妹とメイドたちが泣きながら看病してくれていたのを覚えている。
殿下が毎日、花を届けてくれて・・・マックスも殿下の護衛で来てくれたわね。
「うぅ、臭い。散らかっているわ。ここはブタの部屋・・・鏡、あるわね。ヒィ、私はオーク?!」
気が付いたら、私の体は体重80キロぐらい・・・首回りに肉がついている。
ガチャ。
狭い階段ね。あれは、メイド長?
「あの」
「ヒィ、陽子が、部屋から出て来た!どうしたの?」
・・・もしかして、オークの母親、私は今までのことを話した。正直、戸惑っている。
「そうね。そうね。よく話してくれたわね・・・病院に行きましょう。ヒィ、怒こらないで、気分転換よ」
「はい。お母様」
☆病院
「異世界の生活は、完成度の高いお話でしたね。正直、病名は分りません。思春期のころ、特有の思い込みが激しいだけかもしれません。軽い鬱のお薬を出しましょう。しばらく、様子を見て、暴れるようなら、また、来て下さい」
「先生、有難うございます」
「あの、お母様。私はこの家で何をすればいいのですか?」
「え、と」
情報を整理すると、私は異世界転生をし、太った娘、ニート、私の世界では、高等遊民として生活していたようだ。
この世界はとても豊かだ。
「ね、姉ちゃん!どうしたの?部屋から出て来て」
・・・あれは、弟の和樹。
この世界での陽子としての記憶がある。
しかし、この体の頭の性能は良くない。
短絡的な思考が目につく。
体も動けない。
私は痩せる方法を調べて、ジョギングをするようにした。
1日、1時間、
それに、コンビニで、売り子のバイトも始めた。
「お父様、お母様、和樹さん、実は、私は貴方方の娘や姉ではございません。しかし、お願いがあります。勉強をしたいのです。家の手伝いをしますから、置いて下さいませ」
「おおおーーいいぞ」
「ええ、素晴らしいわ」
「姉ちゃん。応援するぜ」
この女の年齢は17歳、貴族学園の時と同じ二年生だ。
この頭の記憶には勉強が少ない。
しかし、やたらと、婚約破棄、悪役令嬢、ざまぁに関する記憶だけある。読み物の記憶があるみたいだわ。
まずは、このブタのような姿を何とかしなければ、
「姉ちゃん。一緒に、ジョギングしようぜ!」
・・・・
「姉ちゃん!無理しないで、歩く?」
「はあ、はあ、はあ、はあ、いいえ。頑張るわ」
「おっ、ブタが走っている。見苦しいーー」
「何だと、一生懸命頑張ってる姉ちゃんを馬鹿にするな!」
「何だと、ガキが!」
「和樹さん。いいのよ。申訳ございません。見苦しい姿を直したくてジョギングしているのです。今しばらく辛抱して下さい」
「ああ、え~と、俺の方が悪かった。申訳ない!いくらでも走ってくれよ」
・・・・
「お母様、これは?」
「ええ、無理しないで痩せられるように、メニューを考えたの。いっぱいあるようだけど、ヘルシーよ。これは大豆ハンバーグ。だから大丈夫よ」
「有難うございます」
・・・・
「陽子、いろいろ考えたが、通信の高校はどうだろうか?」
「お父様、有難う・・お金はまだたまっていないから」
「出すって、娘だから気にするな」
・・・この女は、無理して行った高額な私立高校を辞めた。底辺高校と言うらしい。
この生活は素晴らしい。侯爵令嬢の時は、重い責任があったが、今はない。それが嬉しくもあり懐かしくもある・・・・自由を満喫したいが、まだ、自立出来ない。自由はまだ先ね。
「お父様、お母様、和樹さん。今まで、ごめんなさい。そして、これからも、宜しくお願いします」
「ああ」
「そんなこと」
「姉ちゃん。どうしたの?」
・・・この女の記憶では、無理を言って暴れたり。欲しいものをねだったり。家族に酷い事をしていた。
だから、せめてもの罪滅ぼしね。
「お父様、肩をいやしますわ。ヒール」
「お、有難う・・・あれ、何か暖かいぞ。手を肩に添えているだけなのに」
「・・・フフフ、私は魔法使いで、血行をよくしていますの。次は、お母様。和樹さんは野球部ですわね。筋肉をほぐして差し上げますわ」
「まあ、助かるわ」
「姉ちゃん。不思議な技だね」
この三人は、薄々陽子が、別人に入れ替わったと分っているが・・・素直に受け入れている。
元侯爵令嬢だったのは本当だろうと思っている。
今のままで良いとさえ思い始めた。
また、フレデリカが徐々に家族として順応する姿を好ましく、協力するようになった。
この女が、このような自堕落な生活をした原因もあるわ。
この女はイジメられていたが、その腹いせに、お母様をイジメるクズだったわ。
「あ、陽子だーーーー、あれ、何か少し痩せた?おめー・・・・クワ・」
「陽子・・・顔見せんなよ。ブスが・・キャ、何?何?」
「何だ。宙に浮いているぞ」
「ヒィ・・・」
陽子をいじめていたバカップルを宙に浮かせて、電柱柱にしがみつかせたの。
しばらくしたら、DQNの電柱柱登りで、ニュースになったわ。
私がやったと言っても、この国の司法では、魔法が認められる訳がない。
「陽子だ。この女に、宙に浮かばされて、電柱にしがみつかされたんだ」
「そうよ。魔法よ!この女は魔法使いよ」
「吉田陽子さん。これは、本当ですか?」
「ええ、本当ですわ。私が宙に浮かばせて、電柱のてっぺんまで運びました」
「・・・いや、もう、いい。お前ら、調べではこの人をイジメていたと分っている。イジメで、犯罪の罪を被せるな!」
「ヒィ」
「そんな」
・・・殺したら、家族が悲しむからね。これが、この世界に連れて行ってくれた陽子に対するせめてものお礼ね。
このバカップルはネットで顔をさらされて、永久にオモチャにされ、賠償金は親が払うそうだ。数100万円だろうかとネットで流れていたわ
・・・ヘンドリック王太子は、お慕い申し上げたけども、それは、家族への愛。
どうか、心を入れ替えた陽子とお幸せになってくださいませ。
☆異世界
「この女は、フレデリカ様のお体です。拷問は出来ません。無体な真似も出来ませんが、熱病の時に、入れ替わったと判明しました。それ以上は分りません」
「ああ、お前の背後関係は何だ。魔族か?魔導師か?」
「ヒィ、ここから、出して!」
「殿下」
「ああ、分っている。言わなければならない。私も王族として子を作らなければならない。
しかし、お前とは嫌だ。
フレデリカ不在だが、婚約破棄を宣言する」
・・・解消を申し出ることが出来るが・・・破棄だと、フレデリカが戻って来たら、本人に、賠償をすることになる。帰って来たら、侯爵家も代替わりして、フレデリカの居場所がなくなり。生活に困るかも知れない。
ああ、だから、いくらでも賠償をしようぞ。
もう、あれから三年か。フレデリカよ。
「ウグ、グスン」
「殿下!」
「ああ、オークの元で暮らすフレデリカが可哀想でならない」
「ニートでいいから、婚約破棄でいいから、マンガとスマホを下さい!退屈で死にそうよ!」
「黙れ!ブタ!」
陽子は、亡くなるまで40年、貴族牢で過ごすことになる。
もしかして、現代日本で、急に心を入れ替えた人は、異世界から転生した者かもしれない。
最後までお読み頂き有難うございました。