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神殺しの獣  作者: Key-No.92
第四章 無数にある分岐点(下)
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第三十九話 少女の宣言




 咲弥は帝国城にある、豪華な造りをした(ひか)えの間にいた。

 付近には帝国軍第二大将軍のジェラルドと、その娘となる上級冒険者のアイーシャ――さらには内務大臣のヴィクスに加え、第七皇女シャーロットの姿もある。

 皇女(こうじょ)呪い事件の真相を知る者が、一堂に会しているのだ。


「ふむ……お似合いですぞ」


 ヴィクスがしわがれた声で、シャーロットを()めた。

 シャーロットは今現在、皇族(こうぞく)ならではの正装をしている。

 もうじき、追悼式が始まるからだ。

 一枚の扉を抜けた先には、すでに大勢の人々がいる。


 緊張しているのか、シャーロットに反応はない。

 彼女の性格を考えれば、それも仕方のない話ではあった。いくら自分から追悼式の演説を務めると申し出たとはいえ、直前ともなれば誰でも緊張するに違いない。

 きっと自分なら、震えが止まらないだろうと予想できた。


 シャーロットは目を閉じたまま、気を静めている。

 しかし、その静寂も長くは続かなかった。

 追悼式開始の時が、ついに迫る。

 簡易的な敬礼をしてから、ジェラルドが低い声を発した。


「シャーロット様――ご準備のほうは、よろしいですか?」


 シャーロットは目を開き、ゆっくりと(うなず)いた。


「はい」


 短い応答を受け、ジェラルドが再び敬礼をした。

 これからの予定では、咲弥を除く三名が壇場(だんじょう)に出る。

 参列者を静めたのち、シャーロットが登壇(とうだん)するのだ。

 咲弥は(ひか)えの間で、待機を(めい)じられている。


 皇女(こうじょ)呪い事件に(たずさ)わった一人ではあるが、それはあくまで裏側の話でしかない。至極当然の話、今現在も――これから先も、極秘なのは変わらないのだ。

 咲弥は未来永劫、女神関連には関わっていないとされる。


 だから追悼式に参加するのなら、参列者に()じったほうがいいはずであった。理由はよくわからないものの、それすら禁じられている。

 咲弥はなかば茫然と、ジェラルド達の後ろ姿を見送った。


 (ひか)えの間にある両開きの扉が、重い音を立てて開かれる。

 ここは帝国城の高い位置にあった。

 人々のざわめきは、うっすらとしか届いていきていない。


「まもなく、追悼式を()(おこな)う――」


 ジェラルドの低い声が、拡声器により大きく響き渡った。

 間を計るため、両開きの扉は開かれたままにしてある。

 ジェラルドが追悼式の説明を始め、会場に集まった人々をなだめていく。

 咲弥は背後から聞き――


「咲弥殿」


 不意に、シャーロットに名を呼ばれた。

 咲弥ははっと我に返り、シャーロットへ視線を移す。

 楚々(そそ)とした彼女は、ややうつむき加減の姿勢でいた。


「シャーロット様。どうかされましたか?」

貴殿(きでん)に少々、お(うかが)いしたく存じます」

「……? はい」

「貴殿はレイストリア王国の冒険者……冒険者とは、危地(きち)に飛び込むことも珍しくない。そう、お聞きしております――相違ありませんか?」


 緊張を(やわ)らげるためか、咲弥は唐突(とうとつ)な問いに少し驚く。

 疑問の真意はわからないものの、咲弥は素直に答えた。


「はい。確かに、珍しくはありません」

「たとえ――()()()()するとしても……でしょうか?」


 咲弥は言葉に詰まる。適切な言葉が、うまく浮かばない。

 もともと咲弥の目的は、邪悪な神を討つことにあった。

 そういった事情を考慮すれば、答えは肯定となる。

 ただ心情的には、正直なところ否定しかしたくない。


 今回の件から、心に傷を()うほど痛感させられている。

 咲弥が回答に悩んでいる最中、シャーロットが可憐(かれん)な声で胸の内を語った。


「私は臆病者です。女神様から力を授かった母や、あるいは女神様そのものが降臨なされたときは、(おび)え、震え、無力な自分を胸裏(きょうり)(なぐさ)めることで精一杯でした」

