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神殺しの獣  作者: Key-No.92
第一章  王都を目指して
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第三十話 心の中の幻影




 それは明らかに、異質な物体であった。

 巨大な岩石にも等しい楕円形(だえんけい)の石には、一つの印が中央に刻まれている。

 全体的に淡い輝きを放ち、咲弥の視線を釘づけにした。


(読めない……?)


 石に刻まれているのは、文字ではなく模様なのだろう。

 もし文字であれば、咲弥の目には翻訳(ほんやく)されるはずだった。

 周囲の残骸(ざんがい)から、(まつ)られていた雰囲気が漂っている。


(なんだ……?)


 寝転がった姿勢のまま、吸い込まれるように指が祀られた石へと向かう。

 瞬間――石の一部が、どろりと液状化した。

 それは勢いよく噴き出し、咲弥の手を駆けのぼってくる。

 唐突過ぎる奇怪な出来事に、咲弥は震撼(しんかん)した。


「う、うわ! うぁわわわわあっ!」


 体中の痛みをも忘れ、立ち上がりながらに振り払う。

 だが、まったく払えない。

 体中を蛇のごとく素早く(はい)い、途端に二つに分裂した。


 両肩を通り、二つに分かれた液体は両手の先へ走った――まばゆい光が両手の先のほか、眼前の大石からも発生する。

 あまりの眩しさに目を(そむ)けるや、両腕から重みが生じた。


「いったい……なんなんだ? 何が起こったんだ……?」


 理解不能の現象に、咲弥は激しく混乱した。

 いつの間にか、楕円形の石が綺麗さっぱりと消えている。その代わりに、咲弥は両腕に貴金属の籠手を装着していた。


 右は漆黒に染まり、左は純白に彩られる。

 がっちりと手首に固定されており、外し方もわからない。

 しかし思考する間はない。咲弥の耳に不穏な音が届く。


 はっと我を取り戻し、力の限り走り戻った。

 アラクネ女王が、倒れた紅羽を狙っている。


「や、やめろぉおおおお!」


 咲弥の声に呼応(こおう)したのか、籠手が淡い輝きを放つ。

 籠手の意思だろうか――咲弥の中へと流れ込んできた。

 初めて紋章石を宿したときと、とてもよく似ている。

 咲弥は訳もわからないまま、駆けながら(つぶや)いた。


「解、放……?」


 オドが少しばかり、籠手に吸われた感覚がした。

 まるで悪魔じみた黒い獣の手――

 どこか神秘的な白い獣の手――

 幻影にも思えるモヤが、その二つを(かたど)った形となった。


(これは……)

