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神殺しの獣  作者: Key-No.92
第四章 無数にある分岐点(上)
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第三十二話 赤い遺髪




 咲弥は放心状態から、ふっと我を取り戻した。

 周囲から異様な気配が、ぽつぽつと湧いている。


「あァア……アぁァああアアァ……!」


 レティアの頭部が、途端に胸を痛めるような声を発する。

 枝が(ゆる)やかに垂れさがり、ずるりと(みき)から抜け落ちた。


 咲弥は異常な光景に、我が目を疑うほかない。

 地に散らばった枝が、ごりごりと嫌な音を立てながら――頭部であれば木の体が作られ、腕や(あし)にはそれ以外の部分が形作られていた。


 ()()された生物の情報を、なんらかの方法で読み取り、失った部分を正確に復元しているらしい。驚くべきは、服や腰に帯びた剣までもが再現されている。

 一つの枝に一体――レティアの複製が五体生みだされた。


(他生物で接ぎ木する、植物系統の魔物……パーラ……)


 生物を別の意味で取り込む魔物――パーラの最悪な点は、接ぎ木した生物の特性を、完璧に引き出せることにあった。

 資料を思いだしながら、咲弥は戦闘態勢を整える。

 メイアが右手にある剣を払い、咲弥に告げてきた。


「すまない……彼女は、私に任せてほしい。少しでもいい。ほかを頼めるか?」

「メイアさん……」

「これは、竜人……いや、()()やらなければならないんだ」


 メイアの悲しくも力強い声に、咲弥は何も言えなかった。

 その無言が、同意の合図となる。


「レティア……私が、楽にしてやるからな」


 メイアはそう(つぶや)き、五体となったレティアへ突っ込んだ。

 咲弥は覚悟を決める。邪魔をさせるわけにはいかない。

 思考を瞬時に切り替え、別の部分に視線を移した。


(でも……いったい、何体いるんだ……?)


 そんな疑問が、心の中で自然と浮かび上がる。

 気配の増え方が尋常ではない。いまだに増え続けていた。

 空を裂く音が聞こえ、咲弥は反射的に身を()()らせる。


「……くっ!」


 ()けられたのは、ほぼ奇跡に近い。

 ほんの一瞬、飛来してきたものの姿を捉える。

 槍のような、衣らしき木の体をすぼめた何かであった。

 銃弾にも等しい速度に、咲弥は背筋がひやりとする。


(こんなの……次は、()けられないぞ)


 受け身のままでは勝ち目がない。咲弥は攻めに移行する。

 目で追えないのであれば、気配で追いかけるしかない。

 魔物の素性は不明だが、直線的にしか進めないようだ。


黒爪(こくそう)空裂(からさ)き!」


 黒爪にオドを込め、狙いを定めて黒手(こくしゅ)を振るった。

 向かう方角さえわかれば、攻撃は当てやすい。


(だめだ……仕留められていない……!)


 咲弥は冷静に見極め、周囲への警戒を強める。

 飛ぶ魔物からやや遅れ、そこかしこからパーラが現れた。


(おいおいおい……)


 たった一種のはずの魔物が、多種多様の形態をしていた。

 獣、虫、鳥――そのほかにも、恐竜みたいな姿もある。


 メイアが〝最大級にやばい〟魔物の一種として、パーラの名を出していた。その理由が、ここにある。生物の一部分が手に入れば、完璧な複製が作れてしまう。

 もはや、理解不能としか言いようがない。


 至極(しごく)当然の話、魔物でも種族が違えば異なる生態がある。

 中には天敵もいれば、共存が不可能な場合もあるだろう。

 それが今や、一つの意思に統括(とうかつ)された軍団と化していた。


(ぐっ……)


