表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神殺しの獣  作者: Key-No.92
第四章 無数にある分岐点(下)
214/222

第?話 因果の悪魔




 ラグリオラスは腕を組み、大樹に背をあずけていた。

 やや遠くのほうを、なかば茫然と眺めている。

 広々とした美しい庭園に、汗だくの男が三人――


「ひぃ……ひぃ……これ、そろそろ死ぬっしょ」

「なぁにばかを言ってる! もっとしっかり打ち込め!」

「いやいや……マジ、腕、限界近いって……」

「お前が未達成だと、俺達にまで被害がくるんだぞ!」

「ひぇ……マジ、やばばん……」

「ははは……あと、もうひと踏ん張りだ」


 疲労困憊(ひろうこんぱい)の男達が、死力を()くして訓練に(はげ)んでいる。

 本日は六角鉄棒の素振りから始まった。それから長距離を全力疾走させられ、今現在はオドを込めた木造の剣を使い、指定された威力で木人(もくじん)に打ち込んでいる。

 彼らに残された体力次第で、訓練の内容は変化していく。


 英雄の末裔(まつえい)アルベルトと黒髪の男キースは、どうやらまだ余力を残している。しかし金髪の男エルヴィンに関しては、本当に体力の限界が近づいているようだ。

 それも、仕方のない話ではある。


 彼らが師事している女の訓練は、かなり絶妙なのだ。

 弟子の限界を正確に把握しており、あと一歩を踏ん張れば達成できる難題を与えている。連帯責任も、その一歩を踏み出させるための布石に過ぎない。

 ただラグリオラスは、質が低いものだと感じていた。


 約二か月間――

 仮に精魂が尽き果てようと、命の危機にまでは(ひん)さない。

 封印される前の古き時代にいた猛者達からすれば、これは単純に、体を(なま)らせない程度としか思えないだろう。当時の英雄達もまた(しか)りで、日々、死と隣り合わせの世界を必死に生き抜いていたのだ。


 死が(そば)にあるか(いな)かの差は、天と地ほどの違いが出る。

 無論、それがすべてではないし、(あなど)ってもならない。

 硬い(から)を打ち破った者は、それこそ神や魔などをも超える場合があるからだ。


(ふっ……そんな者、もう本当に数が少なくなったな)


 ざっと現世を観察してきたうえでの結論だった。

 このアルバト女王国でも、ラグリオラスの心を揺さぶった者はほとんどいない。あえて言えば――女王国にも、運命の破壊者がいた事実くらいだ。

 面白く思い、少しその男をこっそり観察もしている。


(彼も彼で、今後の未来で役には立ちそうか)


 魔神戦で役に立つか問われると、答えは(いな)となる。

 稀有(けう)な力を持っていたものの、さすがに神殺しの獣を宿す少年には及ばない。

 彼は戦闘面よりも、技術的な分野のほうが優れている。

 ラグリオラスですら驚く機器を、彼は造っていたのだ。


(邪魔な十天魔や神程度なら、きっと討てる……か)


 曖昧(あいまい)なのは、実際のところ不明でしかないからだ。もっと深く分析すれば可不可(かふか)も見えてくるが、今は生憎(あいにく)、優先的な物事に取り組む必要がある。

 いずれにしろ、(つば)をつけても損はないと考えていた。


 急ぐ必要はない。まだ時間はたっぷりとある。

 未来への道筋を構築しているさなか――


「やあ、ラグリオラス君。久しぶりだねぇ。元気ぃ?」


 すぐ右隣から、唐突(とうとつ)に陽気な声が飛んできた。

 ラグリオラスは視線を移さない。

 わざわざ見ずとも、誰なのかがわかっている。


「なんの用だ? ここは、俺の管轄(かんかつ)だ」

「おや? ちょっと、ご機嫌斜め?」

「なんの用かと()いている」


 隣にいる存在へ、ラグリオラスは横目に(にら)みつけた。

 顕界(げんかい)に住まう上流貴族を思わせる(よそお)いをしており、顔には上半分を隠すだけの奇妙な仮面をつけていた。彼の姿勢は、ラグリオラスを完璧に真似(まね)ている。