 シャーロットはゆっくり首を横に振った。

「……ですが、貴殿(きでん)は違います。とても果敢(かかん)に立ち向かい、多くを護ろうと必死だったと、私はそう認識しております。それは、冒険者だからなのですか?」


 シャーロットの可憐な声は、どこか切実な響きがあった。

 おそらくは、緊張をほぐしたいからではない。

 咲弥の原動力を、単純に知りたいのだろうと察する。

 一呼吸の間を置き、咲弥は真摯(しんし)に応じた。


「本音を言えば、凄く怖いです。ほんの少しの失敗や判断の遅れから、死にそうになった経験は本当に数えきれません。ですが……」

「はい……?」

「これは結構前に気づいたことなんですが……一度こうだと思ったら、どうやら僕は周りが見えなくなってしまいます。今回に関して言えば、とにかく必死でした」


 シャーロットの顔がきょとんとしていた。

 ここも昔から変わらない。言葉が足りなさ過ぎるのだ。

 咲弥は苦笑してから、もっと()み砕いて告げる。


「人が悲しんだ姿を見ると、僕も悲しい気分になります――できれば、誰もが笑っていられるような、そんな凄く温かな世界になってくれればいいなと……僕はそう思っています。ですから、もし微力でしかないとしても、僕が頑張ることで多くの人が笑顔になる可能性があれば、僕はそれを目指して前へ進み続けるだけです」

貴殿(きでん)の願いを(はば)むものが、たとえ神であったとしても……ですか?」


 シャーロットが再び、同じ問いを投げてきた。

 咲弥は内心、意図が伝わったのだと安心する。


「はい。たとえ、神と敵対しても……です」

「……そうですか」


 シャーロットがどこか(はかな)げに、顔をうつむかせていく。

 楚々(そそ)とした容姿のせいか、内心で不謹慎とは思いつつも、彼女の(しず)んだ表情から、咲弥はそこはかとない美しさを感じ取った。

 守ってあげたくなるような、か弱さもあるからだろう。


 そう感想を抱くなか、シャーロットがふっと顔を上げた。

 空色の瞳の奥には、なにやら力強い光が宿っている。

 シャーロットは無言のまま、静かに前へと歩んだ。


「これより、追悼式を開始する――ラングルヘイム帝国第七皇女(こうじょ)、シャーロット様から式辞を(たまわ)りたく存じます――」


 ヴィクスの声が耳に届き、咲弥ははっとなる。

 シャーロットへの答弁に気を取られ、うっかりしていた。

 咲弥は後ろを振り返り、シャーロットを見送る。


 壇上に立つシャーロットの姿を、咲弥はじっと見据えた。

 現在地からでも、彼女の後ろ姿はよく見えている。


「――本日、先の天災により亡くなられた方々の、追悼式を挙行するにあたり、御遺族並び、御参列していただきましたすべての皆様方へ、感謝申し上げます」


 シャーロットの声に、震えた様子はまったくない。

 シャーロットは毅然(きぜん)とした姿勢で、言葉を(つむ)ぎ続けた。


「途方もない数の(とうと)い命が、一夜にして失われました。先に起こった天災は――我ら帝国に住まう者達が敬愛して、(あが)(まつ)っていた女神ユグドラシール様によるものです。なにゆえ()の女神が我ら帝国の者を苦しめたのか、そこについては、いっさい何も判明しておりません」


