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神殺しの獣  作者: Key-No.92
第四章 無数にある分岐点(下)
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第一話 必死の選択




 威風堂々とした帝国城は、帝都の先に(そび)え立っていた。

 遠目からでも、その(おごそ)かな存在感は強烈なくらい伝わる。

 きっと帝都のほうで見られる帝国兵達の姿が、城の印象をより強めていた。


 アイーシャの話によれば、たとえ蒸し暑い気候の中でも、軍人は鎧を着用しなければならない。とはいえ、頭の先から足の先までというわけでもなかった。

 可能な限りの軽装を、それぞれが心がけている。


 またこちらの世界には、紋章効果という代物もあるのだ。

 熱が緩和される効果が、鎧に付与されているに違いない。


 青と黒の二色を基調とした鎧の胸元には、帝国を象徴する紋章が刻印されていた。中に黒い布地の服を着ているのか、どこか威厳(いげん)に溢れた格好だと感じられる。

 帝国兵は少し物々しいが、帝都の民は真逆と言えた。


 誰もが涼しそうな、日よけが考慮された(よそお)いをしている。

 灼熱に焼かれたいのか、中には半裸に近い者までいた。

 ただ暑い国にある帝都では、日陰(ひかげ)がわりと多い。


 さらに熱を(のぞ)くために、あらゆる手段が用いられている。

 謎の形をした建物、天幕――そして、帝都全体の造りだ。

 暑いのは暑いが、しかし灼熱地獄というわけでもない。


 とても冷ややかな風が、しきりに吹き抜けていく。

 最初は紋章機か何かを疑ったものの、どうやら冷えた風が発生する現象が昔からあるようだ。また水の加護に恵まれ、水不足に悩まされた経験はほぼないらしい。


 そんな暑くも活気に満ちた帝都を抜けた先――

 帝国城に繋がる玄関とも呼べる場所に、咲弥は来ていた。


 前方には、広々とした庭園がある。

 鑑賞物はすべて意匠が()らされており、水と植物に溢れた光景は、まさに圧巻の一言であった。その先には、それこそ見上げるほどの幅広い階段が待っている。


(うわぁ……)