 黒白(こくびゃく)で対処を試みるが、数があまりにも多い。

 パーラの討伐方法は、接ぎ木した箇所(かしょ)の破壊――ひとまずそれで、複製化したほうは死ぬ。だが本体の木を根もとから切り倒さねば、本当に討てたとは言えない。


 また本体を討ったとしても、もし分離した枝が生きていた場合、パーラが完全に死ぬことはなかった。分離した枝が、新たな本体へと代わるからだ。

 だからまずは、複製化の破壊を優先している。


 ただそれもまた、かなり難易度の高い問題であった。

 連携を取られているため、狙った通りの攻撃ができない。しかも頭、体、腕、脚と、破壊しなければならない部分が、それぞればらばらなのだ。


「くっ……そぉおおおっ!」


 たとえ窮地(きゅうち)に立たされようと、咲弥は全力で戦い続けた。

 本音を言えば、パーラを根絶(ねだ)やしにしたい気持ちがある。

 これほどまでに残忍な魔物を、野放しになどしたくない。


 しかし思いと実力は、まったく結びつかなかった。

 どう考えても、一個人で殲滅(せんめつ)できるような相手ではない。

 わかってはいても、やるせない思いばかりが胸に募る。


 レティアが死後もなお、なぜ謝罪していたのか――

 いったいどんな思いで、メイアが戦いに(のぞ)んだのか――

 考えれば考えるほど、つらい感情が胸に込み上がった。


「……せめて邪魔だけは、絶対にさせないぞ!」


 咲弥は思いを言葉に乗せ、より深く戦闘に身を投じた。



    ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 メイアは(そで)から伸びた剣で、レティアの剣技をいなした。

 そこに二体のレティアが、同時に剣先を突き入れてくる。

 メイアは頬の薄皮を犠牲に、回避しながら左の剣を()ぐ。

 さらに別のレティアが、メイアの攻撃を撃ち落とした。


 剣の強度や刃の鋭さが、木製に見えて本物と変わらない。

 放たれる剣技や、戦い方にしてもそうだった。

 レティアがしそうな立ち回りが、完璧に模倣されている。

 偽物だとはいえ、そこに嘘や(いつわ)りは一切ない。


(次は右……ここで突き……いなしてからの()ぎ払い……)


 一つの動作ごとに、メイアの胸が複雑な思いで溢れ返る。

 悲しさに(くや)しさ、憎しみに腹立たしさとさまざまだった。


 なぜ、勝手な行動をしたのか――

 なぜ、到着を待てなかったのか――

 なぜ、生き伸びられなかったのか――

 なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ――


 レティアの複製と戦いながら、ずっと頭の中が〝なぜ〟に襲われている。

 胸がはちきれそうに苦しく、(すさ)まじい激痛が走り続けた。


(あぁあ……本当に、レティアと闘っているみたいだなぁ)