 真実を知る者は数少ない。

 だから、方便的(ほうべんてき)にそう告げている。


勇敢(ゆうかん)な者達の活躍により、天災による被害は最低限にまで食い止められたかと存じます。帝国の者を代表して、心より感謝申し上げます。そして、その中には――我らが皇帝陛下ベルガモットと、第四皇妃(こうひ)スイも含まれております。彼らは愛する帝国民を護るため、自らの命と引き換えに奇跡の力を得て、女神ユグドラシール様を深き眠りへとつかせました」


 黒い歴史は、闇へと葬り去られる。

 これにより咲弥に関する情報も隠蔽(いんぺい)され、のちの歴史にはいっさい名前が残らない。それ自体は、咲弥からすれば別に何も問題はなかった。

 ただ、か弱い少女が背負うには、あまりにも(こく)だと思う。


 真実はひどく心苦しいものであり、同時に二度と消えない深い傷を残し続けている。シャーロットは未来永劫、そんな重荷を背負い続けなければならないのだ。

 咲弥は自分よりも、彼女のほうが心配になる。


 皇帝陛下のくだりで、参列者達はどよめいていた。

 だが次第に落ち着き、追悼式は(とどこお)りなく進行していく。

 そしてついに、追悼式最後の言葉まで時間は流れ去る。

 そのはずだった――


「本来であれば、この場は私などではなく……もっと地位の高い、あるいはここに立つに相応(ふさわ)しいお方が、おられたかと存じます。ですが……この場をお借りして、私から皆様方へお伝えしたいことがございます」


 シャーロットの発言に、今度は妙なざわつきが起こる。

 咲弥達もまた同様であった。これは、予定にはない。

 だからジェラルドとヴィクスも、目を丸くしている。


「女神様が深き眠りにつき、このラングルヘイムの地にある厳しい環境が、悪化する可能性は(いな)めません。そこに不安や迷いが生じている方も、多いかと存じます」

「シャ、シャーロット様……?」


 ジェラルドの動揺を、シャーロットは手で制した。


「私はとても臆病で、自分の(から)にこもって生きてきました。つらい現実から目を(そむ)け、苦しみや悲しみから逃げ続けて、今日(こんにち)まで、ずっと――」


 シャーロットは黙った。長い沈黙が続く。

 シャーロットの意図がわからず、咲弥は困惑する。

 きっと、ジェラルド達も同じに違いない。

 シャーロットが大きく深呼吸をした。


「ここに、宣言いたします。私が――いや。()が、次期皇帝陛下となり、帝国に住まう民達の希望になると誓おう。我ら帝国の者は――女神の力がなくとも、決して折れはしない。力強く生き、必ずや帝国に安寧(あんねい)を取り戻す。女神に代わり、余が諸君(しょくん)らの道を照らす太陽となり、平等に笑顔をもたらす女帝となってみせよう」


 帝国を訪れた頃を思い出して、咲弥は身震いする。

 声の力、言葉の重み、放たれる威圧感――

 見た目は母親似だが、今のシャーロットはベルガモットにそっくりだった。


()の生き様をその眼に焼きつけ、余とともに帝国の繁栄と安寧(あんねい)を取り戻そう」

(やっぱり、親子なんだなぁ……)


 徐々に大きく拍手が湧き起こっていくなか、咲弥はそんな感想を持った。

 それからシャーロット達が、(ひか)えの間へと戻ってくる。


「ほっほっ……その先は、灼熱の地を素足で歩く道ですぞ」


 ヴィクスが言い、どこか不敵に微笑んでいる。

 咲弥がいる付近で、ジェラルド達が立ち止まった。

 シャーロットはやや遠い位置で、力強い声音を(つむ)ぐ。


「ジェラルドおじさ――帝国軍第二大将軍ジェラルド、内務大臣ヴィクス。これからの行く道は貴殿(きでん)らで決めよ。しかしもし……()に力を貸してくれるというのならば、喜んで受け入れよう」