「まだ死なぬか。我が愛しき天上の餌よ」


 アラクネ女王が、大きな魔法陣を宙に描いた。

 咲弥はがむしゃらに駆け、高く跳び上がる。

 黒い魔法陣に向け、白い爪で大きく引っかいた。

 すると魔法陣は裂かれ、煙のごとく消滅する。


「……なんぞ……?」

「これが、白い左手の力……?」


 咲弥はそのまま、アラクネ女王に漆黒の拳を振るう。

 クモ型の胴体のほうを、黒い拳で殴りつけた。

 アラクネ女王が激しい悲鳴を発する。


「キシャアアアァ――ッ!」


 アラクネ女王の胴体が、べっこりとへこんでいた。


「これが、黒い右手の力……?」


 理由も原理も、まったく何も理解できない。

 ただ、白い手は精神的なものに――

 黒い手は物理的なものに――


 役割の違う攻撃が可能だと、意識が流れ込んできたのだ。

 咲弥は得た情報をもとに、アラクネ女王を追撃する。

 だが、アラクネ女王も黙ってはいない。


「哀れな人の子よ――我の(いしずえ)となれ」


 魔法陣を裂かれたことを、おそらくは学習したのだろう。

 絶対に届かない天井に、黒い魔法陣が描かれた。


「ぐっ――」


 咲弥は奥歯を()み締め、警戒するほかない。

 黒い魔法陣から、巨大な漆黒の槍が降り(そそ)いだ。

 白い獣の手を大きくひらき、槍の先端に爪を()わせる。

 それはまるで、紙のごとく引き裂いていった。


「……なにゆえ……?」


 アラクネ女王は驚き、戸惑っている。

 二度とないかもしれないチャンスを、咲弥は逃せない。

 漆黒の拳で打ちつつ、純白の爪で引っかいた。


 純白の爪では、相手の体は傷つけられない。その代わり、相手の体内にある精神的なもの――オドを切り裂いていた。

 アラクネ女王が大きく揺らめく。


(ごめんね――でも、お前は危険過ぎるんだ)


 今度は黒い獣の手を大きくひらき、爪をむき出した。

 同時にオドの発生を()き止め、空色の紋様を浮かべる。


「黒い爪に限界突破!」


 咲弥は黒一色の爪を、斜めに振り下ろした。

 少しして、粘着音まじりの気味の悪い音が鳴る。

 人型をした胴体とクモ型の胴体が、二つに分かれていく。

 べちゃりと音を立てて、アラクネ女王は地に()した。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 肩で息をして、咲弥はアラクネ女王をじっと見据えた。

 アラクネ女王は動かない。完全に事切れていた。

 二つに裂かれては、魔物といえども生きてはいられない。


 クールダウン――咲弥は一気に肩の力が抜け落ちる。

 籠手の変化も解かれ、また通常の状態へと戻った。

 まるで事情は呑み込めないが、考え込む暇もない。


「はやく……紅羽とロイさんを……」


 咲弥はまず、近くにいた紅羽に向かう。

 おびただしい量の血が、背から流れ続けている。

 かすかに息をする紅羽の頬に、そっと指先で触れた。

 恐ろしいぐらい冷たい。一刻を争う状況に思える。


 治癒(ちゆ)の紋章具は、いくつか鞄に入れて持ってきたのだが、咲弥の荷物はアラクネ女王の初撃で、切り裂かれていた。

 荷物はそれぞれ、数個ずつ分担して持ってきている。

 ロイの荷物は不明だが、紅羽の荷物にはあるはずだった。


「紅羽……もう少し、頑張ってくれ」


 咲弥は声に想いを込め、気絶している紅羽を(はげ)ます。

 治癒の紋章具を求め、腰を上げ――そのときだった。



    ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 蒼月(そうげつ)に照らされる闇の中で、いくつもの影が(うごめ)いている。

 気配を絶たれようとも、(ほの)かに漂うオドは見えていた。

 俊敏(しゅんびん)な猫みたいな魔物――即座に動きを予測する。

 純白の紋様を浮かべ、先手を打つ。


「光の紋章第四節、白熱の波動」


 純白の紋様が砕け、右手から光芒(こうぼう)を放った。

 熱を帯びた光の筋は、複数体の魔物を飲み込む。

 闇に(じょう)じ、死角から狙われている気配を察知する。

 自然と体と口が動いた。


「光の紋章第一節、閃く剣戟(けんげき)


