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神殺しの獣  作者: Key-No.92
第四章 無数にある分岐点(上)
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第三十四話 二つの開戦




 ゼイドはネイの横に並び、(あお)飛泉(ひせん)の洞窟を進んでいた。

 もう長く歩いた気もするが、いまだ出口は見つからない。

 思いのほか、複雑な構造をしているようだ。


 不安要素は多いが、安心できる点がないわけでもない。

 ただその安心感が、不可思議な疑問をもたらしている。


 強制転移をくらったゼイドは、気がつけば謎の黒い遺跡が見える場所にいた。周辺には暗い森が広がっており、ひどく危険な香りに満ち満ちている。

 一人きりという状況に、気が動転した事実は(いな)めない。


 そのせいで隠密(おんみつ)が失敗してしまい、最悪な事態が連鎖的に起きた。多種類の魔物から、それぞれの方法でつけ狙われ、状況は刻々(こくこく)と悪化の一途(いっと)をたどる。

 撤退(てったい)していた最中に、さらなる絶望的な事実も判明した。


 気配を完全に()てる魔物が、この空白の領域にはいる。

 狙われてようやく、認識が可能な魔物だったのだ。

 領域内には、本当に奇妙な魔物がたくさんいる。


 そのはずだが――飛泉の洞窟には、なぜかほぼいない。

 暗がりの穴の中に、嫌な気配だけは感じられた。

 しかし不思議な話、別に襲ってくる様子はない。

 蝙蝠(こうもり)みたいな生物が、現状では最後に見た魔物であった。


(ここにも、完全に気配を絶てる魔物がいんのか……?)

