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神殺しの獣  作者: Key-No.92
第四章 無数にある分岐点(下)
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第八話 それぞれの報告




 もうほどなくして、日没を迎え始める時刻――

 咲弥は通信機を片手に、暑い帝都を歩いていた。


「えぇっと……シフォンの森、シフォンの森、と……なんのお店なんだろ?」


 大雑把(おおざっぱ)な所在地と店名の二つしか、仲間からメッセージは入ってきていない。

 そのため、紅羽達の現状をいまだ把握できないでいる。

 ただ問題が発生していれば、もっと何かあるに違いない。


 咲弥は安心感を持ち、シフォンの森を目指していく。

 今は商業区域にいた。ここは、屋台や露店が実に多い。

 暑さに負けないくらい、血気盛んに(にぎ)わっている。

 商売人の活発な声につられ、視線が右へ左へと流れた。


「わぁ、凄いな……ん、果物……? あれは、なんだろ?」


 国が違えば、気候も異なっている。

 もちろん何もかもというわけではないが、レイストリアの王都では見慣れないような食材が、この帝都にはごろごろと転がっている様子であった。


 ふと王都にある酒場のマスターの姿が、脳裏(のうり)に浮かぶ。

 きっと彼が帝都を訪れたら、店中を巡って味見している。

 そんな想像から、マスターの料理が急に恋しくなった。


(そういえば……母さんの手料理も、もう……)