 小さな光球が舞い、背後の魔物達を切り裂いた。

 右手付近に紋様を携え、ゆっくり前へ歩む。


「光の紋章第二節、(きら)めく息吹」


 夜空の星々に似た欠片が、体の付近にちかちかと漂った。

 補助術を発動させたのち、素早く残りの魔物を狩る。

 首筋に蹴りを打ち込み、そして内臓を砕いた。

 魔物達の数が減ったころ、ついに本命が姿を見せる。


「グゥオオオオオオッ!」


 魔物の雄叫びが、肌をひりつかせた。

 宙に魔法陣を生み、無数の氷塊が放たれる。

 上手く回避したつもりだったが、いくつか肌にかすった。


 かすり傷を無視して、素早く攻撃へと転じる。

 オドを深く練り上げ、浮かべた純白の紋様に込めた。


「光の紋章第四節、白熱の波動」


 右手から光芒を放つ――だが、判断の誤りに後悔した。

 本命の魔物が、魔法で氷の壁を瞬時に創造する。

 それは鏡のごとく、放たれた光芒を反射した。


 とっさに身を(ひね)ったものの、背に強烈な閃光がかする。

 自らの紋章術で、自身の肌を焼く結果となったのだ。

 一時的に退却を余儀(よぎ)なくされ、木陰に身を(ひそ)める。


《どうした。七號(ななごう)――まさかとは思うが、あの程度の魔物も討伐できないぐらい、君には難易度の高い任務だったか?》


 耳に装着した通信具から、威圧感のある男の声が届いた。


《そんな雑魚も打破できないようでは、未来はないな》

「迅速に回復をはかり、任務を続行します」

《君より位の高い者達なら、すでに終わっているのだがな》


 治癒(ちゆ)の隙は与えない――声の響きから、そう感じ取った。


《七號。もう君は……破棄対象かな》


 血が凍りつくような感覚に襲われる。

 電撃にも似た緊張が、体中を駆け巡った。

 呼吸をも忘れ、そして目を大きく見開く。



    ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 紅羽の目がカッと見開かれ、紅い瞳が左右に震えた。

 咲弥は嫌な記憶が、瞬時によみがえる。

 その眼差しはまさに、紅羽が暴走した夜と同じだった。

 紅羽は素早く立ち上がると、大きく離れていく。


「討伐対象を再度捕捉(ほそく)抹殺(まっさつ)を開始します」

「紅羽……今は動いちゃだめだ」


 不穏(ふおん)な言葉よりも、紅羽の身を案じるほうが先立つ。

 暴走状態といえども、かなり足元がおぼつかない様子だ。

 紅羽が純白の紋様を浮かべた。


「光の紋章第一節、閃く剣戟(けんげき)


 純白の紋様が砕け散り、小さな光球が生まれた。

 光球は不規則に舞い、斬撃となって咲弥に襲いかかる。


「ま、待って!」


 咲弥はとっさに、籠手で防御に(てっ)した。

 貴金属を切るような、不快な音が耳を傷める。


「光の紋章第二節、(きら)めく息吹」


 今度はキラキラとした光の粒が、紅羽の周囲に漂った。

 補助系統の紋章術――通常でも、紅羽の身体能力は高い。そこからさらに向上するのだから、手がつけられなくなる。


 ただそれよりも、今は大きな問題があった。

 紅羽は現状、背に大怪我を負っている。

 万全の状態ならまだしも、今は逆に(あや)うい気がした。


「もう動いちゃだめだ! 紅羽!」


 何度呼びかけても、やはり反応を示さなかった。

 紅羽の紅い瞳は、まったく生気を宿していない。

 その眼差しからは、ひたすら冷たさと暗さだけがある。


 彼女がなぜ暴走するのか、咲弥には理由がわからない。

 素早く首を横に振り、思考を打ち消した。

 理由はどうであれ、早く落ち着かさなければならない。

 激しい運動が原因で、命を失う危険性があるからだ。


(どうする……どうすれば、落ち着かせられる……?)