 階段が長い。確かにそれも、原因の一つではある。

 だが心の中でうめいたのには、もっと別の理由があった。

 隣にいるアイーシャは、とても涼しげな顔をしている。

 咲弥は戦々恐々(せんせんきょうきょう)としながら、階段の手前まで進んだ。


 実は階段の手前から上のほうまで、両端に三列ずつ並んだ帝国兵がいる。抜いた剣を一様に顔の前へ置き、鑑賞物かと疑うくらい静止していた。

 帝都にいた者とは異なり、こちらは兜まで着用している。


「さあ、とっとと行くぞ。ドクソノロマガメ!」

「え? あっ、はい……」


 アイーシャの指示に、咲弥は震えた声で了承した。

 咲弥達が通り過ぎた瞬間、ついに帝国兵達が動き始める。

 カッと音を鳴らし、剣を一度だけ上下に振ったのだ。


 咲弥が進むたびに、その動作がおこなわれている。

 それはどこか、スポーツイベントなどで見られる、観客のウェーブパフォーマンスを連想させるものであった。訪れた人に対する(なら)わしか、とにかく少し怖い。

 城門に辿(たど)り着く前に、帝国兵の一人が声を張った。


「開門!」


 けたたましい音を響かせ、仰々(ぎょうぎょう)しい扉は開かれていく。

 小柄な色黒の老人が一人、扉の先でぽつんと立っていた。

 アイーシャと並び、老人の前に立つ。

 老人は拳を胸の前に置き、帝国式の優雅(ゆうが)な敬礼をした。


「お待ちしておりました」


 老人の声音は、ややしわがれていた。

 アイーシャの敬礼に続き、咲弥も(あわ)てながら一礼を送る。


「内務大臣がお出迎えとは、恐悦至極(きょうえつしごく)に存じます」

「ほっほっほっ。そちらの御仁(ごじん)が、例の咲弥様ですかな?」

「お察しの通りです」


 初めて見るアイーシャの一面に、咲弥は内心で驚愕する。

 礼儀正しい言葉遣いと立ち居振る舞いは、そこはかとなく気品が感じられた。普段のアイーシャを知っている者なら、きっと誰もが驚くだろう。


 当然ではあるが、ここでは一介の冒険者に過ぎないのだ。

 咲弥は緊張しながら、内務大臣に自己紹介する。


「あっ、と……初めまして。レイストリア王国の冒険者――咲弥と申します」

「これは、これは……申し遅れました。ラングルヘイム帝国内務大臣、ヴィクスと申します。以後、お見知りおきを」


 咲弥は冷や汗をかいた。自分の礼儀に、自信が持てない。

 ヴィクスが柔らかな声を(つむ)いだ。


「そう、お硬くならず――ここでは、御客人でございます。遠路はるばるお越しいただき、まこと感謝しておりますぞ」

「あっ……その……」


 緊張を見抜かれ、落ち着かせるための発言に違いない。

 結果としては、反対に緊張感を高めさせていた。

 咲弥はしどろもどろとなる。ヴィクスが(ほが)らかに笑った。


「聞いていたよりも、精悍(せいかん)な顔つきをしていらっしゃる」

「いいえ――まだ所詮、雛鳥に過ぎません」

「では、将来が楽しみですな」


 アイーシャの発言に、ヴィクスは微笑んだ。

 以前、国際大会の優勝で、王城に招かれた経験がある。

 そのときもまた、ほぼうろたえていたのを思いだした。

 ヴィクスは右手を、ひらりと泳がせる。


「それでは、参りましょうか」


 ヴィクスに誘導され、咲弥はアイーシャと並び歩く。

 帝国城の内部は、ひどく硬い空気に満ちている。

 どこもかしこも荘厳(そうごん)で、肌がひりつくほどであった。