 ゼイドは周囲の観察をおこない、ふと違和感を覚えた。

「あれ? ここ、さっきも通らなかったか?」


 きょとんとした顔で、ネイは小首を(かし)げた。


「そう?」

「いや、たぶんな?」

「似た場所が多いからねぇ」


 ずいぶんとお気楽な物言いに、ゼイドはため息をつく。

 とはいえ、ネイの返答は妥当(だとう)なものではあった。

 蒼い結晶は、どれも似た形をしている。


 そのせいでより一層、同じ場所だと錯覚するのだろう。

 そう解釈してから、ゼイドは別の疑問を投げた。


「そういえばな、ちと不思議な話なんだ、が……ん?」


 何か妙なものが視界に入り、ゼイドは口を閉ざした。

 目を細め、じっと覗き込む。

 蒼い結晶の色が、少しおかしい


「なんだ……ありゃあ? ちと、待ってろ」


 ネイに伝えてから、ゼイドは結晶群の隙間を通っていく。

 蒼い結晶に囲まれた空間――そこには、男女二名がいた。

 太い結晶にもたれ、まるで休憩しているようにも見える。


「こ、こいつは……」


 嫌な予感は、目からも伝わってきていた。

 格好からして、先走った竜人達で間違いない。

 ゼイドは歩み寄り、まずは男のほうを揺さぶってみた。


「おい……おいっ!」


 手から伝わる感触が、ある一つの事実を物語っていた。

 揺らした男と同様に、女のほうもすでに亡くなっている。

 非常に不可解な疑問が湧き、ゼイドは顔をしかめた。


 どちらも外傷らしきものが、どこにも見当たらない。

 きっと普通の場所や状況であれば、ただ眠っているとしか思わなかった。しかし触れてみた感じから、亡くなってから半日以上は経過している。


 (おだ)やかな死を迎えた様子ではあるが、肝心の死因がまるでわからなかった。

 まだ二十代なかば頃のため、寿命とは到底考えられない。

 ゼイドは肩越しに、背後を振り返る。


「おい、ネイ! 竜人達の死体だ!」


 叫んだものの、ネイからの返答はない。

 (いぶか)しく思い、ゼイドは歩いていた地点まで戻った。


「んなっ……はぁ?」


 ゼイドの驚愕は、そのまま声となって漏れ出た。

 ネイは呑気(のんき)に、結晶を椅子代わりに座って休憩している。

 ゼイドは大きなため息をつき、呆れながら伝えた。


「おいおい……あっちで、竜人二人の死体を発見したぞ」

「そう。まあ、なんとかなるでしょ」

「ならねぇよ……! あとなぜか、二人とも外傷がない」

「大丈夫。それよりも、なんか少し歩き疲れたわ。ちょっと休憩しましょうか」


 確かにいつも余裕な姿勢を見せ、お気楽な思考はあった。

 しかし今のネイは異常であり、明らかにおかしい。

 詰め寄ったネイの肩を、ゼイドはがっしりと(つか)んだ。


「おい! いったい、どうしちまったんだ!」

「はぁ……なんか凄く落ち着くわ……しばらく、休憩ね」


 ネイの(とろ)け顔に唖然となり、ゼイドは数歩後退した。


(なんだ……いきなり、なんなんだいったい……)


 精神になんらかの攻撃を受けている――まず考えたのは、そこであった。

 だが、いつそんな攻撃を受けたのかがわからない。自分と再会する前なのか、または蝙蝠(こうもり)を始末した(さい)、精神に異常を引き起こす何かを受けた可能性が浮く。


 ただもっとも(そば)まで接近されたゼイドのほうが、ネイより遥かに危険そうだと感じられる。そこは種族による違いか、はたまた別の理由があるのだろう。

 混乱するゼイドの脳裏(のうり)に、ふと竜人達の亡骸(なきがら)が浮かんだ。

 竜人達もまた、今のネイと同様に似た姿勢を――


「まずい――っ!」


 ゼイドは(あわ)てて、強引に結晶からネイを引っぺがした。

 ネイはまったく抵抗せず、ひどくだらけきっている。

 当然、真偽(しんぎ)は知れない。何もわかるはずがなかった。

 それでも、漠然と導かれた解答の可能性を捨てきれない。


 蒼い結晶自体が、精神に異常を(まね)いた元凶――もし考えが正しければ、先にネイがおかしくなった理由も説明がつく。ゼイドよりも長く、この洞窟にいるからだ。

 それは同時に、もう一つの可能性を示唆(しさ)している。


(まじぃっ! これは、かなりまずいぞ!)


 ゼイドもまた、時間の問題かもしれないのだ。

 すぐ洞窟から抜け出さなければ、自分もネイも死ぬ。

 だからといって、出口を目指そうにも場所がわからない。


(どうする……どうすりゃいい……!)


 最悪な状況下、事態はさらに悪化する。


(おいおい、嘘だろ? なんだ、この気配は……!)


 ゼイドはネイを抱え、即座に薄暗い岩陰(いわかげ)に身を(ひそ)めた。

 重い足音が響き、次第にどんどん迫ってきている。

 ゼイドは警戒を最大限に、こっそりと覗き見た。


(チッ……そういうことか……ここは、お前さんの巣かい)


 心の中で舌を打つと同時に、資料の内容が脳裏に浮かぶ。

 生命を(むさぼ)る鉱石獣――ルピラスは巨大な狼を彷彿(ほうふつ)とさせる姿をしており、全身が石英(せきえい)(おお)われていた。(いな)、体すべてが石英と言っても、なんら過言ではない。


 光を発する結晶のせいか、今のルピラスは青白く見えた。

 本来は、まるで硝子(がらす)細工みたいな透明感がある。

 足音は重いが、歩く所作はとてもしなやかで美しい。


 ゼイドは眉をひそめ、はっと息を呑んだ。

 ルピラスは迷うことなく、竜人達のほうを目指している。

 十中八九、死臭を()ぎ取っていた。


(くそっ……)