 ジェラルドは戸惑い気味に、深い溜め息を吐いた。

 ジェラルドがヴィクスと同時に、(ひざまず)くほうの敬礼をする。


「亡き陛下の(めい)に従い……というわけではないですが、このジェラルド――シャーロット様に忠誠を誓い、ともに(けわ)しき山の(いただき)を目指したく存じます」

「老い先短い(わたくし)めが、どこまで力になれるのかは不明ですが……健康に気を使い、もう少し長く生きましょう。次期皇帝陛下の華やかなお姿、見たく存じます」


 ヴィクスの言葉が終わるや、アイーシャも(ひざまず)いた。


「私は冒険者として、父と帝国の力になると誓います」

「途方もない力。(こころよ)く受け入れよう」


 シャーロットの空色の瞳が、咲弥のほうへ向けられた。

 シャーロットは黙したまま、静かに微笑む。

 皇帝となる道を目指すと、そう腹を(くく)ったからか――

 それは少女らしからぬ、艶麗(えんれい)な微笑みに見えた。


「咲弥殿。実は、ここだけの話なのですが……」

「え? あ、はい……?」


 突然、シャーロットに話しかけられ、咲弥は戸惑いながら応じた。

 シャーロットが微笑んだまま、可憐な声音で告げてくる。


貴殿(きでん)は、この帝国の()を知っている。ゆえに、この世から抹消したほうがよいのでは……と、()はジェラルドに、そう提案しておりました」

「――えっ?」


 咲弥は心の底から驚愕を覚え、一歩大きく後退した。

 実際のところ、まったくありえないという話でもない。

 咲弥は体中から、冷や汗がだらだらと溢れだした。


「ですが、ジェラルドのほうから、その必要はない。と――もし貴殿(きでん)が帝国にとっての傷となるようであれば、自分共々(ともども)(ほうむ)られてもよいとの返答を受けました」

(ありがとう! 本当にありがとう! ジェラルドさん!)


 咲弥は心の中で、ジェラルドに感謝を述べた。

 シャーロットはくすりと笑う。


「彼から、随分(ずいぶん)な信頼を得たのですね」

「え、えへへ……ありがたく、存じます……」


 咲弥はつい、ぎこちない笑みをまじえて言った。

 内心の(あせ)りが、いまだ消えない。

 シャーロットがおもむろに、咲弥へと歩み寄ってきた。

 咲弥は動揺を隠せず、びくびくとしていた。


「されども……人の心は、とても(うつ)ろいやすいもの。だからできれば、(そば)に置いておきたいと思うのが、()の心情です。もし余が皇帝陛下となった(あかつき)には、貴殿(きでん)を余の夫として迎え入れたい。と、そう考えております」

「――えっ? いやいや、そんな! 恐れ多すぎます!」


 咲弥はひどく(あわ)てふためく。

 庶民だからといった理由もそうだが、咲弥はそれ以前に、果たさなければならない使命がある。仮に使命がなくとも、皇族(こうぞく)の仲間入りなどできるはずもない。


 シャーロットの微笑んだ顔が、少し(けわ)しくなった。

 どこか冗談まじりの気配はあるが、真意はわからない。


()の誘いを断る、と? 初めて余の体を、抱いた男が?」


 事実的な話を言えば、確かに抱いたのは間違いない。

 だが明らかに、誤解を招きかねない言い回しであった。


「ほっほっほっ」


 ヴィクスが呑気(のんき)に笑っていた。

 ジェラルドは眉間をつまみ、アイーシャは渋い表情をして苦笑している。

 咲弥は困り果て、首を横に振った。


「いっ、いえいえ! それは、神域でのお話ですよね?」


 シャーロットに(にら)まれ、咲弥は冷や汗が止まらない。

 いやな沈黙のなか、ジェラルドが口を開いた。


「ふっ……シャーロット様。残念ながら、咲弥殿を以前からお(した)いしていらっしゃるご様子の女性が、もうおられます。名は確か――紅羽さん、でしたかな」

「私見を申せば、彼女は私よりも遥かに有能でお強いです」


 アイーシャの補足に、シャーロットと一緒にジェラルドも驚いていた。


「お前より……本当か?」

「のちに聞いた話だが、神鹿(しんろく)を一人で討伐している。しかもその後は、私と友人が協力して戦っていた蛇龍(だりゅう)も……彼女の手助けがなければ、こちらがやられていた」