 石柱一本にすら、芸術的なまでの意匠が()らされている。

 それも確かに理由の一つではあるが、大部分はおそらく、出入口にあたる場所に必ず立つ帝国兵の姿が、そう思わせる原因のような気もした。

 防犯に余念がなく、(ねずみ)一匹すらも通れそうにない。


 またちらほらと、城内で働く使用人達の姿も見られた。

 ここに関しては、本当に恐ろしいと思える。

 咲弥達が通り過ぎた後も、絶対に敬礼の姿勢は崩さない。

 王城でもそうだったが、かなり教育が行き届いていた。


 冒険者の世界に、慣れてしまったというのは(いな)めない。

 だからきちんとされ過ぎると、もはや窮屈(きゅうくつ)に感じられる。

 さらに言えば、どんな用事で呼ばれたのかもわからない。

 あらゆる不安から、咲弥は次第にお腹が痛くなってくる。


 苦痛に耐え(しの)んでいると、ヴィクスが不意に足を止めた。

 眼前には、とても(いか)めしい装飾が施された鉄扉がある。

 きっとこの先に目的の人物が、待ち構えているのだろう。

 門番のどちらにとなく、ヴィクスはしわがれた声を放つ。


「御客人をお招き致しました。さあ、扉を――」

「はっ!」


 帝国兵の二人が動き、鉄扉はゆっくりと開かれる。

 ヴィクスを先頭に、咲弥達は赤い絨毯の上を歩く。

 豪華絢爛な造りをした広間は、異常なくらいだだっ広い。

 平均的な学校の運動場を、連想させるほどの規模だ。


 張り詰めた空気は重く、静寂に満ち満ちている。

 そのせいで咲弥達の足音が、いやによく耳に届いた。

 ずっと先には舞台があり、薄い垂れ幕がされている。

 シルエットに近い影が、うっすらと二つ見えた。


 ヴィクスは悠然(ゆうぜん)と進んでいる。

 隣にいるアイーシャが、不意に足を止めた。

 咲弥も立ち止まり、前を行くヴィクスを眺める。


 少ししてから、アイーシャが自身の胸を叩いた。

 咲弥も教えられた通り、地に(ひざ)をついた敬礼をする。


「幕を開け」


 顔を()せている状態のため、誰が言ったかはわからない。

 どこか気高い声質に、咲弥はいまだ見ぬ皇帝陛下だろうと検討をつける。


「はい。(かしこ)まりました」


 しわがれた声音は、ヴィクスのものだった。

 カーテンを開くような、さらさらとした音が流れる。

 アイーシャと約束したため、咲弥は顔を上げられない。

 咲弥はただ息を呑み、赤い絨毯のみを見据えた。


「ようこそ、冒険者諸君――よくぞ、()の城に参られた」

「もったいなき、お言葉でございます」


 アイーシャの声には、少しばかりの緊張感が宿っていた。

 咲弥はまだ無言を貫く。


「貴公が、咲弥か?」


 これも約束のため、咲弥は声を発せない。

 しかしこれでは、逆に失礼ではないかとも感じられた。

 問われて無言なのは、さすがにおかしい。

 なかば混乱状態に(おちい)るが、咲弥はぐっと耐え(しの)ぶ。


「そちらのアイーシャから話を聞かされ、ぜひとも、貴公に会いたいと無理を言った。遠い国――レイストリア王国から足を運んでもらい、まこと感謝する」


 皇帝陛下は言葉を止めた。

 無言の沈黙が、ひどく咲弥の胸を痛める。

 じわりとした冷や汗が、全身から噴き出していた。


「本当は我々も、前回の国際大会に出場したかったのだが、訳あって――不参加というかたちとなってしまった。実に、残念だ。例年通り参加を果たせば、もっと早く、貴公と巡り会えていただろう」