 心の中の声までもが、つらさに震えていた。

 実を言えば、あらかた想像はついている。


 レティアとは、それこそ乳児の頃からの付き合いなのだ。

 予想つかないわけがない。理解できないはずがなかった。

 だからこそ余計に、自分の失態が胸に重く()しかかる。


 里長マオの意向、アスクレピオスへ進入する許可の申請、領域内の資料収集――竜石化(りゅうせっか)にかかった飛竜達が生きられる時間は、もうほとんど残されていない。

 それでも、メイアは()()()()()()を選んだ。


 飛竜達を救うために、犠牲者を多数出しては意味がない。

 里長派の主張は、メイアも充分に承知している。

 むしろ、否定など一つもしていない。

 ただ相違点(そういてん)は、諦める選択をしなかったことにあった。


 そのため始めから、少数精鋭(せいえい)で攻める作戦を立てている。

 本当は里で手練(てだ)れを募るつもりだったが、友人のほうから思いがけない支援が届く――宝具を所持した者が二人もいる冒険者達だ。

 まるでそうしろと、天からのお告げだとすら感じられた。


 奇跡の力を持った少年、恐ろしいほど流麗(りゅうれい)なオドを(まと)った少女達、力自慢だと思われる青年――(はた)から見ても、とてもいいチームだと素直に思える。

 だが咲弥達が来た時点で、飛竜達に残された時間はさらに短くなっていた。


 たとえそうであっても、暴走するような者達ではない。

 メイアの考えには、レティア達も賛同していたからだ。

 とはいえ、飛竜達があとどれくらい持つのかわからない。


 それならば、どうするのが最善(さいぜん)なのか――

 神々の果実を少しでも早く得るため、事前に準備をする。

 それが、レティア達の導き出した答えに違いない。


 しかし現実は残酷だった。まさか強制的に場所を転移する魔物がいるとは、夢にも思っていなかっただろう。下準備の際中に襲われてしまい、そして今に(いた)る。

 メイアは、くっと息を詰めた。


(レティア……お前は()()()から、ちっとも変ってない)

 メイアはかっと目を見開いた。

(すまない……甘やかしていた私も、まるで変わってない)


 レティアの複製が放つ攻撃を、メイアは()(くぐ)った。

 さすがにレティア五人と、戦って勝てるとは思えない。

 だから生の頭部を持つ複製のみに、狙いを定めている。

 レティアの結った赤髪を、メイアは右の剣で裂いた。


 地に落ちる前に、左手で(すく)い取る。

 これは、竜人の習わしの一つだった。


 戦いに身を置く者は、いつ死ぬかわからない。

 それゆえこうして、髪の一部を常に()っておくのだ。

 たとえ戦死した場合でも、容易に持って帰れるように――


(ここには、レティアだけか……)


 咲弥側にも気を配っているが、もう同族は見当たらない。

 レティアの遺髪(いはつ)は手に入れた。長居をするべきではない。

 メイアは攻撃を()け、次の行動に移ることにした。


(いと)おしき畏友(いゆう)、レティア……どうか、安らかに……)


 目に浮いた涙を(まぶた)で閉じ捨て、メイアは大きく後退する。

 メイアはまず、咲弥がいる方角を目指した。



    ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 魔法陣を白爪(はくそう)で裂き、接ぎ木の部分を黒爪で破壊する。

 パーラが出現してから、まださほど時間は経っていない。

 だが恐ろしいぐらい、長時間戦っているような気がした。


 おそらくは、隠密(おんみつ)に神経を()いていたせいでもある。

 疲労もかなり溜まり、体中の反応が(にぶ)くなっていた。

 ただ泣き言を言っていられる状況ではない。


 一手でもミスれば、すぐ死へと直結する。

 安全な場所を瞬時に見極め、攻撃と回避と防御を、同時におこなわなければならない。パーラは多種族を操り、ずっと連携して襲いかかってきているのだ。

 もっとも厄介(やっかい)なのは、資料で見た記憶のない魔物だった。


 奇抜とも呼べる動きに、かなり呼吸を乱されてしまう。

 そこに関しては、予測を立てて対処するしかなかった。

 たった一種類の魔物――

 こんな最悪な魔物、確かに領域外に出てきてはならない。


『魔神が復活すれば、その因子が爆発する。つまりは幽界を通ってきた生物が、(いびつ)に活性化、あるいは進化を()げる』

(ふざけるなよ……!)