 ラグリオラスは内心、ため息が漏れる思いであった。


 彼の真名(まな)は誰も知らないが、異名であれば無数にある。

 過去から未来へと(たく)された民話、お伽噺(とぎばなし)、伝説、神話――どれであれ、同じ話、あるいは類似している伝承もあれば、まったくの別物といったものも多い。

 しかし後者でありながら、同一の存在がいる場合がある。


 全部とまでは言わないが、それが彼である可能性は高い。

 仮に神、人、魔の勢力に大別したとすれば、彼はすべての味方であり、また同時に敵でもある。つまり、据え置かれた視点により、見方が大きく変わるのだ。

 彼も一応、十天魔の一体となる。


 もし最終的に(のこ)された伝承が、彼の最新だとすれば――

 彼に与えられた異名は、因果(いんが)の悪魔だった。

 正直、好みではない。むしろ、面倒なため嫌いまである。

 因果の悪魔は、そっと(くちびる)の端に笑みを乗せた。


「そう邪険(じゃけん)に扱わないでくれ。僕の心が悲しむよ?」

「早く要件を告げろ」

「久しぶりに会ったのに、つれないねぇ」

()れ合う必要などない」

「僕としては、もっとお近づきになりたいのに……」

「必要ない」


 因果の悪魔は寂しそうに、両肩を(すく)めて見せる。

 ラグリオラスは呆れ、英雄の末裔側に視線を戻した。

 彼らの誰かに、気配を(さと)られる心配をしたわけではない。

 たんに因果の悪魔を、視界に入れたくないだけだった。


「せっかく、君が興味ありそうな情報を持って来たのに」

「なら、とっとと言え」

「やれやれ。それじゃあ――()()()()()


 因果の悪魔が途端に重い声音で、その名を口にした。

 ラグリオラスは動じない。当然、顔色も変えなかった。


「とある大陸で、ユグドラシールという名の女神が、顕界(げんかい)に降臨してね。さくっと結論を言えば、その女神を殺したのが――神殺しの獣を身に宿した少年なのさ」

「ユグドラ、シール……? 旧時代の世界樹か何かか?」

「類似したもの……とでも、言えばいいのかな」

「ふぅん……」


 ラグリオラスは曖昧(あいまい)相槌(あいづち)を打つ。

 さすがに災厄の正体を正確に断定などできないが、少年に(わざわい)が訪れるであろうことは、前々から知っていた。どうやら相手は()()()()の一種であったらしい。


 ラグリオラスは心の内側で、こっそりと微笑む。

 少年が無事、災厄を払い()けられたと知れたからだ。


「世界樹の女神――とは、な」

「実は彼女には、とても悲しい物語があって――自らの命と引き換えに、荒廃して死にゆく大地を緑で溢れかえさせた。でも、あまりにも長過ぎる時の流れが、彼女を(いびつ)な存在へと変えたのさ。人から精へ、神へ、そして(じゃ)――へとね?」


 まるで(うた)うように、因果の悪魔はぺらぺらと語った。

 ラグリオラスは下手に乗らず、話を先へ進めておく。


「へぇ。現世の人類には、その程度でも充分に脅威(きょうい)か」

「うん。僕らが封印される前より、退化しているからね」


 話の切れ目を(さと)り、ラグリオラスはため息をついた。


「話はそれだけか?」

「いやいや、まっさかぁ?」

「なら、早く話せ」

「ほんと、せっかちだねぇ」


 隣から嘆息(たんそく)が聞こえたが、ラグリオラスは無視する。

 因果の悪魔が陽気な声を(つむ)いだ。


「女神の降臨には、いくつか特定の条件があってね」

「まだ続くのか? その話……」

大事(だいじ)なことなのさ。結論を言えば、皇帝陛下と奥方を(にえ)(ささ)げたわけだけど、これがのちに重要な意味を持つ。彼らの娘が、()()()(やぶ)るからね」