 あまり考えないようにしていた。だが、つい連想が働く。

 父と母の姿――咲弥は首を横に振り、思考を振り払った。帝都の熱された空気を大きく吸い込み、胸の中に漂い始めたモヤと一緒に吐き捨てる。

 紅羽達との合流後に、咲弥は思考を切り替えていく。


 今後の方針について、話さなければならないことは多い。

 咲弥は進む速度が、自然と少しばかり上がった。

 しばらくして、ようやく目的地と(おぼ)しき建物を発見する。

 木の形を模した看板に、シフォンの森と書いてあった。


「あっ……きっと、あれだな」


 外観の雰囲気から、服屋なのだろうと判断する。

 仲間の居所を(つか)むや、咲弥は首を(ひね)った。


 メッセージが送られてきてから、もうすでに結構な時間が経っている。服選びをしているにしても、さすがに何時間も留まれるような場所だとは思えない。

 連絡できないほどの問題が起きたのではないか――


 不穏な想像が脳裏(のうり)で働き、咲弥は嫌な胸騒ぎを覚える。

 焦燥感に襲われながら、店の玄関口へと早足で向かう。

 扉にある持ち手を握り締め、おそるおそる開いていく。


 すると扉の上部に備えつけられていたベルから、涼やかな音色が鳴り渡る。褐色の肌色をした赤毛の女が反応を示し、店の玄関を振り返った。

 服装からでは判断しづらいが、おそらく店員なのだろう。


「あっ、いらっしゃいませ。ようこそ、シフォンの森へ!」


 赤毛の女店員が、元気いっぱいの挨拶で出迎えてくれた。

 一見、異常らしい異常は、どこにも見当たらない。

 お客の姿はなく、どこか物寂しい雰囲気が漂っている。

 不意に店の奥から、ゼイドがひょっこりと顔を覗かせた。


「おっ? 咲弥。やっと来たか」

「ゼイドさん!」


 咲弥は小走りで、女店員とゼイドに近寄っていく。

 辿(たど)り着くまでの最中、女店員がぼそっと(つぶや)いた。


「あぁ……この人が、噂の……?」


 よくわからないが、どうやら何か噂されていたらしい。

 状況を(つか)めないまま、咲弥はゼイドの前に立つ。

 噂の内容も気になるが、まずは事情の説明をした。


「遅くなって、すみません。ちょっと距離が遠くて……」

「ああ、そうだったのか」

「はい……あの、紅羽達はどこへ?」


 咲弥が尋ねたとき、複数の足音が奥のほうから聞こえた。

 特に何も考えないまま、ぼんやりと視線を移していく。

 予想外の光景に目を疑い、咲弥はぎゅっと眉をひそめた。


「お、咲弥じゃん」

「咲弥様」

「おお。戻って来たか」


 ネイ、紅羽、メイア――咲弥は絶句から(のが)れられない。

 もはや(あわ)てるという領域を、軽々と飛び越していた。

 どんな事情から現在に(いた)ったのか、本当に把握できない。

 咲弥は口をぱくぱくとさせ、無理矢理に声を発した。


「え、あっ、えあ……な、なんちゅう格好してんですか!」


 ふっくらとした胸に、きゅっと引き締まった体のくびれ。さらにお尻の形から脚の細さと長さまで、あまりの露出度の高さに、見ただけでもはっきりとわかる。

 仮に痴女と言われても、おそらく誰一人として疑わない。


 それぞれ髪の色を基調とした水着――少し頑張れば、そう受け取れないこともないが、やはり似て非なる別物だろう。

 それはどこか、アラビアンな雰囲気に近いと感じさせた。

 ネイが腰をくいっと持ち上げ、(りん)とした顔に微笑を(たた)えて()いてくる。


「どうよ? 似合ってるっしょ?」


 ネイが衣装を見せびらかすように、姿勢を変えていく。

 そのたびに、豊満な胸がぷるんぷるんと荒ぶっている。


「ちょ、ちょっと!」


 咲弥の動揺が、最高潮に達する。

 ネイの胸が、危うくぽろりとこぼれそうに見えたからだ。

 咲弥が泡を食っていると、紅羽が静かに近づいてくる。


「咲弥様。見てみてください」


 咲弥は戸惑いながらも、紅羽に視線を据えた。

 すると何を思ったのか、急に紅羽が踊り始める。

 しなやかな舞は、踊り子だと錯覚してもおかしくはない。

 たおやかに踊る紅羽の背後に、ネイとメイアも加わった。


 咲弥は三人の踊りを、やや気が抜けた状態で眺めた。

 やや幻想的であり、同時に蠱惑的な印象も放っている。

 不意に目を奪われる――そんな魅力に満ち溢れていた。