 魔人ラグリオラスの言葉に、咲弥は(いきどお)りを覚えた。

 今はまだ、人の力で領域内は抑え込めている。


 だが魔神が復活すれば、どうなるのかはわからない。また最悪の場合――領域外にいる魔物が、パーラみたいな存在に進化する可能性も充分にあり得るのだ。

 もしそうなれば、この世界は本当に地獄と化してしまう。


「黒爪空裂き、限界突破」


 連携を逆手に取り、咲弥は集団に向けて黒手を振るう。

 黒爪に裂かれた空間が(ゆが)み、強烈な衝撃波となって飛ぶ。複数体のパーラを一気に突き抜けたのち、後ろに立っている太い木々に大きな引っかき傷をつけた。

 その瞬間、ふとメイアの気配を背後に捉える。


「すまない。待たせたな」


 メイアの声が聞こえるや、咲弥は強く引っ張られた。

 なかば無理矢理、咲弥はメイアに走らされている。

 メイアは手を離したあとも、咲弥の前を駆け続けた。


「メ、メイアさん……!」

「全力でついてこい!」

「えっ、ちょ――?」


 事情を呑み込めないまま、メイアが神速の勢いで進んだ。

 紅羽を思わせる速さに驚きながら、咲弥は全速力で追う。

 当然、差は縮まるどころか、どんどん引き離されている。


 撤退(てったい)でもするのか、咲弥は肩越しに背後へ目を向ける。

 このままいけば、確かに振り払えそうではあった。

 咲弥はふと気づく。集団の中に、レティアの頭部がある。

 複雑な心境を抱えはしたものの、咲弥は前を向き直った。


(えっ……?)


 ほんの一瞬だけ、目を離したに過ぎない。

 しかしメイアの姿は、もう小指くらいの大きさに見えた。

 立ち止まっていた彼女が、右手を高く(かか)げている。


 待ってくれているのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 メイアの右手付近に、黄金色に輝く紋様が浮かび上がる。


「我が声に応えよ! 雷の精霊ヴァストラ!」


 メイアの紋様が砕け、上空に黄金色の魔法陣が描かれた。

 魔法陣が激しい放電を始めるや、そこから金の装具を身につけた漆黒のドラゴンが、ぬるりと地に降り立つ。メイアの精霊は、かなり大きな体躯(たいく)をしている。

 背の高い木々が作る天然の天井に、頭がつきそうだった。


(ここで、精霊の召喚……?)


 咲弥は漠然と、何か嫌な予感を覚える。

 メイアが咲弥側のほうへ、(ゆる)やかに指を差した。


「ヴァストラ、頼めるか?」

「心得た」


 ヴァストラは顔を下げ、大口を開いた。

 そこに魔法陣が現れ、尋常ではない放電が生じている。


 まるで凝縮するように、光が魔法陣の中心に迫っていく。

 咲弥は恐怖心から目を見開き、体中でぞわっとした寒気を覚えた。放電する魔法陣の前に、またさらに複数の魔法陣が並んで浮かび上がっている。

 それはどこか、銃口を連想させるものであった。


(やばいやばいやばい!)