「ふむ。そうか」


 ラグリオラスは呆れ気味に相槌(あいづち)を打った。

 理解不能な物語を得意げに語る――彼は何も変わらない。

 因果の悪魔が覗き込むように、ラグリオラスの視界に飛び込んできた。


「重要だよ? ラグリオラス君の()()()()()()にも、ね?」


 ラグリオラスは無意識に、一本の指がぴくりと動く。

 因果の悪魔を即刻、殺すべきだと判断したからだ。


 だが、ぎりぎりのところで理性が留めた。

 一撃で(ほうむ)れるかどうか以前に、保険をかけている可能性が高い。彼を殺せたところで、より最悪な状況が我が身に降り注ぐと予感したのだ。


「そんな警戒するなよ。僕は君の味方なんだ」

「……」

「神殺しの獣が強くなるのは、君にとっていいことだろ?」

「いつから、気づいていた?」


 因果の悪魔が再び口もとを(ゆる)ませた。


「それもまた、ひどい話じゃないか」

「何が言いたい?」

「勘違いだよ。君が先じゃない。僕が先――なんだ」


 ラグリオラスの思考が、無数に駆け巡っていく。

 因果の悪魔は大袈裟(おおげさ)な身振りで続けた。


「――とは言っても、誤差ではあるけどね。ニギルが顕界(げんかい)で悪事を働き、それが少年の逆鱗に()れた。そんなところを、僕は少し遠くから実際に見ていたからさ」

「ふん……ニギルの奴を、見殺しにしたのか」

「協力する義務なんかないし、僕の描く物語にはいらない」


 ラグリオラスは黙した。

 因果の悪魔が口にした言葉に、何も間違いはない。


「その後、君があれの残滓(ざんし)を集めて覗き見た。ほらね?」

「ああ。俺が後だったな」


 わずかながら、声に警戒が(にじ)んでいたと自覚する。

 ラグリオラスは内心、穏やかではない。


 最悪の場合を言えば、消される覚悟をしている。

 無論、すんなりと享受(きょうじゅ)するわけにはいかない。

 こちらの心情を見透かしたのか、因果の悪魔が述べた。


「安心しなよ? 僕は言いふらすなんて真似(まね)はしない」

「さあ、どうかな……」

「でもさ、ほら……僕って案外、自分勝手な性分(しょうぶん)だからさ。ラグリオラス君の作り上げている図式に、僕の作った物語を織り交ぜたくなるんだよねぇ」

「はた迷惑な話だ」


 因果の悪魔がくすりと笑った。


「期待に応えられたはずではあるんだけど……結構、何かと暗躍していたんだよ」

「ほう……?」

「彼の物語は、()()()()()()()()()()()から始まった」


 ラグリオラスは横目に、因果の悪魔を見据えた。


「飛行船の墜落(ついらく)、獣人の里に忍び寄る魔物達の襲撃、海賊の住処(すみか)への訪れ、英雄の末裔達の現状、飛竜の奇病、それから――最後に、女神様との邂逅(かいこう)。これらすべては、()()()()()()()だ。仲間と(きずな)を深め合いながら、さらに力の増強を彼と彼の大事な仲間達にも(うなが)している。今後のために、ね?」


 決して、警戒を欠かしていたわけではない。

 それでも、まるで気づかなかった。


 運命の破壊者による偶然の邂逅(かいこう)と考えていたが、明らかに因果の悪魔が導いた作為的(さくいてき)なもの――確実に少年との対面を覗かれており、さらにラグリオラスが話した内容も、すべて筒抜けとなっているに違いない。