 言われてもみれば、前回の国際大会に帝国の名はない。

 別に国同士の仲が悪いと、そう聞いた覚えはなかった。


「これもまた、そこのアイーシャからではあるが――前回の国際大会で、貴公は優勝を果たしたそうだな? ぜひとも、この目で拝みたかったものだ」


 いつまで無言でいればいいのか、本当にわからない。

 少し視点を変えれば、皇帝陛下ともあろう者に、独り言を言わせているだけのような気がする。礼儀以前に、人として間違っている。

 とはいえ、約束を破るわけにもいかない。


「ふっ――もう、顔を上げてもよいぞ」


 咲弥は電撃にも似た(しび)れを覚える。

 たとえ何を言われても、敬礼の姿勢を絶対に崩すな――

 帝国城に向かうまでの間、ずっとそう念押しされていた。


 ただ皇帝陛下を無視するのは、失礼極まりない。

 いったいどうすればいいのか、何もわからなくなる。

 今現在の姿勢では、アイーシャを見ることも叶わない。

 少しでも顔を動かせば、それで敬礼の姿勢が崩れるのだ。


「どうした? 余の言葉が聞こえぬか?」


 声は穏やかだった。しかし、確かな(けん)がこもっていた。

 さきほどから無言を貫き、無視に近い行為を続けている。

 これで不快に思わない者など、そう多くはない。


「他国とはいえ、皇帝陛下たる余の命令――聞けぬか?」


 じわりとした恐怖が、咲弥の心臓を握り締めた。

 ひどく息苦しくなり、地につけた拳が震える。

 何が正解で、不正解なのか――


 冒険者資格取得試験の頃も、思えば似た経験をした。

 アイーシャ絡みには、もう付き物だと疑うほかない。

 重圧感のある空気が、咲弥をひどく(むしば)んでいく。

 ついには眩暈(めまい)が起こり、腹の底からくる吐き気を覚えた。


 アイーシャは何も言わない。皇帝陛下も無言になった。

 しんと静まりかえり、自分の心臓の鼓動のみが聞こえる。

 咲弥はなかば自然と、呼吸を整えた。


 理由は不明だが、何か特別な意味がきっとある。

 そうでなければ、こんな失礼な行為をさせるはずがない。

 咲弥は覚悟を決め、敬礼の姿勢のまま無言を貫いた。

 しばらくしてから、隣にいるアイーシャが大笑いする。


「あぁーはっはっはっ!」

 衣擦れの音から、アイーシャが立ち上がったとわかった。

「どうですか? 陛下。これが、咲弥という人間です」


 アイーシャの不穏(ふおん)な発言に、咲弥は心の底から驚愕する。

 血の気が一気に引き、暑い国の中で一人凍え始めた。


 普段通りに近い口調に戻っていたのも理由ではあるが――今はそれ以前に、発言内容に意識が回る。事実は不明だが、(おとし)められただけの可能性について模索した。

 嫌な想像ばかりが、咲弥の脳裏(のうり)をぐるぐると巡っていく。


「この者は何があろうとも、与えられた命令を厳守します。それがたとえ、皇帝陛下が相手だったとしても――です」

「うむ。見事だ」


 皇帝陛下の賞賛を聞き、頭の中が疑問で溢れかえった。

 (そば)にいるアイーシャが詰め寄ってくる。

 腕を引っ張られ、咲弥は無理矢理に立たされた。


「いつまでやってんだ。このドクソノロマナメクジ!」

「え? へ? ええ?」


 もはや、ただただ錯乱(さくらん)しかない。

 咲弥は呼吸も忘れ、視線を右へ左へと泳がせた。

 その際、立派な黒髭(くろひげ)(たくわ)えた、褐色の肌を持つ皇帝陛下の姿が目に入る。


 豪華な椅子に座っており、とても凛々(りり)しい顔をしていた。年は五十代なかば頃か――貫禄(かんろく)に満ち溢れ、体も大柄でよく鍛えられている印象を抱かせる。

 皇帝陛下の隣には四十代後半だと思われる、色黒な赤髪の男が立っていた。


 赤い外套(がいとう)と組み合わされたような青い鎧は、恐ろしいほどごつく感じられる。また帝国城付近にいる帝国兵とは違い、彼は兜を着用していない。

 (おだ)やかながらも硬派な印象がある、そんな顔立ちだった。


 意識が朦朧(もうろう)とする咲弥は、事態が呑み込めず沈黙する。

 皇帝陛下が、ふっと笑った。


「失礼した。貴公という人間を()るため、少々――一芝居を打たせてもらった」


 咲弥の頭はぼんやりとしたまま、まだ戻ってこない。

 皇帝陛下は気にした様子もなく、左手をあげた。


「紹介しよう。彼は帝国軍第二大将軍、ジェラルドだ」

「お初にお目にかかります。以後、お見知りおきを――」


 ジェラルドは太い声で言い、優美に帝国式の一礼をする。

 咲弥は戸惑いながら、ぎこちない敬礼を送った。


「あ、えっと……はい……」


 まだ完全には、我を取り戻せていなかった。

 よくよく考えれば、失礼な対応ではある。

 皇帝陛下は力強い眼差しを(たずさ)え、重い声を(つむ)いだ。