 今のままでは、確実に巻き込まれるに違いない。

 咲弥は死に物狂いで、足に力を込めてメイアを目指した。

 ヴァストラの口の前にある雷球が、ふっと小さくなる。


「うぉおおおっ!」


 咲弥は叫び、メイアのほうへ全力で飛び込んだ。

 その瞬間――(すさ)まじい閃光が、魔法陣を突き破っていく。

 かろうじてメイアの足元で()いつくばった咲弥は、即座に後ろを振り返った。


 まばゆい一閃が稲妻を(まと)い、ところどころで爆発を生む。

 爆風が吹き荒れ、太い木々が折れる勢いで曲がっている。

 やがて光は薄れ、ヴァストラも一緒になって消えていく。

 咲弥は唖然としていた。


 消えたのは、ヴァストラと閃光だけではない。

 規模もわからない森の一部が、やや扇状(おうぎじょう)に消滅していた。当然、魔物の姿はどこにもない。あるのはえぐれた大地と、ほぼ見えなかった青い空のみであった。

 それこそ、空間ごと消滅したかのような印象を抱かせる。


 咲弥はぞくりとした。肌が粟立(あわだ)ち、身を小さく震わせる。

 ヴァストラの一撃は、あまりにも想像を絶していた。

 ただ単純に、力を抑え込んでいただけ――そんな可能性は(いな)めないが、ヴァストラはこれまで見てきた精霊の中でも、一番の破壊力を持つ精霊なのかもしれない。


「なるほど……確かに、これは最終手段の一つ、だな……」


 メイアが(つぶや)き、ぺたりと地べたに座り込んだ。

 オドを大量に失い、足に力が入らなくなったのだろう。

 言葉が出てこない咲弥に、メイアが微笑みかけてきた。


「予想外の威力だったが、間に合ってよかったな」

「い、いや……最悪、僕も巻き込まれてましたよ……?」

「ふふっ……そうだな」


 咲弥は冷や汗をかいた。さすがに笑いごとではない。

 そんな咲弥をよそに、メイアは颯爽(さっそう)と立ち上がった。


「だが、まあ……パーラの()れは一掃できたか」


 咲弥は立ち上がってから、物悲しげなメイアを見据える。

 気丈に振舞っているものの、つらくないはずがなかった。

 どんな言葉を送るべきか、しかし何も浮かんではこない。


 むしろこのまま、黙っていたほうがいい場合もある。

 若長補佐であり、メイアを(した)っていた存在――レティアに関して知っているのは、たったその程度でしかない。下手な発言は、逆効果だと感じられる。

 咲弥が悩んでいるさなか、メイアが後ろを振り返った。


「ここに(とど)まるのも危ない。神々の果実を目指すぞ」


 悲しんでいる暇はない。それは、充分に理解している。

 ただ今のメイアの姿勢は、あまりにも痛々しく見えた。

 本当は泣き叫びたい――

 そんな気配が、メイアの顔には薄く表れていたからだ。


「メイアさん……」

「言うな。今は神々の果実を目指せばいい。それに……」


 メイアがうつむくように、自分の右手へ顔を向けた。

 彼女の手のひらには、結ばれた赤い髪が乗せられている。


「我々竜人は、戦士だ。殺すこともあれば、反対に殺されることもある。そのため戦死した場合に(そな)え、いつもこうして髪の片側を()っている。男女関係なくな」


 メイアがそう言い、結った髪を見せてきた。

 そこまで意識した記憶はないが、確かに同期の竜人も髪を片側だけ結っていたような気がする。民族衣装にばかり気を取られ、正直よくは思いだせない。


 記憶はどうであれ、咲弥は事情を理解する。

 メイアの手にあるのは、つまりレティアの遺髪(いはつ)なのだ。

 メイアは遺髪を(ふところ)にしまい、まっすぐ前に向き直る。


「行くぞ。この騒ぎで、別の魔物が現れるかもしれない」

「……はい。わかりました」


 メイアの発言は、間違っていない。

 ただ一つ、咲弥は気にかかっていることがある。


「でも、あの……大丈夫、ですか?」

「何がだ?」

「いえ……オド、かなり失っていますよね?」

「ああ、そうだな。咲弥の言葉の意味が、よく理解できた」

「これからを考え、休める場所を探したほうがいいです」


 咲弥の提案に、メイアは腕を組んで黙る。

 少ししてから、メイアはこくりと(うなず)いた。


「わかった。だが、位置的に考えれば、きっと古代の遺跡は遠くない。そこまで行ったのち、(ひそ)めそうな場所を探そう」

「はい。そうしましょう」


 そうして、咲弥はメイアとまた暗い森の中を進んでいく。

 もうまもなく――日が暮れるに違いない。

 雷の精霊が開いてくれた空が、薄く黒ずみつつあるのだ。


 夜になれば、それだけ危険は増すと思われる。

 想像以上に、時間の進みが早く感じられた。

 仲間の安否(あんぴ)が知れぬ中、激しい不安ばかりが胸に募る。


(みんな……どうか、無事でいてくれ……)


 咲弥は願いを込め、胸中でそう強く祈っておいた。




 同時刻――

 別の場所では、死闘が繰り広げられていた。

 劣勢にある仲間の状況など、咲弥が知る(よし)もない。


 咲弥はただ、()()()()を宿した古代の遺跡へ――

 ゆっくりと足を向かわせたのだった。




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