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天邪鬼 vs コメンテーター①

「天野さん! 大変です!」

「どうした?」


 CM中。天野が調整室で×××××を焚いていると、若手ADが慌てた様子で駆け寄ってきた。


「うちの出演者たちが! 全員腹痛に襲われまして! これ以上は放送無理です!」

「またか! 生放送中だぞ!? 呪われてるんじゃないかウチの番組……ったく」


 天野は若干ハイになりながら舌打ちした。


「全員か?」

「全員です」

「ハァ……どうにかして代わり探せねえのか? 誰かいんだろ」

「ですが……深夜帯(この時間)ですよ? いくら何でも」

「この際誰でも良いんだよ。ウチの番組は、コメンテーター連中の炎上スレスレ爆弾発言がウケてんだろうが。炎上させるための番組なんだよ。なのにコメンテーターが全員いなくなっちゃ、番組が成り立たないだろうが」

「そんな急に出てくれませんよ。そのせいで、ただでさえ敬遠されてるのに」

「良いから探してこい! 幽霊でも宇宙人でも、喋れりゃ誰でもいい。俺がカンペ出すから」


 分かりました、と泣き出しそうな顔で、ADが部屋を出ていく。天野はやれやれ、と肩をすくめ、欠伸を噛み殺しモニターをチェックした。


 深夜帯に放送している、歯に衣着せぬ生討論番組。


 ……というのは建前で、実は出演者の台詞には一言一句全て台本がある。その台本を書いているのが天野だった。天野がディレクターになってから、彼は番組をこっそり私物化した。


 若者の間では〇〇が流行っている。

 今ネットでは〇〇が盛んで……。

 女性に大人気の〇〇……etc.etc.


 これが面白いもので、人気のアイドルやらタレントが宣伝すると、たちまちその通りになってしまう。たとえばこの番組で、『アフロ髭ナマズ』という、全然可愛くもないキャラクターを売り出したことがあった。客観的に見ても全く流行る要素がなかったが、ダメ元で有名なナントカ系YouTuberに宣伝してもらった。するとどうだろう。『アフロ何とやら』はすぐさま大ヒット商品となり、全国から注文が殺到したのだ。


 〇〇さんが持ってるから私も欲しい……という、天野には理解不能の思考回路だった。この世には、カリスマ・ミュージシャンと同じ服を着たら自分もカリスマになれると信じる××どもが、一定数いるのだ。


 〇〇さんがやってるから私もする。

 〇〇さんが好きだから私も好き。

 〇〇さんがこう言ってるから、私もそう思う……etc.etc.


 一体何が彼らをそこまで駆り立てるのか。自分の趣味・嗜好や感情、欲望に至るまで自ら放棄し他人任せにするなど、天野にとって嘲笑を通り越してもはや恐怖でしかなかったが、しかしこの習性を利用しない手はない。

 

 だったらそのみんなに大人気の〇〇さんとやらを操り人形にしちゃえば、他人の思考も自由に操れるんじゃねーの?


 人気番組を任された天野は、早速その考えを実践することにした。個性だ多様性だと謳いながら、大多数の人間は、他人と同じでなければ不安なのだ。彼は自らの台本に……まるでサブリミナルのように……こっそりと陰謀論や偽情報を仕込んだ。それを司会やコメンテーターどもが、さも真実かのように真顔で宣伝する。この番組を見れば、視聴者は皆自然と「今若者の間では『アフロ髭ナマズ』が流行っている」と思うことだろう。


 これは情報戦だ。大切なのは情報の真偽ではなく、いかにより多くの大衆(マス)にそれを信じ込ませるかってことだ。社長が言えば黒いカラスも真っ白になる。何だかオセロのようで、天野は面白くて仕方がなかった。それでなくとも彼は、わざと他人と真逆の考えをしたりやったりするのが大好きだったのだ。


「コメンテーターをプロパガンダ・スピーカーにして愚民どもの思想を良いように操り、俺様がこの国を支配してやるぜぇぇ! シシシシシ!」


 溢れ出る多幸感にぶっ飛びながら、天野は泡を飛ばして一人嗤った。


※※※


「えー、番組の途中ですが、ここで皆さんに残念なお知らせがあります。ただいま絶賛生放送中の『朝まで生ユッケ』ですが、出演者の体調不良で、急遽コメンテーター陣に代打を送ることになりました」

「またですか。やっぱり生ユッケが不味かったんじゃないですか?」

「そんなことないよ。ユッケは美味しいんだよ。発言するにはまず目の前の生ユッケを完食してから! 異色のフード・トーク・バトルに参戦して下さるのは、この方々です!」


「ほら見ろ。探せばいるじゃないか」

「でも……何だか得体の知れない人たちですよ。もう夜だし、あの人たちしかいなくて。あの、本当に大丈夫でしょうか? もし放送禁止用語などをうっかり言ってしまったら……」

「大丈夫大丈夫。いざとなったらピー音入れるから」


「まず1人目は……地獄の裁判長! トイレの花子さん(仮名)です!」

『全員殺す!』


「何だ、このフザケたリング・ネームは?」

「仕方ないでしょう。本人がそう名乗ってるんだから。他にいなかったんですよ」

「さっき彼女、全員殺す、と叫んでいたか?」

「気のせいじゃないですか? いくら何でも、生放送でそんなこと言わないでしょ」

「それもそうだな……」


「続いて2人目は……心優しき死神! こいしさん(仮名)です!」

『よ……よろしくお願いしますっ』


「彼女は期待できそうだな」

「でも、鎌持ってますよ。死神言ってるし。ドクロの仮面被ってるし」

「まさか本物じゃないだろう。虫も殺せなさそうな可憐な少女じゃないか」

「それもそうですね……」


「そして3人目は……頼れるアフロ環境活動家! なまはげのお兄さん(仮名)です!」

「地球のために、未来のために、みなさん僕に力を貸してください! 一緒に頑張ろう!」


「いかにも胡散臭いアフロだな」

「この3人しかいなかったんです」

「フン……まぁいい。お手なみ拝見と行こうか」


「では皆さん! 言いたいことがある人はユッケをどうぞ!」

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