 それ以前に、思惑をすでに見抜かれていたふしがある。


 もはや言い逃れなど、可能な領域にはない。

 ラグリオラスは、因果の悪魔を(にら)みつけた。


「望みは、なんだ?」

「知っているでしょう? 僕はただ、楽しみたいだけさ」

「……なら、なぜわざわざ俺の前に現れた?」

「協力者は多いほうが、いいじゃないか?」

「俺が?」

「僕が、ね。魔神を殺した後の世界を、見てみたいしさ?」


 ラグリオラスはすべてを諦めた。もう打つ手などない。

 因果の悪魔が静かに笑った。


「もうちょっとだけ、君に情報をあげるよ」

「なんだ?」

「神殺しの獣を宿した少年が、まもなく女王国を訪れる」

「……は?」

「そうなるように、僕が空白の領域で(うなが)したからね」

「もっと詳しく話せ」


 因果の悪魔は数歩前を進み、ラグリオラスを振り返った。


「君も気づいているとは思うが、この国には彼と似た異物が存在する。その彼に、少年は会いたいと願うからさ。空白の領域で、超文明の秘密に()れたから」

「超文明の秘密?」

「世界が破壊と再生を繰り返されている……そんな真実さ」


 正直に言えば、曖昧(あいまい)な話ではある。

 存在自体は把握しているが、不明瞭な部分がかなり多い。

 それは、因果の悪魔も(しか)りのはずであった。

 魔の総帥たる存在ですら、きちんと認識していないのだ。


 ラグリオラスはようやく、因果の悪魔の思惑に気づく。

 因果の悪魔が淡々と話を進めた。


「彼らは以前、密会をしていてね。そのときに知れたのさ。どうやらここに()る異物は、神殺しの獣の彼よりも、()()()()()()()()()()訪れている。いくら運命が破壊されて、先が見えなくなってもさ――人の心が見えれば、道筋は見える」

「物語の目的は……破壊と再生の神か?」


 ラグリオラスは話を(さえぎ)り、因果の悪魔に問いかけた。

 表情は変わらないが、わずかに因果の悪魔が硬直する。

 ほどなくして、因果の悪魔は口に微笑みを(たた)えた。


「そう。運命の破壊者達がいれば、可能だと踏んでいる」

「俺の真の目的も、もしかしたら……そいつなのかもな」

「ね? 僕も結構、役に立つだろ?」

「そうだな」


 因果の悪魔が(うれ)しそうに、両手をぱちんと合わせた。


「それなら、僕の描いた物語に君も乗ってくれよ」

「俺の描いた図式を、すべて潰せと?」

「まっさかぁ? (あわ)せてくれたら嬉しいって話さ」

「脚本次第だな。つまらない演劇には乗らない」

「ひどいね? より情熱的に、劇的で美しいものだぞ」


 ラグリオラスは鼻で笑った。

 落胆する因果の悪魔に、ラグリオラスは疑問を投げる。


「あの英雄の末裔達は、どう処理しておく?」

「処理なんてとんでもない! 彼も重要な役者なのに」

「ふむ……? では、どうする?」

「もちろん、僕が(ささや)くさ――」


 悪魔の囁き――それは当然、誘惑が大半を()めている。

 対象者の渇望が強ければ強いほど、誘惑の甘美さは増し、相応に理性を失っていく。己の欲望に忠実となれば、あとは地獄へと()ちていくのみであった。

 ただ因果の悪魔の場合、別物と言えるほどの違いがある。


 まず対象者は、(ささや)かれたとすら認識しない。

 己の中で思考を巡らせながら悩み、迷い、そうして最後に結論を下す――たとえそれが、周囲の者達に動揺、あるいは()()()()()()()()()()()()()()()()()、誰もが勝手に理由や事情などを模索して納得へと(いた)る。