「今、この場にいる者達は、余の忠実なる配下であり友だ。仮に裏切られたとしても、静かに受け入れられるほどの」

「はんっ! ご冗談を」

「お(たわむ)れが過ぎますな」

「ほっほっほっ」


 まずアイーシャが応え、ジェラルドとヴィクスが続いた。

 皇帝陛下は口もとに笑みを(たた)える。


「今回の件は、秘密裏に処理したい。そのため、貴公を試す形となった非礼を()びておく。まこと、申し訳なかった」


 咲弥はようやく、事態を把握しつつある。

 皇帝陛下は述べた。


「貴公に送った一〇〇〇万スフィア――あれは、こちらまで来てもらうだけの()()に過ぎない。(あま)ったぶんは、そちらの(ふところ)に収めておいてくれ」


 一スフィアも使っていないとは、さすがに言えなかった。

 咲弥はどうすればいいのか、ほとほと困り果てる。

 咲弥の内情を知らない皇帝陛下が、さらりと言い放った。


「今回の件が無事に済めば、別に一〇億を支払うつもりだ」

「……え?」


 咲弥は絶句した。

 あまりにも現実味のない金額を聞き、いったい一〇億とはどれほどの金額なのか――そんなばかな考えが脳裏(のうり)を巡る。


「すでにアイーシャのほうから、話は伺っている。しかし、改めて貴公の口から、自身の実力に関した話を聞きたい」

「実力……とは、なんでしょうか?」

「たとえば、黒い手と白い手の力、とか?」


 咲弥はつい、眉をひそめた。

 武力に関する話なのか、はたまた別の何か――

 自分の中で疑問を追求しつつ、黒白の籠手について語る。


 どこまで知られているのかはわからないが、言える範囲で(とど)めておく。皇帝陛下を相手に隠し事などとは思いながら、しかしすべてを話すわけにもいかない。

 あらかた語り終えたところで、ジェラルドが(うな)った。


「ほう……随分と稀有(けう)な力ですな」

「長い帝国の歴史の中ですら、聞き覚えはありませんなぁ」


 ヴィクスが神妙な面持ちで、ジェラルドの言葉に続いた。

 皇帝陛下が顎髭(あごひげ)()で、咲弥に問いかけてくる。


「その精神世界とやらは、いったい()()()()踏み込める?」

「どこまで……どうお答えすれば、よろしいでしょうか?」

「その者が自覚すらしていない、深層領域――とか?」


 咲弥は息を呑んだ。

 もしかしたら、精霊の領域についての問いかもしれない。


 仲間が精霊を扱える事実は、前回の国際大会を見聞きした者ならば誰にでもわかる。だが咲弥が解放したのかどうか、それは一部の者しか知らないはずだった。

 予測、または予知的な能力者がいる可能性も浮かぶ。


 いずれにしても、あまり好ましくない質問ではあった。

 咲弥は悩み、考え、それから回答する。


「おそらくは、可能かと思われます」


 知られているのであれば、それはもう仕方がなかった。

 ただいまだ、どの範囲かまでは見えてこない。

 であれば、こうして(にご)しておくほうがいいと考えた。


 咲弥の回答を最後に、場は静まりかえる。

 緊迫感を含んだ静寂を打ち破ったのは、皇帝陛下だった。


「ある高名な呪術師が、(さじ)を投げた()()があったとして――貴公ならば、それを裂くことが可能か?」


 咲弥はふと、自分の勘違いに気づかされた。

 皇帝陛下の発言から、呪いに関する話題だと予想する。


「……呪いの質にも、よると思われます。たとえばですが、魂が壊れるほどの呪い――まるで何かと混ざったかのような呪いは……もうどうしようもありません」


 記憶によみがえるのは、ネイの故郷での出来事だった。

 魔人ニギルの行為が、まさにそれにあたる。

 皇帝陛下は(うな)り、(おだ)やかに太い声を吐いた。


「魂が無事であれば……可能性は、ゼロではない……か?」

「はい。魂が無事であれば……ですが」


 ジェラルドが皇帝陛下を向き、そっと言葉を送った。


「一度、実際に()てもらったほうがよろしいかと……」

「うむ」


 皇帝陛下はこくりと(うなず)いた。

 咲弥はおそるおそる、皇帝陛下に疑問を投げる。


「あの……どういうことでしょうか……?」

「叶うならば、貴公にはとある呪いを除去してもらいたい」

「現在、陛下の大切なお方が、妙な呪いにかかっています。別の大陸から高名な呪術師をお招きしたが、その者が調べた結果、こうおっしゃられました」


 ジェラルドは重く低い声音で、ゆっくりと告げた。


「これは――()()()()だ、と」


 咲弥ははっと息を飲み、全身に嫌な(しび)れを覚える。

 静寂に満ちた場には、ただ息苦しい重圧感だけが残った。




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