 竜人達はすでに、どちらも死んでいた。

 それは、事実以外の何物でもない。

 だからこそ余計に、ゼイドは懊悩(おうのう)するはめとなった。


 ルピラスはまるで琥珀(こはく)のごとく、生物の死体を体内に取り入れ、骨すらも残さずに溶かしきる。もっとも最悪なのは、特殊とも言える捕食後にあった。

 高濃度なオドを死体から抽出したのち、そのエネルギーは永続的に循環(じゅんかん)する。


 より硬く、より強靭に――あらゆる面が強化されるのだ。

 つまりルピラスは、食えば食うほどに強くなる。

 資料によれば、もはやどんな攻撃も通じなくなっている。

 撤退(てったい)しなければ、全滅していたと記されていた。


(くそっ……あいつがいれば……)


 頭に思い浮かんだのは、咲弥の姿であった。

 どれほど硬くとも、咲弥の能力と黒白を併せれば、砕ける可能性はなくもない。別の零級――ジャガーノートすらも、一撃で(ほうむ)れるほどの攻撃力があるからだ。


 だが今現在、咲弥は近くにいない。

 そのうえさらに、ネイも戦える状況ではなくなっている。であれば、凡人の自分が一人で、ルピラスを相手に戦えるか――答えは当然、不可能であった。


 こればかりは、どうしようもない。

 そもそも、ゼイドが今考えなければならないのは、戦って勝てるかどうかではなかった。魔物の標的にならず、一刻も早く飛泉(ひせん)の洞窟を抜け出すことにある。

 それがネイを(まも)るためでもあり、自分のためでもあった。


 零級の魔物と戦えるのかどうかなど、考える必要がない。

 そのはずだった。それが一番、正しいと理解もしている。

 ただ――


(もし、あいつが……同じ状況なら……?)


 もうずいぶん、長い付き合いになる。

 それゆえに、まるで見たかのようにわかることがあった。おそらく咲弥であれば、絶対に見捨てない。たとえそれが、遺体であったとしても――

 あの少年は(まも)るために、全力で立ち向かうだろう。


 しかしいくら力自慢のゼイドとはいえ、三人も(かつ)ぎながら進むのは、さすがに無理があった。平坦(へいたん)な道でもなければ、出口が判明しているわけでもない。

 またルピラスみたいな、かなり危険な魔物までもがいる。


 そのため竜人の()()()()は、放置するほかない――これは薄い記憶程度ではあるが、竜人が戦死した場合の(なら)わしを、昔どこかで聞いた覚えがあった。

 遺体は無理でも、遺髪(いはつ)程度ならば容易に持っていける。

 問題はそれが、可能か(いな)かということだった。


「ふぅ……」


 ゼイドは大きくため息をつく。

 ネイを地べたに寝かせてから、民族的な衣服を脱いだ。


 効果のほどは定かではないが、何もしないよりはいい。

 脱いだ服でネイを包み、青白い光を(さえぎ)らせておいた。

 それから戦斧(せんぷ)を肩に乗せ、ゼイドは背後を振り返る。


「ネイ。少し、そこで待っていろ」


 ゼイドは覚悟を決め、竜人の遺体があった場所に向かう。

 ルピラスが大口を開け、竜人を(くわ)える寸前であった。


「待ちやがれぇえええっ! こんの、でかぶつがぁっ!」


 ルピラスの動きが、ぴたりと止まった。

 ルピラスがゆらりと背後を振り返り、ゼイドへ結晶の目を向けてくる。まるで品定めでもするかのように、青白かった瞳が赤黒い色に変化した。


 (にら)みつけるルピラスと対峙して、ゼイドは鮮明に(さと)る。

 それは写真や一瞥(いちべつ)程度からでは、決して得られない(たぐ)いの感覚と予感であった。

 おぞましいほどの死の気配が、全身にまとわりつく。

 ひりつく(しび)れを覚え、ついには呼吸すらもままならない。


(これが、最大級にやばい魔物の一体か……)