 閃光のごとき速さで、紅羽が向かってくる。

 強烈な足技を食らうわけにはいかない。それでなくとも、アラクネ女王に受けたダメージが、まだ体に残っている。


 咲弥は全神経を集中させ、紅羽の脚蹴りをかわした。

 そう何度も、回避できるわけがない。

 だから咲弥は、紅羽から大きく離れた。

 しかし、身体能力が向上した紅羽のほうが速い。

 後ろに回り込まれ、背に強烈な衝撃を受けた。


「ぐはぁあっ……!」


 前方に吹き飛ばされ、石の地面をこすっていく。

 涙で少し視界が(にじ)み、ぼやけている。

 遠目に紅羽を見て、咲弥はふと気づいた。

 彼女のオドが、かなり(いびつ)に乱れ続けている。


 仮に戦闘中でも、正常時は力強く緩やかだった。

 それが今は、まるで音飛びみたいにオドが()ねている。


「がぁ……はっ……」


 突然、紅羽が吐血する。

 やはり体の酷使は、予想通りの結果を招きつつあった。


「紅羽……」


 咲弥はふと、左手から妙な意識が流れ込んだ。

 漠然とした予感の中で、咲弥の鼓動が速まる。

 失敗――それは、紅羽の死に直結するかもしれない。

 咲弥は気力を振り絞り、立ち上がった。


(頼む。僕に力を貸してくれ。あの子を助けたいんだ……)


 これ以上無理を続ければ、彼女は最悪の結末を迎える。

 一か八かの()けにはなるが、流れ込んだ意識を信じた。


「白い籠手、解放」


 微量のオドが吸われ、白い獣の手が作られる。

 紅羽は咲弥を翻弄(ほんろう)しつつ、激しく移動を繰り返していた。

 凄まじい速さに、紅羽の動きを目では捉えられない。


 咲弥は目で追うのは諦め、紋章術だけを警戒する。

 直接攻撃に打って出る――その一点に狙いを定めた。

 これまでの紅羽の行動を、脳裏で何度も思い返す。


 紅羽の攻撃は、まるで機械のように精密だった。

 だからこそ、機械的な行動を逆手に取れると読む。


「光の紋章第一節、閃く剣戟(けんげき)


 光球が不規則に舞い、咲弥に襲いかかってくる。

 閃く斬撃を白い爪で裂き、咲弥は気配を察知した。


(頼む……頼むから、どうか、僕に力を貸してくれ!)


 背後から迫る紅羽の気配を感じ取った。

 咲弥は全神経を集中して、タイミングをはかる。

 紅羽のオドを、白い爪で裂くのではない。

 もとに正す――ただ、それだけに思いを込めた。


「ここだぁあああっ!」


 咲弥は白い爪を、オドが発生する紅羽の胸へ向かわせた。

 カウンター攻撃を食らう瞬間、紅羽の目が驚きに染まる。

 咲弥の白い爪が、ついに紅羽の胸に届いた。


(なん、だ……これは……)


 突然、咲弥の視界が黒一色に覆われていた。

 また理解不能な事態に陥る。咲弥は激しく戸惑った。

 解放が解かれている。籠手は装着したままの状態だった。


(これは……いったい……?)