「はぁん……とても、素敵だわぁ。この短時間で、ここまで踊れるようになるなんて……本当に凄いとしか言えないわ」


 赤毛の女店員が、目をきらきら輝かせて(つぶや)いた。

 ゼイドが腕を組み、豪快に笑う。


「戦闘技術に、なんか通ずるもんでもあるんじゃねぇのか」

「確かに……華麗に戦う方もいますねぇ」

「俺みたいな武骨なもんじゃ、こうはならねぇかんなぁ」


 二人の会話が終わる頃、紅羽達の踊りも終了した。

 咲弥一人が、どこか場違い感を覚えている。

 紅羽が紅い瞳を向け、淡々とした口調で尋ねてきた。


「どうでしたか?」

「……え?」


 咲弥は間の抜けた声を漏らしたあと、固まってしまった。

 衝撃的過ぎて、鮮明なのに記憶が曖昧(あいまい)にぼやけている。

 言葉を選んでいる最中、メイアがふっと短く笑った。


「どうやら魅力的過ぎて、声も出ないようだ」

「はっきりと、よかったって言ったらんかい!」


 ネイが虚空へ拳を何度も突き入れ、(けわ)しい顔で怒鳴った。

 咲弥はひどく戸惑い、苦笑しつつ両手を小さく振る。


「あ、いや、その……なんか、見とれてましたから……」

「どうでしたか?」


 紅羽が小首を(かし)げ、再び問いかけてきた。

 咲弥はうめき、自然と視線が泳ぐ。


「あぁ、うん……その、とても、よかったよ……」

「なんじゃい、その適当な感想は! もっと言うべきこと、ほかにあるっしょ」

「えぇっ……? い、いや、あのぅ……」


 ネイの催促に、咲弥は困り果てる。

 本心を告げたつもりなのだが、ものたりなかったようだ。

 咲弥は思考をぐるぐると巡らせた。


「えぇっと……うん。とても、綺麗……でした、かな?」


 ネイとメイアが、(そろ)ってため息をついた。

 咲弥の感想は、お気に召さなかったらしい。

 気の利いた言葉でも送れたらよかったが、さすがに展開の把握が困難を極めている。そのうえ、紅羽達のあられもない姿の件も、いまだに尾を引いているのだ。


 少なくとも、咲弥には精一杯の感想を述べている。

 苦笑で誤魔化していると、赤毛の女店員が迫ってきた。


「あのあの! あなたが噂の咲弥様? 私、シーラです!」

「あっ、そうだった……その、噂のってなんですか?」


 咲弥はふと思いだし、赤毛のシーラに問い返した。


「紅羽ちゃんが咲弥様次第と言っていたので……あのあの、どうか紅羽ちゃん達を、少しお貸しいただけませんかっ?」

「え、えっ……?」


 シーラの気迫に圧倒され、咲弥はやや腰が引けた。

 彼女はさらに、咲弥との距離を縮めてくる。


「昔まであった()()を、私どうしても復活させたいんです。でも、その祭典は一か月半後くらいを予定していまして……踊り子の数もなかなか揃わなくて……紅羽ちゃん達みたいな踊り子が一回でも出れば、来年も再来年も祭典をしようって、思ってくれるかもしれません。ですから、お願いします!」


 シーラは、深く頭を下げてきた。

 少し(つたな)い言葉の羅列は、きっと必死だからに違いない。

 シーラの熱量から、本気さがしっかりと伝わってきた。


 漠然とではあるものの、紅羽達の全容が見えてくる。

 咲弥が応答する前に、紅羽が問いかけてきた。


「咲弥様、問題はありませんか?」


 紅羽の隣に、ネイが寄り添った。

 ネイはため息まじりに、紅羽の頭をぽんぽんとする。


「本当、やれやれよね。なんかあんたに似てさ、困っている人をほうっておけないんだって。今回の件は、紅羽の独断。あとは、あんたの意向次第ってわけ」


 ネイの補足説明を聞き、咲弥は内心で驚いていた。

 そもそも、真っ先に咲弥が動くからなのかもしれないが、それにしても――()()()()(はぶ)いたうえで、紅羽が自発的な行動を取るのは、やはりなかなか珍しい。


 普段なら事を運ぶ前に、指示を(あお)いでいただろう。

 事情をあらかた呑み込み、咲弥は小刻みに(うなず)いた。


「それなんですが……おそらく、何も問題はありません」


 紅羽達は揃って小首を(かし)げた。

 咲弥は説明する前に、ジェラルドの言葉を振りかえる。


『でしたら、こうおっしゃってください――極秘任務につき事情を深くは明かせないが、見通しが立たない任務期間中は帝国城付近に駐在する。また戦闘技術向上のため、帝国軍の訓練にも参加する運びとなった。と、どうでしょうか?』