「ほぉ……」


 アイーシャの返答に、ジェラルドは長めに(うな)った。

 確かに紅羽はここにきて、さらなる進化を()げたらしい。


 精神世界へ自らの力で行けたと、紅羽本人から聞いている――そこがまだ少し曖昧(あいまい)なものの、少なくとも、女神の守護神獣を討てるほどにまで成長したようだ。

 咲弥は末恐ろしいと思いつつ、感嘆(かんたん)しているジェラルドに苦笑を送っておく。


 シャーロットが唇を引き締め、咲弥を強く(にら)んでくる。

 アイーシャがどこか、ひやかしめいた口調で言った。


「彼女は、とても手強(てごわ)いですよ? 戦闘面に特化しており、さらには支援方面にも特化しております。彼女の治癒術は、帝国の第一級衛生兵並みです」

「ほっほっ……冒険者はやはり、粒揃(つぶぞろ)いですなぁ」


 ヴィクスが(おだ)やかな声音で感心していた。

 シャーロットが呆れ気味に、肩を(すく)めて見せる。


(めかけ)の一人や二人ならば――目を(つぶ)りましょう」

「えぇええ……!」


 魂が入れ替わったのではないかと、咲弥はそう勘繰(かんぐ)った。

 楚々(そそ)とした容姿のわりに、思いのほか強情な面がある。

 言葉を失う咲弥に、シャーロットは再び微笑んだ。


「ふふっ……安心してください。ただの冗談です」

「じょ、冗談……?」

「ですが……」


 シャーロットがおもむろに、咲弥に歩み寄ってきた。

 咲弥は内心で(おび)えつつ、じっと状況を見守っておく。


 するとシャーロットは、咲弥の右手を両手に取り、優しく包み込んだ。少し力を込めれば、壊れてしまいそうなくらい繊細で、(なめ)らかな感触が伝わってくる。

 咲弥はどきりと胸が高鳴り、内心で激しく戸惑った。


「改めて、礼を言わせてください。貴殿(きでん)に救われたこの命、()は……帝国のために、活躍させていただきたく存じます。貴殿の心優しい強さに(なら)って」


 真摯(しんし)な言葉を受け、咲弥はやや驚くも自然と微笑んだ。

 彼女の意図は、しっかりと伝わっている。

 咲弥はゆっくり(うなず)いてから、シャーロットに応じた。


「陰ながらではありますが、応援させていただきます」


 シャーロットは手を放したあと、咲弥から離れていく。

 数歩だけ進み――シャーロットが肩越しに振り返った。

 清楚に溢れた顔には、いたずらっぽさが宿っている。


「いつか貴殿(きでん)の心が()にのみ振り向く、最高の女帝となってみせましょう」


 心臓の鼓動が、一度だけ大きく跳ねた。

 冗談か本気か――いや、なんとなく伝わってきている。

 とはいえ、肯定も否定もできない。

 シャーロット自身、きっと望んではいないからだ。


 咲弥は悩み、迷い、そして苦笑で誤魔化すほかない。

 周囲の者達もまた同様に、苦い笑みをこぼしている。

 シャーロットだけは、照れ気味に微笑んでいた。




 遥か遠い未来――とある歴史書には、こう記されていた。

 女神による天罰が、ラングルヘイム帝国に降り注ぐ。

 だが(みかど)と奥方の愛により、女神は永久(とわ)の眠りについた。

 女神の加護は失われ、灼熱の地は荒れ果てていく。


 帝国に住まう者達は苦しみ、(おび)え、闇の道を歩いた。

 されど絶望的な暗闇に、ふと温かな光が射し込む。

 その光こそ、新生帝国を築いた日輪(にちりん)の女帝なり――




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