 つまり因果の悪魔の囁きは、ある種の思考に近い。

 だから非常に強力で、ひどく恐ろしいものでもある。


 対象者は自覚なく、己の意思で選択したと錯覚(さっかく)するのだ。

 他者から与えられた選択肢などではなく、己の生みだした選択によるもの――この事実こそが、まさに漆黒にも等しい盲目となって現れる。

 本人は迷っても疑わない。(いな)、信じ込むほかないのだ。


 後戻りなどできない地点に辿(たど)り着くまで、ずっと――

 ラグリオラスは黙したまま、漠然と予想していく。

 英雄の末裔に情など抱かないが、(あわ)れだとは思った。


「どうせ魔神の封印は、ほっといても時間がかかる。だから最終的には、ゆっくりじっくりと自滅へと仕向ければいい。まあ、それよりも前に……彼には、とても重要な役を演じてもらわなきゃね」

「ふん……? それは……?」


 因果の悪魔が、不敵な笑みを口に張りつかせた。

 しばらくしてから――


「実はもう、下準備は整っていてね……結論から言おうか。まず()()()()()()()させ、こちら側へ引き込む予定なんだ」


 予想外の話に、ラグリオラスは内心で驚く。

 いずれ仲間にするつもりではいた。

 だが、まだ早い。彼はあまりにも未熟過ぎるからだ。


「あの彼には、やってもらいたい仕事がいくつかあってね。それは、現代の――あるいは、二代目神殺しの獣とも言える彼にしかできないんだ。一度こちら側に引き込めば、あとはもう自発的に動いてくれるはずだから」


 まだ何か、隠している目的がありそうだった。

 因果の悪魔の(たくら)みは見えないが、妙な違和感がある。

 ラグリオラスは思案しつつ、呆れた声を(つむ)いだ。


「効率的な話だが、君が(じか)(ささや)けばよくないか?」

「それは、僕に死ねって言っているのかい? 彼の中で眠る神殺しの獣が怒り狂うかもしれないだろ? まあ、試そうと思ったのは、ちょっと(いな)めないけど……でもね、あれは――間違いなく、火傷程度じゃ済まなくなる」


 ラグリオラスは失笑した。


「ふっ……君でも、怖いものがあるんだな」

「当然! 完全にはまだ、力が戻っていないからね」


 嘆息(たんそく)まじりに言い、因果の悪魔があっと声をあげた。


「そうそう――やっぱり、運命の破壊者だからなのかな……予想外の展開が生じるかもしれないから、そこは臨機応変な対応をしてくれよ」

「へぇ……君でも見通せないものがあるのか」

「いや……結果としては、僕が描いた物語通りではあるよ。でもね、その過程が少し異なった部分が多々とあってさ……ここはもう、予測が不可能だね」

「ふぅん……」


 ラグリオラスは曖昧(あいまい)な相槌を打つ。

 確かに予測不能な事態は起こり得るに違いないが、因果の悪魔ですら見通せない事実に内心で驚いた。やはり、彼らの裏には計り知れない存在が(ひそ)んでいる。

 ラグリオラスは鼻で笑い、因果の悪魔に視線を据えた。


「そういえば、彼がここの異物に会いに来ると言ったな? 君が思い描く物語の範囲なのかどうかわからないが、きっと彼と接している(ひま)はないかもしれない」

「ん……? なんの話だい?」


 ラグリオラスは事情を説明する。

 すると、因果の悪魔がひどく肩を落とした。


「ほらぁ……また予想外の展開が起こっているじゃないか」

「君の物語は、どうやら破綻(はたん)してしまったか?」


 因果の悪魔の落胆に、ラグリオラスは内心で微笑んだ。

 因果の悪魔は諦め気味に、深い溜め息をつく。


「まあ、それならそれで……いや、逆にいいかもしれない。僕の思い描いていた物語の大部分が、()がれてしまうが……時には激動的なのも悪くはない」

「ふっ……では、君の描き直した物語を聞かせてくれ」

「きっと気に入ってくれるはずだ。君は、特に――ね」


 正直なところ、因果の悪魔には関わりたくなかった。

 しかしすべて知られている以上、ほうってもおけない。

 最悪の場合――それすらも、確実に見抜かれている。


 意気揚々(いきようよう)と物語を口にする因果の悪魔を見据え――

 ラグリオラスは胸の内側で、どっとしたため息が漏れた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