 これには、真実と虚実が織り交ざっていた。

 少なからず、皇女絡みだとは間違いなく思われない。

 よくて軍に関する任務と、そう疑われるぐらいで済む。


 咲弥はジェラルドの言葉を、少し()み砕いて伝えていく。

 最初に顔を輝かせたのは、シーラであった。


「そ、それじゃあ……!」

「はい。僕のほうは正直、どれくらいかかるのか、まったく判断のつかない状態なんです……ただ祭典の話に関しては、別に何も問題ありませんよ?」


 咲弥は前置きをしてから、シーラへはっきりと伝えた。


「たとえ祭典までに終わったとしても、紅羽やネイさん――あとメイアさんが了解されているんでしたら、そもそも僕の意向なんか、必要ありませんから」

「おいおい! 俺も一応、裏方として働くんだぜ」


 ゼイドがやや憤慨(ふんがい)気味に言ってきた。

 咲弥は少しはっとなり、苦笑を送る。


「そ、そうだったんですね。すみません……もし祭典までに任務が終われば、僕も自由に動けます。ですから、微力かもしれませんが、お手伝いさせてください」


 ゼイドが無言で二度(うなず)き、了承を示した。

 シーラが紅羽の隣に移り、やや覗き込むように微笑む。


「聞いていた通り……本当に優しくて、いい方なんですね」

「はい」


 紅羽が微笑みを(たた)え、ゆっくりと(うなず)いた。

 それから、咲弥の(そば)まで歩み寄ってくる。


「ありがとうございます」

「うんん。紅羽が自分で決めたことなんだ。むしろ、なんか(うれ)しいよ」


 それは、(おおむ)ね本音ではあった。

 奴隷施設を脱したあと、紅羽の思考は咲弥が主体だった。

 特殊な状況を(のぞ)けば、他者に関心などまったく示さない。


 だから紅羽が独断で行動している場合、それは最終的に、咲弥のためになるからといった理由でしかなかった。実際、紅羽のお(かげ)で助かった場面は多い。

 そんな彼女が、()()()()()()()()件で動いたのだ。


 紅羽は人として成長している。それは、明確な事実だ。

 咲弥のいない場所で、咲弥とは関係のない人を助ける。

 咲弥は本心から、とても(うれ)しく思う。

 ただ心のどこかで、同じくらい寂しさも感じていた。


 きっと、紅羽はもう――

 ()()()()()()()()()()、もう大丈夫なのかもしれない。

 自分で考えて動き、仲間の輪を広げて生きていける。

 今回の件から、そんな印象を強く受け取れた。


(そっか……きっと、僕のほうが……)