 想いの力で行動したが、失敗だと強く思わされた。

 これは、凡人程度が手を出せる相手ではない。

 戦斧を強く握り締め、しかしゼイドは一歩を前へ進んだ。


「わりぃが……ここで怖気(おじけ)づいてちゃあ、あいつの仲間とは言えねぇんだ」

 震えた声を吐き、ゼイドは大きく息を吸い込む。

「へっ……零級がなんだ! やってやるぜぇえええっ!」


 自身を鼓舞(こぶ)するように叫び、ゼイドは昇華(しょうか)しながら走る。

 一歩を踏み締めるたびに、なぜか恐怖が薄れていく。

 感覚が麻痺(まひ)したのか、あるいは余裕が消えただけなのか。


 予知にも近い死の未来が、明確に見えていた。

 それでも、ゼイドは止まらない。

 奥歯を強く()み締め、戦斧を大きく振りかぶった。


「これが、凡人の! 本気だぁあああっ!」


 立派な一本の角が生えているルピラスの(ひたい)に、渾身(こんしん)の力で戦斧を叩き込んだ。

 鳴り響いた音は、鈍重な鐘の音色にも似ていた。


 ゼイドは視線を()らさない。

 ルピラスもまた、じっと(にら)んできている。

 戦斧の直撃が合図代わりとなり、開戦の幕は開いた。



    ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 闇が色濃くなる森の中を、紅羽は独り駆け抜けていた。

 やはり強制的な瞬間移動は、紅羽のみではない。

 仲間もまた、どこかへと飛ばされてしまった様子だった。


 事実の確認を終えた今、まずは黒い遺跡を目指している。

 そこから南下すれば、作戦開始地点まで迷わず辿(たど)り着く。


 一応、これまでの道中、仲間達の気配を探ってはいた。

 ただ残念ながら、痕跡すらどこにも見当たらない。

 (ねば)り気のある不安ばかりが、紅羽をひどく包み込んだ。


 神々の果実が最初に発見された地点まで行けば、はぐれた仲間と再会を果たせる――そんな夢幻(むげん)にも等しい可能性に、(すが)りついている事実は(いな)めない。

 たとえ淡い希望だとしても、そのお(かげ)で前に進めている。


 考えたくなくとも、頭は自然と思考を働かせてしまう。

 もし仲間の誰かが、あるいは全員が死んでいたら――

 そこから先は、ねっとりとした暗闇だけが広がっていた。


 失うのがつらい――

 孤独になるのが怖い――


 そう感じるようになったのは、いつの頃からだろうか。

 最初の頃は、咲弥さえいればそれでよかった。

 正直、咲弥以外がどうなろうとも、知ったことではない。


 そう本気で思っていた。しかし、今は――

 ふと、五號(ごごう)の言葉が脳裏(のうり)によみがえる。


『心は、お前のように強くもさせれば、弱くもさせるのだ』


 想う心は、人を強くさせる。それは、間違いではない。

 だが五號の言葉もまた、確かに嘘ではなかった。

 もし希望が崩れた場合、今の紅羽は一緒に壊れる。

 それくらい、心が(もろ)く弱くなっているようだ。


 ならば、戦いをやめるか――答えは否定となる。

 ならば、戦いをやめさせるか――それもまた違う。


 冒険者という世界に、仲間達は身を置いている。

 多かれ少なかれ、誰もが死を覚悟して(のぞ)んでいるのだ。

 たとえ冒険者でなくとも、この世は死がすぐ(そば)にある。


 だから失うときは、きっと失ってしまう。

 それが当然であり、事実以外の何物でもない。

 わかってはいても、わかりたくはない心境ではある。


 矛盾だらけの現実に、紅羽の胸はきつく絞めつけられた。

 ただ咲弥と出会う前の自分に、戻りたいのか――

 そう問われれば、首を横に振るに違いない。

 これまでに得た経験や思い出は、紅羽にとっては宝物だと思えているからだ。


(失いたくない。何も――!)