 紅羽の記憶なのか、断片的に咲弥の視界を駆け抜けた。


 紅羽ととてもよく似た、無数の銀髪の少女達――

 優しそうな三十代半ば頃の男女のほか、小さな幼女――

 のどかそうな村らしき風景――

 物々しい格好をした男達の死体――


 それはまるで、写真を眺めている気分になる。

 気づけば、今度は真っ白な空間に立っていた。

 そこはどこか、天使と対話した場所と似ている。

 少し前のほうに、三角座りでうずくまる紅羽を見つけた。


「私は、失敗作……私は、欠陥品……感情は……いらない」


 紅羽はずっと(つぶや)いている。

 その言葉や声は、咲弥の胸に悲しい気持ちを溢れさせた。

 紅羽のすべてを把握できたわけではない。

 むしろ逆に、謎が増えたといっても過言ではなかった。


 だが、さきほど垣間見(かいまみ)た記憶の断片――平穏な世界でただ生きてきた自分には、きっと想像もつかないほどの、つらい人生を歩んできたのだろう。

 それぐらいのことであれば、わかってあげられた。

 紅羽の(そば)に寄り、咲弥はしゃがみ込んだ。


「私は、欠陥品……私は、失敗作……私は、いらない存在」

「違うよ。紅羽は欠陥品でも、失敗作でもない」


 咲弥は優しい声で続ける。


「いらない存在なわけ、ないじゃないか」

「……私は期待に応えられない。破壊されるしかない」

「助けてくれたじゃないか。だから僕も、紅羽を助けたい」

「失敗作……だから、暴走する……私は死んだほうがいい」


 涙が頬を伝い、次第に咲弥の感情が高ぶる。


 紅羽は誰よりも、強い人だと思った。

 ほかの誰よりも、凄い人だと思った。

 しかし今の彼女は――どんな人よりも、か弱いと感じる。


 アラクネとの鮮烈な光景から、咲弥は失念していた。

 彼女はまだ、自分とさほど年が変わらない女の子なのだ。そんな子が自ら死を選び、この世を旅立とうとしていた。

 咲弥は我知らず、紅羽の頭をそっと胸に抱き寄せる。


「大丈夫。何度暴走したって、必ず僕が救ってみせるから。それに、紅羽がなんと言おうと、僕は何度でも否定するよ。君は失敗作でも、欠陥品でもないって」

「……咲弥様? ごめんなさい……ごめんなさい……」


 紅羽が涙声で謝罪してくる。

 そして幼い子供のように、紅羽は激しく泣きじゃくった。


《やはり、お前は失敗作だ。破棄する》


 重く響く男の声がした。

 紅羽は泣き叫びながら、ずっと小刻みに震えている。

 声のほうへ視線を向けると、五十代ぐらいの男がいた。

 幻影なのか、黒衣の男の姿は薄く透けている。


《お前は期待には応えられない。お前はほかの者達と違い、無駄な感情を持ってしまった。あまりに不安定極まりない。お前はただの欠陥品だ。この失敗作め!》

「なんで……そんなことが言えるんだ……?」


 咲弥の言葉に、黒衣の男は反応を示さない。

 紅羽の記憶の中の存在だと、咲弥は推察した。

 ふと、この幻影こそが暴走の原因だとも考える。


《お前には失望した。期待していただけに残念だ。お前は。ただの壊れた人形に過ぎない。なんの価値もない、失敗作だ――そのまま、死ね。七號(ななごう)!》

「――は?」


 咲弥の中で、ぷつんと何かが切れた。

 心臓が冷えるような、激しい怒りが込み上がってくる。

 咲弥は生まれて初めて、怒りに打ち震えた。


「紅羽……ちょっと、待ってて」


 号泣する紅羽の頭を()でてから、咲弥はそっと離れた。

 黒衣の男へ、ゆっくり歩み寄る。


「白い籠手、解放……」


 こんな不思議な場所でも、白い籠手は応えてくれた。

 左手が白い獣の手を形作る。


《優しさなど、意味のない感情を抱いたお前はもう不要だ。この欠陥品め!》

「言っていいことと、悪いことの区別すらもつないのか……あんたの言葉が、紅羽をどれだけ傷つけてると思ってんだ」


 通じないとわかっていながらも、咲弥は言葉を返した。


「大人にもなって、そんな簡単なこともわからないのか!」


 咲弥は腹の底から怒号(どごう)を飛ばした。

 奥歯を()み締め、白い手を高く振り上げる。


「いらないのは、こっちのほうだ! ばか野郎がぁああ!」


 咲弥は黒衣の男を、白い爪で大きく切り裂いた。

 霧が晴れ渡るように、幻影は消え去っていく。


 そして、気がつけば――

 アラクネ女王がいた場所へ、咲弥の視界は戻っている。

 どさっと、紅羽が地に倒れた。


 咲弥は、はっと我に返った感覚を覚える。

 慌ててしゃがみ込んだ。


「紅羽……紅羽……」


 ゆっくりと目が開かれ、紅き瞳が揺れた。


「咲弥様……申し訳ありません……私……」

「いいんだ。早く、治癒(ちゆ)しよう」


 再び目を閉じ、紅羽は沈黙する。

 咲弥は急いで、紅羽が放り投げた荷物へと向かった。




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