 (そば)にいるのが、あたりまえだった。

 指示を(あお)がれるのは、何も不思議に思わなくなっている。

 そのせいでより一層、寂しさを覚えているに違いない。

 離れるのが寂しいのは、むしろ咲弥のほうなのだ。


 複雑な心境を抱えたそのとき、破壊と再生の神リフィアの件が脳裏(のうり)をよぎる。それ以外の問題も、次から次へ頭の中を駆け抜けていった。

 そう遠くない未来、事と次第によっては――


「咲弥様……?」


 紅羽が真顔で、小首を(かし)げた。

 咲弥ははっと我に返る。すぐさま、苦笑で応えた。

 少なくとも今は、何も判断がつけられない。

 咲弥は心を押し殺してから、なにげない声音で告げる。


「……でもさぁ……さすがに、その格好は、ちょっと……」

「あぁ~? わかったぞ! あんた、ほかの男に紅羽の肌を見られるのが、嫌なんでしょ? ()いちゃってるんだ?」


 それ以前の話だが、あながち間違いとは言い切れない。

 ネイからの指摘を受け、咲弥はうっとうめいた。


「いやいや、紅羽だけじゃなくて……もっとこう、皆さん、羞恥心と言いますか、恥じらいと言いますか、そういうのを持たれたほうがよろしいのでは?」


 ネイがいたずらな笑みを浮かべ、魅惑的な姿勢を取った。


「世の男どもを、一人残らず(とりこ)にしてやんぜ!」

「何か問題があったら、どうするんですか」

「へぇ? 心配してくれるんだ?」

「そりゃそうですよ」

「安心しなさい。そんときは、返り討ちにするだけだから」

「むしろ、そんな気概(きがい)のある男を見てみたいもんだ」


 ネイとメイアの発言を聞き、咲弥は苦笑する。

 襲いかかった女に、呆気なく再起不能、あるいは殺される――王都の冒険者ギルドにいたとき、そんな事件をちょくちょく耳にした覚えがあった。

 また紋章具にも、防犯的な代物がごろごろとある。


 よほど実力差がない限り、下手な真似はできない。

 とはいえ、だから心配しないとはならないのだ。


「それでも、気をつけるに越したことはありません」


 咲弥はため息をつき、それからふと気づく。

 (そば)に立つ紅羽が、さきほどから真顔で小首を(かし)げたまま、咲弥を見つめてきていた。何か言いたいことでもあるのか、彼女の心情はよくわからない。


「ん……どうしたの? 紅羽」

「咲弥様の事情は理解しました。ですが――」

「ん?」

「依頼された方は、()()()だったのですか?」

「え……?」


 今度は、咲弥が首を(ひね)った。

 紅羽が無表情のまま、淡々(たんたん)とした声を(つむ)いだ。


「咲弥様から少々、()()()()()がしましたので」


 咲弥は心底、ぞっとした。

 やましいことなど何一つない。それは、断言できる。

 しかし女の嗅覚の鋭さを知り、謎に戦慄(せんりつ)させられた。


 花の香りに満ちた皇女シャーロットの部屋か、帝国紋章学研究所のパスカか、帝国軍第一千人隊長のシルヴィアか――思いあたる(ふし)は、この三つしかない。

 咲弥ははらはらとした気持ちを抑え、冷静に言葉を選ぶ。

 シャーロットに関する話題は、完全に極秘事項なのだ。


「あぁ、たぶん……試し合いのときに、ついたのかなぁ……同じ爪使いだって紹介されてさ、なんか流れから戦闘能力を把握するために、実戦させられたから」


 紅羽を相手に、あまり変な嘘はつきたくはない。

 とはいえ、パスカのほうは誤解を招きそうな気配がする。

 軍にまつわる話のほうが、今後も含め無難と考えたのだ。

 紅羽は表情を変えず、また問いかけてくる。


「その相手が、女の方だったのですか?」

「う、うん。そうだね」

「そうですか」


 納得したのかどうか、表情からは読み取れそうにない。

 いやらしい笑みを浮かべ、ネイがぼそっと言った。


「対戦中に、どうせいやらしいことでもしたんでしょ」

「してません! というか、めちゃくちゃ強かったです!」

「へぇ……?」


 ネイが片目を細め、じっと(にら)んでくる。

 咲弥はなんとも言えない気持ちを胸に、戸惑うほかない。


「それで、いつまでここにいられるんだ?」


 ゼイドの言葉に、咲弥は素直に答える。


「それが、すぐに戻らなければなりません」

「マジか。今さっき来たのにか?」

「はい。本当は使者を送ると提案されたんですが、仲間への報告は自分で直接させてほしいと、少し無理を言って許可を出してもらったんです」

「あぁ……そうか」


 ゼイドは小刻みに(うなず)き、低い声で了承を示した。

 咲弥は一同の顔を、順々に眺めていく。

 みんなそれぞれ、残念そうな面持ちをしていた。

 紅羽も無表情ではあったものの、どこか暗い雰囲気が少し(にじ)んでいる。


「本当に、すみません」

「まあ、任務なら、どうしようもないわよね」


 ネイが肩を(すく)め、ため息まじりにそう言った。

 咲弥は(うなず)いたあと、深く頭を下げる。


「しばらくの間、連絡も取れなくなるかもしれませんが……こうして外出の許可か、連絡が取れそうなら取ってみます。それで、どうかよろしくお願いします」

「ほぉーい」

「ああ。わかった」

「まっ、しゃあねぇか」


 みんなばらばらに、了承の声を上げていった。

 少し寂しく感じながら、咲弥は紅羽に目を向ける。

 紅羽はただじっと、咲弥のほうを見据えてきていた。


 おそらくは、問いたい疑問が山ほどあるに違いない。

 彼女の紅い瞳には、そんな葛藤が宿っている気がした。

 咲弥は少し考えてから、紅羽に告げる。


「任務が終わったらさ……王都でしているみたいに、()()()()()してみない?」


 紅羽はほんのわずかに、目を大きくする。

 神々しい顔に微笑みを(たた)え、紅羽はこくりと(うなず)いた。


「はい。了解しました」


 紅羽の表情を眺め、咲弥はほっと安堵(あんど)する。


 それから、雑談を少ししたあと――咲弥は一人、帝国城へ戻っていった。その道中、今後の不安に加え、紅羽が見せた変化についても思考が巡る。

 いつまで彼女の(そば)にいられるのか、漠然とした不安が胸をきつく苦しめた。




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