 紅羽は覚悟を胸に秘め、さらに急ぐ足に力を込めた。

 その刹那(せつな)――ぞくりとした悪寒が、全身を駆け抜ける。

 なかば無意識に近い状態のまま、紅羽は身を(ひね)った。


 空を裂く音すらもなく、何かが紅羽を横切っていく。

 まず連想したのは雷だが、瞬間的に捉えた光景から、矢の形をした何かだと判断する。また物体というよりは、まるで紋様みたいな質感をしていた。


 なににしても、標的となっている事実は(くつがえ)らない。

 重圧的な死の予感が、紅羽をずっと包み込んでいるのだ。


 (ごく)わずかな気配を読み取り、また飛来してきた矢を()ける――それはどこか、流れ星にも近い。紋様みたいな矢を目で追いながら、発射された方角を分析する。

 さきほどとは、明らかに(こと)なる場所から()られていた。


(複数体……? いいえ……これは――っ!)


 紅羽は目を()き、とっさに地面を転がって回避する。

 判断が遅かった。紅羽の左腕を、謎の矢が少し切り裂く。


 まるで一筋の光が、複数の鏡を反射するように――一本の矢が()ね回り、再び紅羽へ突っ込んできた。射られた方角が異なっていた理由を、即座に呑み込む。

 これでは、複数体なのか一体なのか判断はできない。


 それ以前に、相手の気配が微塵(みじん)も感じられなかった。

 多かれ少なかれ、射る(さい)には殺意や意思がこもる。

 よほど隠密(おんみつ)()けているのか、あるいは――


「くっ……」


 紅羽は紅い大太刀で、跳ね回る矢を斬り落とす。

 幸い、斬れば動きは止まる。紅羽は即座に行動した。

 跳ね回る矢がある以上、身を(ひそ)ませる場所などない。


 敵の位置を迅速に特定したのち、可能であれば始末する。

 現状ではそれが、もっとも生存率を高めるに違いない。

 紅羽は純白の紋様を浮かべながら、木の(みき)を蹴り上げた。

 どんどんと高い場所へと登り、警戒しながらに唱える。


「光の紋章第七節、明滅(めいめつ)の流星」


 紋章術を使い、さらに空高く舞い上がった。

 遥か上空から森の様子を見据え、敵の攻撃を待つ。

 小さな光が灯ると同時に、さきほどの淡い矢が飛来する。

 そのとき、黒い影が木々をすり抜ける光景を捉えた。


(見つけた)

 紅羽は矢を斬ってから、再び紋章術を唱える。

「光の紋章第七節、明滅の流星」


 黒い影へと向かい、瞬時に地へと降り立つ。

 足に力を込め、飛ぶように黒い影を追いかけた。

 ほどなくして、紅羽は敵の姿を目視する。


 虎みたいな頭部を持つ、人に近い体形をした魔物だった。

 不出来な弓を背負い、今現在は四足を駆使して一心不乱に逃げている。この空白の領域では、比較的弱めの魔物だが、少しばかり()せない点が浮上した。


 眼前の魔物は近接戦闘型だと、資料で見て記憶している。

 弓が扱える個体が現れたのか、はたまた進化したのか――

 いずれにしても、捨て置くわけにはいかない。


 紅羽は一気に距離を詰め、紅い大太刀を振りかぶる。

 攻撃に転じるや、紅羽ははっと息を呑んだ。

 なぜか眼前の魔物は、()()()ひどい怪我を負っている。


 目に光を宿していない魔物の体が、途端に淡く輝いた。

 紅羽はやっと、傷が魔法陣の形を描いていたと気づく。


(これは……罠――?)

「ガァアアア――ッ!」


 悲鳴を上げた魔物の体が、(ふく)れあがる光景を目で捉える。

 紅羽はぞっとした。死の恐怖に、全身が総毛立(そうけだ)つ。

 魔物がカッと光った瞬間、爆発の轟音(ごうおん)が紅羽の耳を(つんざ)く。


 灼熱、烈風、魔物の肉片が、一気に紅羽へ襲いかかった。

 紅羽は肌を焼かれながら、ようやく真の敵が見えてくる。


 しかし、その予測もまた――

 強烈な爆発により、一緒に吹き飛ばされたのだった。




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